甥っ子が野獣化してました

ふうじょん

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俺はこういう人間だ

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 姉の薫ちゃんと俺は今まで1回も喧嘩なんかした事がない。家が裕福だから、何でも買って貰えたからかもしれない。ただ、過度な我儘は許されない。だから、ちゃんと育ったと俺と薫ちゃんは思っている。生まれてから本当に24年間、喧嘩をした事がない。年が離れているというのもあるかもしれない。薫ちゃんは34歳。普通に仲が良いと当の俺もおもーーー

「ねぇ駿ちゃん、今までずっと私の自由を奪ってきたじゃなぁい?」

 見た事の無い表情の姉がそこにいた。いつもはにこにこと笑顔が耐えない姉が、笑みは浮かべているが、目が笑っていない。優しく言ってはいるが、棘がある。

「………は?」

 言葉、表情、全て理解出来ず、思わず間抜けな声が出てしまった。

「あと、1回もあなたにお願いとかしなかったわぁ」

「き、急になん、だよ…」

 姉は誰に対しても優しく、三歩下がってついて行くような…感じの、はず…。
 思わず左右に目が泳いでしまう。

「だから、1つだけ私の願いを聞いてほしいの。」

 ぐいっと顔を上に向けられ、寄せられる。真っ黒な何を考えているか分からない瞳を真っ直ぐに向けられる。その様は蛇。周りから見たらきっと俺は蛙。

「賽太(サイタ)君を高校卒業まで預かって欲しいの。」

 有無を言わさぬ上からの目線。だけど、なんだって?賽太を預かれ?賽太とは、薫ちゃんの一人息子。薫ちゃんが高校三年という大事な時に産んだ、薫ちゃんの何よりも変え難い、目に入れても痛くない大事な息子。

「は?サイは今、イギリスだろ?」

 そうだ。今、賽太は日本で言うと高校1年。そして、海外で飛び級に飛び級を重ね、大学に通っていた。

「大学、卒業したの。でも、日本でも高校を卒業してほしいのよ。トーマスの会社を継ぐなら日本での教育も必要だしねぇ。」

 トーマスとは誰か…イギリスの方から薫ちゃんが高校生の時にその高校に留学生として来て、そのまま薫ちゃんの旦那となった人。とてつもなく、外見もだが中身も良い男だ。超が付く程のエリートで、かなり資産も持っている。だが、全然それを鼻にかけない腰の低さ。まぁ何個も良いエピソードがあるが、それは後々出てくるだろう。とりあえず俺は尊敬している。

「それでね、私は海外の方にトーマスと三年ぐらい仕事関係で行かないといけないのよねぇ。」

 薫ちゃんはトーマスの秘書兼指揮監督係。だから、トーマスが海外で仕事というのであれば、付いて行かないといけないだろう。
 と、いうのは分かるがなんで俺なんだ。母さんと父さんもいるだろう。

「因みに母さんと父さんは駄目だったの。現役で働いてるから、あの人達。」

 俺の考えを見抜いたのか、さすが、お姉様。

父さんも母さんもそれぞれ別の会社の社長。全然お互い会えないが、会った時は凄く恥ずかしいぐらい仲が良い。

「あなたしかいないのよね、暇な人。」

「は?暇じゃねぇよ。俺だって忙しくー」

「駿ちゃん、平社員じゃない。」

 うっ……。
 そうだ。姉やトーマス兄さん、父さん母さんに比べたら、責任も無く、土日は休みで、勤務時間も朝の9時出勤の夜6時退勤という凄い健良なホワイト企業に勤めるかくいう俺は平社員。

「…まじかぁ……。分かった…。」

 半ば諦めの納得である。友達も少ないし、土日は基本的に家で籠ってゲームやら漫画、映画など悠々自適に過ごしている俺にもう切り札は無い。

 土曜日の朝早く(7時)に何事だと思って出てみれば、ニコニコの笑顔の姉が居て、まさかまさかの甥っ子の面倒を見る事になりました。

ーーーー

姉の突撃訪問から1週間後…
サイが今日から住む事になる為、俺のマンションにサイの荷物が届いた。段ボールが十箱も…しかも全部かなりの重さ。何が一体入っているんだ。
たまに客人(主に父母)が来る為、一部屋だけ空けていた所にサイの荷物は全部詰め込んだ。荷解きをしといた方がいいか、と考えたが、サイももう、思春期だろう。勝手に見てサイテー(サイだけに…プッ)と嫌われたら、これから一緒に暮らすってのに、支障やら弊害やらが出て、暮らしにくくなってしまう。

サイが来るまでまだ時間はある。俺は自室で憩いのゲーム時間を過ごす事にした。普段の眼鏡からゲーム用の眼鏡に変えて、コントローラーを手にし、ふと、考える。

「けど…何年ぶりだ?」

5年振りぐらい?最後に会ったのは10歳とかそこらへんだったか。
トーマス兄さん似の青い目は大きく、薫ちゃん似の艶やかな黒髪はふわふわで、お人形の様な子だった。同い年ぐらいの女子よりも小さく、雑に扱うと壊れてしまいそうな気がして、抱っこやおんぶなどしたりしていたが、慎重に扱っていたのを覚えている。男の子にはとても見えない
今はもう少し大人になってはいるだろうが、きっと中性的な感じだと思う。トーマス兄さんはスラリと背は高いが、線が細く、綺麗だ。だからと勝手にサイの全体像を思い描きながら、あとはゲームに没頭していった。

それから数時間経って、時計をチラリと見ると、もう夜だった。丁度、キリの良い所で終えれる為、コントローラーを置いて、伸びをし、眼鏡を部屋用に変えて、玄関へと向かう。

