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一章 元おっさん、異世界へ

19 ちょっとした休み

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今日は休み。フィンと共に少し外に出ていた。王国の外に存在する森。俺が住んでいた村がある森に、どうやら魔物の目撃情報が多発しているとの事。それをアンナさんが退治しに行こうとしていたとき、俺が酷く拒否した。魔物であろうと、愛情注いで育てたあの子達を退治させたりなんて………させない!!
そう言う親心(?)を抱え、俺は内緒で出ていた。フィンの背中は乗り、急いでのんびりと行く。
長閑で天気がいい日に出るのは、遠足以来な気がする。こうやってのんびりと時間に追われない日々は、久しぶりかもしれない。
弁当を持って、リュックを背負って、クラスメイトと一緒に目標地点まで歩く。
遠足はついた後は楽しいものだが、行くとき、帰るときは何とも言えない。足痛いし、パンパンになるし。
だけど、いい思い出には変わらなかった。

(いつかみんなで、遠足してみたいなぁ……)

と思う節もある。異世界に来てから、色々な出会いがある気がする。まさか、王国の王女様と知り合えるとは思っていなかったし、フィンとも会えるとは思ってなかった。
空には雲ひとつない。ランス達ともに行くときは、晴れているといいなぁ。

そう言う思いで森へと行く。







ヴィーゼが王国を出てから30分が経った時。王宮内に住んでいる大臣が酷い顔をしながら、資料を見ていた。その原因としては、この間に起こった奴隷商の逮捕のこと。大きなため息を吐きながら、その資料を見る大臣の顔は、やけに良い顔ではない。目元にはクマが出来ており、寝ていないことがはっきりとわかる。

「それで、ランスお嬢様が言ったと…」
「は、はい。その様でございます」
「全く…。あのお方……。あの方は未来の我が国を背負っていくお方!それを重々承知しているのかね!!君は!」
「申し訳ありません……!!」

執務室に置かれている机に資料の紙をバン!と叩き、頭を下げる騎士団の指揮役者。ハズキ・ヴァザーリ。騎士団の指揮者役として、重大な仕事を請け負っている。それは、騎士団に所属している、騎士兵達の監視。
見た目は30代に見えるぐらい若いが、本来は40代後半だ。
大臣であるデルバー・ゼラチエはやれやれと言いながら、大きな溜息を吐く。

「……で、お嬢様はどこにいる?」
「そ、それが……」

言いにくそうな感じで、ハズキは口を開く。それを聞いたデルバー大臣はハズキを吐き捨てるように罵る。

ランスはアンナと共に、王都の方へ行っていた。ローズとカメリアを案内すると言うことだった。同じことがないように、アンナが護衛役として行っていた。

「全く……。だが、お嬢様にご友人?知っていたか?」
「い、いえ。ですが、最近お嬢様の笑顔が増えている気が致します。おそらく、あの方の影響ではないでしょうか?」

あの方———………ヴィーゼ。

「……あぁ、アンナが言っていた奴か。確か———ヴィーゼ……だったか?」

大臣達の耳にもヴィーゼの噂は広がっている。
ランス王女の初の友達だとか…。

良い噂が多いものの、悪い噂も絶えきれない。
ごぶごぶだ。
良い噂としては・・・、
ランス王女様の初のご友人!』
『アンナ騎士団長意外に心を開かれた!』
だとか。だが、悪い噂もまぁまぁ多いものだ。警戒心が高い人物たちからすると、突如現れたヴィーゼが王女であるランスを攫うために近づいたんじゃないか。と言う噂が風の如く流れる。そんな騎士団の一部の中で、ヴィーゼを警戒している騎士兵達も多い。と言うわけだった。

