ゲイの俺が、同性愛という概念がない世界に勇者として召還されました

うましか

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クウガ 命名する


 さて、どうする俺。どうするよ。
 魔導師のいる建物に戻るにしても道わかんねぇし。人に尋ねてたどり着いたとして、戻ったら俺を抹殺する計画を立てていたらどうする。帰って即殺されて人生終了とか笑えねぇよ。

 ここにいてもどうしようもないけどさ。土下座で許してくれないかな。
 そもそも発端キュルブだし。変装させたの魔導師の女性陣たちだし。シャンケも巻き込まれたんだろうけど、俺が走ったときに離されるんじゃねぇよ。そりゃ荷物とかもあったけどさ。

 ・・・・・・やめよう。んなこと言ってもしょうがない。
 街ならともかく、知り合いのいない王都で生活できないし。そもそも女装だし。女として生きる覚悟は急には無理だ。
 とりあえず人の目のつかなそうなところに移動しよう。

 俺は辺りを見回しつつ、少しでも陰になる場所はないかと探した。
 するとすぐに人一人が通れそうな路地裏を見つけ、その中へと体を滑りこませた。そして奥まで進んでいく。こういうのは犯罪者やヤンキーが屯しているイメージだが、とりあえずその心配はなさそうだ。

「どうしよう」

 思わずつぶやいてしまう。
 今になって思うけど、こんな人気のないところに移動したらなおさら逃げてると勘違いされるんじゃないか。早まったか俺。

「どうしよう」

 逃げるべきか。戻るべきか。どちらを選択すべきかわからない。
 今になって知らない世界に放り出された気分になった。
 陰にいるせいか、寒気がしてくる。

「どうすんだよ、俺」

 片手を拳にし、額に当てる。
 人の気配がないからと、前を見ていなかった。

 だから「突然前方に気配が現れて」もすぐに反応することはできなかった。
 突然現れた人の姿を俺が気づいたのは、ぶつかる寸前。

「うおおおっ」
「わあっ」

 俺と、そして突然現れた人は激突し、互いに地面に転んでしまった。
 起きあがった俺が見たのは、ボロボロの服を身につけていた。背丈は俺と同じくらいで肌は褐色で髪の色は一見黒に思えたが、陰で暗かったためよく見ると濃青色だった。真っ直ぐな髪が腰まで伸び、上着の裾が長いから股間部分を見ても男か女かはわからない。。
 俺はぶつかって倒れたそいつに声をかけて手を伸ばした。

 しかしそいつは怯えた表情で俺を見つめたかと思いきや、その周囲を濃青色の靄があがっていく。その不思議な現象に、俺は咄嗟に声をあげた。

「やめろ」

 俺がそう口にした瞬間、青い靄が消えていく。そいつはその光景に驚いていた。
 魔法? いや、今の靄みたいのは見たことがある。あれは桃色だったけど。

「もしかしてーー、魔物?」

 するとそいつの体がビクッと震える。
 どうやら当たりのようだ。だが、それより気になることがある。
 性別どっちだ。少年なのか、少女なのか。
 魔物に性別って概念がないのはわかってるけどさ。外見は人になんだから体形的男女はあるだろ。たとえ男だったとしても、俺の好みよりも若すぎるけど。

 俺が伸ばした手でそいつの手を引いて起こしてやる。
 そいつはびっくりした顔で俺を見ていた。

「魔物とわかるのに、何もしないの?」

 どうやら俺が魔物を知っても怯えも攻撃もしないことが不思議なようだ。
 俺も魔物大量発生の後に遭遇していたら、こう冷静にもなれなかっただろう。
 だけど魔物と聞いて、今真っ先に浮かぶのはココだ。

『クウガァ~、無視しないでくださいぃ~』
『クウガァ~、壁に頭ごっつんこしましたぁ~。痛いぃ~。痛いの痛いのとんでけお願いしますぅ~』
『クウガァ~、なでて、なでて、なでて!』

