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クウガ 勇者でなくなる
あの後、ロッドは仕事があるということで帰って行った。その背中にサヴェルナが塩を投げつけていた。
会わせちゃいけない2人を会わせちゃったな、俺。
次にやってきたのはダグマルだった。仕事に一区切りつけてからこっちに来たらしい。ロッドの言った通り、会った途端に頭をわっしゃわしゃされた。「おーよしよし」という幻聴が聞こえた。
「あー、この身長。クウガ、お前って撫でやすい位置に頭があるよな」
「そうですか。お仕事お疲れさまです」
「ただでさえ騎士としての後始末が多いってのに、それに加えて面倒なことばっかり言いやがるからなぁ。今まで家の権限使ったことなかったんだから、一度くらいは見逃せよな。緊急事態だったんだしよ」
ダグマルの手は俺の頭頂部から次第に後頭部へと移る。首筋のところに指が擦られてゾクゾクする。ヤバいなあ、と思った瞬間。ダグマルから抱きつかれた。
ちょっと!? 服越しにあの胸の感触が、顔に! 顔にい!!
「クウガ、よくやったなあ。お前は偉いよ、本当に」
「あのですね、俺、褒められるほどのことは」
「いいんだよ。俺が褒めてやりたいだけなんだって。ずっとクウガを甘やかしたくてしょうがなかったんだよな」
そう言ってダグマルは俺を抱きしめながら後頭部をポンポンする。
うおおおおおお、生殺しがすぎる。俺は手をどこに持って行けばいいんだああああああ。さっきから両手のひらが宙を浮いたまま、ダグマルに触っていいのか悩んでるんですけどおおおおお。
もう、無理。離れがたいけど、これ以上は俺の息子が元気に飛び回りそうだ。
「ダ、グマルさんっ。もう、やめて」
触れ合っている体の間に手を入れて、一生懸命ダグマルの体を押し出した。俺の言葉と行動にダグマルは素直に離れていく。
「いいじゃねぇか。久々に会ったんだし」
「良くないですって。どうせダグマルさんも知ってるんでしょ。俺が男が好きって」
俺の言葉にダグマルが黙り込んで、ポカンと俺を見つめていた。
え、何その反応。知りませんでした、ってオチじゃないよね。今の俺の発言が初耳でしたとか、そんなバカなことないよね。
ダグマルは「あー」と声を出しながら、頭をかいた。
「そういやもういろんなやつに知れ渡ってるんだったな。今更だったから忘れてた」
そしてそんな言葉をおっしゃいました。
ちょっ、えっ、何その俺はとっくに知ってましたって反応は。はあ? 気づいてたの。
「あの、今更って。え? いつから、気づいて?」
俺の言葉にダグマルも自分の失言に気づいたようだ。
目をそらしながら、口ごもっている。
「えっとー・・・・・・、あー、あれだ。ほら、クウガが言っただろ。同性愛について話したとき。あのときに、ちょっと、あれ? って思ってな」
それって結構初期の頃じゃないっすかね!? この世界に同性愛という概念がないって気づいたときですよね!?
「そ、そんなに早い段階で気づいたんですか?」
「あ、うん。そうそう。そうなんだよ。まあ、いいじゃねぇか。今はみんな知ってんだし。俺が知ってた時期なんて」
「じゃあ知ってて、あのとき胸触らせたんですか」
俺がそう問いつめれば、ダグマルは黙り込んでしまった。
おい、おいおいおい。知ってて、あんなことさせたんかい。ゲイだってわかってて、あんなことさせたんですか。
「俺のこと、面白がってたってことですか」
「違っ、そうじゃなくてだな」
あああああ、もう、何も信じられない。
俺は顔を覆ってその場にうずくまってしまう。
うおおおおおおおおお、もういろんな人に顔向けできねええええええ。殺せ俺を、いっそ殺せええええええええ。
「クウガ、落ち着け。な? 俺が悪かったから。全面的に俺が悪かったから」
ダグマルが座り込み、俺の肩に手を置いて謝罪する。
だが今は放っておいてほしかった。ダグマルの顔が見れねぇよ。
そこに扉の開く音が聞こえた。顔を手で覆っているので、誰が開いたのかはわからなかったが。
「クウガ!?」
聞こえた言葉にステンだとわかる。
ここでステン来るのかよおおおおお。顔向けできない人上位じゃねぇかああああ。
せめてサヴェルナとかロッドとか、いっそのことギダンやティムとか子供たちでもいい、俺の性的対象外の人来てくれよ!!