「そのヴィーゼとか言うやつを直ちに調べ上げろ。奴が何者なのか炙り出すために」
「わかりました。ですが、大臣。警戒しすぎではないかと思います」
「……そうだな。それは私もわかっている。だが、お嬢様を主に慕っている人物からしたら、警戒するのも頷けると思うぞ。なんてたってお嬢様は、世間体は宜しくないからな」
「ですが!それはデタラメでは!?」
「………あぁ、そうだ。嵌められないように、気をつけるしかない」
「…………承知いたしました。大臣」

ハズキは敬礼をし、不安な顔で執務室を出て行く。残されたデルバー大臣は、座っていた椅子からスッと立ち上がり、窓の外を見る。
太陽の光が差し込む、日当たりがいい窓を見つめる。

「…………分かっているとも。お前の気持ちは……。私だって同じだ。だがな、不安がる人物も多いと言うわけだ。あのお方は本当ならば、しっかりとした人。今度こそ、だけど……」

思い詰めた顔で見ていた。
考えただけでも胸糞が悪くなる。そんな出来事がスッと脳裏に浮かび上がる。そんな昔の光景を——。





執務室を出たハズキは、王宮内の廊下を彷徨う。行く当てがなく、フラフラとそこら辺を周り。
ハズキもまた、心配だった。ランスはまだ13歳ぐらいの、小柄な少女。
昔の出来事を思い出すハズキは、これまた苦い顔をする。

政略結婚の相手の妹に、嵌められた苦い思い出を———。

(おそらく大丈夫……。お嬢様が信用した、あのお方。ヴィーゼ。苗字はないようだが……。あのお方なら、きっと。そんな事はしないでしょう。アンナも信用している、あのお方を……)

只ひたすら、ヴィーゼが怪しいものじゃないと言うことを祈るばかり。これ以上、ランスを悲しませたくないハズキは。
ハズキは小さい頃のランスを知っている。ランスが生まれた時から、騎士の指揮役として徹していたが、世話役としてもやっていた。その為、ランスは妹に似ているのかもしれない。愛情を注いで育てたランスを、これ以上悲しませず、ヴィーゼを信用する。ヴィーゼの人柄がわからない以上、信用するしかなかった。自分が信用している相手が、ヴィーゼを信用している以上・・・。






そんなランスはここに居た。

「ね! 美味しいでしょ!」
「はい! とっても!」
「う~ん! 美味しい~!」
「お嬢様、お口についています」

王都に存在する料理店に来ていた。お子様ランチを注文し、食べているランスとローズとカメリア。お子様ランチとしては、ご飯に旗が刺され、ハンバーグにコンポタージュのスープ。
子供が好きそうな物が乗っかっている。

「さぁ! 行く場所はまだまだあるわよ!」
「本当!?」
「カメリア、大人しくしといて」

尻尾を激しく振るカメリアと、それを落ち着かせるローズ。その光景を見ていたランスとアンナは微笑ましさのあまりに、思わずクスッた。
2人は首を傾げる。

人で賑わっている料理店では、酒場とは違いお酒が出されない。だが、昼食になると酒場にも料理店にもお客さんがわんさか来るほど、人気っぷりである。

朝食メニューと昼食メニュー、夕食メニューで内容も打って変わる。朝食はご飯かパンを選べたりだとか。昼食ではデザートを頼むことが可能だとか。夕食ではほとんど出さないワインを所望すれば出されるとか。だが、どんな時間でも人気っぷりは変わらない。


ーーーヴィーゼ視点ーーー

(よーし! 材料ゲットゲット!)

