転生投資家、異世界で億万長者になる ~魔導株と経済知識で成り上がる俺の戦略~

ソコニ

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第5話:「市場予知の力」

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ミラとの市場巡りから三日が経った。誠は商人ギルドでの仕事を終えるたびに、ギルド・エクスチェンジに足を運び、自分の新たな能力について調査を続けていた。

「『市場予知』か…」

静かに座って市場を観察していると、人々から立ち上る気流がより鮮明に見えるようになっていた。色や形、動きは人によって様々だ。誠は自分のノートに、気流のパターンと人々の行動の関係を克明に記録し始めた。

青い上昇気流を出している投資家は「買い」の意向を持ち、赤い下降気流の人は「売り」を考えている。紫色の渦巻く気流は「迷い」や「不確実性」を示しているようだ。そして、金色に輝く気流は「強い確信」を表しているらしい。

「まるで市場の心理が可視化されているようだ…」

誠は驚異的な発見に、興奮を抑えきれなかった。証券マンとしての彼は、市場心理の把握がいかに重要かを知っていた。感情が価格を動かし、価格が感情を動かす—それが市場の本質だ。

特に興味深かったのは、気流のパターンが明確な「方向性」を持つことだった。時には複数の気流が混ざり合い、場の全体的な「流れ」を形成する。その流れが強まると、価格が大きく動く傾向があった。

「これは…予測に使えるかもしれない」

誠は静かに呟いた。彼は市場全体を見渡し、個々の魔導株に対する投資家たちの心理を観察した。エリオットの「防御魔法障壁研究」に関しては、まだ紫色の不確実性の気流が多いが、熱心な支持者からは金色の確信の気流も出ている。これは「潜在的な上昇の可能性」を示唆しているのではないか。

理論を構築するだけでは不十分だ。誠は実践的な検証を行うことを決意した。

「投資してみるか…」

しかし、問題は資金だ。今の手持ちはシルバーコイン30枚ほど。魔導株一株を買うにはゴールドコイン10枚(シルバー1000枚相当)が必要だ。

考えた末、誠は一つの案を思いついた。

---

「担保に取るのは、この魔導石ですか?」

老練な金貸しのオルドは、誠が差し出した青い石を疑わしげに眺めた。彼の店は市場区域の片隅にあり、正規の金融機関よりは条件が悪いが、担保の審査は緩いと評判だった。

「はい。これは特別な石なんです」

「ふむ…確かに普通の魔導石より強い魔力を感じる。だが、価値までは分からんな」

オルドは石を手に取り、あらゆる角度から観察した。「誠運を司る者」という刻印に目を細めて、

「運を司る石、か。珍しいものだ」

「ゴールド1枚だけでいいんです。必ず返します」

「小額ならば…良かろう。利子は月1割だ。担保はこの石、期限は一ヶ月だ」

「ありがとうございます」

誠は借りたゴールドコインをポケットに入れ、店を出た。魔導石を手放すのは少し不安だったが、これは必要な賭けだ。今日こそ、「市場予知」の能力を実戦で試す時だった。

---

ギルド・エクスチェンジに到着した誠は、まず市場全体の「流れ」を注意深く観察した。今日は全体的に青い上昇気流が優勢で、魔法関連の研究魔導株に関心が集まっているようだ。

「どの株に投資すべきか…」

誠は掲示板を見回した。エリオットの「防御魔法障壁研究」は魅力的だが、長期的な投資になりそうだ。今回の目的は短期的な検証なので、もっと即効性のあるものがいい。

そのとき、一つの魔導株に対する気流のパターンが彼の目を引いた。「瞬間転移魔法実験」という研究プロジェクトだ。この株の周りでは、金色の確信の気流と青い上昇気流が強く渦巻いていた。

誠は掲示板に近づき、詳細を確認した。

「研究者:マーカス・スウィフト。現在の株価:ゴールド7枚。昨日の重要な実験で画期的な進展があり、明日結果を公表予定」

周囲の投資家たちの会話にも耳を傾けた。

「マーカスの実験は成功したらしいぞ。内部情報だ」
「でも、まだ公式発表はないからな。賭けになるぞ」
「情報が広まれば、明日には株価が跳ね上がるかもしれない」

誠は気流のパターンをさらに分析した。人々の確信と期待は本物のようだ。だが、まだ公式発表前のため、全員が行動を起こしているわけではない。これは「情報の非対称性」が生じている状態—前世の証券市場でも、最も利益が生まれやすい状況だ。

「決めた。この株を買おう」

誠は取引カウンターに向かい、必要な手続きを行った。初めての魔導株購入だったが、基本的な流れは前世の株式売買と似ていた。違いは、契約が魔法によって保証される点だけだ。

