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番外編
出発進行!
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それは、ルシェとカーソルが、オールド国へと戻って数日が経った、ある日のこと。
「ルシェさん、私を置いて行くんだね」
「置いて行く!だなんて、あまりの言い様だわ。
勿論、私も貴方と一緒がいいですわ。
ですけど、人間界との時差がありますでしょ?
カーソルさんは、明日、文化保存施設の視察があるのですから、無理ですわよ。
心配しなくても、大丈夫。
カーソルさんのお友達と、仲良くしますから安心して下さい」
(それ!その仲良くっていうのは、そんなにしなくてもいいです!
お願いですから、ハート国の仕事に口出しは、しないで下さいね!
都合良く、手伝いをさせられますから。
結果、なかなか帰って来れなくなるのですからね!)
「ルシェさん、スクートとケニーは、たらしなので、騙されないで下さい!
それと、早く帰ってくること!」
「は?たわし?って……。
ふふふ、面白いことを仰っいますわ。
はい、承知致しました。
では、行って来ますわねー」
ウキウキとしたルシェは、そう言い残し人間界の待ち合わせ場所へ、トキエと共に向かったのだった。
(トキエさん!私の妻を宜しく頼みます)
……………………
ここは、人間界。
藤森という地の、山間の、とある神社に来ている。
ルシェとトキエは無事に、ハート国の王子スクート、付き添って来たケニー伯爵と再会ができたのだ。
妖精姿の四人は鳥居をくぐり、長い長い階段の下にいる。
妖精達は、皆、ツナギ作業服を着ていて、ルシェは、いつも通りの黄緑色ツナギ作業服で、トキエもほぼ同じ格好だ。
常日頃から、人型が当たり前のトキエだったので、その姿がとても新鮮なのだった。
だが、その新鮮というより驚かされたのは、スクートとケニーの妖精姿だ。
元々、髪は薄いピンク色なのだが、ツナギ作業服は、もっと濃い蛍光ピンク色で派手。
更に驚いたのは、オールド国やプランツ国の妖精とは違う羽根、なんと白い鳥の様な翼がついているのだ。
噂に聞いていたトキエも、内心、驚愕していた。
「ところでスクート王子様は、何故ここを選んだのですか?」
随分と、古びた地味な感じの神社に来ているから、ルシェは不思議に思ったのだ。
「ああ、以前、人間界の地図を使ってダーツをしたら、この付近に当たってね。
その時は、時差の事を忘れ、夜に来てしまったんですよ。
ライトアップされていた神社は見ましたが、今度は明るい時に来てみたいと思ったのです。
どんな出会いがあるのか、楽しみです」
「えっ?スクート王子様が夜に神社へ?しかもダーツで場所を決めたのですか?
面白いですわ! ねっ、トキエさん?」
「えっ、ええ、そうですね……」
(ゲーム感覚で、場所を決めるって……不届き者としか思えませんが……)
トキエと違いルシェは、自分もそんなダーツをしてみたい!という気持ちを抑えて話す。
「でも、夜なら人間は来なかったでしょうね。今日は、参拝者がいらっしゃるといいですわね」
「あっ、ルシェ様、違います。
あの日、夜なのに参拝者が来たんですよ。
私とケニー、それとカーソルとリールもびっくりしました。
通常、縁結びや縁切りには、手順が必要なんですが、まあ、特別にサクッと縁を結んであげたんですよ」
(今日のスクート王子様は、私って言ってますわ!