「ダグマル、クウガに何したんだよ!」
「悪ぃ。俺が失言した」
ステンの怒鳴り声とダグマルの焦り声が耳に入る。
ごめんなさい。俺のせいなんです。2人共悪くないんです。俺がゲイだってのが悪いんです。くっそおおおお、こんなことなら目を覚まさない方が良かったわ!!
「ごめんなさい。男が好きでごめんなさい。気持ち悪くてごめんなさい」
「クウガ!? おい、別に俺はそんなこと思ってねぇぞ!」
「ちょっと一回冷静になれ! 落ち着け!」
ダグマルとステンの慌てた声が聞こえる。でも顔が見れない。
大体こんな心情で落ち着けるかあああああああああ。
はっ!? そういえばダグマルは俺がゲイってことを知ってたけど、ステンも知ってたのか!? いやいやいや、そしたらアナニーなんてさせなかっただろうし。
あ、もしかして。俺から視線をそらすようになったり、朝のアナニーに俺を拒むようになったのって、俺がゲイって気づいたから?
ヒウッと、のどから変な息が漏れた。
「ス、ステンさん」
ゆっくりと顔から手を離した。ダグマルのそばで立ちながら俺を見下ろしているステンと目が合った。
「俺が、男が好きってこと、前から知ってました?」
そう問えばステンが息を詰まらせる。小さく口を開閉させるが言葉は出てこない。
・・・・・・この反応は多分知ってたな。だから急に余所余所しくなったんだ。ゲイの俺がノンケにアナニー教えちゃったことに、罪悪感が沸き上がってくる。
「ステンさん、ごめんなさい。死んで償います」
「クウガ、お前何言ってんだ!?」
「男が好きなやつに抱きつかれるとか、どこの拷問って感じですもんね。さっきはごめんなさい。俺今から鏡見て、自分に死ねって言ってきます」
「やめろ! お前本当に落ち着け!!」
ステンが膝をついて座り込み、俺の両肩を掴んで揺さぶった。
あーもう、死にたい。死んで詫びたい。
「お前たちは何をやっているんだ」
扉の方から呆れた声が響く。俺がそっちを向くと、扉が開いている部屋の外からサッヴァが眉間にしわを寄せて立っていた。
顔向けできない人上位が揃ってしまったああああああ。
「クウガ、起きたか。今回のことはご苦労だった。もう話しても大丈夫なのか?」
サッヴァの労る言葉が優しくて、その優しさが今の俺にとってはしんどかった。
ってかダグマルもステンも気づいてたんなら、サッヴァが気づいてなかったわけないよな。でもサッヴァの場合は研究対象っていう意味合いでの行為だから、別に俺がゲイだろうが気にしないのか。ああ、でもダメだ。俺の精神へのダメージがデカすぎる。
どうしよう、どうしよう、どう謝罪しよう。
そんなことを悩みながらサッヴァを見ていたら、次第にサッヴァの顔が驚愕のそれに変わっていく。
「サッヴァさん?」
声をかけても、サッヴァは呆然としながら俺を見つめていた。そして。
「効果が、切れたのか・・・・・・?」
ボソリとつぶやいていた。
サッヴァのつぶやきの意味は俺だけでなく、ダグマルやステンもわからなかったようだ。
「サッヴァ先輩」
ふと聞き覚えのない声が聞こえた。
サッヴァが我に返り振り返る。するとサッヴァの背後に見たことのない男がいた。
濃い緑色のボサボサした長髪が印象的だった。後ろ姿だけ見たら女性と勘違いしていたかもしれない。
見た目は物静かな風貌で、年はおそらくダグマルと同じか少し上くらいだろう。
「彼が異世界から召還された少年ですね」
男が俺に笑いかけた。優しそうな男だ。
しかしサッヴァは俺を隠すように、男の前に立った。
「私は客間にいるように言ったはずだが」
「えぇ、そうですね。しかし彼を見てみたいという好奇心に耐えられませんでした」
「ならもう良いだろう。さっさと戻れ」
「折角ですから彼も話に参加させてはいかがかと」
男の言葉にその場の空気が重くなった気がした。
男はサッヴァがいて見にくく、サッヴァも背中を向けているため、2人がどんな顔をしているのかはわからない。だが雰囲気が良くないというのはわかる。
ステンに目を向けると警戒心を張りめぐらせていて、ダグマルは不機嫌な表情を露わにしている。
「彼に関する重要なお話なんですから」
何か良くないことが起きそうだ、という予感があった。
+++
客間のソファに腰掛ける。俺の隣にはダグマルが、向かいにはサッヴァがいて、サッヴァの隣には緑髪の男が座っている。そして客間の扉にはステンが立って、こっちの様子を窺っている。
「初めまして。自分は魔導師のアトランと申します。クウガくん、とお呼びしてよろしいでしょうか?」
アトランと名乗った男が首を傾げる。
俺が首を縦に振ると嬉しそうに微笑んだ。パッと見は優しそうな人だ。しかしサッヴァもダグマルも纏っている空気が重い。それにつられる形でステンも臨戦態勢になりかけている。
そういえばロッドとサヴェルナから魔導師について話してたな。「頭のおかしい変人集団」って。この人もそうなんだろうか。
「それで、アトラン。一体何をしに来た」
「つれないですね、こういうのはまず世間話から始めるものでしょう? ではサッヴァ先輩のおっしゃる通り、重大なことからお話しましょう。クウガくん」
クスクス笑ってアトランは俺の名を呼んだ。
「あなたにとって良いことか悪いことかはわかりませんが、もう勇者の役目は終わりました。陛下からも許可はいただいています」
・・・・・・・・・・・・は?
