冥界の仕事人

ひろろ

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第一章: はじまり

冥界の人  ☆

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  話しは、少し遡る。


「孝蔵さん、ただいま。
 あー、忙しかった……」


 そう言うと、濃茶の髪でイケメンの20代前半くらいの男性が畳の上に、寝そべった。


黒のスーツの上着ポケットから、グレーのネクタイがちらりと見える。



「こらっ、優!また靴を履いたままだぞ!玄関で、脱いでこい!」


「何度も言いますが、僕ら冥界の人間は、人間界では実体がありません。

 普通の人には、見えないものなんです。
 いくら、外を歩いても汚れません。
 ほら、畳も汚れていないでしょう?

 だから、脱がなくても大丈夫です」



「俺も何度も言うが、土足で畳に上がるなんて、不愉快だぞ!早く、脱いでこい」


「グレースは、外で遊んで そのまま中に入っても、叱られないのに不公平だ」


 グレースは、罪滅ぼしの為 実体のある猫にされていたのだ。

「失礼ニャ!ちゃんとに拭いています」

 優は、渋々 靴を脱ぎに行く。



「なぁ優、あおいは天界で元気に暮らしているのか?」


「どうかな?僕の管轄外だから、わからないです。
 今度、時間がある時にでも探してみますよ」


「今……」


「えっ、今?今、様子を探れと?

 そんなー!休憩中ですよ!

 今は、勘弁して下さい」


「それもそうだな。すまん、すまん。

これから久しぶりに仕事だから、誰かに聞いてみるとするか……」


「本当、久しぶりの仕事ですね。
あおいちゃんの事は、今度、僕が探しますよ」


「すまんな、頼むよ。さて、そろそろ行くとするか……じゃあな」

…………

「おはようございます。コウさん、久しぶりだね」


 冥界事務センターの更衣室で、着替えていたところに、同僚が入ってきた。

 冥界の挨拶は、いつでも“おはよう”なのである。


「おはようございます。ノブさん、連休を貰っちゃって、すみませんでした」


「ああ、気にしなくていいです。今日から、また土作りですよ。頑張りましょう」


 孝蔵とノブは、作業着にベストを着た。

 彼もまた、生身の人間であった。

 今日は来ていないアキさんを含めて、3人が生きている人間である。

 全員、園芸担当である。
 下の名前のみ知ってはいるが、基本あだ名で呼んでいる。

 互いの事は、何も知らない。
詮索もしてはいけない事になっているのだ。

 人間界で偶然、会ったとしても知らぬふりをしなければならない規則だ。


 何故、生きている人間がいるのか。

 昔、三途の川の渡し賃として、死者がお金を持ってきた。

 けれど、船は自分たちで漕ぐため、冥界ではお金を使う所がない……。
 
それでは、勿体ないということで、生きている人間を雇って、そのお金を賃金として渡そうという事になったらしいのだ。


 ただ、今は渡し賃を持って来る人が少ないので、香典の一部を自動引き上げして、賃金としているのだ。

 
「ノブさん、先に事務所に行ってるよ」


 孝蔵は、事務センター長を探していた。

 事務センターには、冥界に到着する人に対応する事務部、孝蔵のように園芸をしたりするのはメンテナンス部、冥界の鬼達を束ねる警備部というように3つの部署がある。

 その全ての長は、事務センター長の幽現王である。


  ここのスタッフからは事務長と呼ばれている。

 
「おはよう、ノリタケさん。
 先日は、孫に会わせてくれて、ありがとう。

 ところで、事務長が何処にいるか知らないかい?」


「おはよう、孝蔵さん。
お久しぶりー!

事務長?うーん残念、第1の門に出張中なんだよね。

何か急用でもあるの?」


「いや、いい。わかった、ありがとう」

 事務センターの中で、一番 偉い人だから、あおいの事を何か知っているかと思って探していたのだった。


 優が様子を探ってくれると言っていたから、待つとしよう。


 孝蔵は、ノブと冥界園芸スタッフ4人と一緒に事務センター裏側にある土専用畑にいる。


 土を耕して、肥料を混ぜる。


 いい土を作って、川の向こう側、石垣の上を花畑にする予定なのだ。

「花畑を作って、来た人を感動させてあげましょうね」

 スタッフの1人であるユウナさんが言った。


「はい、そうしましょう」

 孝蔵は、誰よりも先に応えたのであった。


 自分を奮い立たせ、元気を出そうとしているのである。

…………

 プルプルプルッ

 携帯電話に非常によく似ているモバイルリストという機器が鳴った。
これを略してモバリスと言う。


 このモバリスの画面に、死亡予定者のデーターが送られてきたのだ。


 上着のポケットからグレーのネクタイを出し、玄関に行く。

 靴を脱ぐと瞬時に動けないから面倒なんだ!


「グレース、行くよ。じゃあね」

 優は、意識を集中させベルトのバックルに軽く手を触れ、姿を消した。


「久々の1人だニャ、どこへ行こうかニャ?あれ?孝蔵さん、私のご飯を用意してあるかニャ?」

 
 台所に確認しに行く。

 
 ニャい……。


以前、あおいが買ってきたキャトフードがあるが、グレースは大嫌いだった。


 最近では、すっかり猫が板についているが、これは受け付けないのだ。


 孝蔵が作るご飯が楽しみでもあった。

「あー忘れられて、ショック」


 グレースは、しょんぼりと隣の家に入って行ったのだった。

…………

「リッチ君、次はどこに行くんだっけ?」

 いつもの如く、ゴソゴソしながら歩いている。

「えっと、第3の門と第4の門は判子をもらえたから……第5の門です」


「第2の門を過ぎてから、順調に進めるようになったね。すんなり、判子が貰えるね」


 オストリッチは、内心ギクっときていたが、平静を装っていた。


 あおいは、判定を受けなくても良かったのに第2の門で、鑑定を受けさせてしまったのだった。


 でも、あおいには秘密にしている。


「では、これより第5の門に向かいます。お乗り下さい」


 乗り方も かなり上手くなった あおいである。





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