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第六章: 新人仕事人 修行の身
第6の門
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ひゅーーー ひゅーーー
「寒っ」
あおいは、首に巻いたエンジ色のスカーフを結び直す。
時折、冷たい強風が巨大な壁に吹きつけてくる。
対の黒い石門柱の間は、3人横に並んでいっぱいの幅だ。
その石門柱の片側の外に、2人くらい入れる広さの小屋があって、緑札用の受付所となっている。
「受付を済ませたら、門の中へお入り下さい」
どんなに悪態をついて生きてきた人であっても、門に入る手前では、必ずと言っていいほど、躊躇うものである。
そのため、立ち尽くす死者がいると、鬼が2名やって来て、その両隣に立ち、腕を組む様にして持ち上げ、門の中へと連行するのだ。
門の内外には、等間隔にジャージの鬼が立ち、睨みをきかせている。
その効果なのか、はたまた、
お線香の香りが、死者の心に、落ち着きを与えているのかわからないが、皆、無言だ。
緑札の者は、ここ第6の門 で、再吟味をされ、最終判決を出されるのである。
ここまで来る間に、緑札の死者の点数は減点されていて、大抵は地獄行きになるようだ。
だが、緑札であっても吟味の結果、ごく稀に、第7の門まで行ける者もいるのだ。
そして、白札の者は、白札専用門から第6に入るが、行列の進みが早いのだ。
なぜなら、子ども以外の死者たちは、第5の門で、一応、判決は出されているから、白札の者を軽く確認するようにして、次の門へと進ませているからだ。
そう、ここは、緑札の者をじっくりと裁く事に、重きを置いている場所なのだ。
「あおいさん、次は あなたが声を掛けなさいな」
狭い受付所の中に窮屈そうにいる男性が話したのであった。
小太りで、ツルツル光る坊主頭の60代くらいの男性だ。
その名も“オボウ”さんである。
あおいは、初対面で、名前を聞き、吹き出してしまい、他の人から叱られていた。
本当の名前かどうかは知らない。
噂によると、第6の門 所長である変成王が見た目で、「お坊さん」と呼んだことから、そんな名前になったとか。
そのオボウが、あおいの教育係をしているのだ。
「オボウさん、 このリスト順か、その前後周辺に名前がありますよね?」
向こうから、フラフラ歩く男性がやって来た。
あの人は、男だから、この人かな?
「はい、こちらで受付をして下さい。
額を確認します、見せて下さい」
ピッ!
札を読み取る機械、長いコードが付いたモバスキャンを死者に近づけると、手元にあるコンピュータにデーターが出る。
「では、氏名、年齢、住所をおっしゃって下さい。はい、確かに」
男性は見るからに、とても疲れた様子ではあったが、素直に話してくれた。
「では、門よりお入り下さい」
頷いたその男性は、門の中へと2、3歩、歩んだと思ったら、よろける様に倒れてしまったのだ。
「ちょっと、児玉さん!児玉さん!大丈夫ですか?」
あおいが名前を呼びながら、身体を起こそうとすると、青鬼が無言で腕を出し、あおいを制した。
「あおいさん、それは鬼の仕事です。
戻りなさいな!次の人が来ます」
青鬼が児玉を担いで、専用休憩室に連れて行った。
それから、程なくして死者の姿が、途絶えた瞬間がやってきた。
「あおいさん、双眼鏡で遠くの方から、死者が来るか見張りなさいな」
あおいは、首に掛けている双眼鏡で死者の道を覗いた。
「あおいさん、どうですか?人が来ますか?」
うーん、誰もいないなー!
あっ、あの辺には鬼がいないんだ……
おっ、人が来た!
「オボウさん、まだ、遠いですけど、人が来ました。女性のようです」
どんな悪い事をしたのだろう。
おっ、女性の後ろ方から、男性が歩いて来た!
「オボウさん、死者がやって来ました。
女性と、えっ?
あっ!男性が道の端から端へ、助走をつけて、ジャンプ!って、あんな高い塀を蹴り上がって、塀に手をかけた!嘘っ!凄い身体能力!」
「はあ?あおいさん、何言っているのですか?
それじゃあ、まるで脱走を企てているみたいじゃないですか……」
「あっ、塀の外に降りました!って、えーーー!
鬼さん、大変!脱走です!早く捕まえて!」
大声で、あおいが叫んだ。
「はあ?脱走?本当なのか?
なら、サイレンを鳴らさないと!」
オボウがサイレンのボタンを押す。
ウーウーウー ウーウーウー
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ!
