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第2話 - Ⅱ(エイブラハム)
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耳に埋め込まれた小型端末がうねる。
〈ミスター・エイブラハム、船長から船内会議出席の要請です。操船システムが何者かによってハッキングされたようです。〈マザー〉もその件について、会議の必要性を訴えています。彼女自身はまだハッキングされていません〉
「わかった。すぐに向かう」
秘書からの通信が切れる。この小型通信機の欠点は、やはりこちらから通信を切れないことだな。通信傍受の可能性はゼロじゃないのに。
操船システムのハッキングか、そう思うと彼のなかにズシリとした重みを感じる。内側で生まれたものじゃなく、外側でーー彼の埒外から彼を押し潰すように包み込む。
それでも、彼の脳内はいたって快活だ。どんな状況にあっても、彼は物事を小さくまとめて、対抗策を導き出せすことができるように訓練されているからだ。それに、火星での前頭葉手術。彼は脳を三つ持っている。左脳と右脳、そして、〈インテリジェント〉と呼ばれる超小型の人工頭脳。
彼の高度に発達した脳は、まだ見てもいない一連の事件を処理し始めている。
しかし、彼のなかで芽生えた空恐ろしさは消えない。それどころか、脳での処理に比例して、ますます大きなものになっていく。人間にとっての最後の牙城。火星人にはなくて、地球人にはあるモノ。いま、彼のなかを満たそうとしているモノの源泉。
捨てなくてはならない、やつらに勝つためには。しかし、それは人間の終わりを意味する。
人間であることの終わりをだ。
「お急ぎですか、あなた」
女が背後から問いかける。
「その呼び方はよしてくれないか、まるで妻みたいだ」
エイブラハムが振り向く。
そこにいたのは、先ほどの女ではなかった。鋭利に尖った耳を持つ男だった。身長はそれほど大きくないが、アフリカの戦闘部族を思わせるような、がっちりした体格をしている。顔が異常なほど白い。
そして、その背後に、見知らぬ女の姿を見る。腕を組んで壁に腰掛けているが、なぜか裸だ。彼女の耳もまた鋭く尖っていて、顔も真っ白だ。鋭い眼光がエイブラハムに向けられている。
その特徴を記憶《データ》に照らし合わせてみれば、答えは自ずと出てきた。
ーー火星人だ。
〈ミスター・エイブラハム、船長から船内会議出席の要請です。操船システムが何者かによってハッキングされたようです。〈マザー〉もその件について、会議の必要性を訴えています。彼女自身はまだハッキングされていません〉
「わかった。すぐに向かう」
秘書からの通信が切れる。この小型通信機の欠点は、やはりこちらから通信を切れないことだな。通信傍受の可能性はゼロじゃないのに。
操船システムのハッキングか、そう思うと彼のなかにズシリとした重みを感じる。内側で生まれたものじゃなく、外側でーー彼の埒外から彼を押し潰すように包み込む。
それでも、彼の脳内はいたって快活だ。どんな状況にあっても、彼は物事を小さくまとめて、対抗策を導き出せすことができるように訓練されているからだ。それに、火星での前頭葉手術。彼は脳を三つ持っている。左脳と右脳、そして、〈インテリジェント〉と呼ばれる超小型の人工頭脳。
彼の高度に発達した脳は、まだ見てもいない一連の事件を処理し始めている。
しかし、彼のなかで芽生えた空恐ろしさは消えない。それどころか、脳での処理に比例して、ますます大きなものになっていく。人間にとっての最後の牙城。火星人にはなくて、地球人にはあるモノ。いま、彼のなかを満たそうとしているモノの源泉。
捨てなくてはならない、やつらに勝つためには。しかし、それは人間の終わりを意味する。
人間であることの終わりをだ。
「お急ぎですか、あなた」
女が背後から問いかける。
「その呼び方はよしてくれないか、まるで妻みたいだ」
エイブラハムが振り向く。
そこにいたのは、先ほどの女ではなかった。鋭利に尖った耳を持つ男だった。身長はそれほど大きくないが、アフリカの戦闘部族を思わせるような、がっちりした体格をしている。顔が異常なほど白い。
そして、その背後に、見知らぬ女の姿を見る。腕を組んで壁に腰掛けているが、なぜか裸だ。彼女の耳もまた鋭く尖っていて、顔も真っ白だ。鋭い眼光がエイブラハムに向けられている。
その特徴を記憶《データ》に照らし合わせてみれば、答えは自ずと出てきた。
ーー火星人だ。
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