冥界の仕事人

ひろろ

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第六章: 新人仕事人 修行の身

禊の鳥居

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  あおい とオストリッチが修行に出てから、1年半の月日が流れていた。


 時の流れの中には、新盆や一周忌という大イベントもあったのだが、それは話す機会があれば、という事にしよう。


 あおいは、第6の門から、第2の門、第1の門へと修行の場が異動となり、現在は第7の門にあるみそぎの鳥居入口受付にいるのだった。


「スズマさん、外から見ると 第7って、建物が大きいですね」


 あおいが男性スタッフに話しかけた。


あおいの教育係、スズマという おじさんだ。


「他の門の建物も大きい所はあるけどな。まあ、ここも大きい方だろう。

第7の建物の中には、最終裁判室が3つあって、白札の人が裁かれている。

それに、子ども審判所もあるし。

裁判しだいで必要に応じ、泰山王様が面会をして判決を下す所長室に、事務所、スタッフルーム、子ども待合室もあるから、広くなったんだろう」


 あおい とスズマは、左手にある建物を見ながら話していた。


 その左手には、第7の建物から出る 子どもと白札の人が通る道が見えている。


 それから、正面には、第6から歩いてくる緑札の道が見えていて、右手には禊の鳥居がある。


 あおいがいる背後は、背の高い垣根で他の建物と仕切られている。


 それは、第6の門で判決が出た緑札の一部の人が直接、鳥居入口受付に来るから、防犯のためだ。


ここは、白札の人と緑札の人が合流する場所であるから、スタッフや鬼の人員が多く配置されているのだった。


「ホント建物が多いですよね。

 死神管理棟や生命の泉、禊の鳥居があるし。

第7は、他の門より、とてつもなく広い敷地なんですね」


 「そうだろう!でも、まだあるぞ!

この禊の鳥居をくぐった先にも、建物があるんだ。かなり下って行くから見えていないがな」


「あっ、そうか!ここに来る人たちも仕事をするんですよね。

建物があるんですね。
どんな、仕事なんですか?」


「いろいろあるぞ、また、後で教えてやる。

おっ、白札の人が来るぞ。
緑札の人も来る。

 他の先輩をしっかり見ていろよ。
 要領良くやっているからな」

 
 ここでの仕事は、死者が来たら、ポータブルコンピューター、略してポタコンに額の札のデーターを取り入れ、死者に貼る札を出して、それを背中に貼る作業をしているのだ。


 あおいは、先輩の動きを観察する。


「来た死者の所へスタッフが、2人1組で寄って行った。

それから、ポタコンについているモバスキャンで、ピッと読み取って。

あっ、小さな札が出てきた。

紐のついたポタコンを、バックのように斜め掛けして持っている人が、死者に話しかけている隙に、もう1人がポタコンから札を取った!

うんうん、こうやるのか」


 あおいは、実況しながら見ている。


「ほら、ここから、じっくり見ていろ」


とスズマが言った。


 2人のスタッフが、死者に話しかけている。


「あちらの鳥居をくぐってもらいます。
 どこの鳥居でも構いません」

 
「知っていると思いますが、この先に行って働いてもらいます。

ご自分の足で、行って下さい。
では、移動をお願いします」


 スタッフが、死者の背中に軽く触れて、先に行くよう促した。


「あっ!」


ここか!


背中に軽く触れた時だ!


その時に、札を持ったスタッフが、背中を押すようにして、札を貼ったんだ。


 札は、直ぐに身体の中に消えていったのだった。


 その死者は、3つの赤い鳥居の前に立ち、見上げて立ち止まるが、直ぐに真ん中を選び歩いて進んで行った。


「ほほぉ、なるほど」


「あおい君、どうだ?やってみるか?」


 あおいは、これは簡単と思い、挑戦してみることにした。


 スズマさんがポタコンを持ち、あおいが貼る役目だ。


「緑札の人が来たから、行くぞ。来い」


 スズマが先頭で、死者に近寄って話す。


「長い道中、大変 お疲れ様でした。

額の札のデーターを、読み込ませて頂きます。

では、失礼します……」


 そう言ってピッとすると、札が直ぐに出できた。


 スズマは、あおいに札を取れというように合図を送る。


「にいちゃん、ここの鳥居に入って俺が働かなきゃいけないのかい?