鬼の集団が塀にある隠しドアから、一斉に無言でやって来て、塀の外に出て行った。
「あんな所にドアがあったんですね!
ドアノブも無いし、わからなかったです」
「たまに脱走する人が現れますから、すぐに捕まえられるようになっています。
もう、捕まった頃でしょう。
全く、無駄な事をして……減点になってしまうというのに……。
さっ、あおいさん、次の人が来たから、受付をしなさいな」
あおいが女性の受付を済ませたところに、鬼に捕まった男が、連行されてきた。
見た目は、若々しい男だ。
「ここから、僕が受付をやっておきます。
あおいさんは、この人と鬼と一緒に、変成王様の所に行って来なさいな。
勉強をしていらっしゃい」
受付を済ませた脱走男が、2人の鬼に両脇を掴まれて、連れて行かれた。
その後をあおいがついて歩く。
あっ、真っ直ぐに判決室に行くみたいだ……。
大抵の人は、建物の中に入って、受付順に椅子に座り、前の人が移動すると、その空いた席に移動して、自分の番を待つのだ。
鬼がドアの無い小部屋に入って行く。
立ち止まった先には、閉まっているドアがあり、横には椅子がひとつ置いてあった。
ドアには、判決室と書いてある。
「椅子に掛けてお待ち下さい。
あら、連行されたのですね。
では、そのまま、お待ち下さい」
女性のスタッフが言った。
男は、観念したように 項垂れて、話し始めた。
「さっきは、すみませんでした。
別に逃げようとした訳ではありません」
「えっ、逃げているようにしか、見えませんでしたけど!」
あおいは、すぐさま突っ込みを入れた。
「俺は、ロッククライミングをやっているから、壁を見ると、つい、登りたくなってしまうんです。
本当にご迷惑を掛けてしまい、申し訳ありませんでした」
男がそんな事を言っても、鬼たちは、男を掴む手を緩めない。
「へー、ロッククライミングですか?
凄いですね。
本当、身体能力がハンパなくて、関心しましたもの!そうだったんですかー」
私も生きていたら、屋内施設にあるカラフルな石を登ってみたかったなー。
ドアが開き、中から女性が呼ぶ。
「次の方、どうぞ中にお入り下さい」
判決室係のハナヤさんだ。
「あなたの、名前と生年月日を言ってください」
男は、小さな声で答えた。
男と共に鬼2人とあおいも一緒に部屋に入ったのである。
執務机に置いてあるコンピューターを変成王が見て、話し始めた。
「第4の天秤のデーターと、第5の水晶の映像がここにあります。
私は、嘘が大嫌いです。
質問には、正直に答えなさい。
よろしいですね?」
「は、はい……」
「では、聞く。
あなたは、何故、鬼に連行されているのですか」
「えっ、あの、その……」
男は、言葉に詰まってしまった。
沈黙が続く。
「あのぉ、すみません、受付のあおいです。
この人は、ロッククライマーで壁を見ると登りたくなるそうで、それで、塀を登って降りてしまったそうです」
はっ、しまった!口を出してしまった!
もう、おとなしくしておこう。
変成王は、ギロリと男を睨みつけている……つもりでいる。
凄味を効かせた声で、背は高いが、余りにも顔が可愛いので、今ひとつ、迫力に欠けているのが、残念なところだ。
「ほう、ロッククライミングをしているのか。
何のためにしているのですか?
お金のためですか?」
「えっ、いえ、それは……」
「あなたのしてきた事は、全て分かっている!
今から、映像を見せよう。
はい、流して!」
突然、明かりが消され、暗くなった。
変成王の後ろにあったスクリーンに、映像が映し出される。
そこには、団地の壁をよじ登り、他人の部屋に侵入しようとして、見つかり、侵入失敗!という男の姿があったのだった。
「うわぁ、これは自分じゃないです。誰かが捏造したんですよ!本当です!
こんなの、嘘だ!」
「私は、嘘が大嫌いだ!と言ったはずだが?
あなたは、確かに会社の仲間と岩登りをしていましたね。
だが、仲間の金に手をつけた。
それがバレて、岩登りができなくなったばかりか、会社にもいられなくなった…… 。
そして、団地に盗みに入ったということですね?
ハナヤさん、ペンチを持ってきて下さい」
「ひぃ、ペンチ……何をする気ですか?」
男は、震えながら聞いた。
あおいも何をする気なのか、と恐れて見ている。
変成王は、右手にペンチを持ち、改めて言う。
「では、聞こう。あなたは、同僚たちから集めた金を使い込んだ、そうだな?」
ペチンッ!
