冥界の仕事人

ひろろ

文字の大きさ
2 / 109
第一章: はじまり

土手の花 ☆

しおりを挟む

 見えない暗闇への恐怖心は、あおいだけではなく死者たちの恐怖心をも煽るかのようである。


 金札所の右脇は広い川で、向こう岸は石垣になっている。
 その上は原っぱで、見張り台があり、2人がこちらを見ている。


この川って、三途の川かな……。
 

 緑札所の左脇は3m程の柵があるが、隙間から砂山がみえる。

 木もなければ草もない。砂漠のようで、さっきの砂はここから飛んできたのだろう。


 花畑なんてないじゃない……。


 改札口には駅員のような服装の人が3人立っている。


恐そうな人達だな……。


 しばらく観察していると、後方から若い男性の声。


「はーい!皆さん、これから受付を開始しまーす!

 はいはーい、こっち見てくださーい。お顔を拝見しますよう」


 あまりに軽いノリで話すので、驚く死者たちは振り返る。

 そこには、緩くウェーブのかかる茶色のボブ、黒いスーツの20代半ばほどの男性がいた。

ネームプレートには、“ノリタケ”とある。


「はい、そこの貴方は緑札所に行ってね」

「そこの貴方は白札所で、あぁ、そこの貴方もそっちの人も白札所へ行って下さーい」

「あ、そちらの貴方は金札所へお願い致します」

 ヤクザ、おじさん、おばさん達、品の良いおじいさん、つぎつぎに指示をだしていった。


  どうやら、額に貼られている緑や白や金のお札の色で改札口を分けているようである。


「さあ!それぞれ分かれて頂戴!逃げ出そうとしても無駄ですからね。

両サイドをご覧ください。

冥界の鬼たちは、とーっても怖いですからねー」


 いつのまにか赤いジャージの男2人、青いジャージが2人。


 鬼?ツノないじゃん、ジャージだし……、どこら辺が鬼なのか……。

 まあ、顔と体つきからしてガタイの良いごつい男たちだと分かるけど。


 死者たちは、まごつきながらも自分の名前や住所、年齢を言って改札を抜けて奥へと消えていった。

 いつのまにか残されたのは、あおいひとりのみ。


 自分の札の色を知らない為、ドキドキと緊張は頂点に達していた。


「お待たせいたしました。はーい、貴方は金札所へどうぞー」


 金か……どんなところかは分からないけど悪い所じゃないだろう。金メダルとか金賞とか金だし。


 川側にある金札所へ向かうと足を止めた。


 川の手前側、建物で隠れていた土手に沢山の花が植えてあったからである……。


 これは、きっとおじいちゃんが植えたんだろうな……。

「ぁ……ぁぉぃ……?」

 その時、はっ、と目を見開いてあおいの姿を愕然と見つめる者がいた。

「あおいなのかっ!!」

 聞き慣れた声に振り返る……。

 そこには、あおいの祖父である孝蔵が。

 孝蔵は、土を乗せた一輪車を放り出し、あおいの元へと走ってきた。


「なんで……どうして、ここへ? ままま、まさか、死んだなんて言わないよなっ!まさかなっ!!

……死んだというのかっ!」

 崩れ落ちる祖父を前に胸が、心が苦しくなる。


「おじいちゃん、あたしは死んだらしいの。ごめんなさい……」

「海で溺れている子どもを助けたんだけど、その後のことがわからなくて……覚えてないの」

 ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。

「何ということだ、あおい……嘘だろ、知らなかった……孫が先に逝くなんて……俺より先に……そんな……「孝蔵さん、それ以上の死者への接近はいけませんよ」っ……」

 さっきまでとは別人のような、厳しいノリタケの声が響く。


「孝蔵さん、またベストを着ていませんね。

 死者に憑依されたら大変な事ですよ。

 いくら、お孫さんであっても脱衣場だつえばにも行っていない死者ですよ。

 貴方は、まだ生きている人間です。憑依される可能性があるんですよ」


「えー、アルバイト規約に『死者との接触禁止』がありますよね。加えて『憑依防止ベストの着用義務』も違反していますね。

 孝蔵さんを事務センターへ連行してください」

 ひとりの赤ジャージの鬼が孝蔵の左腕をガシッとつかむ。


「あー、悪かった、分かった!近づかない!」

 あわてて腕を振りほどきノリタケにすがりつく。

「ノリタケさん、頼む!お願いだ!俺と孫を交換してくれ。

 孫を生き返らせてくれ。頼む!俺は今、死んでもいいから!

 なあ、頼むよ!頼むよ……」

 泣きながらノリタケへと縋る。


「おじいちゃん、駄目だよ。そんなこと言わないで。

 ……お母さんや皆を頼むね」


 ノリタケは握りしめていた左右の拳にぐっと力を込め「連れて行け」と指示をだすのだった。


 連れ去られる祖父の悲痛な叫びは、あおいの胸に突き刺さるのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...