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配達をする何者にもなれない人
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愛染と話をしていたら、日が暮れてしまった
愛染は家に帰ると言い、喫茶店を後にした
白はやることがなくなったので自室に戻った
簡素な布団の上に寝そべって、天井を眺めた
そういえば、今の季節はいつなのだろうか?
暑くもなければ寒くもない、かといって桜が咲いていないので春ではない
ということは多分秋だろう
明日になったら紅葉を眺めに行くのもありかもしれない
と、ここで部屋を誰かがノックした
白
「なんでしょう?」
朱真理
「ちょっと用事ですよ白さーん」
白は部屋の扉を開けた
朱真理
「ちょっとこのコーヒー豆をお客さんのところまで運んでください」
白
「わかりましたとさ。日が沈んでるけど、どのくらいの距離ですか?」
朱真理
「自転車で10分くらいの所です」
白
「自転車で10分ですか。それなりの距離ですね。自転車はありますか?」
朱真理
「はい、自転車はお店のを使ってください」
そんなわけで、白は朱真理のお店の自転車を借りて、目的地までコーヒー豆を運んだ
自転車なんて言いつつしっかりとしたロードバイクだった
これを自転車というとは、朱真理の脳内にはどんな情報が詰まっているのか少し興味深かったが、アンドロイドとアイフォンをまとめてスマホと呼ぶ人がいるように、こだわりがない人からしてみたらそういう認識になるのも仕方がない
秋特有の香りが夜の道に漂ってくる
頭がくらくらしてくるが、酔いというほどでもなく、仕事は問題ない
夜の道を自転車のライトを頼りに走っているが、街灯がなかなか明るいのでそれほどでもない
これが現代のいいところだよな
と、道を走っているとこじんまりとした墓地に誰かが立っていた
服装からしてみると女性なのだが、物好きなのだろう
白はスルーして豆の配達を続けた
配達を終えてきた道を戻ると、さっきの墓地を見ていた女性がまだいた
白は好奇心からその人物に話しかけてみた
白
「こんばんはー、夜中の墓地にたたずむだなんて思い詰めているんですかー?」
???
「あー、思い詰めてるわー。死にたいレベルじゃないけど、仕事がうまくいかなくてねー」
白
「そうですかー、で、なんで墓地に?」
???
「心霊現象系の配信者だから。怖い画像を撮影してお金を得ているのよ」
なんと、相手はお化けを探して暮らしている相手だったか
となると、妖怪と関わって生きている白にとっては、協力関係を結べる相手かもしれない
白
「自分、名前を白っていうんですけど、仲良くなっておきませんか?」
???
「そうね、こんな夜道で出会ったのも何かの縁でしょうからね。はいこれ、私のSNSのアカウント」
白
「なんとお呼びすればいいですか?」
蒼羅
「蒼羅(そら)さんとみんなは呼んでいるから、蒼羅さんで」
白
「わかりました。フォローさせてもらいます。まあ、こんな夜中なんで、話は明日でいいよね? あ、なんだか、今配達中なんですけど、疲れたら飲んでいいって言われてる飲み物があるんですけど、いっぱいいかが?」
蒼羅
「一本頂きたいわねー、おいくら?」
白
「いや、別にただでもいいんですが、お近づきの印に」
蒼羅
「なんだ、ウーバーの配達員じゃないんだ。今時自転車で配達するならウーバーでしょ? 知らないの?」
白
「何そのウーバーって、聞いたことないなあ」
白は蒼羅から話を聞いて、早速ウーバーのアプリをダウンロードするのだった
蒼羅
「この情報は飲み物のお礼ってことで」
そうやって別れを告げると、白は自転車でその場を去った
なんというか、白は自分の人生に新しい登場人物が現れたな、と内心歓喜していた
とはいえ、常識の欠落からか墓場で心霊現象を追いかけている相手の胡散臭さを理解できなかった
哀れ白は妖怪であるがゆえに人間社会の常識は身に付いていないようだった
まあ、常識とはなんであるかという話はここではしないが
日が沈んだ鎌倉の街を走り、白は拠点の喫茶店に戻ってきた
今更ながら、喫茶店の古めかしさといい、狭い路地を少し入ったところにある感じといい、秘密結社みたいだな、と白は初めて感じた
そんな感想はさておき、白はお店の駐輪場にロードバイクを停めると、裏口から喫茶店に入り、2階に上がり、朱真理に配達完了の報告をして自分の部屋に戻ったのだった
配達完了の連絡をした時、朱真理の部屋の中を覗く時間が一瞬あったのだが、なにやら可愛らしいぬいぐるみがたくさん置いてあり、朱真理はそのぬいぐるみたちに部屋を占拠されて部屋の隅で暮らしているようだった
白は可哀そうな暮らしと幸せな暮らしは両立するのだな、と悟った
四畳半の部屋に戻るとまた布団の上に寝そべって天井を眺めた
今日はもうやることがないはずだ
眠ってしまおう
これが夢だと気づいたのはそこまで遅くはなかった
ただ、愛染が微笑んでいた
洋風の庭の中、様々な花々が咲き乱れる庭園に芝生があった
その芝生に白は寝そべっていいた
隣には、愛染が寝そべっていた
太陽の光が暖かいが、それ以上に隣で寝そべっている愛染が暖かかった
どうして白はこんな夢を見ているのだろうか?