針金を切った音だ。
「はっ、はい!」
「団地に忍び込んで、金を盗もうとした、そうだな?」
ペチンッ!
再び、針金を切った音だ。
「はっ、はいぃ、すみません」
「では、聞くぞ。
何故、鬼に連行されているのだ?」
カチッ!カチッ!
「あー、あー、逃げたんですー!
すみません、許して下さーい」
カチッ、カチッ!
男の口元で、ペンチを動かした。
鬼に抱えられているが、男の身体の力が抜けていくのが分かる。
「それでは、判決を言い渡す。
大木 行永、等活地獄の刑に処す。
但し、あなたは、岩登りをしていた。
その為の 努力をしていた人であることは、この私が認める。
ですから、私からの餞の言葉を与えよう。
素直に罰を受け、堪えたら道が見つかるはずだ。
もし、一筋の光に気づくことができたら、迷わず、光の中に入るのです。
さあ、行永よ、行くがよい!」
あおいは、振り向く男に、頑張れよ!というように、何故かガッツポーズをして見送ったのだった。
男は、そのまま鬼たちに連行されて行った。
男の立ち止まった所には、いくつものドアがあり、1番手前にあったドアを鬼に開けられた。
鬼に背中を軽く押されたが、男は足を踏ん張っている。
そこは、暗く、ピューっと風の音が聞こえ、叫び声も聞こえてきて、
熱風を感じ、恐ろしい所であることは、容易に想像できたからだ。
「ああ、怖い」
男は、思わず呟いたが、変成王の言葉を思い出し、素直に罰を受けようと、震える足を前に進めた。
男は、振り向かずに大きな声で言う。
「迷惑を掛けて、すみませんでした!
一緒にいてくれて、ありがとうございました!」
鬼たちは、目を見開き驚きの表情と共に、頑張れと言うように、手を振った事は、男は知らず、暗闇に消えていったのだった。
「あ……変成王様、お邪魔致しました。
とても、勉強になりました。
失礼しました」
変成王に何かを言われる前に、さっさと部屋を出たあおいなのだった。
初めて、判決を出す場に立ち合い、結果、地獄には違いないが、ほんの少しの温情があって、あおいの心をほんわか温めてくれたのだった。
当たり前なんだろうけど、変成王様はいい人なんだな……。
あおいは、軽やかにオボウの待つ、受付所に戻って行った。
「寒っ」
あおいは、首に巻いたエンジ色のスカーフを結び直す。
時折、冷たい強風が巨大な壁に吹きつけてくる。
対の黒い石門柱の間は、3人横に並んでいっぱいの幅だ。
その石門柱の片側の外に、2人くらい入れる広さの小屋があって、緑札用の受付所となっている。
「受付を済ませたら、門の中へお入り下さい」
どんなに悪態をついて生きてきた人であっても、門に入る手前では、必ずと言っていいほど、躊躇うものである。
そのため、立ち尽くす死者がいると、鬼が2名やって来て、その両隣に立ち、腕を組む様にして持ち上げ、門の中へと連行するのだ。
門の内外には、等間隔にジャージの鬼が立ち、睨みをきかせている。
その効果なのか、はたまた、
お線香の香りが、死者の心に、落ち着きを与えているのかわからないが、皆、無言だ。
緑札の者は、ここ第6の門 で、再吟味をされ、最終判決を出されるのである。
ここまで来る間に、緑札の死者の点数は減点されていて、大抵は地獄行きになるようだ。
だが、緑札であっても吟味の結果、ごく稀に、第7の門まで行ける者もいるのだ。
そして、白札の者は、白札専用門から第6に入るが、行列の進みが早いのだ。
なぜなら、子ども以外の死者たちは、第5の門で、一応、判決は出されているから、白札の者を軽く確認するようにして、次の門へと進ませているからだ。
そう、ここは、緑札の者をじっくりと裁く事に、重きを置いている場所なのだ。
「あおいさん、次は あなたが声を掛けなさいな」
狭い受付所の中に窮屈そうにいる男性が話したのであった。
小太りで、ツルツル光る坊主頭の60代くらいの男性だ。
その名も“オボウ”さんである。
あおいは、初対面で、名前を聞き、吹き出してしまい、他の人から叱られていた。
本当の名前かどうかは知らない。
噂によると、第6の門 所長である変成王が見た目で、「お坊さん」と呼んだことから、そんな名前になったとか。
そのオボウが、あおいの教育係をしているのだ。
「オボウさん、 このリスト順か、その前後周辺に名前がありますよね?」
向こうから、フラフラ歩く男性がやって来た。
あの人は、男だから、この人かな?
