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最終章 幸せのかたち
第92話 事態は最悪の方向へと進んでいく
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時は少し遡る。
雪愛がフェリーチェに向かうために家で準備をしているときのこと。
美優は一人とある倉庫に向かっていた。
その表情は硬く強張っている。
春陽が修学旅行から帰ってきたその日の夜、美優の部屋に春陽が訪ねてきてお土産を渡してくれた。
そんな何気ないやり取りが美優にとってはとても嬉しかった。
「春陽はもうご飯食べた?」
「いや?まだだけど?」
ならば、と美優が腕を振るい姉弟二人で夕食を食べた。
美優はこの家族団らんの時間がすごく心地よかった。春陽も嫌がることなく穏やかに過ごしてくれて本当に嬉しかった。
そんな素敵な時間を過ごした翌日の朝のことだ。美優のスマホにメッセージが届いた。
そのメッセージを見た瞬間、美優の顔から血の気が引く。
心臓の音が騒がしく身体は震え額からは嫌な汗が噴き出す。
なぜ自分のアカウントを知っているのか、なぜ今更関わってくるのか。
様々な疑問が頭を過るが、そのメッセージから目が離せない。
『久しぶりだな。覚えてるか?中学のときに会った工藤だ。風見のことで話がある。あいつヤバいやつに狙われてるぞ?雪愛っていう彼女もいるんだろ?そいつ俺のところにまで来て協力しろとか言ってきやがった。俺は今更お前らと関わる気はないが知らせてやろうと思ってな。まあどうなってもいいなら断ってもかまわない』
連続して、住所と集団で来られても面倒だ。話が聞きたいなら一人でここに来いという文。
昨日の幸せだった時間からのあまりの落差に膝に力が入らずその場で頽れる。
誰が、なぜ、どうして、と疑問ばかりが頭の中を駆け巡る。
雪愛のことまで知られており、しかもそれを知らせてきたのが工藤だということが美優の不安を増幅させる。
だが、これは現実だ。
いつまでもこうしてはいられない。
美優は気持ちを奮い立たせ立ち上がる。
春陽は自分の大切な弟であり家族だ。
雪愛のことも大切に想っている。
それに雪愛に何かあれば春陽が悲しむ。
美優の中にあるのは春陽達を守りたい、その一心だった。
罠、かもしれない。その可能性があることはわかっている。
それでも――――。
(春陽は私が守る。もう絶対に春陽には手出しさせない!)
美優の瞳に不安と同程度かそれ以上に力強さが宿る。
美優は指示された通り、誰にも言わずに一人指定された場所に向かうのだった。
指定された場所は倉庫街の一角にある古びた倉庫の一つだった。
ここに来るまでに少し冷静になれた美優は、道中で今回のことを麻理に知らせることにした。
そして倉庫前で、万が一の場合に備え、スマホを操作し一度深呼吸して扉を開ける。
錆びついた嫌な音が響いた。
もしかしたら今は使われていないのかもしれない。
そんな倉庫の中は暗くてよく見えない。
足が震えるのを必死に堪えながら美優は中へと入る。
「よく来たな、美優」
声と同時に灯りが一つ点けられた。
「っ!?」
身体をビクッとさせつつも声のした方に目を向ければ、両腕にタトゥーがあり、ピアスを耳はもちろん、鼻、口、眉と顔の至る所に付けた金髪の男がソファーに座っていた。
「あなた……工藤?」
昔会ったときとのあまりの違いに美優は目の前の男が工藤であると一目ではわからなかった。
「ああ。わからなかったか?まあ昔会ったときとは違うかもな」
「そう……。私を名前で呼ぶの、やめてもらえる?」
美優は必死に強気な態度をとる。
「くははは。気の強い女だな。それにいい女になったじゃねえか」
嘗め回すように自分を見てくる工藤に美優は恐怖や気持ち悪さから身体をぶるりと震わす。
「だがその態度はいただけないなぁ。こっちはあのクズ野郎のせいで朝から動くことになってただでさえイラついてんだ」
「っ、……それで?メッセージに書いてあったことは本当なの?」
美優は続く工藤の言葉の意味はわからなかったが、工藤の言葉には妙な迫力があった。
恐怖が心を満たしそうになるが、今はそんなことよりも春陽を狙っているという者のことだと自分を奮い立たせる。
「ああ。それは本当だぜ?ただまあもう遅いだろうがな。くくっ、それと俺が関わる気がないっていうのは…嘘だ」
工藤はそう言うと、指をパチンと鳴らす。
「っ!?」
すると倉庫内に一斉に灯りが点き、先ほどまで暗くて見えなかったところには工藤と同様の雰囲気をした何人もの男達がいた。
皆ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
「もうじき雪愛って女もここにやって来る。さて、時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり話そうじゃねえか」
春陽を狙っている者がいることは本当。
自分をここに呼び寄せたのは罠。
(春陽!雪愛ちゃん!)
