冥界の仕事人

ひろろ

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第一章: はじまり

僕が助ける

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ガルルルル、ガルルルル……。

暗がりの中、光る眼が浮かび上がる……。

 ひぃ、獣?

 どうしよう!怖い!

 足がガクガクしてくる。

 早く、あっちへ行ってよ!

 ヤダ……近づいてくる?


 スタッフルームを探して、ドアが開いていた部屋に入ってみたら、この状況。


 奥の方は、明るいから誰かいそうだ。

 叫んでみようか……でも、飛びかかられたら、もう終わりだと思う……。


 ジリジリと後退りをはじめる……。


 何とか、逃げないと!

……………………

「あっ、オストリッチさん、ここ、ここを見て下さい。この方がそうじゃないですか?」

 スタッフの男性が見つけた。


「あっ、そうだ!そうです!」

 オストリッチは、ホッとしながら返事をした。

「ここって…… すぐに迎えに行きましょう!私について来て下さい」


 スタッフの女性が走り出す。


   オストリッチが入ってきたドアとは違う、スタッフルーム奥にあるドアから出て、2人は急ぐ。


  スタッフの女性の慌てた様子から、かなり危険な状況であると、推察される。


  廊下の途中に分かれ通路があったが、まっすぐ走って、薄暗い場所で止まった。


「ここですか?」


「しっ」スタッフの女性が人差し指を立てる。


 廊下から、薄暗い部屋の中を覗く。

 スタッフの女性がオストリッチに「いました……トラも」と小声で言った。


「 ! 」


  と、虎?ここに?

 どうしよう怖い……けど、助けるんだ!


 グガァー


 虎の威嚇する声か?


「私が何とかしますか……ら、えっ、戻って下さい……あぁ」

 あくまでも小声で話す女性だった。


 お姉ちゃん!助けるからねっ!

 パタパタパタパタ


 薄暗い部屋の中に入り、あおいを守るように、虎と対峙するオストリッチ。

「食べるなら、僕を食べろ!
 この人は、物凄く不味いぞ!」


「リッチ君!」


 グガガァー

 あっ、やられる!

 2人は同時に思った !

 虎が飛び掛かろうとした瞬間、

「こらぁ!お座りじゃっ!」


 飛び上がっていた虎は、そのまま ドンっと床に降りて、後ろを振り返る。


 部屋の奥から大きな声がしたのだ。


 そして、明かりがパッと点いた。


 た、助かった……?


 オストリッチは、全身の力が抜けた。


 目の前には、大きな虎がお座りしている。


 ガルルルル ガルルルル……不満気に唸っている。


 明るくなって、大きさがより際立つ。


 ふぇぇ、でっかい……!


 なぜか、オストリッチも座っている。


「驚かせて悪かったのぉ、まさかスタッフ以外が来るとは、思わなかったのじゃ」


 そう言いながら、虎を撫でて奥へ行くように促した。


 虎は素直に従い、奥の方へ行った。


「君は金札だね。暗がりで、札が輝いておった。なぜ、ここへ来たのじゃ?」


 あっ、この顔!
 黒い法服を着ている!


「はい、迷子になったオストリッチを探していました!えっと、道先案内人を探していたのです」


 はぁーーー?迷子?僕が?
 よくそんな事が言えるよね!
 お姉ちゃんっ!


「君が、オストリッチ君か?鶴の子じゃな」

 オストリッチは、立ち上がった。

「ちがーう、僕は、つ……えっ、そうそう!僕ぅ、鶴なんですぅ。へへへ」


 先生、僕は感動しています!
 先生以外で、鶴と認めてくれる人が現れました!

 
「うおっほん!初めてまして、オストリッチと申します。もしかして、初江王様でしょうか」
 

如何いかにも私が初江王じゃ。
 秦広王から弟子が行くと連絡を受けておったのじゃ。

 随分、可愛がられておるようじゃな。

 それなのに、君たちに怖い思いをさせたのぅ。すまなかったのう」

 初江王は、オストリッチやあおいの後ろに、スタッフの女性がいるのに気がついた。


  やばい、ミレイさんじゃ!

