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サッヴァ 勇者の手を握る
妻とは愛し愛されの関係では決してなかった。妻は私に敬意の念を抱いており、私も妻の清廉なところを好いていた。だから結婚をし子を成した。そこに一般的な恋や愛というものがなかったが、私は妻に不満や嫌悪はまったくなかった。
『あなた、ごめんなさい。私は、私は・・・・・・』
召還した者に辱められた後の妻の姿を見て、勇者に殺意を抱くほどには彼女のことを大切に思っていたのだ。
しかし勇者は私の力すら凌駕していた。私は娘を守るだけで精一杯だった。だから私は妻が自害することを止められなかった。駆けつけたときには既に彼女は息絶えており、遺書には勇者を殺すことの謝罪と、勇者による被害への謝罪が書き連ねていた。そこに私や娘のことは一言も書かれていなかった。妻は家族のことを考える余裕がないほどに追いつめられていたのだ。そのときの私の感情は悲しみと怒りと無力がない交ぜになっていた。
そして勇者召還が娘に引き継がれたとき、すべてが怒りへと転換した。娘を連れて亡命しようとした矢先のことだった。妻が死んですぐに先回りされていた。
私が駆けつけたときには既に勇者を召還し終えたときだった。
仕方なく勇者を陛下に拝謁させれば街にいさせてほしいと図々しく懇願しだした。だから私は陛下に手伝いという名の監視を願い出た。もし前勇者のように悪逆を極めるというのなら、勇者を傀儡にしてでも食い止めてみせると心の中で誓った。
『男の奴隷を買ってハーレムを作ることです!!』
だから新しい勇者の脳内発言に、すぐに理解が追いつかなかった。
魔王を倒した後に何を望むのか。それを尋ねる前に勇者に気づかれないよう追跡魔法と、そして読心魔法を勇者にかけた。読心魔法は顔の表情や筋肉の動きではなく、脳内で思っていることを読みとる魔法だ。この魔法は倫理的な問題から呪詛魔法に含まれ、賢者の私でも使用したことが露見すればただでは済まない。だがそれでも私は勇者に対して信用が持てなかったのだ。前勇者のように欲望で人間の世界を破壊するのならば、娘と似た年齢の男でも容赦などするものか。
しかし勇者の考えは私の予期しない方へと向かっていた。40代も後半へと到達しているので年のせいで聞き間違えたのかとも思ったほどだ。
私の戸惑いが伝わってしまったのか。勇者が不安そうな表情になる。読心のことを悟られるわけにもいかず「元の世界に戻りたくないのか」と質問で誤魔化した。
勇者はその問いに対し、もっともらしいことを言っていたが脳内は違っていた。
要約すると、ゲイであることがバレたから帰りたくない。
意味が分からない。そもそもゲイとは何だ。
私は先ほどの「男の奴隷」という単語を思い出す。男であるならば普通は「女の奴隷」だ。若い者や下劣な考えを持つ者なら、そういった考えを抱くのは同意はしないが理解はできる。
試しにサヴェルナについて問うてみた。可愛いと思っても性的欲求は抱かないらしい。続いて男である私のことも聞いてみた。
「カッコいいですよね!!」
『カッコいいですよね!!』
本人の口と脳内が同時に答えた。さらに脳内では勇者にとって私は好みのタイプらしい。それに対し意味がわからんとしか返せない。だがどうやら勇者は男でないと愛せない体質のようだ。異世界では当然のことなのかとも思ったが、先ほどバレたと言っているので少数派なのだろう。
難儀なことだと思った。この世界では男が男を好きになる文化はない。少年の形をした勇者が求めることができるとは思えない。前勇者のように無理矢理事を成そうとしても相手が男ならば返り討ちにされやすく、かつそんなことになる前に私が勇者を潰せばいい。
そう思って勇者を放置した数時間後。追跡魔法で勇者を観察し思わず頭を抱えた。
街の人々による勇者への態度が予想以上に悪かった。夕食すらとれず、渡したお金まで盗まれて最早勇者に対して同情すらあった。挙げ句の果てに寝ているところに火をつけられたのだ。異世界から無理矢理召還されてこの仕打ちは、普通ならば怒り狂ってもおかしくはないだろう。
だがこの勇者、精神がタフだった。
