人間に向いてないから記憶を捨てて妖怪として生きていきます

秋照

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動画をチェックする何者にもなれない人

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 朝が始まって、白が感じた感覚は空腹だった
 どうやら白が食べなければいけないのは変わらないらしい
 白は朱真理に軽いサンドイッチを作ってもらうと、それを食べた
 理由?
 朱真理は白の安心を食べたいのであり、白の不器用な料理でまずいサンドイッチを食べるより、自分の腕を振るったサンドイッチを食べさせた方が、上質な栄養を補給できるというもの
 ただの合理的選択に過ぎない
 というか、料理をする朱真理が楽しそうだったので、楽しい気分に浸りたいという気持ちもあったのだろうな、とも思った
 そうして、白は朝早くから朱真理に豆の配達を頼まれて少し離れたところにある寺まで向かうのだった
 ロードバイクにまたがり、安全運転で移動する
 客は早く豆が到着するよう考えているだろうが、白が事故を起こした場合、豆は届かないし、配達員が事故を起こしたと聞けば寝覚めが悪いだろう
 だからスピードよりも安全を優先するというこれまた合理的判断を白はした
 白
「はい、コーヒー豆」
 白は寺の坊主に豆を渡した
 料金もしっかり受け取り、帰ろうとしたときに、
 坊主
「君、何か悩んでいないかい?」
 白
「ははは、分かるものですかね? やっぱり」
 坊主
「わかるとも。とはいえ、次第に解決していくだろうね。君の悩みは」
 白
「どうしてそう言い切れるのでしょうか?」
 坊主
「君の表情から、内側にないもない人間だとわかる。だが、生きてさえいれば、色々なものが入ってくる。だから、君は歩みを止めず生きれば悩みは消える」
 白
「貴重なご意見をありがとうございます。豆、またよろしくお願いします」
 坊主
「こちらこそ」
 そういえば、よく考えてみればコーヒーにはカフェインという興奮作用のある物質が含まれていることを白は思い出した
 朱真理は安心を食べて生きる妖怪
 そう考えれば、興奮させることは朱真理の利益になる安心とは真逆の作用であると考えられる
 なら、どうして朱真理はコーヒーを喫茶店で出しているのだろう?
 朱真理の栄養にはならないじゃないか
 いったいどんなからくりがあるのだろうか?
 白は謎を一つ見つけたが、白にその謎を解く術はなかった
 というか、コーヒーを置いてない喫茶店というのも逆に謎なのでどうあがいても謎が発生してしまう
 この謎は解かないでおこうと思って白は帰路に就くのだった
 が、昨日蒼羅から教えてもらったウーバーイーツのアプリのことを思い出した
 朱真理に配達がほかにないかどうかを尋ねて、白は別の配達を始めるのだった

 注文が入り、料理を受け取り、注文者のところに届ける
 これを数回繰り返した
 今は朝、遅めの朝ご飯を食べる人が多いのか、料理の内容はさっぱりとしたものが多い印象がある
 そうして、朝の遅い時間、10時ごろに注文が入った
 早速注文が入ったコンビニに向かい、商品を受け取った
 内容は、ペットボトルのカフェオレ一本
 こんなもののために他人を使役することを選ぶなんて、さぞ裕福な人なのだろうな、とも考えてみたが、場合によっては出不精のだらしない人である可能性もある
 まあ、事情は人それぞれだ
 白はそれを普通に配達しようとする
 配達先は2階建てのコンクリート造りのマンションだった
 2階建てだとアパートと言い表した方が適切じゃないかと考えてもみたが、建物のたたずまいやセキュリティを考えてみれば、マンションだな、と白は思った
 そうして、客の玄関のインターフォンを押して、客にカフェオレを取りに来てもらう
 すると、なんと客は昨晩ばったり出会った蒼羅だった
 白
「こんにちは」
 蒼羅
「おはよう」
 白
「あ、これ、カフェオレ」
 蒼羅
「助かる。ところで、今日はいくら稼げたの?」
 白
「3000円ぐらい。今の配達を含めると、3500円くらいかな?」
 蒼羅
「あー、そんなもんか。時給にするといくらくらい?」」
 白
「1時間と少ししか働いてないから、1700円くらいじゃないかな」
 蒼羅
「あら、それはうらやましい。私は今月路頭に迷ってるのに」
 白
「それにしてはカフェオレ一本のために人を使うのはどうかと思うよ?」
 蒼羅
「動画編集とかしてるからね。忙しいのよ」
 白
「なるほどねー」
 蒼羅
「お昼ご飯もお願いしていい? 13時ごろになったら駅前のお弁当屋さんのお弁当注文するから、その周辺で待機しておいて」
 白
「ああ、別にいいけど。お昼ご飯の時間帯って結構混むよ? AIさんが今日の12時は注文殺到が予想されますって宣言してるし、意外と別の人に注文行っちゃうかもよ?」
 蒼羅
「それもそうかもね。でも、運命ってあるじゃない」
 白
「それもそうだ」
 ここで気付いたが、蒼羅は丈の長いシャツを着ていた
 股の辺りまでは確かに見えないが、太ももはしっかり見えている
 どう考えても女性が玄関に出ていい服装ではない
 これが常識ではあるが、白はそういった常識が欠落しているため普通に接してしまった
 蒼羅
「そうだ、完成した動画見てってよ。感想ちょうだい」
 白
「別にいいけど、ああ、ただ、配達で疲れてるから少し休んでからで」
 蒼羅
「おっけー、ソファーがあるから適当に使って」
 なんだか、蒼羅の口調が昨晩とちょっと違うな、と感じた
 何というか、疲れているというか、玄関に出る時に気を使えないところとか、色々と脳が麻痺していそうだった
 白はそんなことに気付かず、ソファーで休んだ
 しばらくロードバイクで走った疲れが取れていくが、そういえば、蒼羅の姿が見当たらない
 と思って編集用のパソコンがある部屋をのぞいてみると、同じ部屋に置いてあるベッドで眠っていた
 あのテンションからすぐに爆睡とは、きっと昨晩は徹夜でもしていたのだろうな
 徹夜は身体に悪いと白は知っていたが、徹夜してでも仕上げたかった内容があるのだろう
 PCには心霊現象関係の動画が流れており、何故だか、昨晩の白の後ろ姿が動画の最後に映し出されるのだった
 彼には何かあるに違いない、というテロップがついて
 白
「はははー、当たってらあ。蒼羅さんは本物の霊能力者みたいだなあ」
 とはいえ、その能力を動画配信で使ってしまうのは少しもったいないような気もした
 時代に合わない力を手にしてしまったな、蒼羅さんは
 が、人間も妖怪も助け合いが基本だ
 蒼羅さんは妖怪に危害を加えようとしている様子もないし、白には親切だった
 が、お昼までに目を覚ますかというとそんなことはないので、白は蒼羅さんのキッチンに上がり込むと、朱真理がやっていた方法でサンドイッチを作るのだった
 自分が知っているものよりはるかに高度な見様見真似の技術だったが、案外うまくいくものだ
 練習を重ねればもっとうまくいくだろう
 と、そんなわけで、お昼ご飯はこれを食べてくださいと置手紙をして、白はセキュリティの固いマンションを後にするのだった
 動画の感想?
 自分は妖怪ですよと名乗ってしまうのが正解なのかわからない以上、どうとも言えなかった
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