冥界の仕事人

ひろろ

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第三章: 見習い仕事人

旅立ちの時

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「緒慈さん、優 ! 
  不明者4人を発見しました!

  山田山ロープウェイ上り口にいます。

  直ちに冥界へと送ります」


「了解、お願いします!今、行く」


「了解です。すぐ行きます」


 緒慈に続いて優も返事をした。


ダム湖より更に上にある 山田山のロープウェイ乗り場にいた行方不明者4人を、ノリタケとユキトが発見したのだった。


「ノリタケ、こんなに遠くまで、どうやって来たと思う?」


「えっ、ヒッチハイクとか?
うーん、姿が見えないはずだから、無理かしら?

 でも、霊感の強い人なら姿が見えるから、可能かもしれないですよね!

 それか、偶然 浮遊が出来る事に気がついて皆んなで、飛んで行ったとか?」


 その行方不明者である中年の男女のグループが、ロープウェイの切符を買おうと列に並んでいたのだ。


 「見ぃつけた!探しましたよ!
 貴方達、何をしてるんですか?

 貴方達は、亡くなっていますけど、
 どうやって、ここまで来たのかしら?」


 ノリタケがグループに声を掛けた。


「はあ?何、言っているんだ?
 あなた、どなたですか?」


 少し怒りながら、男性の1人が聞いたのである。


「我々は、死者の国である冥界の者です。あなた方を迎えに来たのです。

 バスの所で、死神から待つように言われたはずですが、その場から離れてしまったのですね。

 あなた方は、もう亡くなられているのです」

 と、ユキトが答えた。
 

「えー、私たちは、生きていますよ!
 事故に遭ったけど、ピンピンしているし、通りかかった車の人に頼んだら、乗せてくれました。

もともと、ここが目的地なんですもの」
 
ユキトが言ったことを信じない女性の言葉だった。


「とにかく!貴方達をこれから冥界に送りますよ!

 薄々は、気づいているはずです。

 お互いの札が見えていますよね?

 もう、旅立ちの時なのです!

 ご家族に何か言い残すことはないですか?思いを強く念じれば、届くかもしれませんよ。

 伝えたい事があるなら、今しかないですよ、どうぞ!」


 優しくノリタケが言った。


「いいや、俺は生きてます!元気です。
見てわかりませんか?

婚活パーティーで知り合って、今日が初めてのダブルデートだったのに!

こんな悪質な嘘は、やめて下さい」


「信じられないのはわかります。
しかし、事実なのです。

もう、どうする事もできないのです。

どうか受け入れて下さい」


 ユキトに言われると、死者達は黙り込み暫し考える。


 自分の死を受け入れていなくても、各々おのおのが祈るように、身内に最後の言葉を念じた。


「それでは、もう 、よろしいですか?

只今より、生前の行いを調査します」


ユキトがモバリスで、額にある札のデーターを読み取り冥界へと送る。


 札は、まだ貼られた状態で額に浸透していない。冥界の受付を過ぎた頃から浸透するのだ。


 札の色は、死神が貼る時は生成り色だが、調査員が来る頃には色が変化する。


 4人の死者達は、白色だった。
 

 それから間もなく、緒慈と優が到着し、各エレベーターに乗った死者達を見送った。


「ユキトさん、ノリタケ、優、今回は本当にありがとうございました。

 今回、担当地区で大事故が起こり、今更ながら、人手不足を本当に痛感したよ!

 ユキトさん、ノリタケも調査員に復帰してくれないかな?」


 緒慈の話しを聞いて、優はギョッとする。


「えー、ユキトさん調査員だったんですか?僕は、知らなかったです」


「あら、初耳ー!どうりでエレベーターを呼び出し乗せるまで、スムーズだったわけよね」


 続いて、ノリタケも言った。


 優とノリタケが調査員になった頃には、既に調査員を辞めていた為、知らなかったのだ。


 そして、元 調査員だったノリタケが言う。


「緒慈さん、嫌でーす!戻りませんよ!
私は、受付の仕事が性に合っているんですからね!」


「緒慈さん、私も講師の仕事が合っているのです。

 申し訳ないですが、戻れません」


 ユキトも拒否をした。

 
「そうか、残念だな。
 気が変わったら、連絡をしてきてくれ!