最悪と言っていい状況に美優は奥歯を嚙みしめるのだった。
一方、フェリーチェには春陽と悠介が来ており、麻理と一緒に修学旅行の思い出話をしながら雪愛が来るのを待っていた。
一応集まる時間は決めていたのだが、少々遅れているようだ。
まあ、そうは言っても麻理にお土産を渡すのが主目的のため、問題はないのだが。
しかし、楽しい雰囲気は春陽のスマホに届いたメッセージによって一変してしまう。
『お前の大切な白月雪愛は預かった。返してほしかったら一人で次の場所に来い。工藤』
メッセージを読んだ瞬間、目を大きくし固まる春陽。顔を強張らせ、嫌な汗がぶあっと出てくる。
麻理と悠介が尋常ではない春陽の雰囲気に何事かと声をかける。
春陽は衝撃で思考がままならない中、何とかスマホの画面を二人に見せる。
表示されたメッセージを読み、二人も目を大きくする。受けた衝撃は春陽と大差ない。
指定された場所は倉庫街の一角。
「早く……助けに行かないと……!」
メッセージを見て一瞬頭が真っ白になってしまった春陽だが、徐々に頭が働き始めると指定された場所に行かなければと立ち上がった。
「ハル!待ちなさい!」
それにすかさず麻理が待ったをかける。
「っ、けど!」
「いい?こんなメッセージだけじゃ本当かどうかもわからない。それに仮に本当だとしてもただ行けばいい訳じゃないのはハルにもわかるでしょ?」
これは明らかに春陽を狙った罠だ。
それに麻理はこのメッセージに違和感を覚えたのだ。随分と幼稚に感じる。朱音に調べてもらっていた工藤とどうにも一致しない。
変な言い方だが相手を追い詰める狙いなら写真を一緒に添付するとかもっとやりようはある気がしてしまう。
「朱音に連絡するわ。色々わかることも多いはず。だからそれまでは待って」
麻理は落ち着いているように見えるがその表情は険しい。
声にいつも以上の迫力がある。
だが、そのおかげで春陽も少し冷静になることができた。
春陽の焦燥が少しだけ落ち着いたのを見てとった麻理は春陽に頼み、店のドアには臨時休業の札をかけた。
麻理が朱音に連絡すると、朱音はすぐにフェリーチェに行くと言ってきた。
直接話した方が早い、と。
朱音は何かを掴んでいるようだった。
すると、ずっと顔色を悪くしていた悠介が突然春陽に謝った。
「悪い、春陽。実は俺工藤が仲間と一緒に文化祭に来てたの見たんだ。俺達のクラスに来てた。もしかしたらあの時から今日のことで動いてたのかもしれない……」
悠介の言葉に春陽、そして麻理も驚く。
「どうしてそのときにっ……!?」
言わなかったのか、春陽はカッと頭に血が上り思わず悠介の胸倉を掴む。
春陽の溢した言葉は麻理も同じ気持ちだった。
わかっていれば何かできたことがあったかもしれない。
「言えば!悪いことが現実になる気がして言えなかったんだ!……偶然だって思い込もうとしちまった……」
悠介が最後にチラリと麻理を見たのを春陽は見逃さなかった。瞬間、冷水をかけられたかのようにカッとなった心が鎮火する。それだけで春陽にも悠介が何を恐れていたのかはわかったから。そしてそれは春陽も望んでいないことだから。
