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参 昭和四十二年
友ダチ
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家族会議は、夕飯前に行われた。
議題はもちろん、弘一が黄泉小径で抱えた秘密についてだ。
変なところで真面目な息子は、俺達の説得になかなか応じず、沈黙を決め込んでいた。
「お前の悪いようにはしない。わしらを信じなさい」
「誰にも言わないから。ね、弘一」
父も母も説得にあたってくれているが、息子の心が動く気配はない。
「弘一。良いから言ってみなさい。ばあちゃんが言う通り、ここでお前が話したからって、それを言いふらすような俺達じゃないぞ」
頑なな息子は、意地でも首を縦に振らない。
「あなたが喋るまで、お夕飯は出ませんよ」
妻がすごんで見せても、無反応のまま。
俺は時計を見ながらため息をついた。
7時半だ。下手をすると、息子よりもこちらの腹が先に鳴りそうだ。
「……仕方ない。今からみんなで、黄泉小径に行ってみるか」
進まない話に焦れて、俺はそう言った。
正直、別にみんなで見に行ってもどうにかなるわけではないが、それをきっかけに弘一の気持ちに変化が表れることを願ったのだ。
破れかぶれの発想だったが、意外と効果は大きかった。
弘一の顔色があからさまに変わる。
「え、今からいくの?」
「そうだ。お前も来い」
「イヤだよ。夜あそこに近寄っちゃダメって言ったの、父ちゃんじゃないか!」
確かに言った。
俺は、弘一を真正面から見据えた。
「そうだ。あそこは危険な場所だ」
「……」
俺の言葉に、息子は瞬き一つしない。
「だから、そんな場所から帰ってきたお前の口から『内緒にしていることがある』って言われたら、俺達はどう思う?」
「……」
「お前のことが心配になるに決まっているだろう。友達どうしのくだらない約束事なら別に構わん。が、本当に危ない事を秘密にされているかもしれないと思うと、こっちは気が気じゃないんだ」
「……」
「……教えてくれるな? お前が秘密にしている事を」
ようやく、息子の首が縦に振られた。そして、幼い口が真実を語る。
「あのね……」
事実、それは衝撃的な話だった。
「……ゆいちゃんと、仲良くなったんだ」
はじめは、その言葉が何を意味しているのか分からなかった。近所に「ゆい」という名前の子供はいなかったからだ。
が、
「……もしかして、おゆいさまの事か?」
父の言葉に、全員の表情が固まる。
「バカ言わないでよ。あんなの伝説上の妖怪でしょ?」
すかさず、妻が指摘する。
「本当にいるもん!」
弘一も負けじと、間髪入れずに言い返す。
「誰も信じないから言うなって言われたけど、ゆいちゃん本当にいるもん!」
「やめなさい! 親をからかうんじゃありません!」
「いるもん! 本当だもん!」
「夢でも見たのよ! あんた、いい加減にしなさいよ!」
「絶対いるもん! 毎日会いに行ってるんだから!」
「おい、待て」
ぎょっとした俺は、思わず弘一の発言を制止した。
「……お前もしかして、毎日黄泉小径へ通ってるのか」
夏休みの初日に、あまりそこへは行くなと注意していた手前、今の発言は看過出来なかった。
弘一は、俺にも食ってかかってきた。
「だって! ゆいちゃんずっとあの竹藪に一人っきりで、友達いなくてさびしいって言ったんだもん! かわいそうだったんだもん!」
一歩も譲る様子のない息子。
俺達は困惑顔で、お互いを見合った。
しょうがない息子だが、そこまで凝った嘘のつける器ではない。誰かに騙されているのか、それとも妻の言うとおり夢でも見たのだろうか? とてもじゃないが、その判断は俺にはつきかねた。
議題はもちろん、弘一が黄泉小径で抱えた秘密についてだ。
変なところで真面目な息子は、俺達の説得になかなか応じず、沈黙を決め込んでいた。
「お前の悪いようにはしない。わしらを信じなさい」
「誰にも言わないから。ね、弘一」
父も母も説得にあたってくれているが、息子の心が動く気配はない。
「弘一。良いから言ってみなさい。ばあちゃんが言う通り、ここでお前が話したからって、それを言いふらすような俺達じゃないぞ」
頑なな息子は、意地でも首を縦に振らない。
「あなたが喋るまで、お夕飯は出ませんよ」
妻がすごんで見せても、無反応のまま。
俺は時計を見ながらため息をついた。
7時半だ。下手をすると、息子よりもこちらの腹が先に鳴りそうだ。
「……仕方ない。今からみんなで、黄泉小径に行ってみるか」
進まない話に焦れて、俺はそう言った。
正直、別にみんなで見に行ってもどうにかなるわけではないが、それをきっかけに弘一の気持ちに変化が表れることを願ったのだ。
破れかぶれの発想だったが、意外と効果は大きかった。
弘一の顔色があからさまに変わる。
「え、今からいくの?」
「そうだ。お前も来い」
「イヤだよ。夜あそこに近寄っちゃダメって言ったの、父ちゃんじゃないか!」
確かに言った。
俺は、弘一を真正面から見据えた。
「そうだ。あそこは危険な場所だ」
「……」
俺の言葉に、息子は瞬き一つしない。
「だから、そんな場所から帰ってきたお前の口から『内緒にしていることがある』って言われたら、俺達はどう思う?」
「……」
「お前のことが心配になるに決まっているだろう。友達どうしのくだらない約束事なら別に構わん。が、本当に危ない事を秘密にされているかもしれないと思うと、こっちは気が気じゃないんだ」
「……」
「……教えてくれるな? お前が秘密にしている事を」
ようやく、息子の首が縦に振られた。そして、幼い口が真実を語る。
「あのね……」
事実、それは衝撃的な話だった。
「……ゆいちゃんと、仲良くなったんだ」
はじめは、その言葉が何を意味しているのか分からなかった。近所に「ゆい」という名前の子供はいなかったからだ。
が、
「……もしかして、おゆいさまの事か?」
父の言葉に、全員の表情が固まる。
「バカ言わないでよ。あんなの伝説上の妖怪でしょ?」
すかさず、妻が指摘する。
「本当にいるもん!」
弘一も負けじと、間髪入れずに言い返す。
「誰も信じないから言うなって言われたけど、ゆいちゃん本当にいるもん!」
「やめなさい! 親をからかうんじゃありません!」
「いるもん! 本当だもん!」
「夢でも見たのよ! あんた、いい加減にしなさいよ!」
「絶対いるもん! 毎日会いに行ってるんだから!」
「おい、待て」
ぎょっとした俺は、思わず弘一の発言を制止した。
「……お前もしかして、毎日黄泉小径へ通ってるのか」
夏休みの初日に、あまりそこへは行くなと注意していた手前、今の発言は看過出来なかった。
弘一は、俺にも食ってかかってきた。
「だって! ゆいちゃんずっとあの竹藪に一人っきりで、友達いなくてさびしいって言ったんだもん! かわいそうだったんだもん!」
一歩も譲る様子のない息子。
俺達は困惑顔で、お互いを見合った。
しょうがない息子だが、そこまで凝った嘘のつける器ではない。誰かに騙されているのか、それとも妻の言うとおり夢でも見たのだろうか? とてもじゃないが、その判断は俺にはつきかねた。
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