こんな年寄りを働かせるのかい!

力仕事は無理だぞ。
簡単な仕事がある所は、どの鳥居だい?」


 緑札の老人が聞いてきた。


 あおいは、札を取ろうとするがスズマが微妙に動いて、なかなか取れないでいた。


「申し訳ございません。
それは、何とも言う事ができないのです」


と言いながら、スズマが札を取って下から、あおいに渡した。


 そっと受け取った あおいは、


「どうぞあちらの鳥居にお進み下さい」


  ポンっと、背中を軽く叩くように、貼り付けてしまった。


「はあ?ねえちゃん、何だい?
叩いたのかい?文句でもあんのか?」


 あれ、失敗だった?やばい!


「あー、うちの新人が失礼をしました。

つまずいてしまったようです、申し訳ございません」


 あおいも、スズマに合わせて謝った。


 そして、老人は、左の鳥居へと入って行ったのだった。


「あおい君、素早く札をポタコンから取って!

それと、優しく札を背中に貼る事!
いいね?」


  ちょっと力が、入り過ぎたみたいだ。
 

あおいは、肩を回して準備体操をして、気合いを入れ直す。


「次、来たから行くぞ」とスズマが言った。


「はい。って、えっ、は?いー?」


 あおいは、自分の視力が落ちたかと思い目を擦ってみた。


 げっ、小学生?


第6の時には、中学生の子どもが来たけど、今度は本当に子どもだ!


 緑札……マジ?


 あおいが動揺している事に気づいたスズマが、咳払いをして、


「しっかりやれ」と言った。


「はい、おでこを出して下さい。
君は、何歳ですか?

あっちにある3つの鳥居の事は、聞いているかな?

 わかりますか?」


 スズマは身体を屈めて、優しく問いかけていた。


 ポタコンから出てきた札を、あおいは取る。


「僕は、11歳だよ。

あそこにある赤いやつのどれかに、入ればいいって言われた」


「君は、何か悪いことしちゃったのかな?」
 

 あおいは、聞かずにはいられなかった。


 小学生が緑札になるなんて、信じられなかったからだ。


 「うん。僕さぁ、友達にさぁ、駄菓子屋でさぁ、お菓子を取ってこいって、命令したんだ。

そしたら、友達が嫌がったから、いじめちゃったんだ……。

でね、さっき、向こうにいたお爺さんに怒られた」

 
「そうか、それはいけない事をしちゃったんだね。

 反省しなきゃだね!

あっちにある鳥居のどれかに進んで行ってね。
どれでも、いいからね」


 今度は優しく、背中に貼り付けて誘導した。


 小学生の男の子は、左の鳥居をくぐって行ったのだった。


「向こうで?お爺さんに怒られたと言っていましたけど、誰に怒られたのでしょうか?」


「ああ、それは泰山王様だろう。

子ども審判所で判定され、泰山王様に判決をお願いしたのさ。

きっと その時に、叱られたんだろうよ。


たまに来る緑札の人の判定はもちろん、白札の人の際どい判定の時も、最終判決は泰山王様がして、地獄行きや、その逆の天界行きなどを決定するんだ」


「そうなんですか……。

ここから、地獄、天界行きが決定される事があるんですね……。

それで、スズマさん、左の鳥居って、怖い所なんですか?

緑札の人が入っていったから……」


「中に入ると、職種は色々とあるぞ。
子どもには、出来る事をしてもらうだろうな」


 あおいは、少なくとも怖い所では無さそうだと思い、ほっとしたのだった。


「あおい君は、どこの鳥居に入ってみたいと思うんだ?

右、真ん中、左?
どれかに行って働いて来るか?」


「えっ?あの中で?働くんですか?

ま、まさか、私、札を背中に貼られたんですか?」


 やっばーい、私、腹黒だって、見抜かれた?


 金札から降格って、あるの?


 えーん、怖いよー!

 
 スズマは、ニヤリと笑っていたのだった。
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