 では、それぞれ戻って下さい。
 また、何かあった時は、頼みます。

 皆んな、本当にありがとう!」

……………

 先に冥界に行った子ども達は、子ども係の女性に連れられて、金札所の右脇の土手の小道を歩いていた。


「うわぁ、おばちゃん、お花がきれいだ
 ねー」


 ミノリというネームプレートを付けた20代と思われる女性は、若干ショックを受けるも、慣れているので平気な顔をする。


「そうだね、涼太君!綺麗だね!川の反対側にいる人たちが植えてくれたのよ。

 ほら、あそこにいるでしょ?
 あっちの方も、お花畑にするんだよ」


「へー、お花畑になったら見にこれるの?」


「あ……そっか、ここには来れないのよ。これから、お船に乗って行く所があるからね」

「わたち、どこにいくの?

  おばちゃんも一緒に来てくれるの?」


「瑞季ちゃん、これからお船に乗って、賽の河原っていう所に行くんですよ。

お姉さ、えっと、おばちゃんがそこまで連れていってあげるからね」


「おばちゃん、パパとママは来る?」


「……涼太くん……うーん、どうかしらね?会えるかな?おばちゃん、わからないの、ごめんね」

 たとえ親が亡くなったとしても、子どもとは会うことができないのだ。 


 何故なら、小学生までの子ども達が行く場所は、決まっているからである。

 
 これからボートに乗って、始めに第1の門に寄り、またボートに乗って賽の河原まで行くのである。

 えーん、えーん!

 あーん、あーん!

 突然、泣き出した2人。

 親と会えない事を理解したのである。

 そうだよね……悲しいよね。
 もう、会えないんだから……。
 この状況、いつまで経っても慣れたりは、しない……。

 「ひっく、ひっく、怖い所に行くの?」

 不安で一杯の涼太が聞いた。

 不気味な場所かもしれないけど、怖い所じゃないと、何とか2人に理解してもらうように話したのであった。

 船のり場に着き、3人はボートに乗ったのである。

 操縦するのは、ベテラン船頭のゴロウのはずが、なぜか2人の妖精がいたのであった。

「いらっしゃいませ!フェアリーの祥ちゃんです」


「やあ、私は妖精のモンテン、モンちゃんだよ!

 私が操縦してみるからね」

「えー、妖精さん?わー、可愛い」

 瑞季は、大喜びしていたのである。


「ちょっと待ってください!いつもの船頭さんは、どうしたんですか?

あなた方に任せるとスピードが出過ぎて、子どもが怖がります!

 やめてください!

 ゴロウさーん、いませんか?」


「ゴロウなら、いないわ!

 帰ってもらったから!

 たまには、ここを視察しようと来たら、船を出すって言うじゃない?

 だったら、手伝うわよ!って事にしたの!わかってくれた?」
 
 
 えー!やばい!
 ただの妖精なのか知らないけど、極たまにやって来て、上から物を言うんだよね!

 いつものスピードを出されたら、たまんないわ!

 どうしよう!


 ミノリは、困り果てていたのである。


「大丈夫!スピードは出さない、ゆっくり、ゆっくり行くから!私に任せなさい」
 
 モンテンが言ったのである。

 そうして、第1の門へとゆっくりと……ゆっくり過ぎるスピードで向かって行くボートなのであった。

……………

「おはよう、お姉ちゃん!

 僕、暫く帰って来れないかもしれないからね!

 でも、心配しないでね。
それでは、行ってきます」


 オストリッチは、ヘルメットを被り元気よく仕事へと行ったのである。


「行ってらっしゃい、気をつけてね!」

 ここは、いつでも昼間だから夜明けの感覚とかってないけど、結構な早朝だよ。

 リッチ君、頑張ってね。


 
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