 ダメだ。アホな図しか浮かんでこない。脱力感しか感じない。
 俺はそいつの手を離して口を開く。

「魔物だから、全員ダメってわけじゃないでしょ」

 ココの言い分では、自分から人間を攻撃する魔物って稀らしいしな。魔物が人間を襲うようになったのも、人間を食って正気でなくなった魔物が暴走したかららしいし。
 今ここにいる魔物は、俺と会話をしている時点で人間を食っていないと思っていいだろう。

「そう、人間にもそういう考えをする人がいるんだ」
「といっても、俺が特殊なんだと思う。『魔物=恐ろしいから倒さないと』って考える人間は多い」
「それは魔物側も一緒だよ」

 そいつの強ばっていた顔が少し緩んだ。緊張が緩んできたんだろう。
 だから今の内に聞いてみた。

「男? 女?」

 その質問にそいつは首を傾げた。やっぱり性別という概念はないのだろう。
 ココの場合は魅了という能力から女だと判断できたが、これは見た目だけで判断するのは無理だ。つまり判断材料はひとつしかない。

「股の間に生えてる?」

 そうオブラートに包んで聞いてみたが、そいつは首を傾げたままだ。
 ・・・・・・まぁいい。別に性別がわからなくても困らないし。男だとしても性的対象外だし。単に俺が気になっただけだし、追求する必要はない。
 俺はそれで疑問の解明をあきらめた、つもりだった。

 だがそいつは俺の手首を掴む。
 何をするのかと思いきや、突然俺の手を自身の股間に持って行った。

「ん�ぁmhkkさうcぬtscm、s、kぅ!!?」

 驚きのあまり、俺の口から声にならない叫びがあがる。
 俺の手のひらに男のもっこりが、もっこりが。

「生えてた?」
「あ、うん。キミ、男みたいだ」

 そいつの疑問にそれだけを答えた。
 にしても、これは・・・・・・。言っちゃなんだが、ステンよりデカいぞ。
 そもそもステンと比べちゃダメだった。でもチンコ触ったのステン以外いないから比べる相手が俺とステンしかいないんだよな。ごめん、ステン。
 にしてもこれ、長さだと俺の負けだけど、太さなら多分俺の勝ちだと思う。

「んんっ、ふぅっ」

 あ、思わずチンコを触った手に力を込めてしまった。
 そいつが変な声を出したので、慌てて手を引っ込める。

 そいつは若干頬を染めていた。

「ご、ごめん。今までそれを気にしたことなくて、触ったこともなくて。なんか、変な感じがするんだ。おかしいかな?」
「大丈夫。おかしくない」

 むしろごめん。そうだよな。性別の概念がないんだから、チンコとかもどうでもいいもんな。オナニーなんてしたことないよな。
 だが俺の発言を聞いたそいつは、うつむいてジッと自分の股を凝視する。

「おかしく、ないの? じゃあ触っても大丈夫?」

 おおっと、これはどうすりゃいいんだ。
 このままいくとオナニー教えちゃう流れになるんだが。

 ダメだ。ダメだって。それはステンの二の舞になる。
 あの人どこまで行ってるのか知らないけど、アナニストとして進んじゃってるから。
 ・・・・・・いや、ほんと、ステンが結婚する気なくて良かった(遠い目)。頼むからアナルいじらないとイケなくなるとかやめてよ。責任とれるならとりたいけど、同性愛の概念がない相手にそんなことできないんだから。

「あまり触ると毒だから。やめた方がいい」
「そっか。じゃあ触らないように気をつけるね」

 そいつは俺の言葉に素直に従った。
 俺は間違ったことは言っていない。毒は毒でも中毒だからな。オナニーにハマり込んでしまうとか、猿まがいなことさせちゃマズいだろ。

 俺は無事、魔物の世界にオナニーという文化を作ることを阻止したのであった。テッテレー。



 それにしても、何でこいつは急に現れたのだろうか。
 魔物は魔法を使えないから、おそらく突然出現したのは能力を使ったのだろう。

「あのさ、さっき急に出てきたのって」
「他の人間に見つかりそうになって逃げてきたんだ。人間の世界を覗くのは好きなんだけど、見つかったら殺されちゃうから。ここなら誰もいないと思ったんだけど、まさか人とぶつかるなんて」

