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第三章 初デートと新たな出会い
第26話 一学期が終わり、夏休みが始まる
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「まだ時間大丈夫だったら大翔君も詩那ちゃんもアズキに会っていってあげて」
麻理のその言葉で、麻理を除く五人でバックヤードへと向かった。
春陽も一緒に行かせたのは、猫を飼ったことがある人が一人はいた方がいいだろうと麻理が考えたためだ。
大翔と詩那が中心となり、アズキと戯れている。
雪愛は先ほどいっぱい触れ合ったし、悠介は触ろうとしたら威嚇されてしまったため後方に控えている。
大翔と詩那も大丈夫で、悠介は威嚇されたのが自分だけなことに若干落ち込んでいる。
二人とも目をキラキラさせており、本当に楽しそうだ。
大翔は昨日の元気のない姿を見ていたため余計に嬉しいのだろう。
だが、しばらく経ったところで、大翔が寂しそうな表情になった。
「やっぱりお家で飼いたかったな……」
どうやら実際に遊んで、アズキを家で飼いたい気持ちが再び強くなってしまったようだ。
「そうだね…。でも、麻理さんもいつでも遊びに来ていいって言ってくれてるし。また来よう?」
「うん……」
詩那も大翔の気持ちが痛いほどわかり、大翔に寄り添うように言葉をかけた。
そんな二人に何と声をかけていいかわからない悠介と雪愛だったが、春陽がスッと大翔の隣にしゃがんだ。
「大翔、会いたい時に会いに来ればいい。もうすぐ夏休みもあるしな。だからそんな顔するな。お姉ちゃんを困らせたい訳じゃないだろう?」
その声はいつにも増して優しく、表情も柔らかかった。
「うん……」
「先輩?」
姉弟間でのやり取りに、突然春陽が大翔を宥めるように話し出したため、詩那が不思議そうに首を傾げる。何だか優しいお兄さんという感じで、詩那が勝手に抱いていた春陽のイメージと随分違っていたのだ。
「お姉ちゃん、大翔のことすごい心配してるぞ?……大翔はお姉ちゃんのこと好きか?」
「うん…」
そんな話を目の前でされ、詩那は恥ずかしさから顔が熱くなるのを感じた。
「そっか。いいお姉ちゃんなんだな。なら、大翔も元気出さないとな」
春陽はそっと大翔の頭を撫でた。
「うん」
大翔はくすぐったそうに撫でられながら、頷くのだった。
悠介はその様子を苦笑のような何とも言えない笑みを浮かべて見つめており、雪愛はそんな悠介を不思議に思いながらも優しげな表情で春陽に感心していた。
その後、気を取り直した大翔と詩那は再びアズキと戯れて、皆にお礼を言って満足そうに帰っていった。
期末テストも無事終わり、もうすぐ梅雨も明ける。つまりは一学期の終わり、夏休みが近づいてきていた。
そんなある日。
春陽達は夏休みの予定について話していた。
悠介は毎年長野にいる祖父母のところに家族で行くことが決まっており、雪愛も母親と旅行に行く計画を立てており、北海道に行くそうだ。
春陽だけは、バイト漬けだなと通常運転だった。
次に、夏休みの強制宿題であるオープンキャンパスの話になった。
互いに、と言っても春陽は悠介と同じだが、どの大学に行くか話していたら、複数校行くことになっているオープンキャンパスのうち、一校が雪愛とも被っていた。
雪愛は瑞穂と一緒に行く予定らしい。
そんな風に、いつものように春陽、雪愛、悠介で話していたところに、瑞穂が雪愛に抱き着くようにして入ってきた。偶然にも近くにいて自分の名前が聞こえてきたからのようだ。
「なあに雪愛?なんの話してたの?」
「きゃっ!?…なんだ、瑞穂か。吃驚するじゃない」
突然の乱入者に驚きつつも、瑞穂だとわかり、すぐに落ち着いて雪愛はオープンキャンパスの行先が春陽達と同じだったと瑞穂に説明した。
すると、「そうなんだ」と言ったかと思ったら、その場から離れていき、和樹を連れてきた。
「それならさ、和樹も行く予定だから五人で行かない?」
「何の話だよ?」
和樹は突然連れてこられて、内容が全くわからない。
「オープンキャンパスよ。みんな同じところ行くみたいだからさ」
「ああ、なるほど」
それで色々と察する和樹。できた男である。
「俺らはいいけど、和樹はいいのか?他の奴と一緒に行く約束とか」