俺は返事することもできずに、ポカンと口を開けていた。俺だけではない。他の3人も驚いた顔をしている。
「ですから、もう魔王を倒しに行く必要はございません」
「あの、それはどういうことで」
「すべては魔物の子が吐いてくれました。クウガくんがココと名付けたあの子です。今あの子は我々魔導師が所持しています」
久々に聞いた名前だ。
魅了の能力を持った魔物の少女。泣きながら木の棒を振ったり、俺の腰にしがみついていたのを思い出す。
そういや結構重要なこと知ってたんだよな、あいつ。
「ココが話したことが関係してるってことですよね。魔王のことですか? 魔の森の状況ですか? それとも魔物が侵略行動をし始めたことですか?」
「すべてに関わってはいますが、発端としては最後のことです」
最後っていうと、魔物が侵略行動をし始めたこと?
俺とは最も関係ないと思っていたことが、まさか最初になるとは。
同じことを思ったのだろう。ダグマルが口を挟んできた。
「ちょっと待て。魔物が人間を襲い始めたのは10年ほど前だ。それとクウガが関わるっていうのはおかしいだろ」
「確かにそう思うでしょう。しかしこれはクウガくん自身が関わっているのではなく、異世界から人を召還するにあたって極めて重要な関わりがあります。異世界から召還させたのは魔物を指揮しているとされる魔王討伐のためなのですから」
なるほど。俺自身の問題というより、俺を召還した意味の問題ってことか。
つまり勇者の役目がなくなったということは、その意味がなくなったってこと。
「あまり確信をボヤかして話を進めるべきではありませんね。正直に言いましょう。魔物が侵略するよりも先に、人間が魔の森を侵略したのです」
うえっ? ちょっとそれは穏やかな話じゃない。
だが俺よりも先にダグマルが立ち上がって、アトラスを見下した。
「適当なことをぬかすなよ。魔の森に必要以上の接触は禁じられている。俺たち騎士はそれを破ったことなんてねぇよ。どこかの隊が独断で行動したなんて話も聞いたことねぇ。そもそもヘテロイヤル帝国との戦でそんな暇なかったぞ」
「えぇ、自分も魔導師として帝国との戦では手を貸しましたから存じています。帝国は魔法よりも武力に優れている国。魔法での後押しをいたしましたね」
「そんなのなくても俺たち騎士団は負けなかったけどな。勝手に魔導師連中が暴れてただけだろ」
「またそういうことを仰るのですね。帝国との戦いにおいて魔導師の存在は必要不可欠だというのに。まぁ、それは置いておきましょう。そこのリッセン公爵ご子息の話通り、我がノンケルシィ王国は魔の森を襲ったことはありません」
アトラスの言葉に疑問が浮かんでくる。
王国は魔の森を襲ってない。でもさっきは人間が魔の森を侵略したと言っていた。言ってることがおかしくないか。
するとサッヴァが口を開いた。
「この国が仕掛けていないとなるならば、魔の森に進んだのは別の組織というわけか」
「えぇ。しかし聞き出した相手が魔物ですからね。他の種族からしたら人間なんて全員似たように見えるでしょうから確信めいたことは言えません。しかし我が国以外で魔の森に攻撃を仕掛ける力を持つのはーー」
「帝国しかいないってことかよ」
ダグマルが舌打ちをして乱暴にソファに座る。
「そういうことになりますね。魔物の証言なのでどこまで信用していいか悩むところですが。何故帝国が魔の森に侵略したのか。魔法の力量の差を埋めるためか、魔物を捕らえて自分たちの戦力にすべきだったのか。それはわかりません。しかし侵略した人間は全員魔物たちに食われたそうです。そして人間を食った魔物たちは凶暴化する」
そうか。だからこの国の人たちはわざわざ勇者を召還したのか。
魔の森に入った人が全滅して魔物に食われた場合、その食われた分だけ凶暴化する魔物が増えるんだ。だから必要最小限、それこそ召還した勇者1人ならもし魔物に食われても凶暴化する魔物は少なくて済む。さらに勇者の力が強ければ魔物の数も減らせるんだから、本来はメリットが多いんだ。
だけど召還したのが怪人ミナゴロシだからなぁ。何でよりによってあいつが召還されてるんだよ。最悪なやつが召還されてんじゃねぇか。