よそゆき言葉で、気を遣ってくれているのね)
「スクート王子様、ケニー様、どうぞ私とも、カーソルさんの様に接して下さい。
それと私のことは、ルシェとお呼び下さい」
そう言うルシェは、チラッとトキエに目線を送り、頷くトキエを確認した。
「はい、では、ご無礼ながらお言葉に甘えて、そうさせてもらいます。
私のこともケニーに対しても、フレンドリーにして下さい。
コホン。では、ルシェさん、トキエさん、本殿に参りましょう、あ、行きましょう?あっ、行こう!」
そう言って、スクートが飛び立ち、皆が後に続いた。
…………………
まず、皆で本殿の中に入り、御神体に挨拶をする。
「スクートさん、神様は、どこにいらっしゃいますの?」
「いいえ、ここにはいません。
けど、この御神体が神様と繋がっていて、願いが強ければ、神様のいる場所まで届くから大丈夫なんだよ。
なっ、そうだよなケニー?」
「ああ、そうだな。
祈願の内容に合った神様の元へと、それぞれ届くようになっているし……あっ!誰かやって来るぞ!」
皆、一斉に賽銭箱がある拝殿を見た。
「 ! 」「 ! 」
「私、フェアリーの祥ちゃん!よろしくね」
あっという間に、本殿の中に入ってきた美少女が、軽いノリで言った。
金髪の巻髪ロングヘアに、赤いカチューシャをして、ノースリーブで、花びらの様なミニスカートのワンピースを着た美少女を、ルシェは子どもだと感じたらしい。
「お姉さんは、オールド国のルシェですわ。お嬢ちゃん、どこから来たの?
一人?その玉のネックレスが、可愛いですわね」
「あ、わわ、ルシェさん!
その方にそんな!ダメです、失礼過ぎますから……」
青ざめるスクートと、慌てた様子でルシェを諫めたケニーを、トキエは不思議に思った。
「ケニー伯爵、いえ、ケニーさん、どうしたのですか?」
「えっ、そっ、それは……」
(いつもは、お寺に立ち寄るはずの神様なのに!それに縁結びの神様でもないのに……)
ケニーは、汗をかきながら、祥ちゃんをチラリと見る。
すると、祥ちゃんは嬉しそうな顔をしていた。
「ふふふ、そんなに若く見えたのね。
ありがとう、皆んなに自慢するわ」
ルシェとトキエの頭の中は、「この妖精は誰?」が、渦巻いていた。
「あ、あのう、吉祥天様、こちらに何か御用でしょうか?」
その言葉に、ルシェとトキエも青ざめる。
(この子が吉祥天様?や、やばいわ)
スクートの問いに、祥ちゃんが一瞬、ほっぺたを膨らませた。
「あっ、今は、祥ちゃんと呼んでね。
ここは、縁結びに御利益がある神社ってことだけど、人々の願いは様々でしょ?
中には、金運アップとか、美しくなりたいとかの願いもあるはずよ。
だから、私を祀っていない所にも、たまには出向いて、直接願いを聞いてあげる活動をしているの。
でも、残念、参拝者が一人もいないわ!
仕方がないから、近くのお寺に行くわ、じゃあね!」
そう言ったと思ったら、祥ちゃんは消えていたのだった。
「ど、どうしましょう。私ったら、神様に対して無礼でしたわ!」
「ルシェ様、何か天罰があるかもしれません。ご覚悟をなさって下さいませ」
「ルシェさん、トキエさん、心配はいりませんよ。 変化をしていたのですから、分からないのも無理がないでしょ?
吉祥天様は、怒っていません。
むしろ、ご機嫌だったから大丈夫」
スクートに言われ、二人は安心したのだった。
「おっ、スクート!参拝者が来るぞ」
ケニーは、本殿から出て参拝者の到着を待つ。
……………………
参拝者は、二十代半ば前後に見える女性だ。
ルシェとトキエは、女性の頭上辺りで、羽根をパタパタさせて、ホバーリング中。(空中浮揚)
スクートとケニーは、なぜか賽銭箱の奥側で、ホバーリングしながら玉網をそれぞれ構えていた。
「スクートさん、その玉網で一体、何をする気ですの?まさか?」
「え?これ?これは、願い事を聞く前に一応、お賽銭をキャッチするための物だよ!」
ルシェとトキエは、顔を見合わせた。
(お賽銭泥棒!!)
妖精が参拝者のお賽銭を、狙っていることなど知らない女性が、小銭を投げた。
「スクート!そっち!」
ガツン!
玉網で、上手く賽銭を受け取っているのに、賽銭箱に落ちた音が聞こえた。
「ナイス キャッチ!」
ジャカジャカジャカ……。
女性が鈴を鳴らし、二拝二拍手までをした。
次は、いよいよ願い事だ。
「願い事 自動変換器 作動!」
ケニーがスイッチを入れた。
「どうかどうか、元彼と再会できますように!一度でいいから、私にチャンスを下さい!お願いしますっ!」
「あらら、願い事が丸聞こえですわ!