森に入っていた俺は魔物の大群に襲われた。最深部以外は殆どの魔物を使役していた為、あまり苦戦というか、戦いすらしていなかったが、奥まで行くにつれ、魔物の数が増えて行く。
ポイズンとか、ポイズンとか、ポイズンとか。
毒を吐き出すそのスライムのような丸っこい奴が、わんさかいて面倒ではあったが、その分ドロップしたアイテムは、宝や湯水のようにぽんぽんと出た。
ポイズンのブヨブヨとか。

だが、それはどうやら。魔法薬を作るのにいいと、本で読んだことがある。そのポイズンの毒を使って、『毒を無効化』にできたりとか、『毒耐性』をつけたりするのに、役に立つそうだ。

「いや~、フィンもありがとな」
「ぐるる…」

一緒に戦ってくれたフィンにも感謝極まりない。普通に戦いやすかっただけある。
正直俺1人だったら、無理っぽそうだった。ヘマしたり、ヘマしたり……。

俺の異世界生活はこんなんじゃなーーーーい!!

と、叫びたくなるほどだった(と言うより、叫んだ)
木とかに止まっていた鳥が一斉に飛び立つ。大声は控えよう……。

「さて、帰ったら調合始めようかな」
「ぐるる」
「ん?」

フィンが俺に頭をすりすりと擦り付けてくる。ふと見ると、服がボロボロとなっていた。帰るついでに王都で仕立て屋に行って服を買おう。
王国に着いた後は、真っ先に素材を売るか。

と、計画を立て、ひとまず歩く。歩きに歩き、着いた時には足が痛い。
おじさんには辛い……。

あ、今おじさんじゃないじゃん。じゃあ、ただの運動不足?
それだったら小太り爺さんになるじゃん!

どうやら、前世での体型とかが気になるお年頃になったようだった(?)
俺の身長180cm。体重75kg。そのほとんどが筋肉!
と言うのは全然どうでもいいとして。
早く帰りたい……。

そう思いながら、王国の中へと入り、ポイズンから拾った素材を売る為に、道具店へと足を運ばせた。
道具店はほんと便利。コンビニのように便利。空いている時間長いし、安いし。安い割にはしっかりとされているし。文句なしの道具店だ。

「いらっしゃい。お客さん、今日はどないやした?」
「素材売りたいんだけど……」
「ほうほう。おぉ! ポイズンの素材ですね。全部合わせて銅貨10枚です」

銅貨10枚と言う事は、日本版でいうと?ちょうど千円か……。なら、銀貨に交換してもらうようにしよう。受付の男にそう言い、銀貨を一枚受け取る。後は仕立て屋の方だな。

道具店から仕立て屋の方へと進み、中へと入る。

「いらっしゃい、お嬢ちゃん。何になさるかい?」
「うーん、動きやすくて温度調整できて、破れにくくて、どんな敵からでも守れる無敵な衣装はありませんか」
………………。

(何言ってんのこいつ)

……なんだろう。今、ものすごく何かを言われた気がする

流石にそんなのは無いだろうと思い、別のにしよう。うん、そうしよう。

「あ、やっぱ動きやすいだけで………」
「あー! ごめんなさい。流石にうちではそんな万能は売っていませんからねぇ」

馬鹿なこと言ってすいやさん。
何か反応を返してくれると思ったんです(本音)

真っ白いコートに着替え、先程まで来ていた衣服は仕立てて貰っている。
これからの行動はこっちの衣装の方が、多くなるだろう。ものすごく動きやすいし。
それとなんか知んないけど、ブーツまで作ってくれた。先程までの冗談を死んだ魚のような目で見ていたおばちゃんなのに、今じゃニコニコしている。なんともご好意の人なんだろうか。
マジでさっきはごめなさい。欲張りすぎました。

ひとまず、雪に生息しそうなウサギみたいに真っ白で、俺には到底に似つかわしく無い、純白なコート。汚れを一切知らなさそうだ。

グスッ、俺にも、こんな真っ白い色が似合う頃があったんだよね。きっと……。

あれ、なんか知んないけど目から塩水が……。

と言うパターンは正直無いが、ひとまずお礼を言った。

「ありがとうございます」

最後までニコニコしているおばちゃんは、出る時に手を振ってくれた。外で待っていてくれていたフィンの背中へと乗り、アンナさんが住んでいる(今現在は居候)場所へと急行して行く。
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