「当時の魔王は凶暴化した魔物をすべて人間の土地へと送りました。凶暴化した魔物は魔の森でも扱いに困るのだそうです。そして魔の森に1番近い我が国に攻め入ったというわけです」
うわあ。この国にとってはとばっちりだ。
それでノンケ国にとってはいきなり魔物が襲ってきたと勘違いしたわけか。んで1年と数ヶ月前に怪人ミナゴロシを召還しちゃって悲惨な状況を作ってしまったわけだ。悪循環だな。
そこに今まで聞いている側だったステンが口を開く。
「聞いてれば、全部この世界の人間が始めたってことだろ。別の世界の人間である前の勇者も、クウガも本来は呼ばれるべきじゃなかったわけだろ。いろんなやつ巻き込んでんじゃねぇよ」
その言葉に、サッヴァは黙ってうつむいていた。
サッヴァも被害者なんだよな。奥さん亡くなってるし、サヴェルナが召還したとき無理矢理だしな。
代わりにダグマルがステンの方を見た。
「ステン、お前は黙ってろ。クウガのことがあるから特別にこの場にいさせてるんだ。こんな重要なこと、本来なら一般人が聞いていい話じゃねぇんだ。余計なこと言うんなら追い出すぞ」
ダグマルの忠告にステンは渋々口を閉ざす。
そしてダグマルはアトランをにらみつけた。
「つまりクウガが勇者の役目をしなくていいってのは、事の始まりがヘテロイヤル帝国だったからってことだな」
「そう断言はできませんがね。帝国では5年前に当時の陛下が病死し、次の陛下に変わっているので10年前のことを問いただしても知らぬ存ぜぬでしょう。そしてクウガくんのことに関しては、これは発端でしかありません。問題は今の魔王のことです」
アトランの言葉にギクッとする。
2週間前の事件で、なんとなく予想してしまったこと。
俺の様子をジッと見つめるアトランの視線が痛い。
「今の魔王は前の勇者カイト・ミナゴロの可能性が高いです」
まさか俺の予想を堂々と、躊躇いもなく言うとは思わなかったよ。
思わず俺は体を強ばらせたが、俺以外の方がその反応は顕著だった。
サッヴァは目を見開き青ざめながらアトランを見る。
ダグマルは眉間にしわを寄せて歯を食いしばってアトランをにらみつける。
ステンは無表情になって、懐に手を忍ばせていた。
三者三様の鋭い視線を受けてもアトランは飄々としていた。
「あくまで可能性のお話です。魔物の子から聞いた魔王について尋ねたところ、外見的特徴が前の勇者と一致したのです」
「バカな・・・・・・、ならば私の妻が死んだのは何だと言うのだ!!」
「さぁ。理由はわかりません。ですが、かつて召還した勇者が現魔王という可能性が出ているのは事実です。よって勇者であるクウガくんを、魔王討伐に向かわせることは危険だ。そう結論づけました」
アトランは俺の目を見た。
「そして、クウガくんの身柄は我々魔導師が引き取りたいと思っています」
ダン、と机が壊れるのではないかという音が響いた。
ダグマルが拳を叩きつけたのだ。それでもアトランは笑みを崩さない。
「クウガくんの目がこの前の事件を解決するきっかけになりました。しかしその力はあまりにも強大すぎて、どうしても危険視してしまうんですよ。処刑すべきだという声だって多くの貴族からあがってるんです。それを自分たち魔導師が引き取るということで抑えたのですから、そんな殺気を向けられても仕方ないですよ。サッヴァ先輩も、リッセン公爵家ご子息様も、そこの村人くんも」
空気が、重い。
この部屋で戦争が勃発しそうです。その場合、俺が1番死にそうなんですけど。
「勝手なことをぬかすな。そもそもが私が知らない間に何故そのような話が出た。独断で事を進めるつもりか」
「独断? 話し合いで決めましたよ。リッセン公爵家、騎士、神官を抜いた人々で」
「そんな話し合いがあってたまるか!」
「公爵家を除いた貴族間の話し合いなんておかしいだろうが!」
アトランの言葉に、サッヴァとダグマルが反論する。
「えぇ、公式ではあり得ません。しかしあなた方はどうもクウガくんへの贔屓が強すぎる。特に公爵家の権限を振りかざしたこととか」
「あのとき1度きりだろうが。それまで俺が利用したことなんてねぇぞ」