これは、プライバシーの侵害なのでは?」
ルシェが独り言のように言った。
「願い事が分からなければ、叶えられないじゃないですかっ!
これは、致し方無し!なんです!」
ケニーがムッとしたから、ルシェは急いで謝った。
「ルシェさん、コイツは、仕事となるとムキになるんで、気にしないでね。
んで、ケニー、この願いは叶える?どうする?」
(えっ?願いを叶えるかどうかは、神様が決める事では?)
ルシェは疑問に思ったが、口を挟むのは止めておいた。
それに、玉網の中にある小銭も、気になっているのだった。
念のため言っておくが、もし、願い事が恋愛に関係がない場合は、賽銭は賽銭箱に戻されるそうだ。
「うーむ。ハート国の妖精は、人間の本心が分かるんだよな。
どうしてチャンスが欲しいのか?が分かっちゃったんだよねえ。
さあ、どうしたものか?」
スクートは、腕を組み考え始めたから、ルシェもトキエも気になってしまうのだ。
「あのぉ、先ほどの参拝者に問題でもあるのでしょうか?」
「あ、すみません、トキエさん。
さっきの娘の本音の部分が、ちょっと気に掛かって……。
実は、「つい最近、新彼と別れちゃって寂しいし、こうなったら、元彼の実家が金持ちだから、再会して復縁し、玉の輿に乗っちゃおう!」が本心なんですよ。
清らかな想いとは違うから、悩みどころですね。
でも、本来の縁結びとは違う、軽めの願いだしな……。どうするかな?」
「悩むなら、神様にお願いすればいいですわ」
と言ってしまって、ルシェは後悔した。
(あっ、またケニーさんに怒られる!)
「それはそうですが、神様も、あちこちから声が掛かって、忙しいのですよ!
叶えられる内容なら、現地にいる妖精に一任されています!
現地に妖精がいない神社では、御神体を通じて神様に願いが届けられ、精査後、成就依頼がハート国にくる仕組みなんです!」
(はい、はい、わかりました!私が悪うございました!)
ルシェはケニーに向けて、何度も頷き許しを乞う。
(はーあ、結婚相手が穏やかなカーソルさんで、ホント良かったですわ!)
………………………
「よし、この願い、叶えるぞ」
スクートが決断し、玉網の中にある賽銭、五百円硬貨を取り出し、御神体前に置いた。
すると、御神体となっている宝鏡が輝き、置いた硬貨が消えたのだった。
「皆んな、妖精ロードで出発だ!」
さっきの参拝者を追って行くと、女性がコンビニへ寄っていた。
大通りの交差点手前にあるコンビニの、大きな駐車場に車を止めて、丁度、車から降りたところだった。
ケニーが白い紙に筆ペンで、達筆な字で願いを書く。
(まあ、素晴らしい字ですこと!
ルシェ様も見習って頂きたいです)
スクートは、ポケットから小さな弓矢を取り出し、スイッチを入れ大きくした。
その矢先に願い事の紙を刺して、思い切り弓を引く。
狙いは、参拝者である彼女の背中だ。
「成就!」
スクートが祈りを込めて、矢を放ち彼女の背に命中させた。
「当たった!凄いですわ!あ、矢が身体の中へ入って消えてしまったわ……。
彼女の身体は、大丈夫ですの?」
「ルシェさん、人間には何も影響はないですよ。
これで、元彼と再会ができるはず!
その先が、思い通りに行くかは、わからないけどね。
さて、神社へ戻りますよ!
あの御神体の前に、報奨金代わりのツボの種があるはずです!
皆んなで、山分けしましょう」
「ちょっと、ちょっと待って!
結末が知りたいわ!
本当に会えるのかしら?」
「はあ?ルシェさん、心配しなくても大丈夫です!
あの矢の効果は、絶対なんだから!
それに、いつ再会するかは分からないよ?そんなに長くいられないでしょ?」
スクートは、少し困り顔をした。
(あんまり長く連れ回すと、カーソルが怒るからな……)
「うーん私、きっと、その後が気になって眠る事ができませんわ!