「…あれ?遅くね?」

リビングの時計を見ると、20時になっていた。夕方には来るはず…と思いながら、首を捻りながら部屋のスリッパからサンダルへと履き替えて、外へと出て13階のバルコニー(因みに15階建てのマンション)から身を少し乗り出して周りを見てみる。…居ない。
迷っているのだろうか。
サイに電話した方がいいか、とポケットに手を突っ込んでスマホ取り出し、電話をかける。

『death!!!death!!!death!!!ーーピッ』

と、後ろから凄い音が聞こえた。バッと後ろを振り向くと、でっかいもっさりした熊がいた。

「駿兄ちゃん。今日から宜しくね。」

これまたおっきな無骨な手を振りながら、言葉を喋った熊…あ、

「え…サイ…?」

「そだよー。」

もっさりヘアはヘラヘラと笑う…サイ、らしい。あれ?天使は?



部屋の中に招き入れると、更に大きい。俺より20センチ以上は大きいのではないだろうか。
ソファに我が物顔でどかっと座ったそいつは髪をボリボリと掻いてにへらにへらとしている。
…掻く度に頭から白い物が飛んでいるが、気のせいだろうか。無精髭も生えて…もう、なんか。

きちゃない。

お茶を出して、向かい側に座り観察。
…本当にこいつ、サイか?あの頃の面影が1ミリも無い。別人だ。うん、きちゃない。

「はぁ~、駿兄ちゃん、会いたかったよー。ね、僕、大人になったでしょ?」

自慢気に言うその声も凄い低い。…身なりが少し汚いとか思っちゃったが、声がなんか凄い色気を感じる。16のガキが出していい色気じゃないぞ?

「……お前、本当にサイ?」

「!?何を言ってるの!」

思わず口に出ていた。失礼だな、俺。
すると、それを聞いたサイが驚いたように前のめりになって、もっさりヘアの前髪をかきあげ、俺に顔を近付けてきた。それまで隠れていた目が露わになる。その目には覚えがあった。

「ほら!この目!青い目!…駿兄ちゃんが褒めてくれた目の色。他に無いでしょ!」

目は夏の青空の様な澄んだ青。大人になっていくと変わる人もいると聞くが、サイは変わらなかったらしい。まつげの長さや目の形も昔と変わらずだった。
そして、風貌や声は変わってしまったが、その口調や雰囲気は昔のままだ。思わず、笑ってしまう。簡単な事ですぐムキになる感じはあの頃のままらしい。
確かにサイだ。

「ごめん、ごめん。サイだな。」

目の前にいるむくれた大きな熊の頭を撫でる。…ん?なんか油がつく…。

「!…んもう、駿兄ちゃんの意地悪ー。」

撫でられてびっくりした様な顔をするが、直ぐに照れ臭そうに離れていく姿もあの頃とそっくりだった。中身は全然成長していないのか。

「というか…サイ、さっきからちょくちょく思ってはいたけどさ…言っていいのか分からねぇけど…。」

「ん?何ー?言ってよー」

「……サイ、その、なんか、汚くね?」

思いきって言ってみた。目は下。中々人に言える様な事じゃない。傷付く人もいる。結構ズバズバと言う様な人(俺)もいるが、相手は思春期の高校生。

サイは下を向いてプルプルと震え出した。
え、怒らした?泣いてる?

「ごめーー「プッ…あはははは」…は?」

慌てて謝ろうと顔を覗けば、吹き出し、顔を上げて笑い出した。どういうことだ。

「はははは…はー、おもしろー。そんなに気をつかわないでよー。」

一頻り笑って、笑いすぎて少し涙目になっているが、ふわりと笑って、手をこちらまで伸ばしてきて、肩をぽんぽんと叩かれる(手も長っ)。笑顔は幼さが残るものの、元々がとても良いのだろう。こんなに汚いのに男前だ。これはさぞモテるだろう。甥が男前だというのと、笑われた事を思い出し、少し苛立ちが込み上げてくる。

「気をつかうだろ!ネットで調べたら、高校一年なんて、思春期真っ盛りって書いてあったんだ!」

「えっ。わざわざ調べてくれたのー?ありがとー。」

「クソっ…調べる必要無かったな!」

ヘラヘラ笑うサイに俺はガックリと肩を落とし、悪態つく。

「こんなに汚い格好でごめんねー。1週間ぐらい、お風呂入って無いんだー」

「マジかよ!汚っ!なんで入って無いんだよ!」

昔からのんびりはしていたが、こんな面倒くさがりになるとは思わなかった。思わず眉を顰めてサイの方を見る。すると、サイは慌てた様に手を顔の前で振った。

「いつもは入ってるよ?…1週間、アフリカの貧しい地域の方に行ってたんだー。色んな世界が見てみたくて。」

そう言うサイは輝いて見えた。俺は直ぐに先程考えていた事が恥ずかしくなった。

「……風呂、入れば?」

ぶっきらぼうになってしまったが、しょうがない。恥ずかしい。
風呂場がある方を指差す。

「うん、入ってくる。」

笑みを浮かべながら頷いて、サイは俺が指差した方へと向かった。

笑顔はすごく昔を思わせるものだが、昔と違う。大人っぽさが出てきている。そこに少し戸惑ってしまう。俺はソファに深くもたれた。

「…これは前途多難だったりするか?」

俺は一人ごちる。

しかもだ!!!俺の方が大人なのに、なんか対応が俺より大人じゃね??なんかムカつくなー。いや!ムカつく!かなり!



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