春陽は悠介を掴んでいた手を放す。
「……悪い。そうだよな。こっちこそ悪かった……。俺がもし見かけても同じようにしただろうな」
「春陽……」
「今はこれからのこと考えよう」
「ああ」
春陽だって麻理に心配をかけたくない気持ちは同じなのだ。
いや、もしかしたら自分よりも悠介の方が余程その気持ちは強いかもしれない。
そんな悠介の気持ちがわかる春陽は咄嗟のこととはいえ、悠介を責めてしまった自分を恥じた。
その頃、梶原の案内の元、雪愛は覚悟して空きテナントに入った。
だが、すぐにおかしいことに気づく。
中には誰もいなのだ。
元々バーだったのか、内装などはそのままとなっている。
いわゆる居抜き物件というやつだろう。
「梶原君?誰もいないみたいだけど……?」
ドアを開いて、先に雪愛を中に入れた梶原に振り向き、雪愛が訊く。
梶原はドアを閉じると、そのままカチャっと錠をかけた。
梶原は下を向いており、その顔が見えない。
「ひははっ、ハハハハハッ。そりゃあ誰もいないよ、白月さん……いや、雪愛?」
雪愛の問いかけに梶原は突然笑い出し、顔を上げた。
そこには先ほどまでのおどおどとした雰囲気はない。
むしろ歪な笑みを浮かべ、目を血走らせている。
その様子に雪愛の肩がビクッと跳ねる。
そして、雪愛、と呼ばれたことに背中がぞわぞわするような嫌悪感が湧き起こる。
「……梶原君?どういうこと……?」
雪愛の中で急速に不安感が高まっていく。
「どうもこうもないよ。こんなにうまくいくなんて。ははははっ。計画に時間をかけた甲斐があった」
「何を……!?春陽くんは?工藤って人のことは嘘だったの?」
もし嘘であるならば春陽は安全ということだ。
自分の身の危険を感じながらも春陽が無事ならよかったと雪愛は思う。
だが、そんな雪愛の気持ちを梶原はあっさりと裏切る。
「ああ。あの二人ならそろそろやり合ってる頃じゃないかな?さっき風見にメッセージを送っておいたから。君を返してほしければ工藤のところに一人で行けってね。工藤も風見に恨みがあるみたいだしちょうどいいだろ?工藤は仲間といるし、あの様子だと風見のこと殺しそうな勢いだったけどね。風見には頑張ってある程度は潰し合ってもらいたいところだよ。後はタイミングを見て警察に連絡してあげればゴミは全員いなくなる」
「なっ……!?」
簡単に言ってのける梶原に雪愛の心が激しく痛む。
「本当なら君も工藤のところに連れて行く計画だったんだよ?だから今も工藤は僕が君を連れて行くのを待ってるんじゃないかな?まあそんなことにはならないんだけどね。安心して。君を工藤達のようなゴミに指一本触れさせたりしないから。それに、風見に対する脅しなら美優っていう姉だけで十分でしょ?まあ工藤はその美優ってので遊ぶつもりみたいだから悲惨なことになりそうだけどね」
梶原は楽しそうに語る。
ニヤニヤとした笑みを浮かべるその表情は、本人がごみと呼ぶ工藤達と同じ種類のものだった。
「っ………」
(春陽くんが危ない!美優さんも!)
