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第一章
セレナリーゼの気持ち①
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レオナルドがセレナリーゼを負ぶって貧民街を歩いているとき、実のところセレナリーゼは目を覚ましていた。
何か大きくて温かいものに包まれていたような気持ち良さから徐々に覚醒していき、薄っすらと目を開いたセレナリーゼは、
(レオ、兄さま……?レオ兄さまが助けてくれたんだ……)
自分が今レオナルドに負ぶわれているのだと理解し安心感に満たされた。
(……あの男の人達はどうしたんだろう?)
そんな疑問が浮かぶが、答えは決まっている。気を失っていた自分には過程はわからない。レオナルドが倒した、とはちょっと考えにくいが、レオナルドがどうにかしてくれたのだろう。だから今自分はこうしている。
セレナリーゼにはレオナルドの背中が何だか広く大きなものに感じた。
それに気を失う前、あんなに痛くて苦しかったのに今はそれも治まっている。
そんな風にぼんやりと思っていたセレナリーゼは意識がはっきりするにつれ、兄に負ぶわれているという事実に急激に恥ずかしさが込み上げてきた。
だが、すぐに心が冷たくなっていきうすら寒さを感じる。別のことも思い出したのだ。それはレオナルドが男達と話していた内容。レオナルドが兄ではない、ということ。
レオナルドはそれを知っていたと言っていた。つまりは事実なのだ。ならば自分はいったいどこの誰なのか。ズキズキと胸が痛む。思わず腕にギュッと力がこもってしまったが、幸いにもレオナルドには気づかれなかったようだ。
そんなときだ。
「それでもセレナは大切な家族だ!義妹だ!」
レオナルドの言葉が頭の中で響いた。レオナルドが言ったのは本当だろうか?本気で言ったのだろうか?そんな思いが拭いきれず出てきてしまうが、なぜだろう、どうしようもなく胸が温かくなっていく。
(レオ兄さま……)
そんなことを考えていたら自分が起きていると、下ろしてほしいとレオナルドに言いそびれてしまった。言いそびれたまま、どうやら公爵家の騎士が駆けつけてくれたみたいだ。
「レオナルド様!?そのお怪我は!?」
騎士団長ジークのその言葉にセレナリーゼの心臓がドクンと嫌な感じに大きく鳴る。
(レオ兄さまが怪我!?)
どうにかして助けてくれた、確かにそう自分で思った訳だが、そのときにレオナルドが負傷したという可能性を考えていなかったことに気づく。
会話からその後すぐにアレンに抱きかかえられたのがわかった。すでに起きていたと知られるのが恥ずかしくて、もう少し後になって目を覚ましたことにしようと思っていたセレナリーゼだったが、レオナルドの怪我が心配でその目を開くか逡巡する。
「魔物が倒れてるから後の処理を頼む」
するとレオナルドの口からさらなる驚愕の事実が告げられる。
(魔物!?)
魔物なんて自分が起きている間にはいなかった、はずだ。いったい気を失っている間に何があったというのか。
セレナリーゼが躊躇ったり驚いたりしている間にレオナルドが意識を失ってしまったようで皆が騒然となった。
遅ればせながらそこで目を開いたセレナリーゼはレオナルドの姿を見て絶句した。
見ただけでわかる。レオナルドが文字通り命がけで自分を助けてくれたということが。それほどの大怪我だった。
「セレナリーゼ様!目を覚まされたのですね!?よかった。レオナルド様はお怪我はないとおっしゃっていましたが、痛いところなどございませんか?ご気分はいかがでしょうか?」
「ぁ……ぁ……」
アレンが心配してくれているが、彼の声はセレナリーゼに届いていなかった。目を見開いて、視線はレオナルドに固定されている。
「くっ……」
そんなセレナリーゼの様子にアレンは騎士として守るべき人を守れなかったという忸怩たる思いから顔を顰めた。レオナルドの姿にセレナリーゼがショックを受けているのは明白だったから。
そうした中、ジークは素早く状況判断を終えると、さっと指示を出して急ぎこの場を離れることになった。
騎士の内、二人が件の家屋へと向かい、他は全員で馬車のあるところへと移動する。そして早速、ジークに抱えられているレオナルドに対して騎士が回復魔法をかける。