悠介が気を利かせて和樹に聞く。
「いや、誰ともそんな約束はしてないから大丈夫。俺もこのメンツで行けるならそっちの方がいいし」
和樹は当初本命の一校は瑞穂と二人で行くつもりで瑞穂ともそう話していたのだが、瑞穂がずっと煮え切らない態度をとって保留にしていたのだ。
人気校のため、光ヶ峰の生徒がほぼ確実にいるということが瑞穂にとってはハードルが高く足踏みしていたらしい。
だから和樹は他の人と一緒に行く約束なんかもできずにいた。
瑞穂も悪いと思っていたのか、今回の偶然を渡りに船と五人で行くことを提案したようだ。
こうして、夏休み後半にあるオープンキャンパスへ五人で行くことが決まった。
夏休みの話の流れで、瑞穂が、夏休み中に、予てより考えていた九人でどこかに遊びに行きたいと言い出した。どうしても実行したいらしい。
雪愛も春陽と一緒にどこかに出かけるというのは魅力的で、瑞穂に同調し、花火大会に行きたいと女子二人が盛り上がっていたが、全員いないのだから当然、この場では纏まらず、グループメッセージで決めようということになった。
学校では相談し合う時間は確保しにくいからだ。
そんな中で悠介がそう言えば、といった様子で春陽に聞いた。
「なあ春陽。今年も繁忙期の間、海の家のバイトするってことでいいよな?」
「ああ、ケイさんのところだろ?」
「なになに。二人海の家でバイトするの?」
瑞穂が良いこと聞いたとでもいうように嬉々として乗っかってきた。
悠介の叔父である本名、佐伯啓蔵、本人からケイと呼ぶように強く言われている、がやっている海の家の繁忙期に悠介と春陽は去年からバイトをしている。だいたい一週間程度の住み込みバイトだ。
去年悠介はフェリーチェでこの話を持ち出したため、麻理も承知のことだ。
「そうそ。で、急な話だしあんまり時間も取れないから、もしよかったらってことで、一つメニュー作ってみるか聞いてみてくれって言われたんだけどどうする?」
「っ!?いいのか?」
これには雪愛達も驚いた。高校生に一つとはいえ、メニューを任せるなんて、と。
自分のオリジナルを作れる。春陽がずっとやってみたかったことだ。家庭料理はからっきしの春陽だが、料理は好きだ。フェリーチェは麻理にとって大切な店のため、春陽は気兼ねして新しい料理を作ってみたいなどと自分の我が儘を言うことはできなかった。啓蔵は、去年春陽と話したことを覚えていてくれたらしい。
「向こうから言ってきたんだからそりゃいいだろ。七月中にレシピが必要だけど大丈夫か?」
「……やらせてもらいたい」
少し考えて春陽は答えた。
この時、春陽は自分の家でレシピを考えるつもりだったが、事情を知った麻理が店の厨房を使っていいと言ってくれたので、フェリーチェで作業することになる。
「わかった。レシピできたら教えてくれ。ケイちゃんに送るから。なんなら開発から付き合うぜ?」
「それなら、私も一緒に考えたい!役に立つかはわからないけど……」
雪愛も料理の開発仲間に立候補する。
「ありがとう、雪愛」
雪愛の申し出に春陽は笑みを浮かべてお礼を言った。
「おいおい、俺にはお礼なしか?」
ニヤニヤと笑いながら悠介が言う。だが、その言葉に春陽はジト目を向けた。
「お前はどうせ食べる専門だろう?」
「ま、俺にできるのなんてそれくらいだからな!」
何も悪びれた様子もなく、悠介はカラッとした笑顔で春陽の言葉を肯定した。
そこに瑞穂が加わってくる。
「風見って料理もできるんだ?すごいね。どんなのができるかすごい気になる。ねえ、二人はいつ頃どこの海でバイトするの?」
瑞穂の問いに悠介はチラッと春陽を見るが、春陽は悠介と目が合っても何も言わない。それを確認して、ああ、それはと悠介がバイト期間やどこの海かを瑞穂に説明する。
「そうなんだ。近場だね。ちなみに風見、仮にだけど、私たちが行っても問題ない?」
水族館の時に春陽のスタンスを聞いているからこその確認だ。
言いながら瑞穂は何やら考えている様子だ。
そんな瑞穂に、長年の付き合いからまた何かする気だなと和樹はため息を吐いた。
雪愛は瑞穂が和樹と二人で行くつもりなのだろうなと思い、自分も行ってみたいとちょっと羨ましく思った。
「ああ、そんなこと俺に聞く必要ないだろ?」
(やっぱり春陽くん変わってきてる気がする。……気にしなくなってきてる?)
