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看護師の知識を使って、看護過程を展開していきます。
【情報収集】 リーディング
しおりを挟む耳を澄ますみたいに、意識を集中していく。
すると、パシュッ!とフラッシュがたかれたかの様に一瞬だけ、脳裏に映像が映った。
更にどんどん意識を集中していくと、その映像の映る回数が頻回になってくる。
パシュッ!。
まず最初に映ったのは、血だらけのベッドから上体だけを起こして、涙を流しながら優しく微笑む女性だった。
産婆らしき者は居らず、その部屋には彼女一人。
腕には産まれたての赤ちゃんを抱いて、その顔を見ながら、女性は泣きながら笑っていた。
パシュッ!。
次に映ったのは、やたらと着飾ったアーデルハイドが、知らない男の人に寄り添い、ドヤ顔でこっちを見下している映像だった。
…うわぁ…。
『ーーー…っ、なんで!?。』
…あ、お父様が動揺してる。
『うおおっと、危ない危ない。集中!。集中!。』
あまりの驚きに、うっかり動揺して集中力を途切れさせるところだった…。
と言うお父様の声がだんだん小さくなり、終いには、声が聞こえなくなった。
どうやら動揺した心を鎮めて、再び、"リーディング"に戻れたようだ。
パシュッ!。
次に見えたのは、広い部屋の一室で、さっきの優しげな女性と、一歳位の女の児が歩く練習をしている映像だ。
二人とも同じ髪の色をしている。
どうやら母と娘のようだ。
陽当たりも風通しも良さそうな、やたらと大きな部屋なのに、とても殺風景でカーテンとクローゼット、ベッドとテーブルセットしかない。
そこには、その二人しか居ない。
パシュッ!。
そして、次に見えたのは、石壁剥き出しの地下。
鉄柵で仕切りがされた牢だ。
そこは寒いのか、先ほどの母娘が汚れた毛布にくるまって、二人で白いカビの生えたパンを食べている。
女性も子供も、垢まみれだった。
『あれ?。あの女の子、もしかして…あの少年!?』
また、父の驚いた声が響いた。
そして、次はーーー。
パシュッ!。
華美としか言い様のない、豪華絢爛な会議室の様子が写し出された。
重厚な長いテーブルに、堅苦しい服を着た男の人たちが十一人、並んで座っていた。
その中に、一際目立つ男の人が上座に座っている。
やたらと長い脚を組で、偉そうに座っていた。
『ネメシス・ディルア公爵閣下…』
…どうやら、ディルア家の公爵らしい。
そのネメシスの声が、此方に流れてきた。
(神法に特化した人間が産まれる事の多い、我が"信仰"のディルア公爵家から、王族に長女のメシアス・ディルアが、なんとか無事に嫁いで行った。
しかし、メシアスは、神法が、全く使えない。
と、いうか、もう既にディルア家には、神法の使える神力者は産まれてこなくなって久しいのだが。
神殿を私物化し、教皇を管理下に置き、こうやって権力を笠に着て財を貪り、思いのまま好き勝手できるのも、神力者を多く輩出する信仰心厚い"信仰のディルア公爵家"だからだ。
ーーー…だが、しかし…。
このまま、神力者が産まれて来ないのであれば、"信仰"のディルア家の家名に傷がつく。
傷がつくだけでなく、このままでは無能と蔑まれ、四大公爵家の中から爪弾きにされ、最悪、公爵の爵位から失墜する可能性がぐんと高くなる。
代々、神殿を牛耳り影の王族とまで言われてきたこのディルア家が、降格する事など、あってはならない事だ。
いままで取り繕うために、神殿で育成した神力者を、市井で産まれた庶子と偽って連れてきたり、奇術を用いてディルア家の神性を演出してきたが、知恵者共に解明されつつある。
これは、由々しきことだ。
…仕方ない。
"神法が少しだけ使える"アーデルハイド・ゼーゼマン公爵令嬢でも、我の妻に迎えるか。
少しだけだが、神法が使える上に公爵令嬢だ。
釣り合いは取れる。
体が脆弱で、子を産む事ができるかどうか分からない"出来損ないのプレミアム"だそうだが、そんな事はどうでも良い(…どのみち聖女は、処女を喪えば神力など使えなくなるらしいからな)。
今、必要なのは、神法の使える聖女だ。
我の子を産ませる為の、聖女能力のある人間を確保するまでの繋ぎだ。
出来損ないのプレミアムでも、十分に役に立ってくれるだろうよ。
用済みになれば、あとはどうでも良い。
好きに楽しんで、まだ生きている様なら、その辺の部屋に閉じ込めて置けば、そのうち勝手に死ぬだろうからな。)
「私は、アーデルハイド・ゼーゼマン公爵令嬢に、結婚を申し込む」
『そうそう。それで、私が拐っちゃったんだよね』
…再び、お父様の声がした。
その声は、どこか悲しげだ。
パシュッ!。
「マリア奥様。
お初に御目にかかりますわ。
この度、マリア奥様のお産みになります御子様の乳母となりました、私、ゼーゼマン公爵家が長女、アーデルハイド・ゼーゼマンと申しますの。
かような光栄なる機会を頂けるとは、正に汗顔の至り。
恐悦至極にございますわ」
『「うっわ~。すっごい猫!!」』
思わず口から出た声が、お父様の声とかぶる。
パシュッ!。
「アーデルハイドよ。
そなたの娘は、まだ幼いながらも、あの"人族最強の聖者"と同じく、結界や治癒の使える聖女だそうだな?。」
ネメシスが抑揚の無い声で、アーデルハイドに問う。