まあ、記憶がないから、最初に目にした愛染が母親のように映っているのだろう、と理性で考えた
きっと赤子が見る夢はこんなものなのだろうな、とも思った
隣で愛染が何かを言ったのだが、よく聞こえなかった
そのうち目が覚めた
起き上がって、意識をはっきりさせようとして日光を浴びる
が、どういうわけかな、意識は寝起き特有の少々朧気な感じだ
1階に降りて白は朱真理が開店準備をしているんじゃないかと思ってみたが、朱真理はまだ部屋で寝ているようだった
白はお客様用のコーヒーメーカーを使って勝手に朝の一杯を入れようとしたが、何を思ってかインスタントコーヒーを冷蔵庫から見つけたのでそれをお湯で溶かして飲んだ
何を思ったのか、の真実だが、白はコーヒーメーカーの使い方を知らない
そのうち朱真理からドリップコーヒーの淹れ方を習うのもありだな、と思った
ところで、昨晩蒼羅から教えてもらったウーバーというアプリだが、これを使えば簡単な配達をするだけで金という便利アイテムが手に入るらしい
白はお金がどの程度役に立つのか、記憶を失ってはいるが、失っているのは自分に関する記憶だけで、人間社会に溶け込むためには金が必須、という常識はある
だから、時間を持て余したら配達をするのも全然ありで、合間に朱真理の配達を手伝えばいいや、程度に思った
いろいろと面倒くさい話ではあるが、金がないから闇金に走るムーブよりもはるかにましだろう
そんなこんなで、今日も1日が始まるのだった
愛染は家に帰ると言い、喫茶店を後にした
白はやることがなくなったので自室に戻った
簡素な布団の上に寝そべって、天井を眺めた
そういえば、今の季節はいつなのだろうか?
暑くもなければ寒くもない、かといって桜が咲いていないので春ではない
ということは多分秋だろう
明日になったら紅葉を眺めに行くのもありかもしれない
と、ここで部屋を誰かがノックした
白
「なんでしょう?」
朱真理
「ちょっと用事ですよ白さーん」
白は部屋の扉を開けた
朱真理
「ちょっとこのコーヒー豆をお客さんのところまで運んでください」
白
「わかりましたとさ。日が沈んでるけど、どのくらいの距離ですか?」
朱真理
「自転車で10分くらいの所です」
白
「自転車で10分ですか。それなりの距離ですね。自転車はありますか?」
朱真理
「はい、自転車はお店のを使ってください」
そんなわけで、白は朱真理のお店の自転車を借りて、目的地までコーヒー豆を運んだ
自転車なんて言いつつしっかりとしたロードバイクだった
これを自転車というとは、朱真理の脳内にはどんな情報が詰まっているのか少し興味深かったが、アンドロイドとアイフォンをまとめてスマホと呼ぶ人がいるように、こだわりがない人からしてみたらそういう認識になるのも仕方がない
秋特有の香りが夜の道に漂ってくる
頭がくらくらしてくるが、酔いというほどでもなく、仕事は問題ない
夜の道を自転車のライトを頼りに走っているが、街灯がなかなか明るいのでそれほどでもない
これが現代のいいところだよな
と、道を走っているとこじんまりとした墓地に誰かが立っていた
服装からしてみると女性なのだが、物好きなのだろう
白はスルーして豆の配達を続けた
配達を終えてきた道を戻ると、さっきの墓地を見ていた女性がまだいた
白は好奇心からその人物に話しかけてみた
白
「こんばんはー、夜中の墓地にたたずむだなんて思い詰めているんですかー?」
???
「あー、思い詰めてるわー。死にたいレベルじゃないけど、仕事がうまくいかなくてねー」
白
「そうですかー、で、なんで墓地に?」
???
