アンティーク影山の住人

ひろろ

文字の大きさ
17 / 78
商売繁盛

責任を感じちゃってます!

しおりを挟む
 5つ目の虹のぎょくを見つけてから、数日経過したアンティーク影山は、相変わらず、客の入りがぱっとしていない。


 もちろん、人気の無い店だというのは以前からの事だが、それにも増して閑古鳥が鳴く始末だ。


〈ねえ、皆さん、今日も暇ですわね。
仕方がないから、わたくしが外に出て呼び込みをしてみようかしら〉


 アンティーク ビスクドールから飛び出たルシェが仲間に向けて言った。


〈外に人がいるなら、それもいいだろうが……。もし、人気ひとけが無かったら、ツボの種の無駄遣いだ。
ところで、ルシェ、現在、ツボの種はどれくらいあるんだい?〉


 モロブに聞かれ、ツボの種を管理しているルシェは、白目になる。


〈先日の件で大分、使いましたわね……。わ、私が、責任を持ってお客さんを連れてきますわ。だから、き、貴重なツボの種を食べますわよ。よろしいでしょ?〉


 ルシェは、焦っていた。


 実は、先日の任務に多くのツボの種を使ってしまい、底が尽きかけている状態だ。


 常日頃から暇だと言っては、ツボの種を無駄に食べていたルシェは、責任をちょっとだけ感じているのだった。


(ツボの種がほとんど無いなんて、皆んなに言えないわ……稼がないとヤバイのよ)


 ルシェが考え事をしていると、庄三郎から命令がくだる。


〈あの新米店主が、お客を連れてくるのが筋ってもんだろう!ルシェ、ちょっと言ってこい!〉


〈庄三郎さん、新米さんにはきっと無理ですわ。私が門前通りに行って、お客さんを呼んでくるわ。私達の声って、この姿だと聞こえないし、あの人が砂糖3個入りレモンティーを飲まないかぎり会話は無理よ。私が行った方が早いわ。じゃあ、早速……〉


〈なら、私が一緒に行って、呼び込みの手伝いをしますよ!〉


〈あっ、セロル、大丈夫よ。ツボの種がね……もったいな……いえ、一人で平気ですわ。じゃあね〉

…………………


 妖精たちは、何故か この店の自動ドアから直接 外には出られず、いちいち中庭に行き、出入り口を作って店の脇に出ているのだ。
 
 ルシェは、そこで人型になり、店の自動ドアの前を通り、門前通りへと続く間道に入った。

 ちょうど、中庭にある垣根と平行となっている道だが、背の高い垣根だから、中の秘密は守られている。


 それから、すぐに店の垣根は終わり、古いブロックべいが続く道を歩き、やがて人通りの多い門前通りに合流した。


 ルシェは、黄緑色の半袖膝丈ワンピースに白いフリルのエプロンをしたメイド姿で、近くの土産物店の前に立つ。


(ちょっと私のキャラではないけれど、仕方がないわ。思い切って声を出さなくっちゃ)


「すぅ……はぁー」


 ルシェは深呼吸をして、覚悟を決めた。


「この間道をまっすぐ行って右手に、美味しい飲み物がある“アンティーク影山”があります。どうぞお立ち寄り下さい」


 ルシェの良く通る声に、道行く人々が振り向いたり、気づいて足を止めてくれた。


 そこでルシェは、空かさず呼び込みをする。


「こちらの道をまっすぐに行くと、落ち着いたお店があります。どうぞ、いらして下さい。きっと ゆっくりとできますよ」


 年配のご夫婦に声をかけてみた。


「どうしようかしら。人混みで疲れたし、でも遠くないかしら?」


 奥さんが迷っていると、旦那さんが言う。


「この人の言う通り、疲れたからゆっくり休ませてもらおうか」


(やった!お客さん、ゲット!そろそろ、あの人が休憩になるかしら……)


「ルシェさん!」


(あ、グットタイミングですわ!)


「ルシェさん、お店の呼び込み中なの?
今から影山に行くところだから、僕がお客さんを案内してあげるよ」


「えっ?麻木さん!案内をしてくださるの?
嬉しいわ。では、よろしくお願いします」


 ルシェの立っていたお土産屋の前は、麻木の勤めている店だったのだ。


(さあ、どんどん呼びましょう)


恥ずかしさを我慢して呼び込みを続けていると、声をかけられた。


「あのぉ、アンティーク影山さんって、骨董品を売っているお店ですか?」


「はい……」
 

(あっ、何て素敵な男性なのかしら!オールド国には、まずいないわ!)


「この道を真っ直ぐに行けばいいんですよね?」


 ルシェが思わず見とれてしまっていると、再度、尋ねられた。


「あ、はい、その通りです。まっすぐに行って、すぐ右にあります。私がご案内します」


「いえ、お仕事の邪魔をしては悪いので、一人で行けますから。ありがとう。じゃあ、また」


 そう言って素敵な男性は、間道に入って行った。


(じゃあ、また!だって……ふふふ。早く戻ろう!あー、でも、あと一人くらい連れて行かないと格好がつかないわね。急ぎましょう)


 俄然がぜん、やる気を出すルシェだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...