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第2話 - Ⅰ(エイブラハム)
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「社会を作るのは誰だと思う?」
ソファに腰掛けながら、エイブラハムは尋ねる。米国製の惑星間宇宙船である〈ヴァーミリオン〉のなかで最上級のこの部屋は、彼が「所有」している。
女はまだ眠たいのか、ベッドから起き上がるつもりはないらしい。彼の視線を避けるように、寝返りをうつ。彼の問いにすら、答える気がないらしい。
それを見て彼は少し苛立ったが、昨晩のことを思い出し、気分を鎮めた。最高の女を手にいれたものだ、とエイブラハムは心のなかでひとりごつ。口には出さない。それが人を支配するための、こと女を支配するための最善策であることを心得ているからである。
「それはね、国民だよ。我々じゃない。独裁体制であろうと、社会は人の総意で動いている。ヒトラーも、結局は民主的な選挙で選ばれた、極めて民主的な政治家だった。国民の総意が彼を生んだのだ。彼はその代行者でしかないのだ。そうだな、集団的無意識といってもいいかもしれない。ユングのいうそれとは、少し異なるがね。我々はその責任を負うための存在なのだ。まったく、損な役回りだよ。それを国民は否定したがるがな」
部屋のなかに差し込んでいる人工のそれらしい朝日が、キングサイズのベッドを一層白く輝かせている。その情景を見つめながら、ここでは何もかもが人工だ、とエイブラハムは改めて思う。そう思うと、自分の存在がやけに生々しいものに感ぜられた。
女が咳払いをし、こちらには目もくれずに喋り始める。まるで独り言を盗み聞きしているかのようだ。
「国民。それを平然と言ってのける人、初めて見たわ」
そう言うと、セットしてあったアラーム音が室内に鳴り響いた。女がセットしたのだろう。抜け目ないな、とエイブラハムは思う。時計を確認すると、もう仕事へ行かなくてはならない時間になっていた。地球へ向かうスペース・シップのなかでも、彼に仕事が無くなることはない。問題は山積みなのだ。ことに火星訪問の後となれば。
ソファから立ち上がり、ベッドへ向かう。女の白い肌もまた、差し込む朝日に照らされて、絹のように輝いている。女が小さくつぶやく。
「あなたは〈ヒトラーの尻尾〉ね」
そう言って、ベッドから起き上がる。大きすぎない乳房と淡いピンク色した乳首が、細いウエストに乗っかるように浮かんでいる。
「古い台詞を知っているな」
耳に埋め込まれた小型端末がうねる。
ソファに腰掛けながら、エイブラハムは尋ねる。米国製の惑星間宇宙船である〈ヴァーミリオン〉のなかで最上級のこの部屋は、彼が「所有」している。
女はまだ眠たいのか、ベッドから起き上がるつもりはないらしい。彼の視線を避けるように、寝返りをうつ。彼の問いにすら、答える気がないらしい。
それを見て彼は少し苛立ったが、昨晩のことを思い出し、気分を鎮めた。最高の女を手にいれたものだ、とエイブラハムは心のなかでひとりごつ。口には出さない。それが人を支配するための、こと女を支配するための最善策であることを心得ているからである。
「それはね、国民だよ。我々じゃない。独裁体制であろうと、社会は人の総意で動いている。ヒトラーも、結局は民主的な選挙で選ばれた、極めて民主的な政治家だった。国民の総意が彼を生んだのだ。彼はその代行者でしかないのだ。そうだな、集団的無意識といってもいいかもしれない。ユングのいうそれとは、少し異なるがね。我々はその責任を負うための存在なのだ。まったく、損な役回りだよ。それを国民は否定したがるがな」
部屋のなかに差し込んでいる人工のそれらしい朝日が、キングサイズのベッドを一層白く輝かせている。その情景を見つめながら、ここでは何もかもが人工だ、とエイブラハムは改めて思う。そう思うと、自分の存在がやけに生々しいものに感ぜられた。
女が咳払いをし、こちらには目もくれずに喋り始める。まるで独り言を盗み聞きしているかのようだ。
「国民。それを平然と言ってのける人、初めて見たわ」
そう言うと、セットしてあったアラーム音が室内に鳴り響いた。女がセットしたのだろう。抜け目ないな、とエイブラハムは思う。時計を確認すると、もう仕事へ行かなくてはならない時間になっていた。地球へ向かうスペース・シップのなかでも、彼に仕事が無くなることはない。問題は山積みなのだ。ことに火星訪問の後となれば。
ソファから立ち上がり、ベッドへ向かう。女の白い肌もまた、差し込む朝日に照らされて、絹のように輝いている。女が小さくつぶやく。
「あなたは〈ヒトラーの尻尾〉ね」
そう言って、ベッドから起き上がる。大きすぎない乳房と淡いピンク色した乳首が、細いウエストに乗っかるように浮かんでいる。
「古い台詞を知っているな」
耳に埋め込まれた小型端末がうねる。
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