「心霊現象系の配信者だから。怖い画像を撮影してお金を得ているのよ」
なんと、相手はお化けを探して暮らしている相手だったか
となると、妖怪と関わって生きている白にとっては、協力関係を結べる相手かもしれない
白
「自分、名前を白っていうんですけど、仲良くなっておきませんか?」
???
「そうね、こんな夜道で出会ったのも何かの縁でしょうからね。はいこれ、私のSNSのアカウント」
白
「なんとお呼びすればいいですか?」
蒼羅
「蒼羅(そら)さんとみんなは呼んでいるから、蒼羅さんで」
白
「わかりました。フォローさせてもらいます。まあ、こんな夜中なんで、話は明日でいいよね? あ、なんだか、今配達中なんですけど、疲れたら飲んでいいって言われてる飲み物があるんですけど、いっぱいいかが?」
蒼羅
「一本頂きたいわねー、おいくら?」
白
「いや、別にただでもいいんですが、お近づきの印に」
蒼羅
「なんだ、ウーバーの配達員じゃないんだ。今時自転車で配達するならウーバーでしょ? 知らないの?」
白
「何そのウーバーって、聞いたことないなあ」
白は蒼羅から話を聞いて、早速ウーバーのアプリをダウンロードするのだった
蒼羅
「この情報は飲み物のお礼ってことで」
そうやって別れを告げると、白は自転車でその場を去った
なんというか、白は自分の人生に新しい登場人物が現れたな、と内心歓喜していた
とはいえ、常識の欠落からか墓場で心霊現象を追いかけている相手の胡散臭さを理解できなかった
哀れ白は妖怪であるがゆえに人間社会の常識は身に付いていないようだった
まあ、常識とはなんであるかという話はここではしないが
日が沈んだ鎌倉の街を走り、白は拠点の喫茶店に戻ってきた
今更ながら、喫茶店の古めかしさといい、狭い路地を少し入ったところにある感じといい、秘密結社みたいだな、と白は初めて感じた
そんな感想はさておき、白はお店の駐輪場にロードバイクを停めると、裏口から喫茶店に入り、2階に上がり、朱真理に配達完了の報告をして自分の部屋に戻ったのだった
配達完了の連絡をした時、朱真理の部屋の中を覗く時間が一瞬あったのだが、なにやら可愛らしいぬいぐるみがたくさん置いてあり、朱真理はそのぬいぐるみたちに部屋を占拠されて部屋の隅で暮らしているようだった
白は可哀そうな暮らしと幸せな暮らしは両立するのだな、と悟った
四畳半の部屋に戻るとまた布団の上に寝そべって天井を眺めた
今日はもうやることがないはずだ
眠ってしまおう
これが夢だと気づいたのはそこまで遅くはなかった
ただ、愛染が微笑んでいた
洋風の庭の中、様々な花々が咲き乱れる庭園に芝生があった
その芝生に白は寝そべっていいた
隣には、愛染が寝そべっていた
太陽の光が暖かいが、それ以上に隣で寝そべっている愛染が暖かかった
どうして白はこんな夢を見ているのだろうか?
まあ、記憶がないから、最初に目にした愛染が母親のように映っているのだろう、と理性で考えた
きっと赤子が見る夢はこんなものなのだろうな、とも思った
隣で愛染が何かを言ったのだが、よく聞こえなかった
そのうち目が覚めた
起き上がって、意識をはっきりさせようとして日光を浴びる
が、どういうわけかな、意識は寝起き特有の少々朧気な感じだ
1階に降りて白は朱真理が開店準備をしているんじゃないかと思ってみたが、朱真理はまだ部屋で寝ているようだった
白はお客様用のコーヒーメーカーを使って勝手に朝の一杯を入れようとしたが、何を思ってかインスタントコーヒーを冷蔵庫から見つけたのでそれをお湯で溶かして飲んだ
何を思ったのか、の真実だが、白はコーヒーメーカーの使い方を知らない
そのうち朱真理からドリップコーヒーの淹れ方を習うのもありだな、と思った
ところで、昨晩蒼羅から教えてもらったウーバーというアプリだが、これを使えば簡単な配達をするだけで金という便利アイテムが手に入るらしい
白はお金がどの程度役に立つのか、記憶を失ってはいるが、失っているのは自分に関する記憶だけで、人間社会に溶け込むためには金が必須、という常識はある
だから、時間を持て余したら配達をするのも全然ありで、合間に朱真理の配達を手伝えばいいや、程度に思った
いろいろと面倒くさい話ではあるが、金がないから闇金に走るムーブよりもはるかにましだろう
そんなこんなで、今日も1日が始まるのだった
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