当然のごとく街の人々の行為に呆れ果てていたが、それでも憎悪や嘆き、恐怖は一切なかった。私の家に連れて行くにしても素直に従っている。思えば召還も陛下への拝謁もボロ家に泊まるよう言ったときも、多少の不満や不安はあっても決して口に出すことはなかった。言われたとおり従う姿に逆に心配になる。
私が勇者を案内したのは妻が使っていた部屋だった。といっても妻は死ぬ前に部屋を整理していたので余計なものは置いていない。勇者を連れてくるのは心苦しかったがすぐに使える部屋がここしかなかった。
部屋に案内した勇者は感情の読めない顔で俺を見る。勇者に魔王を倒す気があるのか再度聞いてみたら今度は気が進まないとはっきり言われた。当然だ。守る対象からあんな態度を取られればそう思うのも仕方ない。
勇者は私の顔から目をそらさなかった。そして心の底から犯罪に嫌悪していた。
私はその力強い瞳に勇者を、クウガを信じてみようと思った。
・・・・・・信じてみようと思ったのだ。
いや、むしろ嫌な顔せず(さすがに脳内では愚痴をこぼしていたが)真面目に訓練に取り組み、今ではみな忌避する訓練法を耐えながら続けている姿は賞賛に値する。
朝早くから剣の修行に出て、夜は魔法の講義と実演。確かに力も魔力も新米の騎士や魔導師よりも弱いとはいえ、こんな鍛え方をしたら体よりもまず精神がおかしくなる。だがクウガはそれに耐えて強くなっている。魔法の失敗や暴発を繰り返し、死にかけ、それでも続けようとする忍耐と努力は確実に実を結んでいる。
だが、これは予想外だった。
『サッヴァさんのここ、ひくついてますけど』
『は、はぁ・・・・・・う、うるさい。さっさと、しろっ』
グチュ、ヌプププ
『あっ、ん・・・・・・う、あっ・・・・・・!』
『凄い。サッヴァさんのここ、もう俺の形覚えちゃったみたいですよ』
ズッズッ、ズグッ
『あ、あ”っ、ク、クウガ・・・・・・もう、ダメだ』
『まだダメですよ。もう少し耐えられるでしょ』
『あっ、むり・・・・・・、も、もう』
『へぇ。じゃあ、おねだりしてくださいよ。恥ずかしげに、俺に媚びるように』
『あ”ぅ、そんな・・・・・・んうううっ』
・・・・・・脳内に飛び込んでくるクウガと私の情交。もちろん事実ではなくクウガの妄想だ。
読心魔法はとある特徴を持っている。魔法をかけられた人物の脳内が、長くて数ヶ月は私自身に伝わり続けてしまうということだ。壁越しならば聞こえないのだが、そばにいると自ずと頭に伝わってしまう。これは止めようと思って止められるものではない。
心の中を覗き込んでわかるが、クウガの下劣な妄想が頭に流れ込むのである。実際に犯罪行為に走らず、あくまで若者の脳内での妄想であるから強くは言えない。読心魔法が違法であるから尚更だ。
だがまさかあの変わらない表情の下で、こんなことを考えているとは誰が気づくだろうか。しかも本来ならば声だけが伝わる読心魔法で妄想が映像で伝わってくるのだから驚きだ。もしクウガ本来の魔力が高ければ良い魔導師になれたであろう。
私は男同士の性交のやり方を教わらずに覚えてしまった。40代後半でこんな知識を身につけることになろうとは思いもよらなかった。そもそもがこんな子を成すことのできない行為に何の意味があるのか。
意味などないのだ。だが何故それに、嫌悪ではなく高ぶりを感じてしまったのか。
「ふっ、くぅ、あ・・・・・・」
自室で自分のモノを握り、私は声を抑える。夕食後、私はベッドに腰掛けながら事に及んでいた。クウガの前で来ている制服はシャツだけを残しすべて脱いでしまった。
亀頭を包み擦りながら、もう片方の手で竿を握る。血がすべて下に行ったかのように、意識はぼんやりしてもモノは熱を帯びている。
「あっ、あ・・・・・・ぐっ」
『サッヴァさん、我慢してるの?』
頭の中にクウガの声が響く。自室にいてクウガの声は聞こえないはずなのに。
「ああっ、あ、ふっ」
『ほら、挿れてほしいんでしょ』
体をベッドに乗せて、竿を握っていた手を尻の穴へと近づける。だがそこに挿れるのは躊躇ってしまい、触れるだけで終わってしまう。
『こんなに固くして、俺で感じてくれてるんですね』
『あっ、ぐっ、んんんっ・・・・・・、ひああああっ』
「んっ、ふぅっ、んああ、あっ」
脳内に浮かぶクウガの妄想の自分と、今の自分が重なったような幻覚になる。
こんな40後半の男を、子供にも怖がられる厳めしい男を、女のように抱きたがる突飛な考えを持つ少年の顔が浮かぶ。私の耳に、声が聞こえた。
