冥界の仕事人

ひろろ

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第六章: 新人仕事人 修行の身

赤ちゃんが?

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  ちょっと、ちょっと、嘘でしょう。
 
私がみそぎの鳥居をくぐって、働きに行くの?

「スズマさん、本気で言っているんですか?」


 スズマは、ニヤニヤしながら言う。


「冗談だ!見学に連れて行ってやろうと思ってな。

右が縫製工場だ。
冥界で働く人の服を作っている。

 真ん中は、冥界で使う物を作る製造工場だ。

 そして、左は発電所だ。

 どこに行ってみたいか考えておけ」


 ああ、冗談だったのか……。

分かりづらい冗談だ、驚いた……。

 縫製工場と製造工場と発電所か……。

 どこに行こうかな。

 
「ほら、白札の人が来る!行くぞ」


 第7の建物から2名の人が出て来た。


 先に男性、後から女性だ。
 

「あれ?2人の後ろの方から、とても小さい子が歩いています!

 えっ?赤ちゃん?

ヨチヨチ歩いているように見えるけど……。

はっ?随分、小さい!

生まれて間もない感じ?

 もう、歩けるの?
目の錯覚かな?私が変?」


 あおいは、目を凝らして見てみる。


 ひぃ、嘘みたいっ!


赤ちゃんだ、赤ちゃんが歩いてる!


「ほれ、先に来た人の所に行くぞ」

 第7の建物から、先に出た男性の側へ行く。

 後から来た女性の側には、違うスタッフ達が行ったのだった。

 
 赤ちゃんは、到着までに時間がかかる様子だ。


 あおい達は、男性を左の鳥居に送り出し、他のスタッフと共に、赤ちゃんの到着を見守っている。


 ヨチヨチ歩きなので、後ろから来た白札の女性が大きな声で、


「抱っこしてあげようか?」


と声を掛けたのだが、


「自分で歩きましゅ」


と大きな声ではっきりと答えた。


 がーん!喋った!言葉も話せる!


 ほんとっ、この世界は、 何でも有りじゃん!
 

 もしかして、この赤ちゃんにも仕事を与えるのかな?


 そうだとしたら、ある意味、厳しい世界なのかもしれないな……。


 それで、どの鳥居に行くのか気になる。


 赤ちゃんがやっと到着したけれど、他のスタッフが受付をする番だったので、あおい達は他の人の所に行ったのだった。


 あおいは、緑札のお婆さんの背中に軽く手を添えて、鳥居へと促しながら、自然に札を貼る。


 お婆さんは、やはり左の鳥居に入って行った。


 やっぱり、左の方はヤバそうな所なんじゃないかな?


発電所って、何?


「あっ、赤ちゃんが鳥居へ向かって歩き出しましたね、どこに行くんでしょうか?

 スタッフが1人付いて、一緒に歩いて行くんですね。

そうですよね、あんなに小さな赤ちゃんを放置できませんものね。良かった」


 一緒に歩くスタッフは、何かを持っていたが、あおいは特に気にしていなかった。


 あおいは、赤ちゃんから目が離せないでいる。


 ヨチヨチ歩いて行ったのは……。


 右の鳥居だ!縫製工場だっけ?


 赤ちゃんが縫い物なんて、できるわけないでしょう?


どんな所だろう?


気になる……。

………………

「泰山王様、鳥居入口受付のスズマさんと あおいさんが、鳥居の中への入場許可を求めておりますが……。
判をお願いします」

 
 スタッフの玲子が、入場許可書を持ってきた。
 

「はい、はい、判子ですかな……」


 判を押そうとする泰山王の手が、ピタッと止まった。


「あおいさんですか?
ほほう、順調に成長しているようですな。実に良いですぞ。

 鳥居の中を見学したいとは、向上心もあって、実に良い傾向ですな。

ご褒美をあげましょう。

 あおいさんは、喜んでくれますかな」


「さあ、どうでしょうか。
では、渡して参ります」
 

 玲子は、入場許可書をスズマに渡したのだった。

………………

 鳥居の中に入る許可をもらった翌日。


 あおい とスズマは、鳥居の前までやって来た。


「さあ、あおい君、どこの鳥居に入るんだ?」


 スズマに聞かれて、あおいは答えた。


「右の縫製工場にします」


「そうか、では、行こう。急な下り坂だから気をつけろ」


  はい、気をつけます……って、えっ?


 とっ、とっ、とっ、とととととー


 足が勝手に走り出しちゃう!


 あおいだけでなく、スズマも同時に走っている。


「こ、ここは、走らずにはいられなーい!

止まらなーい。

言っておくが、帰りは、登りだからなーーーーー」


 スズマが走りながら叫んだ。


「マジですかーーーワァァーーとまらなーい」


  2人は、下にある白い建物を目指して、走って行くのであった。

  
 スズマの脚がもつれて転ぶ姿が見えたが、止まる事が出来ないので、あおいは先に行く。


「ふぅー、やっと止まった……」


 3階建の白いビルの前に立つ あおいは、スズマの方を振り返って見た。


 スズマも平坦な場所に着いていた。


 わっ、スズマさんの黒いスーツがボロボロになっている!


 怖い顔して、近寄って来るよ……。


「はぁ、酷い目にあった……。
君の為に付き合っているのだから、しっかりやってくれよ」


「はい……」


 スズマさんは、何をしっかりやれと言ったのかな?

 
 まっ、いいか。


 しっかりやります!


 それから2人は、建物の中に入り、スズマが受付をしているのを待っていた時だ。


 キャッ、キャッ、あはは、はっはは……


 どこからか、楽しげな声が聞こえてきたのだ。


 あおいは、キョロキョロしながら、声がする方に歩こうとして、スズマに呼び止められた。


「こらっ、勝手に行くな!ほら、この服に着替えろ」


 渡されたのは、灰色の長袖、長ズボンの作業着だ。


「えっ、見学なのに着替えが必要なんですか?」


「あっ、帽子も被れ。あおい君、はい、これ」


「はい、すみません……って、スズマさん、私、見学なんですよね? 
ですよね?」


 あおいは、上目遣いでスズマを凝視する。


「泰山王様からのご褒美なんだそうだ。

 有り難く受け取りなさい」


 あおいは、意味が分からないまま案内の女性 マチコに連れられ、着替えをしたのだった。


 更衣室の外で待っていたスズマは、いつもの黒いスーツのままだ。


 さっき転んで、ズボンの膝が破けている。


「スズマさんは、着替えないんですか?」


「ああ、着替えないぞ。
君だけが、ご褒美を貰えたんだから!

 あー、羨ましいなあ。さっ、行くぞ」


 えー、嫌な予感しかしません!


 私、自慢じゃないですけど、裁縫が大嫌いなんです!


 というか、出来ないです!

 
 自分の生前の、生きている人間との関わりは忘れているけど、ある程度の行動は覚えている。


 私は、スカートの裾がほつれたら安全ピンで留めちゃう女です!


 そんな私に裁縫をしろと、きっと言うのでしょうね……。


 無理です!そんなの無理だから!


 右の鳥居なんて選ばなきゃ良かったよー


 どうしよう、リッチくーん!助けてー!


 やっぱり、背中に札が貼られて自動的にここへ来ちゃったのかしら?


 どう考えても不器用な私が来てはいけない所です!


 リッチくーん、助けに来てくれー


 果たして、あおいの心の叫びがオストリッチに届いているのであろうか……。
 
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