上 下
36 / 69
転生後〜幼少期

#35コア目

しおりを挟む
「グルゥゥ」
(今は気が立っている。早う出てこい)


やはりと思うシュレット。
マルズレットに断言する。


「やっぱり妖狐はあの女性の声でした。
 もう無理そうです。『気が立っているから早く出てこい』と言っていました。
 行きましょう」

「お、おい! シュレット!!」


そう呟きつつ茂みから出ていくシュレット。
やばいと思いつつシュレットをこちらに戻そうと同じく茂みをでるマルズレット。


「ガァァ・・・グルゥァ」
(フッ・・・やはりこの匂いは人間であったか。
 童、お主我の言うてることが分かるな?
 我は耳が良いからの。あの場でも聞こえておったぞ)

「驚きました。流石幻獣といいましょうか。
 確認します。あなたは妖狐で間違いないでしょうか」

「グルルルゥ」
(主の言う通り、我は誇り高き幻獣の妖狐じゃ)


幻獣。それは神話の時代に産まれた神の遣い、と人間の間では伝わっている。


幻獣は神話時代、悪の化身と謳われる魔神が、
世界を混沌と呪いで覆い尽くさんとしていた際、
この惑星の創造神は手が出せず困り果てていた。
世界の安寧を望んだ創造神が自らの手で創造したのが幻獣、その七体であった。

その幻獣の中でも一際位の高いのが妖狐なのである。


「その妖狐は神聖な場所に居着くと人間の間では知られています。
 なぜあなたのような存在がこの魔境の森にいるのでしょうか」

「ガァ・・・グゥアァ」
(確かに。我は世界樹があった丘の森に巣を設けていた。
 ただあそこはな、子供の餌のなる魔物がほとんど存在しないのだ)

「子供の餌?」


シュレットが自宅の書庫で調べた時には、幻獣が子供を産むという歴史が載っていなかった。
そして幻獣の生態自体も。


それもその筈、人種は幻獣が存在するというのをこの世界の歴史として学ぶことはあっても、
幻獣と人種が歩み寄って生活しているわけではない。


幻獣が居住まう場所というのは人種が一生涯を使ったとしてもたどり着ける場所ではない。


幻獣は世代交代の時期に他の幻獣から魔力をもらい、
自らの魔力と掛け合わせて卵を作るという実態を知らないのだ。


これが幻獣の生態なのである。
シュレットが疑問に思うのも無理わない。


「グルルラァ・・・ガァガァ」
(左様、我の子じゃ。一世代前に産まれた我が子じゃ・・・。
 だが、先日明朝、我が目を覚ました時から姿が見えんのじゃ・・・)

「子供の姿がない? 狩りに出かけたのではないのですか?」

「ガァ・・・グララ」
(いいや、我の子はまだ産まれてまもないのじゃ。
 狩りをする時は常に一緒におる。学ばせる為にの。
 じゃから倅のみで狩りに出ることはありえない)

「まだ自ら考えて行動するということが出来ないと?」

「グルラァ」
(多分の・・・ありえないはずなんじゃ・・・)

「だから叫びながら探していたと」

「ガウ・・・・グァァア!」
(あぁその通りだ。そうじゃ! お主ら子を探す手伝いをして欲しい!)

「え、えぇ。一緒に探すのは良いのですが、
 父様は良いとしても、私はこの山奥では戦う術がないのです。
 お眼鏡に叶わないと思うのですが・・・」

「ガウガウ・・・ガァ!・・・グラァァ?」
(そこの呆けている男が強いのは分かる。それに童がまだまだ成長中というのもな。
 お主の父は山奥一人でも戦えるであろう。であるからして、お主は我と探すのじゃ。
 人間は繊細な魔力操作が出来ると知っておるからの。お主はそれが出来よう?)

「えぇ、出来ますけども。一度父様と相談しても宜しいでしょうか?」

「グラァ」
(あぁ良いとも。手短に頼む)

「分かりました」
しおりを挟む

処理中です...