「はい、こちらで受付をして下さい。
額を確認します、見せて下さい」
ピッ!
札を読み取る機械、長いコードが付いたモバスキャンを死者に近づけると、手元にあるコンピュータにデーターが出る。
「では、氏名、年齢、住所をおっしゃって下さい。はい、確かに」
男性は見るからに、とても疲れた様子ではあったが、素直に話してくれた。
「では、門よりお入り下さい」
頷いたその男性は、門の中へと2、3歩、歩んだと思ったら、よろける様に倒れてしまったのだ。
「ちょっと、児玉さん!児玉さん!大丈夫ですか?」
あおいが名前を呼びながら、身体を起こそうとすると、青鬼が無言で腕を出し、あおいを制した。
「あおいさん、それは鬼の仕事です。
戻りなさいな!次の人が来ます」
青鬼が児玉を担いで、専用休憩室に連れて行った。
それから、程なくして死者の姿が、途絶えた瞬間がやってきた。
「あおいさん、双眼鏡で遠くの方から、死者が来るか見張りなさいな」
あおいは、首に掛けている双眼鏡で死者の道を覗いた。
「あおいさん、どうですか?人が来ますか?」
うーん、誰もいないなー!
あっ、あの辺には鬼がいないんだ……
おっ、人が来た!
「オボウさん、まだ、遠いですけど、人が来ました。女性のようです」
どんな悪い事をしたのだろう。
おっ、女性の後ろ方から、男性が歩いて来た!
「オボウさん、死者がやって来ました。
女性と、えっ?
あっ!男性が道の端から端へ、助走をつけて、ジャンプ!って、あんな高い塀を蹴り上がって、塀に手をかけた!嘘っ!凄い身体能力!」
「はあ?あおいさん、何言っているのですか?
それじゃあ、まるで脱走を企てているみたいじゃないですか……」
「あっ、塀の外に降りました!って、えーーー!
鬼さん、大変!脱走です!早く捕まえて!」
大声で、あおいが叫んだ。
「はあ?脱走?本当なのか?
なら、サイレンを鳴らさないと!」
オボウがサイレンのボタンを押す。
ウーウーウー ウーウーウー
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ!
鬼の集団が塀にある隠しドアから、一斉に無言でやって来て、塀の外に出て行った。
「あんな所にドアがあったんですね!
ドアノブも無いし、わからなかったです」
「たまに脱走する人が現れますから、すぐに捕まえられるようになっています。
もう、捕まった頃でしょう。
全く、無駄な事をして……減点になってしまうというのに……。
さっ、あおいさん、次の人が来たから、受付をしなさいな」
あおいが女性の受付を済ませたところに、鬼に捕まった男が、連行されてきた。
見た目は、若々しい男だ。
「ここから、僕が受付をやっておきます。
あおいさんは、この人と鬼と一緒に、変成王様の所に行って来なさいな。
勉強をしていらっしゃい」
受付を済ませた脱走男が、2人の鬼に両脇を掴まれて、連れて行かれた。
その後をあおいがついて歩く。
あっ、真っ直ぐに判決室に行くみたいだ……。
大抵の人は、建物の中に入って、受付順に椅子に座り、前の人が移動すると、その空いた席に移動して、自分の番を待つのだ。
鬼がドアの無い小部屋に入って行く。
立ち止まった先には、閉まっているドアがあり、横には椅子がひとつ置いてあった。
ドアには、判決室と書いてある。
「椅子に掛けてお待ち下さい。
あら、連行されたのですね。
では、そのまま、お待ち下さい」
女性のスタッフが言った。
男は、観念したように 項垂れて、話し始めた。
「さっきは、すみませんでした。
別に逃げようとした訳ではありません」
「えっ、逃げているようにしか、見えませんでしたけど!」
あおいは、すぐさま突っ込みを入れた。
「俺は、ロッククライミングをやっているから、壁を見ると、つい、登りたくなってしまうんです。
本当にご迷惑を掛けてしまい、申し訳ありませんでした」
男がそんな事を言っても、鬼たちは、男を掴む手を緩めない。
「へー、ロッククライミングですか?