 あの顔は、めちゃくちゃ怒っておる!


「あ……ミレイさん、もう仕事に戻ってもいいですじゃ……」


「人前で言いたくはないのですが、なぜ、トラがこちらの部屋にいたのでしょうか?」


「うん?だってなトラちゃんが、仕事でストレスが溜まるから、1人になりたいって……それで、ここに放っておいてあげたのじゃ。
もちろん、トラちゃんが廊下に出ないように結界を張っておいたんじゃが……
 まさか、人が入ってくるとは、思わなかったのじゃ」


「トラが出れなくても、人が入れるなら意味ないですよね?

 今回が初めてではありませんよね?

 スタッフからも苦情が出ています。

 いくら噛まないと言っても、迫力がありますから、それは怖いですよ。

 今後は、気をつけて下さい」


 そう言うとミレイは、一礼してスタッフルームへ戻って行った。


「ふー、また叱られたのぉ。

 トラちゃんは、緑札用の鑑定で活躍しておるのじゃ。


 奥には、他にもおるのじゃよ」


 初江王が手招きをして、奥へ行く。


 扉付きの低めの柵で仕切られた2つの部屋があって、各部屋に大きな木の鉢が置いてある。

 それぞれの部屋に虎 4頭と大蛇 4匹が暮らしている。


 大蛇は、枝に身体を絡ませていた。

 あおいはゾッとしたが、初江王が溺愛しているようなので、作り笑顔で乗り切る。


「2頭のトラちゃんと2匹のヘビちゃんは、仕事に行っているのじゃ。

 交代制じゃよ。

 いつも騒がしい職場じゃから、ストレスが半端ないのじゃろう。

 だから、静かな所にいさせていたのじゃ。

 本当に驚かせて、すまなかったのう」


「いえいえ、もういいんです。こちらが、勝手に入ってしまったから。

 トラちゃんに悪いことしちゃいました。

 ごめんなさい」

 
  あおいがペコリと謝ると、通行証が揺れた。


「おや、これは私の判子がいるのじゃないか?よこしてみるのじゃ」


 ポン!


「ありがとうございます」

 2人揃って言った。


「オォ、いいコンビじゃのぉ。
 この先も仲良く行くのじゃよ」


「はい」ここも揃って言った。


 2人は、顔を見合わせて笑い合う。


「お姉さん、そろそろ出発しましょうか?」


「うん。行こう」


「お嬢ちゃん、ちょっと気になっているんじゃが、その服は脱衣場のユニフォームじゃないかのぉ?」


「はい、ダツエ婆様に頂いた物です。

 あっ、申し遅れましたが、水島あおいと申します。

 お忙しいところ、お邪魔しました。」


「ダツエ婆さんが物をくれたじゃと?
 ドケチで有名なんじゃよ!

 あおいちゃん、気に入られたんじゃな。

 じゃあ、2人とも行ってらっしゃいじゃー」


 あおいは、白札専用通路の上空を座布団に乗って飛んでいる。


 オストリッチとすれば、あおいに文句を言いたいが、仲良く行けと言われているから我慢をしている。


「ねえ、リッチ君 いろいろ迷惑をかけちゃって、ごめんね。助けに来てくれて、
嬉しかったよ。ありがとう」


 もう、この一言で、全部 許せるオストリッチなのであった。


「無事でいてくれて良かったです」


  なんだか2人の周りには、ほのぼのとした空気が流れているようだった。

………

「グレース、グレース、通行証 忘れた!
あぁ、手帳も忘れた、久しぶりに行くからバタバタしちゃうな」


 灰色の猫 グレースが、通行証と手帳を口に咥えて持ってきて、孝蔵に渡す。


「グレース、ありがとうな」

そう言うと大きな黒い金庫の前に立つ。

 それは、まるで仏壇のようで、2つのダイアルが付いているから金庫だとわかる物だった。


 ダイアルを回して、観音扉を開いて、次の扉を開けると孝蔵は、振り向いた。


「行ってくるよ」


 それから、孝蔵は吸い込まれるように消えていったのであった。
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