冥界の仕事人

ひろろ

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第三章: 見習い仕事人

オストリッチは、頑張るのだ!

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 三途の川の脱衣場で途方に暮れる鳥1羽。


 ない、無い、メモが無い!
 ここは、白札用の脱衣場だよね。

 先生が言ったのは、なんて所だっけ?

 どうしよう、三途の川と言ったのは覚えているけど、後は何だっけ?

 スワンさんとホークさんには、メモを見て言ったから大丈夫だけど、僕が全然、大丈夫じゃなーい!


 人の気配がしたが、オストリッチは必死で胸羽の中を探している。


「あっ、もしかしてダチョウか?

 あのダチョウの鳥か?あっ、鳥だぁ、久しぶりだな!今日は、若い娘いないのかい?」


 えっ?あっ、見たことある人だ!
 ええと、名前は……


 「あー!と、と、とみ……」


「トミエだよ!元気だったかい?
 今日は、また、変なカゴをしょっているね、どうしたんだ?」


「わーん、会えて良かった!有り難い!
この辺に子ども達がいる場所ってありませんか?」


「泣きべそかいて、どうした?
子ども?あぁ、賽の河原のことかい?

ここより もっと先、向こうに川が二股に別れているのが見えるかい?

その左のカーブの方に行くんだよ!

手前の細い川に行くと、冥界ロビーがある方に行っちゃうから気をつけな!

そこの第2の門の建物で、賽の河原 事務所が見えないけど、川伝いを歩いて、いや、飛んで行けば着くよ!」


「トミエさん、ありがとうございました!会えて嬉しかったです。
ダツエ婆様は元気ですか?」


「あぁ、元気だよ!今日も自分は、こき使われているよ!ははは」


 オストリッチは、トミエに別れを告げ、賽の河原へと飛んで行く。

 
 ここが、賽の河原か……。


 僕は、初めて来た。


 ここは幼くして亡くなった子どもたちが集まる場所なんだと、先生から聞いている。


  わあ、石が沢山落ちている。


 河原は、岩やゴロゴロとした大きな石、楕円形の小さな石などで、埋め尽くされていた。


 うん、あれ?大きな岩の近くに赤ちゃんがいる?


 近くに行ってみたら、赤ちゃんが1人で大きな石の上に、沢山の石をのせていた。


 まだ、生まれてすぐの感じがあるけど、しゃがんでいる!


 えっ!ヨチヨチ歩いて、石を拾いに行った。


わぁ、あの赤ちゃん、凄いなぁ!


 あっ、そうか……!
 

 冥界に着いた者は、誰でも歩けるし、話せると先生が言っていたっけ……。


 見渡すと、あちこちに子どもがいて、それぞれ石を積み上げている。


 結構な人数がいるみたいだ。
 

 ここに来る子ども達は幼いため、49日間の期限で、第7の門まで行くのは無理だと判断された子どもなのだ。


 河原で規定の数の石を積み上げ、クリアをすると、子ども専用動く歩道に乗って第7の門まで行くことができる。


 他の門には寄らず、直通で行けるのだ。


 オストリッチは、賽の河原の事務所の中に入って、スワンとホークが来るのを待つことにした。


「おはようございます。

 僕は、道先案内人のオストリッチと申します。よろしくお願いします」


「おはようございます。
 私は、賽の河原 子ども係のイノリと申します。

こちらこそ、よろしくお願いします」


他にも係りの女性が外に4名ほどいて、子どもたちの面倒を見ている。


 こじんまりとした事務所の中は、託児所のようだった。


「あれは、何ですか?階段がついているあの黄色の斜めの板みたいな物……」


「えっ、あれですか?滑り台のことかしら?あ、滑ってみませんか?」


「わ、いいですか?」


 そう言うとオストリッチは、滑る方から登りはじめた。


「あ、逆、階段から上がるんですよ。
上から、滑って下りて来て下さい」


 スルスルスル……


 何、これ!面白い!


「きゃは、きゃは、きゃは」


 滑り台、最高だな!


 オストリッチさんは、見た目は子どもだけど、本当に子どもだったのね。

 イノリは、微笑んでオストリッチを見ていたのだった。


はっ!


 面白い……って、遊んでいる場合じゃない!僕は仕事にきたんだよっ!

 
「うぉっほん、すみません。お騒がせしました!スワンさんとホークさんは、まだでしょうか?」


「あっ、今、来たみたいですよ」


 窓の外を見たイノリが、そう答えた。
 
…………………

  オストリッチは、イノリと合流した2人と共に河原を歩いている。


「今日、石積みをクリアできそうな子たちは、あちらのエリアにいます。
様子を見に行きましょう」


 石がゴロゴロしていて、鶴達には非常に歩きにくい場所である。


 子ども達が、鳥だ!鳥だ!鶴だ!と騒いで、寄ってくる。
ダチョウだ!の声には、オストリッチが反応して「皆んな、鶴です」と言って歩く。


「こちらで、お待ち頂けますか」


 イノリは、そう言うと石積みをしている子どものところを見て回る。


「あら、出来たわね!よく頑張りましたね。この子 花純ちゃんをお願いします」


 それから、すぐに3人がクリアをして、残りが赤ちゃん2人となった。


「オストリッチ、我等は小学生2人ずつ乗せますからね。

 我等は、第7の門に着くまで数日かかるから、もう出発します。

オストリッチは、瞬間移動ができるから今日中に往復して、任務終了できるはずですから、先に帰るのですよ。

わかりましたね?」


「はいっ、お気をつけて!」


 子ども達を乗せてスワンとホークは、出発したのだった。


 そっか、僕は瞬間移動が出来るから早く帰れるのか……お姉ちゃんに暫く帰れないって言っちゃった!