雪愛は春陽の言葉に春陽の変化を感じていた。
前までの春陽ならそもそも悠介が瑞穂に説明するのを止めていたと思うのだ。
詩那達や瑞穂達のことも、春陽の誕生日の日に麻理が言っていた『内側』に入ったということなのだろうか。
もしそうなら、春陽が関わりを持とうとする相手が増えるのは、雪愛にとっても嬉しい変化だった。
その日の夜、九人のグループでメッセージが行き交っていた。
球技大会の時にこのグループを作った際、瑞穂がこのメンバーでどこかに遊びに行きたいと言っていたことを皆覚えていたようだ。
各々の夏休みの予定を言い合っている。
蒼真と香奈は予備校の夏期講習が結構入っているようだ。
和樹はサッカー部の練習、合宿、大会と忙しいらしい。
空いてる日が少ないのがこの三人だった。
全員の予定が出たところで、瑞穂が皆で行ける花火大会を検索した。
ちょうど全員の都合がつく七月末に河川敷の夏祭りがあった。
花火も打ち上げ数一万発という規模だ。場所が遠くないのもいい。
瑞穂がメッセージでこれを伝えると、呆気ないほど簡単に皆でこの花火大会に行くことが決まった。
また別の日の夜。
雪愛、瑞穂、未来、香奈はパジャマ姿でビデオ通話をしていた。彼女達が時々しているオンラインパジャマパーティーだ。と言ってもお喋りをしているだけなのだが。
「花火大会、みんなは浴衣着ていくー?」
先日決まった花火大会の件で未来が皆に聞いた。
「それ、私も聞きたかった。一人じゃ浮くから着ないけど折角なら着たいとは思ってたんだ」
「着てみたいけど、私浴衣持ってないや」
「私も持ってないわね」
未来の問いへの瑞穂、香奈、雪愛の答えがそれだった。
香奈と雪愛も折角なら着たいというのは同じ気持ちなのか残念そうだ。
「じゃあさー、今度みんなで浴衣見に行こー?」
「でも着付けは?香奈と雪愛はできそう?」
「私はお母さんに聞いてみないとわかんないかな」
「私は大丈夫だと思うわ」
「そっか。香奈、もしできないようでもその時は家に来てくれたらできるよ」
「ありがとう瑞穂ちゃん。それなら着てみたいかな」
「決まりだね。じゃあいつ行く?」
こうして、女性陣は花火大会を浴衣で行くことが決まった。
さらに、
「――――ってことでね、その期間風見と佐伯が海の家でバイトしてるらしいんだけど、四人で遊びに行かない?雪愛がすごく行きたがってるんじゃないかと思ってさ」
瑞穂が話を聞いてから考えていたことを三人に話した。
「なっ!?瑞穂!」
まさかの図星に恥ずかしくなる雪愛。
「海かー。楽しそー」
「しばらく行ってないなぁ。皆で行ったら楽しそうだね」
そうして、こちらも実に簡単に海に行くことが決まり、瑞穂と雪愛が、持ってる水着ではサイズが合わないということで、浴衣を見に行く日に水着も見ようということになった。最初は放課後にでも行くつもりだったが、見るものが増えたのでゆっくり見て回るため、夏休み前最後の休日に行こうと決まった。
雪愛は浴衣に水着にと出費がかさむことが心配になったが、後日沙織に話したら笑って許してくれた。
「なんかー今年の夏はイベント盛りだくさんって感じだねー」
「そうね。私もこんなに予定ができるの初めてかもしれないわ」
「私も。夏期講習とかばっかりだと思ってたから楽しみ」
「折角の夏休みだもんね。遊ぶときは目一杯遊んで楽しもう!」
そして、一学期が終わり夏休みになった。
麻理のその言葉で、麻理を除く五人でバックヤードへと向かった。
春陽も一緒に行かせたのは、猫を飼ったことがある人が一人はいた方がいいだろうと麻理が考えたためだ。
大翔と詩那が中心となり、アズキと戯れている。
雪愛は先ほどいっぱい触れ合ったし、悠介は触ろうとしたら威嚇されてしまったため後方に控えている。
大翔と詩那も大丈夫で、悠介は威嚇されたのが自分だけなことに若干落ち込んでいる。