 ごめんね、とそいつが謝ってきたので俺は首と手を振って拒否する。
 こんなところ、普通の人は通ろうとしねぇから。その考えは間違ってない。
 っていうか、この口振りだと結構この国に来ているということか? そう簡単に魔物であるやつがこんなところに行けるわけがない。つまり容易に進入できる能力を有しているということ。

「ねぇ、もしかして能力って瞬時に移動できるとかそういうの?」

 俺がそう尋ねれば、そいつは目を丸くしてうなずいた。
 よっしゃ、よっしゃ、よっしゃ! 光が見えた!!
 俺はそいつの肩を掴んで揺する。

「俺、俺、迷ったの! 帰りたいんだけど、道がわかんなくて!」
「え、ええ? 連れて行くのは構わないけど、場所がわかんなかったら能力使ってもどこに移動するのかわかんないよ」

 ・・・・・・そうだよね。帰り道わかんなかったらワープできないよね。何言ってんだ俺は。自分のバカさ加減に絶望する。
 意気消沈した俺を気づかってか。そいつは少し思案したかと思えば、俺の服を摘んだ。

「帰りたい場所の、外見はわかる?」

 そしてそう聞いてきた。
 俺はそれにうなずけばそいつはホッとした顔になった。
 すると俺とそいつの回りに濃青色の靄が現れる。靄が俺たちを包んだかと思えば、急な浮遊感に襲われた。


 一瞬。たった一瞬。
 俺の視界に映っていた光景が一気に変わった。

 少し湿っぽい陰のある路地裏。それが瞬きをしたように明るい場所についていた。目の前に広がる青い空に、驚いて足の力が抜けてしまう。
 すると俺と一緒に飛んだそいつは、俺の服を掴んで支えてくれた。

「落ち着いて。しっかり立たないと落ちちゃうよ」

 そいつの言葉に俺はやっと周囲を見渡しーーーー、意識が飛びそうになった。
 俺が立っているのは、どこかの屋根のようだ。そしてそこからは人々が住む建物の屋根がミニチュアのように一望できる。「ふはは、人がまるでゴミのようだ」なんて言葉が浮かんだが、それを口にする余裕は俺にはなかった。

「ここがこの国で1番高いところだから。ここからなら帰る場所もわかるでしょ?」

 そいつは喜びに目を細めるが、そんなこと考えている暇はない。
 高い。めっちゃ高い。木登りした木なんて目じゃないくらいに高い。そして屋根に乗ってるというその状況が不安定すぎて、気が遠くなりそうだった。

「こ、ここ、どこ?」
「お城の1番天辺の屋根」

 1番不法侵入しちゃダメなところに来ちゃった!!
 セキュリティー! セキュリティーは大丈夫なの!? ワープはセキュリティーすら無意味なの? 魔法の壁とか意味ないんじゃねぇの!?
 別の方向で驚いたためか、少し冷静になった気がする。というよりも、さっさと探してここを去らないと。見つかったら、それこそ俺が殺されちまうわ。

 王都と街を繋ぐ門を発見し、そこから朧気に覚えている記憶を掘り出していく。
 大体の見当をつけて、そこを指した。そいつはそれで理解したのだろう。俺の手を掴んで、またあの靄を出す。

「飛んだらすぐ体勢を低くして。見つかったら面倒だから」

 それに肯定すると、また俺の視界が変わる。また建物の最上部へと飛ばされた。
 だがさっきのお城の天辺よりは大分低いのでまったく問題はない。
 ちらりと上から風景を覗き見る。

 この通り。見たことある。行きの道で通った場所だ。
 そして記憶を思い返しながら、きょろきょろと辺りを見回した。
 すると見覚えのある建物を見つける。

 あ・れ・だ!!!

