火星教育律法

鴨居ダンテ

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第3話 - Ⅱ(ヘンドリック)

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 〈マザー・システム〉ーー火星で最初の植民都市であり、実験都市である〈グラウンド・ゼロ〉の発展を掲げ、アメリカと日本の共同機関が作り出した超高度AI。まずは火星議会の議員のひとりとして採用され、瞬く間に様々な機関の中枢に採用されるに至った。

 彼女もそんな〈マザー・システム〉の一端であり、火星独自の教育機関〈パブリック・スクール〉を統治している。

 その姿は人間と寸分変わらない。身なりも表情も言語も、極めて人間らしい。

 しかしーーとヘンドリックは思う。

 しかし、彼女には決定的な「何か」が欠けている。科学に精通する一人として、それが「魂」などと言うつもりはない。しかし、「魂」以外の何物でもないのではないか、と思ってしまう自分もいる。

 その視線は誰を見つめ返すこともない。機械の彼女にも視覚はあるし、彼女に視線が集まっていることも認識しているだろう。しかし、彼女の目は何も見ていない。人にとって外界を認識するための目だが、彼女の目は何も見ない。自身の内側を見ているようにも感ぜられる。

 彼女に比べたら、俺らは烏合の衆にも等しい。ヘンドリックはさも興味のないような顔つきで彼女を見つめる。その内実とは異なるが。

「船内の監視システムですが、〈パブリック・スクール〉内の監視カメラは私が、その他は船の操船システムが管理しています。つまり、すべてを私が掌握しているわけではないことを理解してください。〈パブリック・スクール〉の監視カメラにアンノウンは確認されていませんが、侵入されたことは確かでしょう。十二番ハッチが解放されたままになっています。こちらは手動で開閉できますが、内側からしかーー」

「つまり!」

 憤然と屹立したままのハミルトンが遮る。禿げ頭が電灯の光を受けて輝いている。

「侵入されたが、どこにいるか分からないということだな。まったく超高度AIとはよくいったものだ。結局こういった問題は、人間の手で解決しなければならないということか」

 どれだけ罵倒されようと、〈マザー〉は顔色ひとつ変えない。彼女の瞳は、いまだ何も見ていない。

「操船システムは完全に掌握されています。〈マザー〉もハッキングされてはおしまいです。早急に手を打つ必要がーー」

 そう語る船長の背後のドアが、歪な音を立てて開く。全員の視線がクギ付けになる。

 嫌な予感がした。そんな自分の感情をヘンドリックは忘れまいとした。

 これを忘れてはならない、そう思ったのだ。
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