「なんで……!?」
その騎士が困惑の声を上げた。
「どうした?」
「団長!レオナルド様に魔法が効きません!」
騎士は慌てた様子でジークに報告する。
「なんだと!?」
驚いたのはこの二人だけではない。その場にいた全員に衝撃が走った。回復魔法が効かない人がいるなんて想像の埒外で、誰も考えたことすらなかったから。
そんな誰も予期せぬ事態の中、最初に平常心を取り戻したのはやはりジークだった。
レオナルドに回復魔法をかけるため、そして負担がかからないようにするため、歩いて移動していたが、その移動速度を上げることにしたのだ。傷を見た限りすぐにどうこうなるほど深いものではないと判断したが、回復魔法が効かないのであればこの場でできることは何もない。一刻も早く屋敷に戻り、医者に診せる必要がある。
こうして馬車に戻った一同は、馬を最大限に速く走らせ、屋敷へと戻っていった。
馬車の中では、道中心配そうにレオナルドを見つめていたセレナリーゼが祈るようにしてレオナルドの手をずっと握っていた。
セレナリーゼ達が戻ると屋敷内は一気に慌ただしくなった。すぐに医者に診てもらったレオナルドは、今上半身が包帯でぐるぐる巻きになった状態で眠っている。
その穏やかな寝顔をセレナリーゼは見つめていた。というよりも、屋敷に戻ってからずっと、セレナリーゼはレオナルドの側を離れなかった。
フォルステッドから事情を聞かれても反応できなかった。実際、視界を奪われ、途中から気を失ってしまった自分には、聞かれたことはほとんど答えられない内容だった。自分がフォルステッド達の子供ではない、ということを自分から尋ねることもなかった。これについては自分の中でまだ整理がついていないから。
セレナリーゼはレオナルドの側にいながらずっと同じことを考えていた。
(私はレオ兄さまに何を返せるんだろう……)
こんなになってまで自分のことを助けてくれたレオナルド。家族だと言ってくれたレオナルド。本来ならレオナルドがなるべき次期当主の座まで奪ってしまったというのに、納得済みだと恨んでいないと断言してくれて……。
そんなレオナルドの想いに自分は何を……?
結局この日、セレナリーゼはレオナルドの眠るベッドの横で寝落ちしてしまって、様子を見に来たフォルステッドによって自室まで運ばれていった。
何か大きくて温かいものに包まれていたような気持ち良さから徐々に覚醒していき、薄っすらと目を開いたセレナリーゼは、
(レオ、兄さま……?レオ兄さまが助けてくれたんだ……)
自分が今レオナルドに負ぶわれているのだと理解し安心感に満たされた。
(……あの男の人達はどうしたんだろう?)
そんな疑問が浮かぶが、答えは決まっている。気を失っていた自分には過程はわからない。レオナルドが倒した、とはちょっと考えにくいが、レオナルドがどうにかしてくれたのだろう。だから今自分はこうしている。
セレナリーゼにはレオナルドの背中が何だか広く大きなものに感じた。
それに気を失う前、あんなに痛くて苦しかったのに今はそれも治まっている。
そんな風にぼんやりと思っていたセレナリーゼは意識がはっきりするにつれ、兄に負ぶわれているという事実に急激に恥ずかしさが込み上げてきた。
だが、すぐに心が冷たくなっていきうすら寒さを感じる。別のことも思い出したのだ。それはレオナルドが男達と話していた内容。レオナルドが兄ではない、ということ。
レオナルドはそれを知っていたと言っていた。つまりは事実なのだ。ならば自分はいったいどこの誰なのか。ズキズキと胸が痛む。思わず腕にギュッと力がこもってしまったが、幸いにもレオナルドには気づかれなかったようだ。
そんなときだ。
「それでもセレナは大切な家族だ!義妹だ!」
レオナルドの言葉が頭の中で響いた。レオナルドが言ったのは本当だろうか?本気で言ったのだろうか?そんな思いが拭いきれず出てきてしまうが、なぜだろう、どうしようもなく胸が温かくなっていく。
(レオ兄さま……)
そんなことを考えていたら自分が起きていると、下ろしてほしいとレオナルドに言いそびれてしまった。言いそびれたまま、どうやら公爵家の騎士が駆けつけてくれたみたいだ。
「レオナルド様!?そのお怪我は!?」
騎士団長ジークのその言葉にセレナリーゼの心臓がドクンと嫌な感じに大きく鳴る。
(レオ兄さまが怪我!?)