二人とも目をキラキラさせており、本当に楽しそうだ。
大翔は昨日の元気のない姿を見ていたため余計に嬉しいのだろう。
だが、しばらく経ったところで、大翔が寂しそうな表情になった。
「やっぱりお家で飼いたかったな……」
どうやら実際に遊んで、アズキを家で飼いたい気持ちが再び強くなってしまったようだ。
「そうだね…。でも、麻理さんもいつでも遊びに来ていいって言ってくれてるし。また来よう?」
「うん……」
詩那も大翔の気持ちが痛いほどわかり、大翔に寄り添うように言葉をかけた。
そんな二人に何と声をかけていいかわからない悠介と雪愛だったが、春陽がスッと大翔の隣にしゃがんだ。
「大翔、会いたい時に会いに来ればいい。もうすぐ夏休みもあるしな。だからそんな顔するな。お姉ちゃんを困らせたい訳じゃないだろう?」
その声はいつにも増して優しく、表情も柔らかかった。
「うん……」
「先輩?」
姉弟間でのやり取りに、突然春陽が大翔を宥めるように話し出したため、詩那が不思議そうに首を傾げる。何だか優しいお兄さんという感じで、詩那が勝手に抱いていた春陽のイメージと随分違っていたのだ。
「お姉ちゃん、大翔のことすごい心配してるぞ?……大翔はお姉ちゃんのこと好きか?」
「うん…」
そんな話を目の前でされ、詩那は恥ずかしさから顔が熱くなるのを感じた。
「そっか。いいお姉ちゃんなんだな。なら、大翔も元気出さないとな」
春陽はそっと大翔の頭を撫でた。
「うん」
大翔はくすぐったそうに撫でられながら、頷くのだった。
悠介はその様子を苦笑のような何とも言えない笑みを浮かべて見つめており、雪愛はそんな悠介を不思議に思いながらも優しげな表情で春陽に感心していた。
その後、気を取り直した大翔と詩那は再びアズキと戯れて、皆にお礼を言って満足そうに帰っていった。
期末テストも無事終わり、もうすぐ梅雨も明ける。つまりは一学期の終わり、夏休みが近づいてきていた。
そんなある日。
春陽達は夏休みの予定について話していた。
悠介は毎年長野にいる祖父母のところに家族で行くことが決まっており、雪愛も母親と旅行に行く計画を立てており、北海道に行くそうだ。
春陽だけは、バイト漬けだなと通常運転だった。
次に、夏休みの強制宿題であるオープンキャンパスの話になった。
互いに、と言っても春陽は悠介と同じだが、どの大学に行くか話していたら、複数校行くことになっているオープンキャンパスのうち、一校が雪愛とも被っていた。
雪愛は瑞穂と一緒に行く予定らしい。
そんな風に、いつものように春陽、雪愛、悠介で話していたところに、瑞穂が雪愛に抱き着くようにして入ってきた。偶然にも近くにいて自分の名前が聞こえてきたからのようだ。
「なあに雪愛?なんの話してたの?」
「きゃっ!?…なんだ、瑞穂か。吃驚するじゃない」
突然の乱入者に驚きつつも、瑞穂だとわかり、すぐに落ち着いて雪愛はオープンキャンパスの行先が春陽達と同じだったと瑞穂に説明した。
すると、「そうなんだ」と言ったかと思ったら、その場から離れていき、和樹を連れてきた。
「それならさ、和樹も行く予定だから五人で行かない?」
「何の話だよ?」
和樹は突然連れてこられて、内容が全くわからない。
「オープンキャンパスよ。みんな同じところ行くみたいだからさ」
「ああ、なるほど」
それで色々と察する和樹。できた男である。
「俺らはいいけど、和樹はいいのか?他の奴と一緒に行く約束とか」
悠介が気を利かせて和樹に聞く。
「いや、誰ともそんな約束はしてないから大丈夫。俺もこのメンツで行けるならそっちの方がいいし」
和樹は当初本命の一校は瑞穂と二人で行くつもりで瑞穂ともそう話していたのだが、瑞穂がずっと煮え切らない態度をとって保留にしていたのだ。
人気校のため、光ヶ峰の生徒がほぼ確実にいるということが瑞穂にとってはハードルが高く足踏みしていたらしい。
