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クウガ 魔法は必要か不要か
「今日は随分と、気配消すのが上手くなったな」
ステンに言われて思わず言葉を濁した。
ちょっと前、サッヴァの件でヤバいくらいに熱沸いてたからな。反省してる。多分知らず知らずの内に精神的に参ってたんだろう。そう思いたいほどに。
だから冷静になろうと思った。とにかく心に言い聞かせる。自分の都合の良い風に考えるなと。
俺の、都合の、良い、風に、考えるな、と!!
それを念頭に置いて、がんばりましたよ。そのおかげかな。めちゃくちゃ調子があがりましたよ。ガムシャラって凄いんだね!!!(ヤケクソ)
狩りの収穫(すべてステンによるもの)を運ぶ手に力を込める。
「今回も大分仕留めましたね。どれくらい街に運ぶんですか?」
「半分は村の方に残して保存食だな。それと村人の1人が病気になったから、見舞いの品として用意する」
病気、という言葉を久々に聞いた気がする。この世界だと回復魔法で病気すら消してしまうため、多少の不調はあれど病気や怪我というのは聞くことが少ない。俺が2回ほど寝込んだときは疲労もあるだろうが、魔力切れが原因だ。それも一気に魔力を使いすぎたため、なかなか目覚めなかった。
「街に行けば、治してもらえるんじゃないですか?」
街に行く手段はあるのだ。それならそこまで連れて行って治療してもらえばいいのではないか。お金の問題なんだろうか、と首を傾げる俺にステンが首を横に振る。
「この村は魔法を滅多に使わないってのは話したよな。炎は自分で薪に火をおこし、水は自分で運んで使う。それは回復魔法だって同じだ。俺たちが魔法に頼るのは、妊婦か3歳にも満たない幼子の危機くらいだ。例え魔法を使えば治せる病気や怪我だとしても使わない。それで死んだとしても、そいつの寿命だというだけだ」
確かにこの村は魔法を使わない。だから薪を割るし、水を川から運ぶ。夜の明かりは火のみだ。街ならば明かりとして炎魔法が使える。俺が住んでいたのはサッヴァやサヴェルナなど、魔力の強い人たちがいたから明かりに困ることはなかった。それはアトランたち魔導師たちがいた建物もだ。他の家がどうなっているのかは、見たこともないのでどういう事情になっているのかはわからない。
だが生活様式が街と村でまったく異なっているのはわかる。だがまさか人の生き死にすら関わるとは。
「それは、凄いですね。何か理由でもあるんですか?」
「理由というよりも、ずっと昔から言い伝えられてんだよ。それこそ俺の祖父さんのそのまた祖父さんよりも遙かに昔からな」
ステンは上を見上げ昔のことを思い出しているようだった。
なんでも、少しばかりであるが古代の頃の名残があるからだと説明される。ステンの村のナイフや矢で使われる石。そしてステンが使っている矢の入る布袋。それらもその古代の頃から残っているものらしい。古代と言われても布袋の方はそんな遙か昔からあるとは思えないほど、綻びすら見つけることは出来ない。
「俺の村ではこう言い伝えられている」
そう前置きされてステンは言った。
「人間は魔法を求めるがあまり、神からただの人に成り下がった愚か者だってな」
サッヴァやアトランが聞いたら機嫌が悪くなりそうだ。
俺はステンの言葉にそんなことが思い浮かんだ。
+++
「街の常識と村の常識。同じ世界でも魔法に関しては凄い差だな・・・・・・っしょい!!」
パッカンと俺が持った斧で薪が割れる。それと同時に左手首につけている貴金属が揺れた。ステンの言葉を思い出すと、少しばかり手首が重く感じる。
ステンの村では魔法を使わないことはわかっていた。でも俺はどこかで魔法のある世界では魔法を使うことが当然のように思っていたところがあった。だが俺の想像以上にステンの村では魔法と縁がないらしい。そういえばナヨナヨしてるとか弱っちいとは言われたが、魔力が弱いとはこの村では言われたことはない。
