こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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風の都『カザネ』

満喫中

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「アニキ~! 大丈夫ですか……って何すかこの本の山!?」

「ん? レイか」

 ムロウとの決闘でのダメージ。リンの身体には思っていたよりも軽く済んでいた。

 今までであれば何日か眠ったままの状態が続くのだが、今回は半日で目を覚ませたのだ。

「怪我の具合はどうなんすか?」

「怪我よりも急激な魔力の消費でかかった身体の負担の方が大変だそうだ まあもう立てるし明日には外に出るつもりだがな」

「よかった~! オレが寝てる間に決闘だなんて聞いてなかったもんですから……」

「そんな事よりお前こそ怪我の具合はどうなんだ?」

「はい! このとおりピンピンしてます!」

 そう言ってレイは完治した腕を見せつける。ツヴァイに折られる前とは変わらない様子で、リンは安堵した。

「そうか 治って良かったよ」

「アニキが……優しい!?」

「要件が済んだら早々に出て行け」

「わ~! 冗談ですよ冗談!」

 手をバタバタさせて、慌てて弁明する姿を見て本当に腕は治ったのだなと再び安堵すると、リンは今度こそ要件を聞く。

「それで? 何かようか それとも見舞いに来ただけか?」

「ああはい! お見舞いってのが一番ですけどこの城のお殿様が夜に大広間に来るようにって事だそうです」

「内容は?」

「ん~ 教えてくれなかったからなんとも でも大事な話とは言ってましたよ」

 大事な話というからには、聖剣の事で何か進歩でもあったのだろうか、それとも魔王軍か。

 どちらにしろ夜まで待てば話しが聞けるのだからここはおとなしく待つ事にしたリン。

「態々悪いな お前も病み上がりなんだから無理はするなよ」

「大丈夫ですよ! ……ところでさっきから気になってたこの本の山はなんです?」

 それはリンの布団を囲むように置かれた『本の山』だった。

 種別も別々で、中には子供向けの絵本まである。

「ああこれか……いい機会だから本格的に字の勉強をと思って用意してもらった」

「絵本もですか?」

「文字数が少ないから練習には丁度いいだろう 後はチビルに教わった五十音を紙に書いて……俺の世界の文字で読み仮名を振ってみた 今照らし合わせながら読んでるところだ」

「難しい字はどうしてるんですか?」

「辞書も貰ったからな それも調べながら覚えてる最中だ」

「ムムム……オレには頭が痛くなりそうな作業っす」

「俺はむしろ好きなんだけどな」

 そう言って今読み進めてるのは童話であった。

 すでにリンはレイが来るまでに何冊も読んでいたが、どの本も元の世界とほとんど変わらないというのが感想である。

(狸と兎か……さっき読んだ雀といい どれも元の世界と中身は変わりなしか)

 この世界でしか得られない特別な情報は、流石に絵本には載ってなかった。

 だがそれでも『元の世界と同一の物語』があるというのは、リンからすれば重要だと言えるだろう。

(この本はどうか……)

 そう思い古ぼけた一冊の本に手を伸ばし、パラパラとどんなものかを見て、読めるかどうか確認する。

 そしてこの本の事がわかった。

(むぅ……読めん)

 どうやら今の自分にはまだ難易度が高いようだ。

 専門用語なのかどうかわからないが、ほとんど読めない。

「そういえばこの世界は言語が違う国はあるのか?」

「え? そんなのありませんよ? 文字は多くてわからなかったり言い方が違うことはあっても極端にわからない言葉や文字なんてないですよ」

「随分便利だな」

「アニキの世界は違うんですか?」

「そうだな……国が違えば言葉が違ってた だから話すのにはその相手の国の言葉を理解しなくちゃいけなかった」

「うへ~めんどくさそう~」

「俺も得意じゃなかったしな 面倒だったよ」

 と言っても、最初にこの世界に来た時、リンは全く言葉がわからなかったのだが。

 その点は本当にあの憎たらしいアレ・・には感謝しなくてはならない。

(まあ絶対に嫌だがな)

 思い浮かべた魔王三銃士の一人『アイン』の事を思うとどうも苛立ちを覚えるリン。

 だがそれでも、この世界での一番の手がかりなのは間違いない。

(アインの情報が本当なら早く『ド・ワーフ』に行かなくちゃな)

「アニキ! 何か欲しいのありますか? あれば持ってきますよ」

「とりあえずは大丈夫だ お前こそゆっくりしとけ病み上がりなんだから」

「でへへへぇ~ アニキに心配して頂けただけで元気になります」

「安いやつだな」

 頰を緩めてだらしない顔をするレイを見てると、平和だなと思わさせた。

 そんな他愛のない会話をしていると、隣から今回の元凶の声がした。

「おーおー シオンの嬢ちゃんだけでも幸せ者だろうにまだ他にいるなんておじさん妬いちゃうね この色男」

 寝込む原因を作った張本人、ムロウである。

「あっ!? コイツですよね! アニキをこんな目に合わせたやつって!」

「まあまあ落ち着きなって嬢ちゃん おじさん彼に負けてそれはもう深く反省してるのさ いやほんとほんと」

「だそうですよアニキ? とりあえず庭に埋めますか?」

「気持ちはわかるがやめとけ」

 銃口をムロウに向けて有言実行しようとするレイを止めた。

 リンからすれば少しだけ撃ってもらいたいのが本音ではあったが、魔王軍でない以上そこまでする必要はない。

「感謝しなオッサン! アニキの慈悲深さによう!」

「流石は聖剣の担い手 なんてお優しい事で」

「フフン! そうだろ! もっと言えば許してやってもいいぞ」

「よっ流石! カッコいい! 抱いて!」

「いや~ それほどでもありますよね~ オレもいつも思ってますから~」

「なんでお前が照れるんだよ」

 どう考えても本当には思っていない言葉にコロっと騙され、完全に許しているレイに呆れてしまう。

「まあ反省してるかどうかはもうどうでもいいとして 何か用か?」

「いや隣でイチャイチャしてたからちょっかい出したくなっただけさ」

「心底どうでもいい用だな」

「寝てるだけなんて退屈なんだよ 読書は面倒だし」

「じゃあ動けばいいじゃん」

「それがシオンの嬢ちゃんが怖くて怖くて……」

「自業自得じゃん」

「まあそうなんだけど 少しぐらいはって……」

「少しも何も人巻き込んだんだから当たり前じゃん」

 ズバズバと全て正論で返され、流石のムロウもタジタジになってしまいリンに助け舟を求めて来た。

「ねぇなんでこの娘は的確に正論言ってくるの?」

「実際その通りだろ」

 レイの言う通り自業自得なうえ、助ける義理もない。そして今のリンからすればそんな事はどうでもいい。

 夜まで時間があるのだ、ここはせっかくの読書の時間を満喫しようと、リンは本を読み進めるのだった。
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