「だからこそです。クウガくんが関わったことで躊躇いもなく、抑えていたものを使用したことが問題なのです。あなた方は勇者を監視するということが目的であって、勇者の味方をしてはならないのですよ」
お、おぉ・・・・・・。俺が目の前にいるっていうのに、見事に俺を抜かして話し合いがされているぜ。
口を挟めるタイミングがない。俺のことなのに、俺が口出せる雰囲気じゃない。
内容としてシリアスで俺の扱いめちゃくちゃ悪いけど、サッヴァとダグマルが代わりに怒鳴ってくれるから、俺怒るに怒れない。戸惑いしかない。
何より扉側から発せられるステンの殺気が俺にまで飛び火して、めちゃくちゃ怖いんですけど。
サッヴァとダグマルが苛立ちに体を震わせている。
そしてアトランの微笑みが俺の目を射抜いた。
『もしもし、クウガくん。聞こえますか?』
ふとアトランの口が動いていないにも関わらず声だけが聞こえる。
『アトランです。どうやら聞こえるようですね。発信しかできませんが、私の声をクウガくんの脳内に飛ばしています』
ま、まさか二次元でよくある「直接脳内に語りかける」ってあれか?
ちょっ、魔法でそんなことできるの!?
『魔導師がクウガくんを引き取るというのは非公式で決めたことです。ですが、クウガくんが了承さえしてくれれば済む話なんですよ。むしろ今までのように彼らのもとにいては、彼らの立場が悪くなるだけです』
・・・・・・その言い方はズルいな。あくまで俺の意志でアトランについていくってことだろ。
そこは俺が口出しせずに、そっちがサッヴァさんたちを説得してよ。俺だってお世話になってるこの人たちと離れたいわけじゃないんだし。
『クウガくんは、男が好きなんですよね』
アトランの言葉に脳内が真っ白になる。
『男が好きだということがバレて、今までと同じように彼らと接することができるのですか』
「あ・・・・・・ぅ、ぁ」
声にならない声が、漏れた。
俺の様子に違和感を持ったサッヴァがアトランの腕を強く掴む。
「アトラン、何をしている」
「何って、しゃべらずに話しかけただけですよ。サッヴァ先輩の魔力の入った金属は凄いですね。禁忌とされる魔法も容易くできてしまうんですから」
アトランはそう言って長い髪をかきあげる。すると耳には宝石が埋め込まれているピアスが填められていた。
「それは違法行為だぞ! わかっているのか!」
「初めてなんですから見逃してください。それにしてもサッヴァ先輩の魔力なら、他にも禁忌とされる魔法が簡単にできそうですよね。精神を壊して相手を傀儡にすることや、相手の思考を読みとってしまう読心魔法など」
そうアトランがサッヴァに話しかければ、サッヴァは口を開けたまま声を出せなくなっていた。
サッヴァの様子がおかしかったが、今の俺はそれを気にしている余裕がなかった。
迷惑、かけちゃってんだよな。
前から思ってただろ。俺なんかに時間割いてもらって申し訳ないって。
ゲイだっていうのもバレていた。バレていて俺と接してくれた。
でもだからこそ、そのことを知った俺が耐えられないんだ。今まで以上に変なことしちゃうんじゃないかって不安になるんだ。
ああ、じゃあ答えなんてもう出てるじゃないか。
俺は立ち上がる。そしてアトランの近くへと進んだ。
「アトランさんのところに、行けばいいんですよね」
そして口にした言葉に、3人が俺の名を叫ぶ。でも俺は誰の顔も見れず、アトランの顔をにらみつけるように見下ろしていた。
アトランは優しげに微笑んでいる。
「そうですね。順応な人は好きですよ」
「よろしく、お願いします」
目を閉じて頭を下げた。両手の拳を強く握る。
「クウガくん。自分は古代の魔法というのに強く惹かれています。だから君の能力は私にとって素晴らしい研究材料なんですよ。そして」
アトランは急に頭を下げている俺の顔を無理矢理上げる。
驚きで目を丸くする俺に、アトランは言った。
「『同性愛者』というのも、興味深い研究対象です」
そう言って俺の唇に、口づけた。
体勢が崩れてソファに手をかけた状態で俺は固まった。
あの、え、これ、キスされてんの。俺。
ファーストキス、なんですけど。
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