美優、そして春陽に危険が迫っていることに雪愛は焦燥感を募らせる。
雪愛がフェリーチェに向かうために家で準備をしているときのこと。
美優は一人とある倉庫に向かっていた。
その表情は硬く強張っている。
春陽が修学旅行から帰ってきたその日の夜、美優の部屋に春陽が訪ねてきてお土産を渡してくれた。
そんな何気ないやり取りが美優にとってはとても嬉しかった。
「春陽はもうご飯食べた?」
「いや?まだだけど?」
ならば、と美優が腕を振るい姉弟二人で夕食を食べた。
美優はこの家族団らんの時間がすごく心地よかった。春陽も嫌がることなく穏やかに過ごしてくれて本当に嬉しかった。
そんな素敵な時間を過ごした翌日の朝のことだ。美優のスマホにメッセージが届いた。
そのメッセージを見た瞬間、美優の顔から血の気が引く。
心臓の音が騒がしく身体は震え額からは嫌な汗が噴き出す。
なぜ自分のアカウントを知っているのか、なぜ今更関わってくるのか。
様々な疑問が頭を過るが、そのメッセージから目が離せない。
『久しぶりだな。覚えてるか?中学のときに会った工藤だ。風見のことで話がある。あいつヤバいやつに狙われてるぞ?雪愛っていう彼女もいるんだろ?そいつ俺のところにまで来て協力しろとか言ってきやがった。俺は今更お前らと関わる気はないが知らせてやろうと思ってな。まあどうなってもいいなら断ってもかまわない』
連続して、住所と集団で来られても面倒だ。話が聞きたいなら一人でここに来いという文。
昨日の幸せだった時間からのあまりの落差に膝に力が入らずその場で頽れる。
誰が、なぜ、どうして、と疑問ばかりが頭の中を駆け巡る。
雪愛のことまで知られており、しかもそれを知らせてきたのが工藤だということが美優の不安を増幅させる。
だが、これは現実だ。
いつまでもこうしてはいられない。
美優は気持ちを奮い立たせ立ち上がる。
春陽は自分の大切な弟であり家族だ。
雪愛のことも大切に想っている。
それに雪愛に何かあれば春陽が悲しむ。
美優の中にあるのは春陽達を守りたい、その一心だった。
罠、かもしれない。その可能性があることはわかっている。
それでも――――。
(春陽は私が守る。もう絶対に春陽には手出しさせない!)
美優の瞳に不安と同程度かそれ以上に力強さが宿る。
美優は指示された通り、誰にも言わずに一人指定された場所に向かうのだった。
指定された場所は倉庫街の一角にある古びた倉庫の一つだった。
ここに来るまでに少し冷静になれた美優は、道中で今回のことを麻理に知らせることにした。
そして倉庫前で、万が一の場合に備え、スマホを操作し一度深呼吸して扉を開ける。
錆びついた嫌な音が響いた。
もしかしたら今は使われていないのかもしれない。
そんな倉庫の中は暗くてよく見えない。
足が震えるのを必死に堪えながら美優は中へと入る。
「よく来たな、美優」
声と同時に灯りが一つ点けられた。
「っ!?」
身体をビクッとさせつつも声のした方に目を向ければ、両腕にタトゥーがあり、ピアスを耳はもちろん、鼻、口、眉と顔の至る所に付けた金髪の男がソファーに座っていた。
「あなた……工藤?」
昔会ったときとのあまりの違いに美優は目の前の男が工藤であると一目ではわからなかった。
「ああ。わからなかったか?まあ昔会ったときとは違うかもな」
「そう……。私を名前で呼ぶの、やめてもらえる?」
美優は必死に強気な態度をとる。
「くははは。気の強い女だな。それにいい女になったじゃねえか」
嘗め回すように自分を見てくる工藤に美優は恐怖や気持ち悪さから身体をぶるりと震わす。
「だがその態度はいただけないなぁ。こっちはあのクズ野郎のせいで朝から動くことになってただでさえイラついてんだ」
「っ、……それで?メッセージに書いてあったことは本当なの?」
美優は続く工藤の言葉の意味はわからなかったが、工藤の言葉には妙な迫力があった。
恐怖が心を満たしそうになるが、今はそんなことよりも春陽を狙っているという者のことだと自分を奮い立たせる。
「ああ。それは本当だぜ?ただまあもう遅いだろうがな。くくっ、それと俺が関わる気がないっていうのは…嘘だ」
工藤はそう言うと、指をパチンと鳴らす。
「っ!?」
すると倉庫内に一斉に灯りが点き、先ほどまで暗くて見えなかったところには工藤と同様の雰囲気をした何人もの男達がいた。
皆ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
「もうじき雪愛って女もここにやって来る。さて、時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり話そうじゃねえか」
春陽を狙っている者がいることは本当。
自分をここに呼び寄せたのは罠。
(春陽!雪愛ちゃん!)