少しだけ、少しでいいから、様子を見ていたいですわ!」
「ルシェ様っ!そんな我がままを仰ってはなりません!スクート王子様が困っておいでです!」
「はーーーあ!」
トキエに叱られ、ルシェは大きな溜息をついた。
スクートとケニーは、カーソルの妻の本性を見た気がして、カーソルが苦労をしているのではないか、ちょっと心配になったのだった。
「もう、わかりました!じゃあ、まずは店内に入ろう!」
ニコニコ顔のルシェと、渋々付き合う三人は、飛びながら自動ドアを擦り抜け、本が並ぶ棚に腰掛け女性を注視している。
女性が飲み物をカゴに入れ、次にデザートの所に移動した時に、店内に男性が入って来た。
男性は、真っ直ぐにデザートの所にやって来たのだ。
たった一つのカスタードプリンに、手を伸ばした途端、二人の手が触れ合った。
「あっ、すみません。どうぞ!」
彼女が言うと、男性も譲ろうとする。
「 ! 」「 ! 」
「前沢さん!」
「世良さん!」
女性は、信じられないという表情を見せた。
「やだ、本当に前沢さん?本物?嘘みたい……。
あ、ごめんね。あの、元気してた?」
「えっ、本物だし、元気だよ。
そっちは?」
…………………
「は?まさか、もう御利益が?
嘘ですわよね?えっ?えっ?」
ルシェも信じられない!という顔で、口を開けたままでいた。
(ルシェさんって、忙しいくらい表情が変わって、面白いなぁ)
「ぶっ、ルシェさん、どこかの絵画みたいな叫び顔になっているよ……。
どうやら、お目当ての元彼と再会したみたいだね。
俺ら史上、最速成就かも?
なあ、そうだよな、ケニー?」
「うん、うん、うん、これマジか?」
ケニーも驚きを隠せないでいるし、トキエは、腰を抜かし本に寄りかかっている。
「では、皆さん、神社に戻りますよ?
いいですね?」
スクートがドヤ顔で言った。
「はーい!戻りますわ!
次も、頑張りましょうね!
私もトキエさんも、お手伝いをしますわよー!行きましょう」
そんなノリノリのルシェを、止められる者はいなかった。
そして、オールド国でイライラしながら、ルシェの帰りを待つ者がいる事は、言うまでもないだろう。
「ルシェさん、私を置いて行くんだね」
「置いて行く!だなんて、あまりの言い様だわ。
勿論、私も貴方と一緒がいいですわ。
ですけど、人間界との時差がありますでしょ?
カーソルさんは、明日、文化保存施設の視察があるのですから、無理ですわよ。
心配しなくても、大丈夫。
カーソルさんのお友達と、仲良くしますから安心して下さい」
(それ!その仲良くっていうのは、そんなにしなくてもいいです!
お願いですから、ハート国の仕事に口出しは、しないで下さいね!
都合良く、手伝いをさせられますから。
結果、なかなか帰って来れなくなるのですからね!)
「ルシェさん、スクートとケニーは、たらしなので、騙されないで下さい!
それと、早く帰ってくること!」
「は?たわし?って……。
ふふふ、面白いことを仰っいますわ。
はい、承知致しました。
では、行って来ますわねー」
ウキウキとしたルシェは、そう言い残し人間界の待ち合わせ場所へ、トキエと共に向かったのだった。
(トキエさん!私の妻を宜しく頼みます)
……………………
ここは、人間界。
藤森という地の、山間の、とある神社に来ている。
ルシェとトキエは無事に、ハート国の王子スクート、付き添って来たケニー伯爵と再会ができたのだ。
妖精姿の四人は鳥居をくぐり、長い長い階段の下にいる。
妖精達は、皆、ツナギ作業服を着ていて、ルシェは、いつも通りの黄緑色ツナギ作業服で、トキエもほぼ同じ格好だ。
常日頃から、人型が当たり前のトキエだったので、その姿がとても新鮮なのだった。
だが、その新鮮というより驚かされたのは、スクートとケニーの妖精姿だ。
元々、髪は薄いピンク色なのだが、ツナギ作業服は、もっと濃い蛍光ピンク色で派手。
更に驚いたのは、オールド国やプランツ国の妖精とは違う羽根、なんと白い鳥の様な翼がついているのだ。
噂に聞いていたトキエも、内心、驚愕していた。
「ところでスクート王子様は、何故ここを選んだのですか?」
随分と、古びた地味な感じの神社に来ているから、ルシェは不思議に思ったのだ。
「ああ、以前、人間界の地図を使ってダーツをしたら、この付近に当たってね。
その時は、時差の事を忘れ、夜に来てしまったんですよ。
ライトアップされていた神社は見ましたが、今度は明るい時に来てみたいと思ったのです。
どんな出会いがあるのか、楽しみです」
「えっ?スクート王子様が夜に神社へ?しかもダーツで場所を決めたのですか?