 俺の反応で気づいたのだろう。そいつは何も言わずにワープしてくれた。
 そして次に俺が飛ばされたのは、魔導師たちが研究に使っている建物のすぐそばだ。

「か、帰れた・・・・・・」
「大丈夫?」
「うん。本当にありがとう。助かった」

 問題は中に入った瞬間に殺されないかなんだけど。
 それはとりあえず置いといて。俺はここまで連れてきてくれたそいつにお礼を言う。
 だがそいつは寂しそうな表情をしていた。

「帰っちゃうの?」

 そしてポツリとそうつぶやいた。魔物だからだろうか。なんとなくココと被って見えてしまい、その頭を撫でてやった。

「ごめんな。俺もそう自由に動けるわけじゃないから」
「もう少し一緒にいたいな。いっぱい話したい」

 そいつは眉を下げて俺を引き留めようとする。
 うーん、ここはお帰り願えないだろうか。
 でも無理に突っぱねようとしたら、こいつの能力で飛ばされてしまうかもしれない。

 何て言うべきか。
 俺が悩み始めたとき。




「クウガァ~、どこにいるんですかぁ~。あたしを1人にしないでくださいぃ~」



 なんとも間抜けな声が耳に届く。
 ゆっくりと顔をあげれば、とある窓から身を乗り出した見慣れた姿。

「クウガァ~、クウガァ~、クウガァ~・・・・・・」

 ココ、うるせぇ。
 ってかそんなに体を前に持って行って、落ちるなよ。

「あれは・・・・・・?」

 すると隣にいたそいつはココの姿を見て目を丸くしていた。
 そして俺の腕を掴むと、また瞬間で飛ばされる。
 気づけば俺が使わせてもらっている部屋へと飛んでいた。

 開けた窓からココの後ろ姿が見える。

「クウガァ~、いたら返事してくださいぃ~」
「なんだよ、ココ」

 ココの声に返事をする。するとビクッと驚くココ。
 そして窓から落ちそうになるココ。

 俺はダッシュでココの体を掴んで引っ張り、なんとか落下を防ぐことはできた。

「おまっ、落ちるなよ。ココが返事しろって言ったから返事したんだろうが」
「クウガァ~、会いたかったですぅ~。クウガがいなくなったって会話がしたから不安だったんですぅ~。でもクウガァ、いつもと雰囲気違いますねぇ~」
「好きでこの格好でいるわけじゃねぇんだよ」

 軽く頭をチョップしてやれば、「しゅわっち」とココが痛みで声を漏らした。お前はウル○ラマンか。うにゅうにゅ言って頭を押さえるココ。
 そして俺はここまで連れてきたくれたやつの方を振り返る。

 しかしそいつは驚いた顔でココを見ていた。
 ココもそいつに気づき、キョトンとした顔をする。

「生きて、たのか?」
「何でここにいるんですかぁ~?」
「え、何、知り合いなの?」

 俺の疑問に、すぐココが答えてくれた。

「こいつですよぉ。あたしと一緒にこの国に魔物を飛ばしたの」

 ・・・・・・ちょっと待て。
 つまりあれか。魔物大量発生のときにココの力と混ぜ合わせたっていう、魔物を別の場所に移動させる力はこいつの能力だったのか。
 自分と自分が触れた者を一緒にワープさせる能力だと勘違いしてた。

「魔王様に捨てられて死んでたと思ったのに」
「クウガに助けられたんですぅ~。あ、でもあたしが生きてることは魔王様にはシーですよぉ。今あたしにはココって名前があるんですからぁ~」

 ココが人差し指を口に当てて、内緒話をするような仕草をする。
 しかしそいつはココの言葉を聞いて、驚きの表情で俺を見た。

「クウガ? クウガって名前なのか?」

 そしてそう聞かれたので、俺は素直にうなずいた。
 するとそいつの顔色が一気に悪くなる。

「『魔王様』が口にしてたやつだ」

 そいつの言葉に今度は俺の顔色が悪くなる。
 魔王様、つまり怪人ミナゴロシだ。
 あの野郎、本当に何しでかすかわかんないから怖いんだよ。そもそも今、何やってんだよ。聞きたいような聞きたくないような、複雑な気分だけど。