凄いですね。
本当、身体能力がハンパなくて、関心しましたもの!そうだったんですかー」
私も生きていたら、屋内施設にあるカラフルな石を登ってみたかったなー。
ドアが開き、中から女性が呼ぶ。
「次の方、どうぞ中にお入り下さい」
判決室係のハナヤさんだ。
「あなたの、名前と生年月日を言ってください」
男は、小さな声で答えた。
男と共に鬼2人とあおいも一緒に部屋に入ったのである。
執務机に置いてあるコンピューターを変成王が見て、話し始めた。
「第4の天秤のデーターと、第5の水晶の映像がここにあります。
私は、嘘が大嫌いです。
質問には、正直に答えなさい。
よろしいですね?」
「は、はい……」
「では、聞く。
あなたは、何故、鬼に連行されているのですか」
「えっ、あの、その……」
男は、言葉に詰まってしまった。
沈黙が続く。
「あのぉ、すみません、受付のあおいです。
この人は、ロッククライマーで壁を見ると登りたくなるそうで、それで、塀を登って降りてしまったそうです」
はっ、しまった!口を出してしまった!
もう、おとなしくしておこう。
変成王は、ギロリと男を睨みつけている……つもりでいる。
凄味を効かせた声で、背は高いが、余りにも顔が可愛いので、今ひとつ、迫力に欠けているのが、残念なところだ。
「ほう、ロッククライミングをしているのか。
何のためにしているのですか?
お金のためですか?」
「えっ、いえ、それは……」
「あなたのしてきた事は、全て分かっている!
今から、映像を見せよう。
はい、流して!」
突然、明かりが消され、暗くなった。
変成王の後ろにあったスクリーンに、映像が映し出される。
そこには、団地の壁をよじ登り、他人の部屋に侵入しようとして、見つかり、侵入失敗!という男の姿があったのだった。
「うわぁ、これは自分じゃないです。誰かが捏造したんですよ!本当です!
こんなの、嘘だ!」
「私は、嘘が大嫌いだ!と言ったはずだが?
あなたは、確かに会社の仲間と岩登りをしていましたね。
だが、仲間の金に手をつけた。
それがバレて、岩登りができなくなったばかりか、会社にもいられなくなった…… 。
そして、団地に盗みに入ったということですね?
ハナヤさん、ペンチを持ってきて下さい」
「ひぃ、ペンチ……何をする気ですか?」
男は、震えながら聞いた。
あおいも何をする気なのか、と恐れて見ている。
変成王は、右手にペンチを持ち、改めて言う。
「では、聞こう。あなたは、同僚たちから集めた金を使い込んだ、そうだな?」
ペチンッ!
針金を切った音だ。
「はっ、はい!」
「団地に忍び込んで、金を盗もうとした、そうだな?」
ペチンッ!
再び、針金を切った音だ。
「はっ、はいぃ、すみません」
「では、聞くぞ。
何故、鬼に連行されているのだ?」
カチッ!カチッ!
「あー、あー、逃げたんですー!
すみません、許して下さーい」
カチッ、カチッ!
男の口元で、ペンチを動かした。
鬼に抱えられているが、男の身体の力が抜けていくのが分かる。
「それでは、判決を言い渡す。
大木 行永、等活地獄の刑に処す。
但し、あなたは、岩登りをしていた。
その為の 努力をしていた人であることは、この私が認める。
ですから、私からの餞の言葉を与えよう。
素直に罰を受け、堪えたら道が見つかるはずだ。
もし、一筋の光に気づくことができたら、迷わず、光の中に入るのです。
さあ、行永よ、行くがよい!」
あおいは、振り向く男に、頑張れよ!というように、何故かガッツポーズをして見送ったのだった。
男は、そのまま鬼たちに連行されて行った。
男の立ち止まった所には、いくつものドアがあり、1番手前にあったドアを鬼に開けられた。
鬼に背中を軽く押されたが、男は足を踏ん張っている。
そこは、暗く、ピューっと風の音が聞こえ、叫び声も聞こえてきて、
熱風を感じ、恐ろしい所であることは、容易に想像できたからだ。
「ああ、怖い」
男は、思わず呟いたが、変成王の言葉を思い出し、素直に罰を受けようと、震える足を前に進めた。
男は、振り向かずに大きな声で言う。
「迷惑を掛けて、すみませんでした!
一緒にいてくれて、ありがとうございました!」
鬼たちは、目を見開き驚きの表情と共に、頑張れと言うように、手を振った事は、男は知らず、暗闇に消えていったのだった。
「あ……変成王様、お邪魔致しました。
とても、勉強になりました。
失礼しました」
変成王に何かを言われる前に、さっさと部屋を出たあおいなのだった。
初めて、判決を出す場に立ち合い、結果、地獄には違いないが、ほんの少しの温情があって、あおいの心をほんわか温めてくれたのだった。
当たり前なんだろうけど、変成王様はいい人なんだな……。
あおいは、軽やかにオボウの待つ、受付所に戻って行った。
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