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第一章: はじまり
土手の花 ☆
しおりを挟む見えない暗闇への恐怖心は、あおいだけではなく死者たちの恐怖心をも煽るかのようである。
金札所の右脇は広い川で、向こう岸は石垣になっている。
その上は原っぱで、見張り台があり、2人がこちらを見ている。
この川って、三途の川かな……。
緑札所の左脇は3m程の柵があるが、隙間から砂山がみえる。
木もなければ草もない。砂漠のようで、さっきの砂はここから飛んできたのだろう。
花畑なんてないじゃない……。
改札口には駅員のような服装の人が3人立っている。
恐そうな人達だな……。
しばらく観察していると、後方から若い男性の声。
「はーい!皆さん、これから受付を開始しまーす!
はいはーい、こっち見てくださーい。お顔を拝見しますよう」
あまりに軽いノリで話すので、驚く死者たちは振り返る。
そこには、緩くウェーブのかかる茶色のボブ、黒いスーツの20代半ばほどの男性がいた。
ネームプレートには、“ノリタケ”とある。
「はい、そこの貴方は緑札所に行ってね」
「そこの貴方は白札所で、あぁ、そこの貴方もそっちの人も白札所へ行って下さーい」
「あ、そちらの貴方は金札所へお願い致します」
ヤクザ、おじさん、おばさん達、品の良いおじいさん、つぎつぎに指示をだしていった。
どうやら、額に貼られている緑や白や金のお札の色で改札口を分けているようである。
「さあ!それぞれ分かれて頂戴!逃げ出そうとしても無駄ですからね。
両サイドをご覧ください。
冥界の鬼たちは、とーっても怖いですからねー」
いつのまにか赤いジャージの男2人、青いジャージが2人。
鬼?ツノないじゃん、ジャージだし……、どこら辺が鬼なのか……。
まあ、顔と体つきからしてガタイの良いごつい男たちだと分かるけど。
死者たちは、まごつきながらも自分の名前や住所、年齢を言って改札を抜けて奥へと消えていった。
いつのまにか残されたのは、あおいひとりのみ。
自分の札の色を知らない為、ドキドキと緊張は頂点に達していた。
「お待たせいたしました。はーい、貴方は金札所へどうぞー」
金か……どんなところかは分からないけど悪い所じゃないだろう。金メダルとか金賞とか金だし。
川側にある金札所へ向かうと足を止めた。
川の手前側、建物で隠れていた土手に沢山の花が植えてあったからである……。
これは、きっとおじいちゃんが植えたんだろうな……。
「ぁ……ぁぉぃ……?」
その時、はっ、と目を見開いてあおいの姿を愕然と見つめる者がいた。
「あおいなのかっ!!」
聞き慣れた声に振り返る……。
そこには、あおいの祖父である孝蔵が。
孝蔵は、土を乗せた一輪車を放り出し、あおいの元へと走ってきた。
「なんで……どうして、ここへ? ままま、まさか、死んだなんて言わないよなっ!まさかなっ!!
……死んだというのかっ!」
崩れ落ちる祖父を前に胸が、心が苦しくなる。
「おじいちゃん、あたしは死んだらしいの。ごめんなさい……」
「海で溺れている子どもを助けたんだけど、その後のことがわからなくて……覚えてないの」
ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「何ということだ、あおい……嘘だろ、知らなかった……孫が先に逝くなんて……俺より先に……そんな……「孝蔵さん、それ以上の死者への接近はいけませんよ」っ……」
さっきまでとは別人のような、厳しいノリタケの声が響く。
「孝蔵さん、またベストを着ていませんね。
死者に憑依されたら大変な事ですよ。
いくら、お孫さんであっても脱衣場にも行っていない死者ですよ。
貴方は、まだ生きている人間です。憑依される可能性があるんですよ」
「えー、アルバイト規約に『死者との接触禁止』がありますよね。加えて『憑依防止ベストの着用義務』も違反していますね。
孝蔵さんを事務センターへ連行してください」
ひとりの赤ジャージの鬼が孝蔵の左腕をガシッとつかむ。
「あー、悪かった、分かった!近づかない!」
あわてて腕を振りほどきノリタケに縋りつく。
「ノリタケさん、頼む!お願いだ!俺と孫を交換してくれ。
孫を生き返らせてくれ。頼む!俺は今、死んでもいいから!
なあ、頼むよ!頼むよ……」
泣きながらノリタケへと縋る。
「おじいちゃん、駄目だよ。そんなこと言わないで。
……お母さんや皆を頼むね」
ノリタケは握りしめていた左右の拳にぐっと力を込め「連れて行け」と指示をだすのだった。
連れ去られる祖父の悲痛な叫びは、あおいの胸に突き刺さるのだった。
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