だから和樹は他の人と一緒に行く約束なんかもできずにいた。
瑞穂も悪いと思っていたのか、今回の偶然を渡りに船と五人で行くことを提案したようだ。
こうして、夏休み後半にあるオープンキャンパスへ五人で行くことが決まった。
夏休みの話の流れで、瑞穂が、夏休み中に、予てより考えていた九人でどこかに遊びに行きたいと言い出した。どうしても実行したいらしい。
雪愛も春陽と一緒にどこかに出かけるというのは魅力的で、瑞穂に同調し、花火大会に行きたいと女子二人が盛り上がっていたが、全員いないのだから当然、この場では纏まらず、グループメッセージで決めようということになった。
学校では相談し合う時間は確保しにくいからだ。
そんな中で悠介がそう言えば、といった様子で春陽に聞いた。
「なあ春陽。今年も繁忙期の間、海の家のバイトするってことでいいよな?」
「ああ、ケイさんのところだろ?」
「なになに。二人海の家でバイトするの?」
瑞穂が良いこと聞いたとでもいうように嬉々として乗っかってきた。
悠介の叔父である本名、佐伯啓蔵、本人からケイと呼ぶように強く言われている、がやっている海の家の繁忙期に悠介と春陽は去年からバイトをしている。だいたい一週間程度の住み込みバイトだ。
去年悠介はフェリーチェでこの話を持ち出したため、麻理も承知のことだ。
「そうそ。で、急な話だしあんまり時間も取れないから、もしよかったらってことで、一つメニュー作ってみるか聞いてみてくれって言われたんだけどどうする?」
「っ!?いいのか?」
これには雪愛達も驚いた。高校生に一つとはいえ、メニューを任せるなんて、と。
自分のオリジナルを作れる。春陽がずっとやってみたかったことだ。家庭料理はからっきしの春陽だが、料理は好きだ。フェリーチェは麻理にとって大切な店のため、春陽は気兼ねして新しい料理を作ってみたいなどと自分の我が儘を言うことはできなかった。啓蔵は、去年春陽と話したことを覚えていてくれたらしい。
「向こうから言ってきたんだからそりゃいいだろ。七月中にレシピが必要だけど大丈夫か?」
「……やらせてもらいたい」
少し考えて春陽は答えた。
この時、春陽は自分の家でレシピを考えるつもりだったが、事情を知った麻理が店の厨房を使っていいと言ってくれたので、フェリーチェで作業することになる。
「わかった。レシピできたら教えてくれ。ケイちゃんに送るから。なんなら開発から付き合うぜ?」
「それなら、私も一緒に考えたい!役に立つかはわからないけど……」
雪愛も料理の開発仲間に立候補する。
「ありがとう、雪愛」
雪愛の申し出に春陽は笑みを浮かべてお礼を言った。
「おいおい、俺にはお礼なしか?」
ニヤニヤと笑いながら悠介が言う。だが、その言葉に春陽はジト目を向けた。
「お前はどうせ食べる専門だろう?」
「ま、俺にできるのなんてそれくらいだからな!」
何も悪びれた様子もなく、悠介はカラッとした笑顔で春陽の言葉を肯定した。
そこに瑞穂が加わってくる。
「風見って料理もできるんだ?すごいね。どんなのができるかすごい気になる。ねえ、二人はいつ頃どこの海でバイトするの?」
瑞穂の問いに悠介はチラッと春陽を見るが、春陽は悠介と目が合っても何も言わない。それを確認して、ああ、それはと悠介がバイト期間やどこの海かを瑞穂に説明する。
「そうなんだ。近場だね。ちなみに風見、仮にだけど、私たちが行っても問題ない?」
水族館の時に春陽のスタンスを聞いているからこその確認だ。
言いながら瑞穂は何やら考えている様子だ。
そんな瑞穂に、長年の付き合いからまた何かする気だなと和樹はため息を吐いた。
雪愛は瑞穂が和樹と二人で行くつもりなのだろうなと思い、自分も行ってみたいとちょっと羨ましく思った。
「ああ、そんなこと俺に聞く必要ないだろ?」
(やっぱり春陽くん変わってきてる気がする。……気にしなくなってきてる?)
