アンティーク影山の住人

ひろろ

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進むべき道を探して

どうしよう。

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 ガチャ!


「おはようございます!外はいい天気よ。さあ、シャッターを開けましょうね」


カチャ、ガラガラガラガツン!


 出勤してきた美紗子がシャッターを開けた。


〈ふあぁぁ、僕、眠いよぉ。さっき帰ってきたばかりだもん……。皆んな、寝ているよぉ、今日は、お店を手伝えないから……〉


〈タム、眠ったのね?おやすみなさい。皆さんも眠りましたわね?〉


 店内は、美紗子がテキパキと掃除をしている音だけが響いている。


(はあ、眠たいはずなんだけれど、眠れそうもないわ。私ったら、恥ずかしいことをしてしまったわ……)


 ルシェは、カーソルの友人キートを見つけた神社での事を思い出していた。


(あんな美女は、滅多にいないと思ったし、完全に負けだと感じたのよね……。それにしても、あの時、何故あんな風に言ってしまったのかしら?カッコ悪かったわ……。あー、恥ずかしい!)

…………………


「カーソルさんには縁談がありますわ!
それが嫌なら、早く帰ってお嫁さんになってあげなさい!よろしいわね?」


「ルシェさん?」


カーソルが呼びかけたが、ルシェはキートを睨んだままだ。


「は?」


キートの間の抜けた返事がルシェの導火線に火をつけてしまった。


「は?って何?何ですの?カーソルさんは、あなたを想って、ずっとずっと探し続けていたのですよ?分かっていらっしゃいます?」


「はい、それは申し訳なく思います。私が国へと一度帰ればよかったのですから、カーソル、悪かったな。ただ、言い訳をすると、初めての家事だったので、何をするにも時間が必要で……」


 そんな言葉を遮って、ルシェは言う。


「本当に言い訳だわ!心配する方の身になりなさい!根本的にあなたは……」


「ルシェ!もう、よせ!責めるな!」


 庄三郎が止めに入り、他の仲間達も止めているが、ルシェは聞こうとはしなかった。


「皆さんは、黙って!私には言う権利があるわ!私は、カーソルさんのお嫁さんになり損ねた女ですわっ!だから、言わせていただきます。早く国へ帰って、カーソルさんと結婚をしなさい!分かったわね?」


「……はあ、結婚?何か勘違いをしていませんか?私は、心は女性になりたいと思っていますが、一応男性なのです。カーソルは、友人としか思えないので、結婚は当分は無理です」


「はっ?おとこ……」


ルシェは、頭の中がパニックのようで、それだけ言ったのだ。


「おい!とか、当分とか言うなよ!私には、そんな気がないぞ!」


カーソルは、慌てて拒絶をした。


「もしかして、ルシェはキートさんを女性だと思っていたのか?」


 モロブに聞かれたルシェは、ポカンとしたまま頷いた。


「モロブさん、女性と思うのも仕方がありませんよ。私だって、地声で話すまでは、女性だと信じて疑わなかったですから!」


「やっぱりセロルさんも、そう思ったんだね。僕も綺麗な女の人だなぁって思ったよ。ルシェちゃんよりも綺麗だもん!」


「うぉっほん!タム……。余計な事は言わんでいいぞ!ルシェ、と、とにかく、キートさんは男だぞ。良かったな……。お嫁さん……なり損ねたらしいが、頑張れよ。ぶぶぅ」


「えっ?しょ、庄三郎さん、へ、変な事を言わないでいただきたいわ……」


(わ、わ、わたくしったら、なんて事を口走ったのかしら!恥ずかしいですわ!)


ルシェは真っ赤になり下を向いたままキートに謝る。


「誤解をしていて、ごめんなさい。ご無礼をお許し下さい」


 その姿をカーソルは、微笑んで見つめている。


(お嫁さんになり損ねた……と言ってくれた。もしかして、私のお嫁さんになりたかった!ということかな?)


 それから、妖精達は疑問に思っていることをキートに聞いていた。


「ねえねえ、キートさん、どうしてお賽銭箱に住んでいるの?」


好奇心旺盛のタムが聞いた。


「ここの賽銭箱は、欅で作られているし、お賽銭が入れば、人型になるためのツボの種が手に入るし、何よりここの様子がわかるから住むことにしたんだよ」


「へえ、キートさんの国も、ツボの種で変身するんだね。僕たちと同じだね」


「それでキートさんは、いつまでここにいるつもりなんですか?」


誰もが気になっていることをセロルが聞いたのだ。


「現時点で、いついつまで!って区切りをつけるのは、難しいです。涼音ちゃんには、まだ私が必要だと思うから、もう暫くはそばにいようと思っています。カーソル、せっかく探しにきてくれたのに、帰れなくてごめん。
でも、一度、国に戻るよ」


「ああ、早く家族に顔を見せてやれよ」


カーソルに言われ、キートは何度も頷いてから言う。


「本当に皆さん、私を探しに来てくれて、すみませんでした。そして、ありがとうございました」


 その後、一人を除き、キートと妖精達は雑談をして和やかなひと時を過ごした。


ルシェは、とんだ勘違いをしたことが恥ずかしくて、放心状態だったのだ。


 そして帰り際になり、カーソルは直接プランツ国へと帰るため、神社でルシェ達アンティーク影山の住人達と別れたのだった。

…………………


(あー!もう、気の強い女とか、怖い女とかって思われているわよね。あぁ、キートさんが男性だと判明しても、縁談は破談決定だわね……)


 ルシェは、頭の中で両親への破談の言い訳を考えてみる。


(……ダメだわ!思いつかない!仕方がない、私が醜態をさらした事、そうだ、酔ったところを見せたとでも言えばいいかしら?)


 落ち込むルシェは、ふと気づいた。


(待って!キートさんのことを女性と言ったのは、カーソルさんだったわ!そうよ、あの時だわ)


 以前、キートを探す為の打ち合わせをしていた時、セロルがカーソルに、探している友人が女性なの男性なのかを聞いていたのだ。


その時、カーソルは言った。


「あー、それ当然、聞きますよね?あぁ、どっちかな、おと……いや、やはり、女か、なー?」


「なんじゃそりゃ!はっきり言え!」


「うわっ!庄さん、そんな言い方、いけません!王子……カーソルさん、どうか庄三郎さんの無礼をお許し下さい!」


庄三郎の無礼を謝るモロブなのだった。


……と、ルシェは思い出したのだ。


(そうですわ、カーソルさんが言ったんですもの!信じちゃうわよ!今度、会ったら文句を言わせていただきますわっ!)


〈なんだか、眠くなってきましたわ。私も眠りましょう……〉

…………………

 ルシェが眠りについた頃、トーテムポールから飛び出た妖精姿のモロブが、狸の置物のところにやって来た。


〈庄さん、起きてます?〉


〈起きてるぞ、なんだ?モロブ〉


〈相談があります。喫茶室に行ってもらえますか?〉


 二人は、喫茶室に移動して話す。


〈庄三郎さん、実は、お城で働くという話ですが、私はここに残りたいと考えています。あの新米店主を放っておけないのです〉


〈やっぱ、モロブもそうだったか。ワシもだ。まあ、暫くはセロルがいてくれるだろうが、いついなくなるか分からんからな。あの新米店主だけになったら、この店はすぐに潰れてしまうだろう?〉


〈そうなんですよ、それが心配なんです。ですが、お城で働くことは名誉な事だし、王様から直々に誘って頂いたので、断るのもどうかと思っています。庄さん、どうしましょう?〉


〈だよなあ?それを言われると困るんだ!どうするんだよ?なあ、モロブ、どうする?〉
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