冥界の仕事人

ひろろ

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第五章: 新人仕事人 恋模様

伝言です

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 個人旅行の最中に仕事をする羽目になってしまったオストリッチと優であった。

 優は、浮遊霊と共に冥界エレベーターに乗って行ってしまい、オストリッチがポツンと1人で川岸にいるのである。

 
 浮遊霊のお姉さんの言葉を彼に伝えないといけないけど、どこに行けばいいのかな?

 取り敢えず、蓮さんに聞いてみよう。


 オストリッチは、飛び上がり旅館に戻ろうとした、その時。


 ストン!


 優が現れたのである。


「ツルノ君、ごめんね。
 待った?あの女性は凶暴で大変だったよ!逃げそうだから、僕も到着ロビーまでついて行ったんだ。

 そしたら、思った通り、またエレベーターに戻ろうと逃げてさ、赤鬼さんが捕まえて、受付に連れて行ったよ」


「優さんが帰ってくるのを、待っていました!あのお姉さんの伝言を伝えに行きたいけど、何も情報が無くて、どこに行けばいいのか分かりません」

 
「ツルノ君がモバリスで、あの女性の過去のデーターを読み取ったから、持っているモバリスの中にデーターが入っているから、それを見よう」


 オストリッチが優に教わりながら、モバリスを操作してゆく。


「あっ、出てきた!

彼氏じゃなくて、旦那さんが浮気をしていたんだ!

お姉さんは、怒って、この川の浅瀬に指輪を投げ捨てちゃったんですね。
でも探そうと、深みにはまり溺れてしまったそうです。

旦那さんの住所は……そうか、わかった!では、行ってみます」


 オストリッチが行こうとすると、優が声を掛けた。


「あの女性が亡くなってから、結構、日数が経っているから、その住所に旦那さんは居ないかもしれないよ。

そしたら、探さないで帰っておいで!
 僕は、旅館の部屋に戻っているからね。
 早く、帰っておいでよ」


「はい!かしこまりました」

  ふっ……ん

  すっ……


 オストリッチは、浮遊霊の夫の元へ向かった。

 
 さて、僕は部屋に戻ろう。
 散策にしては、時間がかかり過ぎたから、心配しているかも!


 優は、旅館へと戻って行った。

……………………

 オストリッチは、ある都市にあるアパートの前に降り立った。

 
 まだ、午前中であるが、普通に勤めていたら、居ない可能性が高い時間だ。


 上空から、様子を見る。


引っ越し業者のトラックが1台止まっていて、2階から業者の人が荷物を運んでいた。


 オストリッチは、モバリスにある女性のデーターの中に、夫の写真もあったことを思い出し確認する。


「すみません、これもお願いします」


 引っ越しをする部屋から、男性が出てきた。


 あっ!あの人、あの人がそうだ!


 メ、メモ、メモ、これだ!


 女性の夫が階段から降りて、トラックの所へやって来たところに、オストリッチが飛びながら言う。


「あなたの奥様からの伝言です」


「 ! 」


 何だ!なんか聞こえる!子どもの声?


 夫は、辺りを見回す。


 オストリッチは、声が届いていると確信し、続けて言う。


「裏切りは、絶対許さない!
 あんたのことは、ずっと覚えているからな!です」


「えっ?誰?」


「あなたの奥様からの伝言です。
 確かに伝えましたからね」


 夫は、背筋が寒くなる。


 妻が伝言を頼んだ だと?
 妻は、川で自殺をして亡くなっている。


 ここには、子どもの姿が見えないのに、どうして、声が聞こえるんだ?


 それに、弓子からの伝言というのが、ぞっとする。


 俺を許さないと言ったのか?
ずっと恨んでいるからな!って事なのか?


 弓子、許してくれ。
浮気じゃなくて、本気になってしまったんだよ。
すまない、本当にごめんなさい。


「浩之さん、そろそろ出発するそうよ」


 綺麗な女性が夫に言った。

 
オストリッチは、帰ろうとしたのをやめ、夫に聞く。


「今、話し掛けたのは誰ですか」


 夫は、ドギマギして「と、友達です!本当に友達なんです!同棲なんてしません」


「浩之さん?何、独り言を言っているの?同棲しないって、本気で言っているの?」


2人の間に険悪な空気が流れ始めたのであった。


 どうせい?聞いた事がある言葉だ!


男と女が一緒に住む事だとお姉ちゃんから聞いたっけ。


 えっ!この旦那さんは、奥さんが亡くなって、すぐに他の女の人と住むってこと?


 恋愛とか、よくわからないオストリッチでも、気分が悪くなった。


 あのお姉さんは、川で指輪をずっと探していたのに……。


 「 冷たい水の中で、指輪をずっと探していたのに、酷すぎる!」


 それだけ言って、姿を消した。


夫は、オストリッチの言葉に改めて、ぞっとしたのだった。

 
確かに妻の指に、指輪が無かった……。


 弓子は、俺を恨んでいるのか?

どうか、許して下さい。 

お願いします。
 

 夫は、ガタガタと震えていた。

…………………

  優は、離れの部屋に戻ってきたが、蓮と あおいの姿は無かった。


 そっか、あおいちゃんは部屋を移ると言ってたから、蓮さんと行ったのかな?


今のうちに、露天風呂に入っちゃおう!


 1番風呂だー!やったー!


 あおい達が足湯をしたことは知らないから、喜んで温泉を堪能している優だった。

……………………

「あおいちゃん、どうする この部屋に泊まる?」


 あおいは、1人で泊まるのが、怖くなってしまっていた。


「せっかく女将さんが用意をしてくれたので、泊まります……」


 みかんまで置いてくれているのに、悪いもの……。


「大丈夫?」


 蓮が心配して聞く。


「はい、何とか……」


 本当は、大丈夫ではありません!


 あおいの様子を見て蓮が言う。


「私が、一緒に泊まろうか?」


「えっ、本当ですか?」


 良かった!幽霊の出る部屋に1人で泊まるのは、無理だもの!


「女将さん、寝る時だけ この部屋に来ますね。それまでは、あおいちゃんも一緒に離れに居ますから!

幽霊の気配を感じた時には、すぐに知らせて下さい」


 蓮とあおいは、また離れの部屋に向かう。


 ザッパーン!

 バシャバシャ!


「あー!気持ちがいい!
 ひと仕事してきたから、尚更、気持ちがいいねぇ」


 優は、独り言を言いながら、鼻歌を歌っている。


 その時、あおいは、玄関で草履を脱いでいた。


 優が露天風呂に入っているのも知らず、あおい と蓮は、襖を開けたのだった。

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