面白いですわ! ねっ、トキエさん?」
「えっ、ええ、そうですね……」
(ゲーム感覚で、場所を決めるって……不届き者としか思えませんが……)
トキエと違いルシェは、自分もそんなダーツをしてみたい!という気持ちを抑えて話す。
「でも、夜なら人間は来なかったでしょうね。今日は、参拝者がいらっしゃるといいですわね」
「あっ、ルシェ様、違います。
あの日、夜なのに参拝者が来たんですよ。
私とケニー、それとカーソルとリールもびっくりしました。
通常、縁結びや縁切りには、手順が必要なんですが、まあ、特別にサクッと縁を結んであげたんですよ」
(今日のスクート王子様は、私って言ってますわ!
よそゆき言葉で、気を遣ってくれているのね)
「スクート王子様、ケニー様、どうぞ私とも、カーソルさんの様に接して下さい。
それと私のことは、ルシェとお呼び下さい」
そう言うルシェは、チラッとトキエに目線を送り、頷くトキエを確認した。
「はい、では、ご無礼ながらお言葉に甘えて、そうさせてもらいます。
私のこともケニーに対しても、フレンドリーにして下さい。
コホン。では、ルシェさん、トキエさん、本殿に参りましょう、あ、行きましょう?あっ、行こう!」
そう言って、スクートが飛び立ち、皆が後に続いた。
…………………
まず、皆で本殿の中に入り、御神体に挨拶をする。
「スクートさん、神様は、どこにいらっしゃいますの?」
「いいえ、ここにはいません。
けど、この御神体が神様と繋がっていて、願いが強ければ、神様のいる場所まで届くから大丈夫なんだよ。
なっ、そうだよなケニー?」
「ああ、そうだな。
祈願の内容に合った神様の元へと、それぞれ届くようになっているし……あっ!誰かやって来るぞ!」
皆、一斉に賽銭箱がある拝殿を見た。
「 ! 」「 ! 」
「私、フェアリーの祥ちゃん!よろしくね」
あっという間に、本殿の中に入ってきた美少女が、軽いノリで言った。
金髪の巻髪ロングヘアに、赤いカチューシャをして、ノースリーブで、花びらの様なミニスカートのワンピースを着た美少女を、ルシェは子どもだと感じたらしい。
「お姉さんは、オールド国のルシェですわ。お嬢ちゃん、どこから来たの?
一人?その玉のネックレスが、可愛いですわね」
「あ、わわ、ルシェさん!
その方にそんな!ダメです、失礼過ぎますから……」
青ざめるスクートと、慌てた様子でルシェを諫めたケニーを、トキエは不思議に思った。
「ケニー伯爵、いえ、ケニーさん、どうしたのですか?」
「えっ、そっ、それは……」
(いつもは、お寺に立ち寄るはずの神様なのに!それに縁結びの神様でもないのに……)
ケニーは、汗をかきながら、祥ちゃんをチラリと見る。
すると、祥ちゃんは嬉しそうな顔をしていた。
「ふふふ、そんなに若く見えたのね。
ありがとう、皆んなに自慢するわ」
ルシェとトキエの頭の中は、「この妖精は誰?」が、渦巻いていた。
「あ、あのう、吉祥天様、こちらに何か御用でしょうか?」
その言葉に、ルシェとトキエも青ざめる。
(この子が吉祥天様?や、やばいわ)
スクートの問いに、祥ちゃんが一瞬、ほっぺたを膨らませた。
「あっ、今は、祥ちゃんと呼んでね。
ここは、縁結びに御利益がある神社ってことだけど、人々の願いは様々でしょ?