最悪と言っていい状況に美優は奥歯を嚙みしめるのだった。
一方、フェリーチェには春陽と悠介が来ており、麻理と一緒に修学旅行の思い出話をしながら雪愛が来るのを待っていた。
一応集まる時間は決めていたのだが、少々遅れているようだ。
まあ、そうは言っても麻理にお土産を渡すのが主目的のため、問題はないのだが。
しかし、楽しい雰囲気は春陽のスマホに届いたメッセージによって一変してしまう。
『お前の大切な白月雪愛は預かった。返してほしかったら一人で次の場所に来い。工藤』
メッセージを読んだ瞬間、目を大きくし固まる春陽。顔を強張らせ、嫌な汗がぶあっと出てくる。
麻理と悠介が尋常ではない春陽の雰囲気に何事かと声をかける。
春陽は衝撃で思考がままならない中、何とかスマホの画面を二人に見せる。
表示されたメッセージを読み、二人も目を大きくする。受けた衝撃は春陽と大差ない。
指定された場所は倉庫街の一角。
「早く……助けに行かないと……!」
メッセージを見て一瞬頭が真っ白になってしまった春陽だが、徐々に頭が働き始めると指定された場所に行かなければと立ち上がった。
「ハル!待ちなさい!」
それにすかさず麻理が待ったをかける。
「っ、けど!」
「いい?こんなメッセージだけじゃ本当かどうかもわからない。それに仮に本当だとしてもただ行けばいい訳じゃないのはハルにもわかるでしょ?」
これは明らかに春陽を狙った罠だ。
それに麻理はこのメッセージに違和感を覚えたのだ。随分と幼稚に感じる。朱音に調べてもらっていた工藤とどうにも一致しない。
変な言い方だが相手を追い詰める狙いなら写真を一緒に添付するとかもっとやりようはある気がしてしまう。
「朱音に連絡するわ。色々わかることも多いはず。だからそれまでは待って」
麻理は落ち着いているように見えるがその表情は険しい。
声にいつも以上の迫力がある。
だが、そのおかげで春陽も少し冷静になることができた。
春陽の焦燥が少しだけ落ち着いたのを見てとった麻理は春陽に頼み、店のドアには臨時休業の札をかけた。
麻理が朱音に連絡すると、朱音はすぐにフェリーチェに行くと言ってきた。
直接話した方が早い、と。
朱音は何かを掴んでいるようだった。
すると、ずっと顔色を悪くしていた悠介が突然春陽に謝った。
「悪い、春陽。実は俺工藤が仲間と一緒に文化祭に来てたの見たんだ。俺達のクラスに来てた。もしかしたらあの時から今日のことで動いてたのかもしれない……」
悠介の言葉に春陽、そして麻理も驚く。
「どうしてそのときにっ……!?」
言わなかったのか、春陽はカッと頭に血が上り思わず悠介の胸倉を掴む。
春陽の溢した言葉は麻理も同じ気持ちだった。
わかっていれば何かできたことがあったかもしれない。
「言えば!悪いことが現実になる気がして言えなかったんだ!……偶然だって思い込もうとしちまった……」
悠介が最後にチラリと麻理を見たのを春陽は見逃さなかった。瞬間、冷水をかけられたかのようにカッとなった心が鎮火する。それだけで春陽にも悠介が何を恐れていたのかはわかったから。そしてそれは春陽も望んでいないことだから。
春陽は悠介を掴んでいた手を放す。
「……悪い。そうだよな。こっちこそ悪かった……。俺がもし見かけても同じようにしただろうな」