『ねぇ、今どんな気分?』
ぞわぞわっとした震えとともに、私のモノから勢いよく発射される。
私は荒い息を呼吸で整えながら部屋全体に清浄魔法をかける。これで汚れも匂いも精液も綺麗になくなった。
ぼんやりとした視界が回復してくると途端に後悔に苛まれる。
何をしているんだ。若い頃はあまり性のことに興味すらなかった淡泊な自分が。
私は元の服装へと戻り、クウガのいる部屋へと向かう。クウガと魔法の講義と訓練の前に何をやっているんだと思うが、この時間でしか自由な時がないのだ。
部屋に入ればクウガの顔がこちらを向いた。表情は変わらないが届いてくる脳内では私の姿を見たことに喜んでいる。脳内は相変わらず妄想混じりであったが、まだまだ経験のない青臭い妄想だ。その妄想に混乱しているのは私自身の問題なのだ。
クウガにも、娘にもバレていない。バレるわけにはいかない。
だがもし妄想ではなく、実際にクウガに誘われてしまったら。
私はそれを撥ね除けることができるだろうか。
+++
私は昔妻が使っていた、今はクウガが使っている部屋にいた。ベッドのそばにイスを置いて座っている。
部屋のベッドにはクウガが眠る。あどけない、まだまだ子供の顔つきだ。こんな子供が突然親元から離され、魔王を倒す責務を負い、日々死ぬような目に遭っている。改めて酷な話だと思う。脳内での妄想はあれだが役割を放り投げずに頑張る姿は、そばで支えようと思えてしまう。
昨日、街中で魔獣が2匹現れた。とある狩人が内密に貴族に売り渡そうと薬で眠らせ運んでいたが、街中の途中で大暴れして逃がしてしまったらしい。家畜以外の魔獣を生きたまま人間の住居に連れて行くことは大罪だ。今回のように大きな事故に成り得るからだ。
1匹はダグマルという騎士団隊長が倒した。そしてもう1匹にクウガが襲われた。正しくは襲われそうになった子供を助けるために立ち向かい怪我を負った。最終的には街にいた射手の誰かが弓矢によって魔獣の息の根を止めた。私はクウガが魔獣と遭遇した時点で仕事を止めて現場に向かったが、到着した頃には既にクウガの意識はなかった。
幸いにも最上級の回復魔法をかけ大事に至ることはなかったが魔力を一気に放出したこと、自身の魔力を使ったこと、そして瀕死の重傷を負ったことから数日は意識が戻らないだろう。ベッドを使って眠るのも久々だろうから、ゆっくり寝かせてやりたい。
ふとダグマルの言葉を思い出した。あれは弓矢で死んだ魔獣の死体を見たときだ。
『目と首、そして脳。魔獣の急所をことごとく貫いているが、これが決定的な死因とは思えない』
急所は貫いていた。しかしそれが即死に繋がるとは思えないらしい。
つまりダグマルは魔獣の死因は弓矢ではないという。私よりも実地での戦闘経験を持つ男の言葉には信憑性がある。では何で死んだか。それは今もわかっていない。
あの近辺にいた人はクウガとティムという子供だ。それ以外は建物の中か陰に非難していた。もしダグマルの言っていたことが本当ならば、魔獣を殺した可能性が高いのは間違いなくクウガだろう。
何故魔王を倒すのにわざわざ異世界から召還するのか。
それは異世界から来た者は、特別な力を有するとされているからだ。そしてその力によって魔の力を抑えることができるという。現に前の勇者カイト・ミナゴロは無敵というほどの戦闘力と魔力を得ていた。だがクウガはどちらも弱い。成長スピードは速いが、それはあれだけのハードスケジュールを真面目にこなせば当然とも言えよう。
では、クウガは何を持つというのか。すべてクウガが目覚めないことには始まらない。
私はクウガの手を握る。
1月前ほどだろうか。クウガがこの世界に同性愛というものがないと知ってから、私の手を触るようになった。初めて言われたときは私が自慰をしているのがバレたのかと焦ったが、そうではなくせめてもの触れ合いが欲しいというものだった。綺麗にしたとはいえ自慰をしたその手を握らせるのは戸惑ったが、下手に拒否する方が不信感を与えそうな気がして了承した。クウガは読心魔法のことをまだ気づいていない。バレるわけにはいかなかった。
読心魔法の効果はまだ続いているのだろうか。
それはクウガの意識が戻らなければわからないことである。
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