中には、金運アップとか、美しくなりたいとかの願いもあるはずよ。
だから、私を祀っていない所にも、たまには出向いて、直接願いを聞いてあげる活動をしているの。
でも、残念、参拝者が一人もいないわ!
仕方がないから、近くのお寺に行くわ、じゃあね!」
そう言ったと思ったら、祥ちゃんは消えていたのだった。
「ど、どうしましょう。私ったら、神様に対して無礼でしたわ!」
「ルシェ様、何か天罰があるかもしれません。ご覚悟をなさって下さいませ」
「ルシェさん、トキエさん、心配はいりませんよ。 変化をしていたのですから、分からないのも無理がないでしょ?
吉祥天様は、怒っていません。
むしろ、ご機嫌だったから大丈夫」
スクートに言われ、二人は安心したのだった。
「おっ、スクート!参拝者が来るぞ」
ケニーは、本殿から出て参拝者の到着を待つ。
……………………
参拝者は、二十代半ば前後に見える女性だ。
ルシェとトキエは、女性の頭上辺りで、羽根をパタパタさせて、ホバーリング中。(空中浮揚)
スクートとケニーは、なぜか賽銭箱の奥側で、ホバーリングしながら玉網をそれぞれ構えていた。
「スクートさん、その玉網で一体、何をする気ですの?まさか?」
「え?これ?これは、願い事を聞く前に一応、お賽銭をキャッチするための物だよ!」
ルシェとトキエは、顔を見合わせた。
(お賽銭泥棒!!)
妖精が参拝者のお賽銭を、狙っていることなど知らない女性が、小銭を投げた。
「スクート!そっち!」
ガツン!
玉網で、上手く賽銭を受け取っているのに、賽銭箱に落ちた音が聞こえた。
「ナイス キャッチ!」
ジャカジャカジャカ……。
女性が鈴を鳴らし、二拝二拍手までをした。
次は、いよいよ願い事だ。
「願い事 自動変換器 作動!」
ケニーがスイッチを入れた。
「どうかどうか、元彼と再会できますように!一度でいいから、私にチャンスを下さい!お願いしますっ!」
「あらら、願い事が丸聞こえですわ!
これは、プライバシーの侵害なのでは?」
ルシェが独り言のように言った。
「願い事が分からなければ、叶えられないじゃないですかっ!
これは、致し方無し!なんです!」
ケニーがムッとしたから、ルシェは急いで謝った。
「ルシェさん、コイツは、仕事となるとムキになるんで、気にしないでね。
んで、ケニー、この願いは叶える?どうする?」
(えっ?願いを叶えるかどうかは、神様が決める事では?)
ルシェは疑問に思ったが、口を挟むのは止めておいた。
それに、玉網の中にある小銭も、気になっているのだった。
念のため言っておくが、もし、願い事が恋愛に関係がない場合は、賽銭は賽銭箱に戻されるそうだ。
「うーむ。ハート国の妖精は、人間の本心が分かるんだよな。
どうしてチャンスが欲しいのか?が分かっちゃったんだよねえ。
さあ、どうしたものか?」
スクートは、腕を組み考え始めたから、ルシェもトキエも気になってしまうのだ。
「あのぉ、先ほどの参拝者に問題でもあるのでしょうか?」
「あ、すみません、トキエさん。
さっきの娘の本音の部分が、ちょっと気に掛かって……。
実は、「つい最近、新彼と別れちゃって寂しいし、こうなったら、元彼の実家が金持ちだから、再会して復縁し、玉の輿に乗っちゃおう!」が本心なんですよ。
清らかな想いとは違うから、悩みどころですね。
でも、本来の縁結びとは違う、軽めの願いだしな……。どうするかな?」
「悩むなら、神様にお願いすればいいですわ」
と言ってしまって、ルシェは後悔した。
(あっ、またケニーさんに怒られる!)
「それはそうですが、神様も、あちこちから声が掛かって、忙しいのですよ!
叶えられる内容なら、現地にいる妖精に一任されています!
現地に妖精がいない神社では、御神体を通じて神様に願いが届けられ、精査後、成就依頼がハート国にくる仕組みなんです!」
(はい、はい、わかりました!私が悪うございました!)
ルシェはケニーに向けて、何度も頷き許しを乞う。
(はーあ、結婚相手が穏やかなカーソルさんで、ホント良かったですわ!)