 するとそいつは俺に顔を近づけた。

「魔王様には絶対会っちゃダメだ。会っても、絶対にあの人と手を組んじゃダメだよ」
「いやいや、会いたくないし。手も組まないから。むしろ関わりたくないから」

 そもそも指名手配になるようなやつ、頭がおかしいとしか思えないわ。
 だが俺の言葉にそいつは少しだけ落ち着いたようだ。

「魔王様、何考えてるからわからないから。魔物側はあの人にいつ殺されてもおかしくない。今だって十分強いのに、この国を潰せなかった日から常に魔物を食い漁ってる。能力が便利だから生かされてるけど、おれだっていつ殺されてもおかしくない。おれが人間を眺めに行ってるなんて知られたら絶対に殺される」

 そしてココを見下ろして、悲しげに微笑んだ。

「いいな。クウガと一緒にいて、ココって名前つけられて」
「ココはねぇ、クウガがつけてくれたんですよぉ~」

 ココが嬉しさを顔いっぱいに表現した。
 嬉しそうなところ悪いが、犬の名前つけただけなんだよね。それは言わないでおいてやるか。
 すると俺の指をそいつに掴まれた。そして何か言いたげな顔で俺を見つめている。

 会話の流れからしてつまりそういうことか?

「名前、欲しいの?」

 そう投げかければ、そいつは期待のこもった目で俺を見つめる。
 えええええ、マジかよ。また名付け親するの? もういいよ。ココで十分だよ。
 でもここまで期待されちゃうとなぁ。
 名前、名前ねぇ。

「ーーーーハチ?」

 言ってすぐに後悔した。
 また犬の名前つけちゃったよ。有名犬の名前つけちゃったよ。どこの待ち合わせ場所だよ。
 だがそれでも嬉しかったようだ。

「ハチ、ハチ。おれの名前、ハチ」

 何度も自分の名を繰り返して声に出す。
 そんなに喜ばれると罪悪感が凄いんだけど。
 ハチはとろけるんじゃないかという笑顔になる。

 そして俺の手を取ったかと思えば、そこに口づける。
 ・・・・・・どうしてそうなった。

「何やってんだ、ハチ」
「人間同士は好きな人にこうするんでしょう?」
「そういうのは女にやってやれよ。俺の格好がこんなんだろうからアレだけど」

 人間の世界を覗くのは好きだと言ってたから、多分誰かがこうやってたのを盗み見たのだろう。いくら俺が女装してるからって、それはないだろ。
 だがハチの奇行はそれだけではなかった。

 ハチは俺の股の間に手を持って行ったからだ。

「mrひぃうkbhyぃ、sc!!?」
「あ、生えてる。クウガも、男だ」

 お前、急にチンコ掴むんじゃねぇよ。
 男の急所を握られてんだぞ。ヒュンってしただろうが。勃起不全になったらどうすんだ。俺はハチから一歩だけ後退する。

「でも魔物には男女とか関係ないから。クウガが初めてだよ。イヤだった?」
「嬉しくないから。ハチの見た目がもっと大人だったら別だけど」
「おれ、クウガよりも長生きだよ?」
「見た目の問題だよ。見た目が大人なのが好きなの」

 俺がそう言ってやれば、ハチは不満そうに頬を膨らませる。
 そりゃ見た目なんてそうそう変わらないもんな。ご愁傷様。

「確かに魔物いっぱい食べれば、見た目も大人になるけど」
「・・・・・・そうなの?」
「人間みたいなヨボヨボにまではならないけどね。ココだって魔物をあまり食べないからその見た目だし。ただ今は魔王様が魔物を食いまくって、おれが食べる余裕なんてないから」

 だから、とハチは俺の両手を握る。

「でもいつかおれが大きくなったら、そういうことしていいんだよね?」

 ええー・・・・・・。何このグイグイ具合。
 何がこいつのスイッチを押してしまったんだ。名前か、名前なのか。忠犬ハチ公の魂がこいつに乗り移ったのか。
 とりあえず頭に手を当てて、わしゃわしゃしてやった。