「魔力は持ってても魔法は使わないもんなんだな」
「なんのはなし?」
突然呼びかけられて肩が跳ねた。俺が横を向けばティムが無邪気な顔して立っていた。こいつ、最近気配消して現れるから心臓に悪い。他人が驚くのがマイブームらしい。やめろ、お前はホラー番組の心霊写真の隅っこに出てくる「おわかりいただけたでしょうか」って言われる類の霊か。
「ティム、普通に出てこいよ」
「へへへ~、大人にだってきづかれないんだよ。すっごいでしょ?」
「あー凄い凄い。俺の頑張りって何なんだろうな、って思うくらい」
褒めてほしそうなティムの頭をグリグリと撫でてやれば、満足そうに笑顔を向けてくる。ステンがいうには、弓はまだまだ発展途上だが気配の消し方は大人顔負けらしい。住んでいた環境の違いとかもあるだろうが、こういうところも俺との才能の差なんだろう。べ、別に羨ましいなんて思ってないんだからねッ!! ・・・・・・やめよう。ツンデレっぽく言ってみたが後悔しかない。
「それでクウガ兄ちゃん。なに、かんがえてたの?」
尋ねられたので、素直に魔法のことだと説明する。
ティムもステンの言葉に同意していた。腕が折れたって熱が出たって魔法で治さなくても治るんだからそれでいいじゃないか、と。魔法を使う必要がないとも言い、俺が必死に魔法を習っているのを大変だなと思っているとも言った。
「でもギダンたちは、それをふしぎにおもってるんだ。お金はかかるけど、神殿にいけばすぐになおしてもらえるのに、って」
俺もそっちよりの考えではあるが、それは魔法を習っているから。俺の元いた世界では魔法そのものがなかったけれど、それとはまた違う。まぁ日本でも電気やガスを使わずに自然のもののみで生活している人もいたっちゃいたが。
素直に凄いなと思ってしまう。楽な生活に頼らずにいられることに。
「凄いなー」
俺はティムの頭をぐりぐりと撫でてやる。それにティムがひとしきり満足してから、思い出したように顔を上げた。
「そうだ、クウガ兄ちゃん」
「ん? どうした?」
そう促してやれば、ティムが勢いよく尋ねてきた。
「ひとを、すきになるってどんな感じ?」
ん?? 哲学かな?
「クウガ兄ちゃんって男がすきなんでしょ? それって男の人をすきになったってことがあるからなんだよね?」
・・・・・・かわいいなぁ、こいつは(遠い目)。男が好き=男が性欲対象って考えがないんだなぁ。どうやって説明するべきかなぁ。
「クウガ兄ちゃんって、年とってるのがすきなんだよね。おじいちゃんがハツコイとか?」
「んー・・・・・・、いろんな意味でツッコミたい。言っておくけど、血の繋がっている人にはそういう目で見たことないからな。ただのおじいちゃんっていう意味だったら、そういう対象になるけれども」
「そうなると、ステン兄ちゃんわかいよね」
いや、あの、どうすりゃいいんだよ。困惑しかねぇよ。
ステンは許容範囲内です。なんて言えるかい!!
「ティム、あのな」
俺がそう言い掛けると、ティムは興味津々という表情で俺を見つめてくる。
・・・・・・知らないって言いにくいぜ。だって男が好きだと自覚したのだって、頼りがいのある男性に憧れを抱き、初めての自慰行為だって男の裸体を思い浮かべてたんだから、同性愛者以外の何ものでもないだろうが。それと女性のヌードとか見てもチンコが反応しねぇんだよ。心のチンコもな。でもそんなこと言えねぇだろ。
好きな人。好きな人なぁ・・・・・・。正直この世界来てグラグラ来てますけども。
そもそも恋ってなんだよ。愛ってなんだよ。本能がズギュンってなることはあれども恋愛なんざわかるかあああああ。同性愛者の時点で普通の恋愛は諦めてたわあああああああ。日本にいたときは体目的で付き合えたらいいなとか考えてたわ!