雪愛は春陽の言葉に春陽の変化を感じていた。
前までの春陽ならそもそも悠介が瑞穂に説明するのを止めていたと思うのだ。
詩那達や瑞穂達のことも、春陽の誕生日の日に麻理が言っていた『内側』に入ったということなのだろうか。
もしそうなら、春陽が関わりを持とうとする相手が増えるのは、雪愛にとっても嬉しい変化だった。
その日の夜、九人のグループでメッセージが行き交っていた。
球技大会の時にこのグループを作った際、瑞穂がこのメンバーでどこかに遊びに行きたいと言っていたことを皆覚えていたようだ。
各々の夏休みの予定を言い合っている。
蒼真と香奈は予備校の夏期講習が結構入っているようだ。
和樹はサッカー部の練習、合宿、大会と忙しいらしい。
空いてる日が少ないのがこの三人だった。
全員の予定が出たところで、瑞穂が皆で行ける花火大会を検索した。
ちょうど全員の都合がつく七月末に河川敷の夏祭りがあった。
花火も打ち上げ数一万発という規模だ。場所が遠くないのもいい。
瑞穂がメッセージでこれを伝えると、呆気ないほど簡単に皆でこの花火大会に行くことが決まった。
また別の日の夜。
雪愛、瑞穂、未来、香奈はパジャマ姿でビデオ通話をしていた。彼女達が時々しているオンラインパジャマパーティーだ。と言ってもお喋りをしているだけなのだが。
「花火大会、みんなは浴衣着ていくー?」
先日決まった花火大会の件で未来が皆に聞いた。
「それ、私も聞きたかった。一人じゃ浮くから着ないけど折角なら着たいとは思ってたんだ」
「着てみたいけど、私浴衣持ってないや」
「私も持ってないわね」
未来の問いへの瑞穂、香奈、雪愛の答えがそれだった。
香奈と雪愛も折角なら着たいというのは同じ気持ちなのか残念そうだ。
「じゃあさー、今度みんなで浴衣見に行こー?」
「でも着付けは?香奈と雪愛はできそう?」
「私はお母さんに聞いてみないとわかんないかな」
「私は大丈夫だと思うわ」
「そっか。香奈、もしできないようでもその時は家に来てくれたらできるよ」
「ありがとう瑞穂ちゃん。それなら着てみたいかな」
「決まりだね。じゃあいつ行く?」
こうして、女性陣は花火大会を浴衣で行くことが決まった。
さらに、
「――――ってことでね、その期間風見と佐伯が海の家でバイトしてるらしいんだけど、四人で遊びに行かない?雪愛がすごく行きたがってるんじゃないかと思ってさ」
瑞穂が話を聞いてから考えていたことを三人に話した。
「なっ!?瑞穂!」
まさかの図星に恥ずかしくなる雪愛。
「海かー。楽しそー」
「しばらく行ってないなぁ。皆で行ったら楽しそうだね」
そうして、こちらも実に簡単に海に行くことが決まり、瑞穂と雪愛が、持ってる水着ではサイズが合わないということで、浴衣を見に行く日に水着も見ようということになった。最初は放課後にでも行くつもりだったが、見るものが増えたのでゆっくり見て回るため、夏休み前最後の休日に行こうと決まった。
雪愛は浴衣に水着にと出費がかさむことが心配になったが、後日沙織に話したら笑って許してくれた。
「なんかー今年の夏はイベント盛りだくさんって感じだねー」
「そうね。私もこんなに予定ができるの初めてかもしれないわ」
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※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
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