まあ、早く帰っても別にいいか。

赤ちゃん、まだ終わらないかな?

 
 5ヶ月くらいの赤ちゃんと、1歳くらいの赤ちゃんが、それぞれに大きな石の上に小石を並べている。


 幼児や小学生の子ども達は、石を重ねて積み上げているが、赤ちゃんは石を並べて置くだけでいい。


「できたー」


  5カ月の赤ちゃんが言ったのだ。


「はい、良く頑張りましたね!
 この子 大輔君をお願いします」


「僕は、行って戻ってくるので、先にこの子だけを連れて行きます。

 あの、この背負しょい籠に赤ちゃんを入れて下さい」


 「では、また!第7の門へ行きます」


 ふっ……ん


 オストリッチは、赤ちゃんと一緒に消えた。

 
 ふわん


 「うわっ!何だ?」


ドテンっ!


 白髪を結き、杖を持った老人が驚いて、ひっくり返った。


「すみません、お邪魔します。
……すみませんが、赤ちゃんを背負い籠から出してもらえませんか?」


「何ですとっ!いきなり来て、出せとなっ?全く、無礼であるぞ!

どれどれ、おやぁ、可愛い子ですな。

名前は言えますかな?」


 老人が、赤ちゃんを抱き上げて聞いた。


「だいすけ」


「おお、偉いですな!でも、だいすけさんの行く場所は、ここではないぞぉ!

子ども審判所に行くんですぞ」


老人は、大輔を床に降ろした。


「えっ!たいさんおー様、すみません、
 すみません!

 子ども審判所ですか?どこだろう?」


 泰山王は、溜息をつき、手を2回叩く。


「スタッフー、誰でもいいぞぉ」


 すると、女性スタッフが現れた。


「だいすけさんを子ども審判所へと連れて行って下さい」


 女性スタッフは、大輔を連れて部屋を出て行った。


 はーーーぁ。


オストリッチは、深い溜息を吐いた。


失敗してしまったと、落ち込んでいるのだった。


 それから、胸羽からメモ帳とペンを出して、書いている。


 “子ども審判所”

 忘れないぞ!


 オストリッチは、書いたメモを切り離して折り畳み、自分の胸羽の中にしまった。

 
 泰山王は、その姿を見て首を傾げる。


「何故、メモ帳から切り離す必要があるのだ?
それに羽の中にしまうと落としてしまうぞ。
ならば、そのメモ帳を貸してみなさい」


 泰山王は、メモ帳に穴を開け、紐を通して、オストリッチの首にかけてあげた。


「そうだ!またメモ帳を渡してみなさい」


 泰山王は、何やら書いている。

 “第7の門   泰山王 ですぞ!”


「ずっと気になっておったぞ!

 たいざんおう ですから、お忘れなく」


 ひーーー!やばい!


「申し訳ございませんでした」


「もう良い。私は、仕事があるのでな。
君は、帰ってもいいですぞ」


「そうだ!僕も仕事があるんだ!
それでは、また、後で!
失礼致しました」


  バタン!


「はあ?何だあれは?

 また後で だと?来んでもいいぞ!」


………………

「お待たせしました!

  戻ってまいりました!」

オストリッチが、再度、賽の河原に戻ってきた。


「オストリッチさん、おかえりなさい。
もう少し、お待ち下さい。

良ければ、滑り台でもどうぞ!」


 えっ、いいの?
 遊びたいなー!あっ、ダメダメ!

 僕は、仕事中なんですから!

 オストリッチも石を重ねて積み上げてみたが、すぐに倒れてしまうのであった。

 これ、難しいな。


「はい、良く頑張りましたね!
 千晴ちゃんも出発しましょうね!


 オストリッチさん、よろしくお願い致します」


 「籠の中に入れて下さい。

 では、行きます」


 ふっ……ん


 ふわん

 
 第7の門に着いたオストリッチ。

 今度は、子ども審判所の前についたのである。
 
「千晴ちゃん、着いたけど他の人に出してもらうから、ちょっと待ってね」

「うん、鳥のお兄ちゃん どうもありがとうございました」

  その後、審判所のスタッフに千晴を預ける。

「どうぞよろしくお願い致します。

 千晴ちゃん、元気でね」

「バイバイ、お兄ちゃん」


 大抵の子どもは、白札で禊の鳥居の1つに入って、働く人の手伝いをしたり、遊んでいたりする。

 もし、そこに肉親がいたとしても、お互いの関係は忘れているため、わからないのだ。

 極たまに、悪い行いをしてきた子どもがいるが、子どもとて許される訳ではない。

 生前、他人をいじめていたり、盗みを働いたり、隠れてしてきた事は全てさらけ出されるのである。

 子ども審判所での判決により、時には、第6に送られ再審され、地獄の可能性もあるのだ。


 送ってきた2人が穏やかに暮らせますようにと願うオストリッチなのだった。


「さあ、帰ろう!

  第1の門を目指して出発!」


  今回の任務で、ちょっぴり成長できたかな?


 などと思うオストリッチなのだった。
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