「春陽……」
「今はこれからのこと考えよう」
「ああ」
春陽だって麻理に心配をかけたくない気持ちは同じなのだ。
いや、もしかしたら自分よりも悠介の方が余程その気持ちは強いかもしれない。
そんな悠介の気持ちがわかる春陽は咄嗟のこととはいえ、悠介を責めてしまった自分を恥じた。
その頃、梶原の案内の元、雪愛は覚悟して空きテナントに入った。
だが、すぐにおかしいことに気づく。
中には誰もいなのだ。
元々バーだったのか、内装などはそのままとなっている。
いわゆる居抜き物件というやつだろう。
「梶原君?誰もいないみたいだけど……?」
ドアを開いて、先に雪愛を中に入れた梶原に振り向き、雪愛が訊く。
梶原はドアを閉じると、そのままカチャっと錠をかけた。
梶原は下を向いており、その顔が見えない。
「ひははっ、ハハハハハッ。そりゃあ誰もいないよ、白月さん……いや、雪愛?」
雪愛の問いかけに梶原は突然笑い出し、顔を上げた。
そこには先ほどまでのおどおどとした雰囲気はない。
むしろ歪な笑みを浮かべ、目を血走らせている。
その様子に雪愛の肩がビクッと跳ねる。
そして、雪愛、と呼ばれたことに背中がぞわぞわするような嫌悪感が湧き起こる。
「……梶原君?どういうこと……?」
雪愛の中で急速に不安感が高まっていく。
「どうもこうもないよ。こんなにうまくいくなんて。ははははっ。計画に時間をかけた甲斐があった」
「何を……!?春陽くんは?工藤って人のことは嘘だったの?」
もし嘘であるならば春陽は安全ということだ。
自分の身の危険を感じながらも春陽が無事ならよかったと雪愛は思う。
だが、そんな雪愛の気持ちを梶原はあっさりと裏切る。
「ああ。あの二人ならそろそろやり合ってる頃じゃないかな?さっき風見にメッセージを送っておいたから。君を返してほしければ工藤のところに一人で行けってね。工藤も風見に恨みがあるみたいだしちょうどいいだろ?工藤は仲間といるし、あの様子だと風見のこと殺しそうな勢いだったけどね。風見には頑張ってある程度は潰し合ってもらいたいところだよ。後はタイミングを見て警察に連絡してあげればゴミは全員いなくなる」
「なっ……!?」
簡単に言ってのける梶原に雪愛の心が激しく痛む。
「本当なら君も工藤のところに連れて行く計画だったんだよ?だから今も工藤は僕が君を連れて行くのを待ってるんじゃないかな?まあそんなことにはならないんだけどね。安心して。君を工藤達のようなゴミに指一本触れさせたりしないから。それに、風見に対する脅しなら美優っていう姉だけで十分でしょ?まあ工藤はその美優ってので遊ぶつもりみたいだから悲惨なことになりそうだけどね」
梶原は楽しそうに語る。
ニヤニヤとした笑みを浮かべるその表情は、本人がごみと呼ぶ工藤達と同じ種類のものだった。
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(春陽くんが危ない!美優さんも!)
美優、そして春陽に危険が迫っていることに雪愛は焦燥感を募らせる。
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