「瞬間転移魔法実験」魔導株1株、ゴールド7枚で購入完了。

取引を終えた誠は、小さな魔導証書を受け取った。株主としての権利を証明するものだ。あとは明日の発表を待つだけ。

---

翌日、誠は朝から落ち着かない様子で仕事に取り組んでいた。昼休憩になるやいなや、彼はギルド・エクスチェンジに駆けつけた。

市場に着くと、興奮した人々の声が響いていた。

「マーカスの実験成功だ!」
「瞬間転移の距離が従来の三倍に延びたらしい!」
「王国軍も関心を示しているという!」

掲示板を見ると、「瞬間転移魔法実験」の株価は急騰していた。ゴールド7枚から15枚へ、一日で倍以上の上昇だ。

誠は「市場予知」の能力で周囲を観察した。青い上昇気流と金色の確信の気流がさらに強まり、市場全体を覆い尽くしている。

「売るべきか、もう少し持つべきか…」

彼は少し迷ったが、学生時代のファイナンス理論を思い出した。「初めての投資では、利益確定は早めに行うべき」—リスク管理の基本だ。

誠は取引カウンターに向かい、保有株を売却した。15ゴールドの売却代金を受け取り、彼は深く息を吐いた。

「利益8ゴールド…成功だ」

彼の「市場予知」能力は確かなものだった。感情や心理を可視化することで、価格変動の予測が可能になるのだ。

この成功に勇気づけられ、誠はさっそくオルドの店に向かい、借金1ゴールドを返済。魔導石を取り戻した。残りの7ゴールドは純粋な利益だ。

「これは…可能性があるぞ」

誠は心の中で興奮を抑えきれなかった。証券マンとしての知識と「市場予知」能力を組み合わせれば、魔導株市場で確実に勝てるはずだ。

しかし、一人では限界がある。もっと情報が必要だし、資金も増やしたい。

「そうだ、ミラに相談してみよう」

---

その日の夕方、誠は市場の片隅にあるミラの働き場所を訪ねた。彼女は市場事務所の裏部屋で、山積みの伝票を仕分けしていた。

「ミラさん、お話があります」

「誠さん!どうしたの?」

ミラは驚いた様子だったが、すぐに誠を中へ招き入れた。小さな部屋には伝票の山と簡素な机があるだけだった。

「実は、『市場予知』の能力を試してみたんです」

誠は今日の投資の顛末を全て話した。どのように気流を観察し、情報を分析し、投資を決断したか。そして、結果としてゴールド7枚の利益を得たことも。

ミラは目を見開いて話を聞いていた。

「すごい!本当に市場予知の能力があるのね!」

「ええ、そしてこの能力とあなたの数字の才能を組み合わせれば、もっと大きな可能性があると思うんです」

誠は真剣な表情で続けた。

「ミラさん、私と一緒に投資事業を始めませんか?パートナーとして」

「え?」ミラは驚いて耳をピクピクさせた。「私と?」

「はい。あなたの市場知識と計算能力、そして私の分析力と市場予知能力。お互いの強みを活かせば、必ず成功できると思います」

ミラは少し俯き、迷いの表情を浮かべた。

「でも…私は半獣人よ。誰も私を信用しないわ。半獣人が商売をするなんて…」

彼女の声には不安と諦めが混じっていた。おそらく過去の経験からくる心の傷なのだろう。

「ミラさん」誠は優しく、しかし強い口調で言った。「あなたの才能は並外れています。私が見てきた中で、最も驚異的な数字センスを持っている。それを活かさないのは、この世界にとっても損失です」

彼の言葉にミラは顔を上げ、驚いたように誠を見つめた。

「それに」誠は続けた。「私は異世界から来た身です。あなたも私も、この社会では『異物』かもしれない。だからこそ、互いに理解し、協力できるんじゃないでしょうか」

ミラの目に、少しずつ光が戻り始めた。

「本当に…私の能力が役立つと思う?」

「絶対に。むしろ、あなたなしでは成功できないと思います」

誠はポケットから、今日得た7ゴールドを取り出した。

「これが最初の資本金です。少ないですが、二人で増やしていきましょう」

ミラは少し考え込み、やがて決心したように顔を上げた。

「わかったわ。やってみる」

彼女の声には新たな決意が宿っていた。

「でも、どこで事業を始めるの?」

「それが問題なんです」誠は認めた。「事務所を借りるにはもっと資金が必要で…」

「私が良い場所を知ってるわ」ミラが突然言った。「市場区域の端に、使われていない小さな倉庫があるの。所有者は私の知り合いで、少しの家賃で貸してくれるかもしれない」

「それは素晴らしい!早速見に行きましょう」

二人は市場を後にし、ミラの案内で市場区域の外れへと向かった。そこには確かに、小さな石造りの倉庫があった。中は埃っぽく、修繕が必要な箇所もあったが、窓もあり、事務所として使えそうだった。

「ここなら月額シルバー5枚で借りられると思うわ」ミラが言った。

「完璧です。明日にでも交渉しましょう」

二人は倉庫の中で向かい合って立ち、未来について語り合った。どんな投資戦略を取るか、どのように資金を増やしていくか、将来的にはどんな事業展開を目指すか。

話し合いの中で、ミラの表情は次第に明るくなっていった。彼女の中に眠っていた才能と可能性が、新たな希望と共に目覚めていくのが感じられた。

「私たちの投資事務所、何て名前にしようか?」ミラが尋ねた。

誠は少し考え、そして微笑んだ。

「『フェニックス・インベストメント』はどうですか?灰の中から蘇る不死鳥のように、私たちも新たに生まれ変わるという意味を込めて」

「素敵な名前ね」ミラは微笑んだ。その笑顔には、久しぶりの自信と期待が満ちていた。

「明日から準備を始めましょう。必要な物のリストを作って…」

二人の話し合いは夜遅くまで続いた。市場が閉まり、商人たちが帰路につく頃、誠とミラは新たな冒険への第一歩を踏み出していた。

誠のポケットの魔導石は、かつてないほど明るく輝いていた。「誠運を司る者」—その名の通り、新たな運命の扉が開かれようとしていた。
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