………………………
「よし、この願い、叶えるぞ」
スクートが決断し、玉網の中にある賽銭、五百円硬貨を取り出し、御神体前に置いた。
すると、御神体となっている宝鏡が輝き、置いた硬貨が消えたのだった。
「皆んな、妖精ロードで出発だ!」
さっきの参拝者を追って行くと、女性がコンビニへ寄っていた。
大通りの交差点手前にあるコンビニの、大きな駐車場に車を止めて、丁度、車から降りたところだった。
ケニーが白い紙に筆ペンで、達筆な字で願いを書く。
(まあ、素晴らしい字ですこと!
ルシェ様も見習って頂きたいです)
スクートは、ポケットから小さな弓矢を取り出し、スイッチを入れ大きくした。
その矢先に願い事の紙を刺して、思い切り弓を引く。
狙いは、参拝者である彼女の背中だ。
「成就!」
スクートが祈りを込めて、矢を放ち彼女の背に命中させた。
「当たった!凄いですわ!あ、矢が身体の中へ入って消えてしまったわ……。
彼女の身体は、大丈夫ですの?」
「ルシェさん、人間には何も影響はないですよ。
これで、元彼と再会ができるはず!
その先が、思い通りに行くかは、わからないけどね。
さて、神社へ戻りますよ!
あの御神体の前に、報奨金代わりのツボの種があるはずです!
皆んなで、山分けしましょう」
「ちょっと、ちょっと待って!
結末が知りたいわ!
本当に会えるのかしら?」
「はあ?ルシェさん、心配しなくても大丈夫です!
あの矢の効果は、絶対なんだから!
それに、いつ再会するかは分からないよ?そんなに長くいられないでしょ?」
スクートは、少し困り顔をした。
(あんまり長く連れ回すと、カーソルが怒るからな……)
「うーん私、きっと、その後が気になって眠る事ができませんわ!
少しだけ、少しでいいから、様子を見ていたいですわ!」
「ルシェ様っ!そんな我がままを仰ってはなりません!スクート王子様が困っておいでです!」
「はーーーあ!」
トキエに叱られ、ルシェは大きな溜息をついた。
スクートとケニーは、カーソルの妻の本性を見た気がして、カーソルが苦労をしているのではないか、ちょっと心配になったのだった。
「もう、わかりました!じゃあ、まずは店内に入ろう!」
ニコニコ顔のルシェと、渋々付き合う三人は、飛びながら自動ドアを擦り抜け、本が並ぶ棚に腰掛け女性を注視している。
女性が飲み物をカゴに入れ、次にデザートの所に移動した時に、店内に男性が入って来た。
男性は、真っ直ぐにデザートの所にやって来たのだ。
たった一つのカスタードプリンに、手を伸ばした途端、二人の手が触れ合った。
「あっ、すみません。どうぞ!」
彼女が言うと、男性も譲ろうとする。
「 ! 」「 ! 」
「前沢さん!」
「世良さん!」
女性は、信じられないという表情を見せた。
「やだ、本当に前沢さん?本物?嘘みたい……。
あ、ごめんね。あの、元気してた?」
「えっ、本物だし、元気だよ。
そっちは?」
…………………
「は?まさか、もう御利益が?
嘘ですわよね?えっ?えっ?」
ルシェも信じられない!という顔で、口を開けたままでいた。
(ルシェさんって、忙しいくらい表情が変わって、面白いなぁ)
「ぶっ、ルシェさん、どこかの絵画みたいな叫び顔になっているよ……。
どうやら、お目当ての元彼と再会したみたいだね。
俺ら史上、最速成就かも?
なあ、そうだよな、ケニー?」
「うん、うん、うん、これマジか?」
ケニーも驚きを隠せないでいるし、トキエは、腰を抜かし本に寄りかかっている。
「では、皆さん、神社に戻りますよ?
いいですね?」
スクートがドヤ顔で言った。
「はーい!戻りますわ!
次も、頑張りましょうね!
私もトキエさんも、お手伝いをしますわよー!行きましょう」
そんなノリノリのルシェを、止められる者はいなかった。
そして、オールド国でイライラしながら、ルシェの帰りを待つ者がいる事は、言うまでもないだろう。
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そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
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私は。
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