「はい、左様でございまし。
この、私めが産みました、聖女にございまする」
アーデルハイドは、やたらと媚びた甘い声で返事をし、面を下げた淑女の礼をとりながら、誇らしげに頷く。
「その娘を、我がディルア家のプレミアムとして育てたい。
ヤツの元から、こちらに呼び戻せ」
「おお…とても畏れ多きお言葉、感涙にございまし」
面を上げて姿勢を正したアーデルハイドは、輝く様な笑みを湛えて言う。
「それでしたら、私をあなた様の妻としてくださいまし。
さすれば、ゼーゼマン家公爵である私の実家とも縁続きとなり、最上級貴族となりましょう?。
きっと、私の娘であるハイドも、私の元に喜んで参るはずでございまし」
「ふむ。…しかし、邪魔な事に、我の妻にはマリアがいる。
ディルア家は、慈悲の家でもあるのでな。
離縁はできぬし、…他者に依頼し、事故に見せかけて殺す事もできぬのだよ」
他者は信用できぬでな…、と付け加えたネメシスの言葉に、アーデルハイドは何でも無い事の様に言う。
「でしたら、毎日与えるエサに、パンを与える事はできましょうか?」
「パン?」
「はい、左様でございまし。
毎日同じ甘いパンと甘い水のみを、奥様とお嬢様にお与え下さいまし。
それと…、できたら御部屋の移動も。
地下牢がありますでしょう?。
他者からの助けが得られないように、そちらを御二人の棲みかとして差し上げれば、閣下の思い通りに、事は運びまする」
「ほう…?」
それを聞いたネメシスは、愉快そうにニヤリと笑った。
『酷い。…重度の糖尿病を人為的に起こして、二人を殺すつもりだったんだ…』
ーーー…パラパラ、パラパラ…。
…ん?。意識の世界なのに、雨…?。
あぁ、お父様の涙だ。
お父様が、哀しみにくれて泣いている…。
パシュッ!。
アーデルハイドが、赤ん坊を抱いている。
「ふふふっ。お可哀想な、クララ様。
…ネメシス公爵閣下も、クララ様も、本当にお可哀想に…。
私があの男に拐かされたせいで、こんな神力しか能の無い男爵令嬢なんかを娶り、あまつさえ子を成してしまうなんて…。
クララ様もお可哀想に、軍人上がりの男爵家出生のお母様なんて、平民とそう変わらないでございましょうに……クスッ。
お父様と身分の釣り合いがとれずに、大きくなったらきっと苦労致しますわねー」
そう言いながら、真っ赤なマニキュアを塗った長い爪で、赤ん坊の頭に爪を立てた。
「あらら。
泣いてしまいましたわ~。
どうやら宮廷のマナーも知らない様な、お無知な痴れ者であっても、お母様が宜しいみたいですわ」
と、笑顔だが、ぞんざいな手つきで赤ん坊を母親に戻した。
慌てて赤ん坊を抱き取った母親は、困った様に微笑んでいる。
その顔色は、とても悪い。
パシュッ!。
「おあああまっ!。おあああまーーー…っっっ!!」
地下牢に響き渡りる、悲痛な声。
「いやぁぁぁーーー…っっっ!!。
クララ、クララを返して!!。
その子をどうするつもり!?」
無理やり引き離された母と娘は、互いに腕を伸ばすも、届かない。
娘の方は、一㍍四方の檻の中に投げ込まれた。
ーーー…ガチャン!!。
「ほおー。この小汚ないのが、公爵令嬢サマか」
「どっからどう見ても、肥えた子ブタにしか見えないがな」
ゲラゲラと品の無い声で、男共が笑う。
パシュッ!。
「地下牢はとても冷えるでしょうから、場末の娼館から毛布を頂いてきて、あの二人に届けて差し上げて下さいまし。
ただし、私からだと気を使ってしまい、受け取って頂けませんのよ。
なので、私からだとは申しません様にして下さいましね?」
と、あざとく首を傾げて、下男にお金を手渡していた。
下男は真っ赤になり、無言で首を縦に振る。
パシュッ!。
「ああ、それが奥様のお食事ですのね。
お嬢様が、辺境伯爵に養女に出てからお元気ありませんもの、心配ですわ。
そうですわ。
この、気付け薬を奥様に差し上げますわ」
そう言いながらハンカチで鼻を覆い、小さなビンからピンセットで摘まみ出した白い塊をパンに突き刺している。
『あれは…、乾燥させたカエンタケの中の、白い部分…』
パシュッ!。
「クララ…。私のクララ…」
地下牢の中。
一人の女性が毛布にくるまり、虚ろな目で小さく呟いていた。
「ああ…。そう言う事だったのか…」
今回のリーディングは、順不同に映される映像と音声が断片的に見えた。
十分な情報とはいえないのだけど…。
ーーー…私の母親が、全ての元凶だって事は良く分かった。
腹立だしいんだか、嘆かわしいんだか…。
とにかくムシャクシャして、涙が出てきた。
『こうしちゃ居られない!!』
「うわぁ!?」
ーーー…ぶつん!。
父の意識に引き摺られ、強制的に"リーディング"が解除された。
ーーー。ーーー。ーーー。ーーー。ーーー。
火炎茸
カエンタケは極めて強い毒性を持ち、食べると死亡率が高く、触ることすら危険なキノコ。
10センチ位の鶏のトサカみたいな形で、乾燥時には外側が濃い臙脂色で内側が白色。
コルクみたいにポロポロしてて、空気に触れても変色しない。
3㌘位が致死量。
口に入れた途端に口の中が痛くなり、一瞬にして口の中の皮が剥がれるから、異物混入がソッコーばれて吐き出されるので、暗殺には向かないらしいよ★。
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