 ハチはそれだけで満足そうだった。

「おれ、またここに来るね。クウガとココ以外には会わないように気をつけるから」

 そしてそう言い残して消えていった。
 た、台風みたいなやつだったな。
 俺はココに話しかける。

「ハチって、あんなやつなのか?」
「わかんないですぅ~。でも、クウガといると楽しくなるのはわかりますぅ~」

 そして「うへぇ~」とココは俺に抱きつこうとする。俺はその額を押さえてそれを阻止した。ココとじゃれている場合ではないのだ。
 シャンケは戻ってきているだろうか。魔導師たちは俺がはぐれたことを知っているのだろうか。




「一体、何を隠しているというのですか!?」

 不意に部屋の外から大音量が聞こえた。あれはおそらくアトランの声だ。
 俺は部屋の扉に耳を当て、外の様子を伺おうとした。するとこっちに向かって足音と声が聞こえてきた。

「リ、リーダー。実はクウガは体調が悪いらしくて、だから部屋で休養をとらせてるんです。だからあまり近づかない方がいいですよ」
「シャンケ、正直に言いなさい。クウガくんに何をしたのですか?」
「まあまあ、リーダー。シャンケを怒鳴ったって仕方ないでしょう。リーダーも帰ってきたばかりなんですから、少しは休んだらどうですか?」
「キュルブ。あなたもです。帰ってきてから、魔導師たちの様子がどうにもおかしい。何か都合の悪いものを隠しているような気がします」

 声はどうやらアトランとシャンケとキュルブのようだ。
 怒りを抑えきれないアトランと、それを宥めようとしている2人の声が聞こえる。

「まさかとは思いますが。クウガくんがいなくなったなど、馬鹿げたことをしでかしたのではないでしょうね?」

 アトランの責めるような声に、シャンケの悲鳴が続いた。そしてそれを咎めるキュルブの声も。
 扉の向こうの空気が悪くなる。

「そうだとしたら大問題ですよ。人の思想や行動を思いのままにできる彼の能力は危険極まりない。自分ですらいつ無意識に彼の言葉にコントロールされるかもしれないんですから。その重大さがわかっているのですか?」

 アトランは俺が危険人物だと言っているようなものだ。
 だが、それは決して間違っていない。
 門番のときでも思ったが、俺の力は上手くやれば人を操ることも、相手の力を制御することもできるかもしれないのだ。


 3人の足音が近づいてきて、俺は慌てて扉から体を離した。
 そして扉が開き、現れたアトランと目があった。アトランは俺を見て瞠目していたが、それ以上にシャンケとキュルブが唖然としながら俺を見ていた。

「随分、可愛らしい格好になっていますね」

 アトランは呆れた表情になって俺を見ていた。
 まぁね。未だに女装だからね。その前に着てた服はここにないからね。

 ハッと我に返ったキュルブが俺とアトランの間へと入り込んだ。

「じ、実はですね。女魔導師たちと彼を着せ替え人形として遊んでまして。それで長いこと遊ばれていた彼が、イヤになって部屋に逃げ込んじゃったんですよ。リーダーが帰ってくる前に元に戻そうとしたんですけど、思いの外リーダーが早く帰ってきてしまいまして」
「それで着替えるまでに時間を稼ごうとしたということですか?」

 アトランの問いかけにキュルブが首を縦に振った。俺もそれに合わせてうなずいた。
 納得いっていない顔をしていたアトランだった。それ以上追求はしなかった。

「くだらないことで遊ぶ暇があるのなら、違うことに時間を使いなさい」

 それだけ言って部屋を出て行く。キュルブもアトランの後を追っていなくなる。
 残されたのは俺とシャンケ(あとついでにココ)。信じられないようなものを見る目をしながらシャンケは口を開く。

「オメー、どうやって帰ってきたっぺ」
「俺もよくわかってない」

 だが俺に説明する力などなかった。
 でもこれだけは言わせてほしい。

「もう女装はイヤだ」
「奇遇っぺな。オラもオメーの女装にはこりごりっぺよ」

 そして同時にため息をつくのだった。
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