そんなだから恋って言われると・・・・・・ねぇ?
セックスしたいしたいって思ってるけど、相手には嫌われたくない。かといって童貞は卒業したい。でも無理矢理はダメ絶対って思ってる。
矛盾っていうか、考え方がゴチャゴチャしてるかと捉えられるかもしれないが、仕方ないだろ。俺、童・貞!! 初めてのセックスに夢見ちゃって何が悪い! 童貞は夢を見ちゃうから童貞だって、そんなことわかってるわ!!
「よく、わからないんだよな」
絞り出した俺の答えにティムはポカンとしている。
「素敵だなって思った人が、俺よりもずっと年上の男の人たちばかりだったんだ。それが本当に好きだったか、今考えてもわからない」
「え、じゃあ、もしかして女のひとをすきになるかもしれないの?」
「それはない」
思わず即答してしまった。しょうがない。勃つもんが勃たないんだから。
「男が好き。これは間違ってない。ティムは男が好きって考えたことあるか?」
俺の質問にティムは首を横に振る。
「それと一緒。世間では男は女を好きになるのが普通だが、俺は男を好きになってしまったわけだ。女を好きになるって考えたことがないんだよ」
「うーん。よくわかんないけど、わかった」
そりゃよかった。ついでに何で突然そんなことを聞いてきたのか聞いてみた。するとティムは腕を組んで、わざとらしくため息をつく。
「ぼく、村の女の子たちから『けっこんしてほしい』ってよくいわれるんだ。森にはいれるようになるまでは、そういうことはかんがえられない。そうかえしてるんだけど」
「お、おぉ」
「でもステン兄ちゃんが結婚しないし。だったらぼくが結婚してたくさん子供つくるしかないでしょ? だったらいまのうちに、あいてをきめてたほうがいいかなって。結婚できるのは1人だけだし。おんなのこたちに、きたいさせるのもわるいし」
「お、おぉ・・・・・・」
「結婚するならすきなひとが1ばんでしょ? だからすきなひとってどんなひとか、クウガ兄ちゃんにきいてみたの。村のおとなの男の人は、おっぱいがおおきいとか、ムチムチのあしがいいとか、ぼくがおもってるのとちがうこというし。女の人は旦那さんのグチばっかりいってるし。母ちゃんは父ちゃんが死んだことおもいだしちゃうからきけないし。ステン兄ちゃんはアレだし」
「お前、アレって・・・・・・」
どうしよう。ティムが思ったよりもマセガキだった。
だが納得した。常識を逸しても男が好きな俺だったら「好きな人」ってのがどんな人かわかるってわけだな。だがスマン。俺も村の大人の男の人たちとあまり変わらない。ただしおっぱいもムチムチの脚も男限定だが。
「そのうちわかるんじゃないか?」
「そんなこといってステン兄ちゃんみたいに、ずっと結婚しなかったらどうするのさ? クウガ兄ちゃんのことがなかったとしても、ステン兄ちゃんはぜったい結婚しなかったよ」
ん、んんんん・・・・・・? 俺のことがなかったとしても?
