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一章 元おっさん、異世界へ

18 固有魔法

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『魔力探知』で大男がいる場所へと急行し、旧王都を走る。雲行きが怪しくなり、晴れていた空には灰色の曇りが覆い被さる。嫌な予感を感じてしまう……。
それは、何か。ざわざわした感じが。

「多分ここ辺りだ」
「……ここら辺って」

アンナさんが何やら知っていそうな言葉を吐く。来たことがあるのか?それとも、何かある……。
アンナさんが言うには、ここは旧騎士団があった場所らしい。5000年前の騎士が所属していた、騎士団。そしてそこには1人の影が佇む。それはまさに、先程の大男。
追いついた……。

荒々しい息遣いを何とか落ち着かせる俺たちは、とうとう相手を追い詰めた。ローズとカメリアを守るような体制を取り、陣形を崩さないように慎重になる。
アンナさんは大剣を構え、俺とランスは魔法を放つ準備をする。魔力切れを起こさない程度で。

「さぁ!追い詰めたぞ!」

アンナさんは大きな声でそう言った。俺たちの気が引き締まる。だけど相手は、ゆっくりと振り返り、俺たちの方を見て微笑んだ。
何だ?何が起こる?
警戒心を出さないわけには行かないぐらいの、張り詰めた空気。

「くくく、やっと来たか。無能たちめ。だがな、来たところで遅えんだよ。もう、召喚の儀式は始まっているからな!!」

召喚……?何のことだ?
そう叫び散らす大男は自信満々に言った。召喚。何を召喚するのか。現地点では何も分からずじまい。その前に決着をつけたいところだが、そんなのでどうにかできるのか?いや、考えている暇はなさそうだ。

「来い!使い魔達よ!『虫の大群召喚』!!」

魔法陣が地面に生成され、そこから大量の、む、む、虫が、で、出てくる。
発狂しそうだ。もう本当に。こちとら40年。虫でいちいちビビるもんか。
先程の大群で見慣れた……。そう見慣れたのだ……。
よし、こう言う時は羊を数えよう。
羊が一匹……羊が二匹……——ダァーーー!!
全然ダメだ!!というより、それって寝る時にやるやつじゃねぇか!!

ひ、ひとまず。落ち着こう……。やばいな、パニクっている。とりあえず、虫の大群はどうにかしないと。

先程と同じ、蜘蛛に蛇に追加されたといえば、蜂だ。広範囲魔法を放てば、一気に片付けられ、魔力量の多少の軽減にはなる。
よし、そうと決まれば。

「———『電撃の嵐100の落雷』!!」

俺が空に向けて言い放つと、魔法陣が広範囲に生成され、そこから雷が地面へと落ちる。
予想外の展開だったのか、大男は顎をあんぐりとさせながら見ていた。
ふん!これがスパルタ先生に仕込まれた魔法の力よ!

「ま、まだまだ!!」

次から次へと虫を召喚させ、俺の精神は参りそうになったが、こちとら現役騎士が居るんだぞ!観念しろ!って言っても聞かないんだろうな、とか思ってたりしてるけど!

「行け!『風刃』!!」

アンナさんが至近距離で切り刻み、首を刎ねたりしたり、ランスが魔法で燃やしたり、凍らせたり。
俺も先程の風刃で大蛇の首を刎ねた。緑色の血が流れているのが分かる。

ドサッ!

という音が鳴り、大蛇の首が地面に転がる。
中々のショッキング……。倒し終わっている頃には、倒した虫は消え去った。そう、それはゲームの仕様みたいに、魔物とかを倒したら、素材になって消えるような……。そんな感じに。

魔物とかを滅多に倒したことのない俺からしたら、ドロップアイテムする敵がいる事を、初めて知った。それを手に取り、いよいよ持ってジリジリと大男に近づいて行く。
後退りをしているが、逃したりはさせない。

「…………どこへ行くき?」
「ふっ、こんな所で捕まるわけには行かないんだよ」

余裕そうな笑みを浮かべていたが、悪い知らせが存在している。
もうあなたは包囲されている!という感じに、無数の糸が見えないように、大男に絡まっている。

なんせ辺りには、『鋼線』が張り巡らせているから。

「な、何だこれ、う、動かないぞ!?」
「え、どういう事……?」
「……!まさか、貴女」

ランスから勘づかれたようだが、とりあえず苦笑を浮かべておく。
『鋼線』はワイヤーと呼ぶこともあるが、今回に関しては俺が魔法で出した、見えなく強度が高い糸。それを張り巡らせておけば、逆に相手を嵌めることが出来る。

「鋼線……だよ」
「鋼線、だと!?いつの間に!!」

理由を問い詰めてくるが、俺はあえて答えない。理由なんてないけど。

「おい! くそ! 離せ!!」
「アンナさん、どうしますか?」

俺は一応、専門?のアンナさんに聞いた。少し唸っていたが、このままにしておこうという事になる。まさか、こんな簡単に終わるとは……。
正直思ってません。
先程の『鋼線』は俺の固有魔法の一種のようなものであるため、俺の指についている糸を外し、操り人形のようになっている大男を放置した。
放置されて強くならないといいんだけど……。
そう思いながら、俺たちは退散する事に。

インナーのような格好をしてた大男は、ガッチリと筋肉が見えていた。と言うことは魔法(物理)と言うわけか?いや、魔法は直接使っていたし……。

後日談としては、後からやって来たアンナさん率いる騎士兵達が、大男の場所へと急行し、無事逮捕。
一見落着というのは、何とも嬉しい限りである。

~おまけ~

そしてそんな日からもう少し経った二週間後の頃。俺は再び王都へ出かけていると、何やら怪しげな男がいた。誰にも気付かれていない様子である。俺が見えるのは、魔力探知を使っているからみたいだ。
さぁ、一体何をやっているのか……。

噴水広場へ行ったとしても、誰にも気付かれていない。もしかすると、幽霊?いやいや、こんな昼間っから幽霊なんて……。こっそりついて行こう。

「ねぇ、何やってるの?」
「のわぁ!? な、何だお前!? なんで俺の魔法が効かない!? 隠密魔法使っていたのに!!」

何!? 隠密魔法だと!? ということは、誰にも気付かれなかったのは、そういう事か。
納得した。ん?待てよ?隠密ということは、誰にも気付かれずに済むという事か……。
あれ、それってさ。覗き見とかし放題って事? そうだとしたら、けしからん。

注意しなければ!

「ねぇ、お兄さん。自分にも教えてよ」
「……はぁ? お嬢ちゃんに?」
「いいから、教えてよ」
「いいぞ。また今度な」

よし、注意成功! 決して、俺がこの魔法を使ってふへへな事をするとかでは無い。
断じて違う。
と言うより、それは教えてくれるのだろうか。

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ヴィーゼ 固有魔法:『見えない鋼線ワイヤー
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