どうにかして助けてくれた、確かにそう自分で思った訳だが、そのときにレオナルドが負傷したという可能性を考えていなかったことに気づく。
会話からその後すぐにアレンに抱きかかえられたのがわかった。すでに起きていたと知られるのが恥ずかしくて、もう少し後になって目を覚ましたことにしようと思っていたセレナリーゼだったが、レオナルドの怪我が心配でその目を開くか逡巡する。
「魔物が倒れてるから後の処理を頼む」
するとレオナルドの口からさらなる驚愕の事実が告げられる。
(魔物!?)
魔物なんて自分が起きている間にはいなかった、はずだ。いったい気を失っている間に何があったというのか。
セレナリーゼが躊躇ったり驚いたりしている間にレオナルドが意識を失ってしまったようで皆が騒然となった。
遅ればせながらそこで目を開いたセレナリーゼはレオナルドの姿を見て絶句した。
見ただけでわかる。レオナルドが文字通り命がけで自分を助けてくれたということが。それほどの大怪我だった。
「セレナリーゼ様!目を覚まされたのですね!?よかった。レオナルド様はお怪我はないとおっしゃっていましたが、痛いところなどございませんか?ご気分はいかがでしょうか?」
「ぁ……ぁ……」
アレンが心配してくれているが、彼の声はセレナリーゼに届いていなかった。目を見開いて、視線はレオナルドに固定されている。
「くっ……」
そんなセレナリーゼの様子にアレンは騎士として守るべき人を守れなかったという忸怩たる思いから顔を顰めた。レオナルドの姿にセレナリーゼがショックを受けているのは明白だったから。
そうした中、ジークは素早く状況判断を終えると、さっと指示を出して急ぎこの場を離れることになった。
騎士の内、二人が件の家屋へと向かい、他は全員で馬車のあるところへと移動する。そして早速、ジークに抱えられているレオナルドに対して騎士が回復魔法をかける。
「なんで……!?」
その騎士が困惑の声を上げた。
「どうした?」
「団長!レオナルド様に魔法が効きません!」
騎士は慌てた様子でジークに報告する。
「なんだと!?」
驚いたのはこの二人だけではない。その場にいた全員に衝撃が走った。回復魔法が効かない人がいるなんて想像の埒外で、誰も考えたことすらなかったから。
そんな誰も予期せぬ事態の中、最初に平常心を取り戻したのはやはりジークだった。
レオナルドに回復魔法をかけるため、そして負担がかからないようにするため、歩いて移動していたが、その移動速度を上げることにしたのだ。傷を見た限りすぐにどうこうなるほど深いものではないと判断したが、回復魔法が効かないのであればこの場でできることは何もない。一刻も早く屋敷に戻り、医者に診せる必要がある。
こうして馬車に戻った一同は、馬を最大限に速く走らせ、屋敷へと戻っていった。
馬車の中では、道中心配そうにレオナルドを見つめていたセレナリーゼが祈るようにしてレオナルドの手をずっと握っていた。
セレナリーゼ達が戻ると屋敷内は一気に慌ただしくなった。すぐに医者に診てもらったレオナルドは、今上半身が包帯でぐるぐる巻きになった状態で眠っている。
その穏やかな寝顔をセレナリーゼは見つめていた。というよりも、屋敷に戻ってからずっと、セレナリーゼはレオナルドの側を離れなかった。
フォルステッドから事情を聞かれても反応できなかった。実際、視界を奪われ、途中から気を失ってしまった自分には、聞かれたことはほとんど答えられない内容だった。自分がフォルステッド達の子供ではない、ということを自分から尋ねることもなかった。これについては自分の中でまだ整理がついていないから。
セレナリーゼはレオナルドの側にいながらずっと同じことを考えていた。
(私はレオ兄さまに何を返せるんだろう……)
こんなになってまで自分のことを助けてくれたレオナルド。家族だと言ってくれたレオナルド。本来ならレオナルドがなるべき次期当主の座まで奪ってしまったというのに、納得済みだと恨んでいないと断言してくれて……。
そんなレオナルドの想いに自分は何を……?
結局この日、セレナリーゼはレオナルドの眠るベッドの横で寝落ちしてしまって、様子を見に来たフォルステッドによって自室まで運ばれていった。
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