意味がわからず聞き返そうとしたときだった。
「ティム。あまりクウガを困らせるなよ」
ステンがいつの間にかやってきて助け船を出してくれた。
しかしティムは納得いかないようで、頬を膨らませる。
「ステン兄ちゃん。もっとはやくでてくればよかったじゃん。クウガ兄ちゃんにはなしかけたときから、かくれてきいてたじゃん」
なんとすべての会話を聞いていたらしい。だったらもっと早く助けてほしかった。
ステンもグッと言葉を詰まらせる。ティムはブーッと言いながら頬を萎ませていく。
「だいたい、盗みぎきしてたのだって、クウガ兄ちゃんがなんていうか、きになってたからでしょ? じぶんから行動しなきゃダメだよ、ステン兄ちゃん」
「ティム?」
ティムの言葉にステンが低い声で名を呼んだ。ティムもヤバいと思ったのか「母ちゃんのところにいってくる」と慌てて逃げていった。
そこで俺はまだ薪割りが途中だったことに気付き、ステンに謝ると慌てて斧に手をかける。
その手に違う手が重ねられた。もちろんステンのものだ。そしてステンはジッと俺の顔を見る。どうしたのかと尋ねる前にステンが口を開いた。
「好きだ」
俺は息を飲んだ。
ステンはしばらく俺を凝視していたが次第に顔をうつむけ、手で顔を覆った。そして吹き出すような笑い声がした。
「悪い。ふざけすぎた」
「・・・・・・あ、そうですか」
「昔は女に言われたことはあっても、オレから言ったことなかったからさ。思った以上に照れるんだな」
そう言ってステンはオレから顔を隠して、堪えきれない笑い声を漏らす。
本当に、本当にこの人は。俺が同性愛者ってのがわかっているんだろうか。冗談混じりで告白するとか。俺、ステン相手に欲情するって言ったことあるよね。
「ステンさん、そういうの良くないと思います」
「悪い、悪い。ククッ、予想以上に驚いてて笑ったわ」
ステンは俺に顔を向けることなく距離をとっていく。
そんなに俺の反応がおもしろかったのだろうか。ちょっとムッとする。
ステンが笑い声を抑えて、「悪かった」と謝った。それでも俺に顔を見せない。
「それにしても少しは照れると思ったんだが」
「照れるよりも驚きの方が先に出ちゃいましたよ。むしろステンさんの方が照れてどうするんですか?」
「確かにな」
ステンはまだ顔を押さえて笑っている。そして背を向けて去ろうとしていた。
「家の用がまだ残ってるからオレは戻る。薪割り終わったら休んでろよ。今日も弓とナイフを厳しく教えるから」
そう言って、ステンは家の方へと帰ってしまった。
そしてステンの姿が見えなくなると俺は斧に手をかける。しかし持ち上げる気力もなく、俺はその場にため息をつきながら座り込んだ。
「くそう・・・・・・、都合のいい風に考えるな」
俺は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「そういう意味じゃないってわかってるよ。くそっ。でもドストレートはズルい」
至近距離であんなこと言われたら、ガンッてくるわ。
くそっくそっくそっくそっ、サッヴァで懲りただろうが。俺ってやつは。
あんなおふざけの「好き」にこんなにグラッといくとは。
「あー、消えろ煩悩。ぶっせつ、まーかーはんにゃー、はーらー・・・・・・ダメだ。この後覚えてない。そもそも俺には煩悩しかなかった。負のアイデンティティだ。ダメだ。最初から俺はダメだった」
あーもー、こんなことに頭悩ませる暇なんてないっていうのに。
~~~妄想中~~~
漏れる吐息。汗ばむ肌。
「ふっ・・・・・・あ、ひぅ、あっ、あ”ぅ」
仰向けに横になるステン。俺は覆い被さって体を繋ぎ合わせている。繋ぎ目からは水音が動く度に溢れていく。
「あ、ひぁ、んんっん」
「ステンさん」
喘ぐステンの名を呼べば、ステンがまっすぐ俺を見つめてきた。
すると先ほどの熱っぽい様子が瞬時に消える。
「好きだ」
その声が、耳に残っているその言葉が、俺の脳を揺さぶった。
~~~妄想終了~~~
・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!!?
しまった。煩悩を消そうとしているのに、妄想が湧き出てどうするんだ俺は。
そしてあることに気づき、深く深く、ため息を吐いた。
「よーく考えよーう。魔法は大事だよー・・・・・・」
反応してしまった股間のブツに、俺はそっと魔法を使って性欲を宥めたのであった。
なんかもう、我慢しすぎてインポにならないか不安になってきたぜ。
ちなみにこれは俺は知らないことであるが。
家の中に入ったステンがうずくまって頭を抱えていた。
「年齢で不利な分、少しでも意識してもらうためとはいえ・・・・・・。冗談だということにしても『好き』って言うの、つらい」
そう顔を真っ赤にして悶えていたことを。
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