転生投資家、異世界で億万長者になる ~魔導株と経済知識で成り上がる俺の戦略~

ソコニ

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第6話:「フェニックス・インベストメント」

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市場区域の外れにある小さな石造りの倉庫。埃まみれだった床は今やきれいに磨かれ、壁には簡素ながらも清潔な棚が設置されていた。窓からは暖かな秋の日差しが差し込み、部屋全体を明るく照らしている。

「看板、完成したわよ!」

ミラは誇らしげに、木製の看板を掲げた。そこには美しい筆致で「フェニックス・インベストメント」と書かれており、その下には燃え上がる不死鳥の簡素な絵が描かれていた。

「素晴らしい!」誠は感嘆の声を上げた。「字も絵も上手いね」

「ありがとう。実は絵は得意なの」ミラは照れくさそうに耳をピクピクさせた。

二人がこの場所を借りてから一週間。毎日の仕事を終えた後、二人は倉庫の改装に取り組んできた。床の掃除、壁の修繕、簡素な家具の調達。すべてを自分たちの手で行い、少ない資金を節約していた。

「明日、いよいよ開業だね」

誠は感慨深げに部屋を見回した。小さな応接スペース、投資相談用の机と椅子、そして奥には記録や資料を保管する棚。決して豪華ではないが、彼らのビジネスを始めるには十分な設備だった。

「不安?」ミラが誠の表情を見て尋ねた。

「ううん、むしろワクワクしてる」誠は微笑んだ。「前世で自分の判断ミスで失敗した投資の知識を、今度は正しく使える。それも、優れたパートナーと一緒にね」

ミラは頬を赤らめた。「私も楽しみよ。でも…資金が心配」

確かに、彼らの現在の資本金はゴールド7枚とシルバー数十枚。投資業を始めるには決して潤沢とは言えない額だった。

「大丈夫だよ。最初は小さく始めて、徐々に実績を積み上げていこう」誠は自信を持って言った。「僕の市場予知能力とミラさんの計算能力があれば、効率的な投資ができるはず」

「そうね」ミラは頷いた。彼女は手元の帳簿を開き、最初の投資計画を確認した。彼女の提案で、資金の大半は確実性の高い魔導株へ、一部を高リスク高リターンの案件に振り分ける戦略を採用していた。

「これなら月に15%程度の利益は見込めるわ」

「最初の一ヶ月は実績作りに集中しよう。小額でも確実に利益を出し続ければ、少額投資家たちの信頼を得られるはずだ」

二人は夜遅くまで計画を練り、明日の開業に備えた。

---

「フェニックス・インベストメント、ただいま開業しました!」

翌朝、彼らは店の前に立て看板を出し、公式に事業を始めた。最初の数日は来客ゼロ。それも予想していたことだ。誠とミラは計画通り、自分たちの資金で慎重に投資を始めた。

誠の市場予知能力は日に日に鋭くなっていた。市場に立つと、人々から立ち上る感情の気流がより明確に見え、短期的な価格変動さえ予測できるようになっていた。

「この『光魔法増幅装置』の研究株、明日上がりそうだ」

誠はギルド・エクスチェンジからの帰り道、ミラに伝えた。「研究者の周りには金色の確信の気流が強く、投資家たちの間でも徐々に青い上昇気流が広がっている」

「調べてみるわ」

ミラは彼女特有の情報ネットワークを駆使して、その研究の評判や進捗状況を探った。彼女は市場の雑用係として培った人脈があり、伝票や取引記録から読み取れる情報も多かった。

「確かに期待できそうね。研究者のラボへの魔法素材の納品記録を見ると、最終実験段階に入っているわ」

彼らはゴールド1枚をこの株に投資し、予想通り翌日には20%の利益を得た。この成功パターンは続き、二週間が経つ頃には資本金がゴールド10枚に増えていた。

事業の評判も徐々に広がり始めた。市場の小口投資家たちの間で、「フェニックス・インベストメントは当たる」という噂が流れるようになった。

ある日、初めての客が訪れた。それは50代ほどの商人で、「儲かると聞いたが、本当か?」と半信半疑の様子だった。

「保証はできませんが、私たちは徹底した調査と分析で投資判断をしています」誠は丁寧に説明した。「もしよろしければ、小額からお試しいただけますか?」

商人はシルバー50枚を預け、一週間後、それがシルバー62枚になって戻ってきたとき、すっかり信頼を寄せるようになった。

そこから口コミで評判が広がり、フェニックス・インベストメントには少しずつ顧客が増えていった。主に小額投資家や年金生活者など、大きなリスクは取れないが安定した運用を求める人々だ。

誠とミラは彼らの資金を預かり、市場予知能力と綿密な分析で運用。手数料として利益の10%を受け取るシステムを確立した。

「この調子で行けば、数ヶ月後には事業も安定するわね」

ミラは帳簿をつけながら嬉しそうに言った。彼女は数字に対する天才的な能力を活かし、複雑な投資ポートフォリオの管理や収支計算を完璧にこなしていた。

「そうだね。でも、まだ始まったばかりだ」

誠は市場の分析資料に目を通しながら答えた。彼は前世の証券マンとしての経験を活かし、この世界の市場特性を日々研究していた。市場予知能力は素晴らしい武器だが、それだけに頼るわけにはいかない。論理的な分析と直感のバランスが重要だということを、彼は痛いほど理解していた。

---

開業から一ヶ月が過ぎたある午後、店のドアが開き、一人の少年が恐る恐る中に入ってきた。

「あの…ここが、フェニックス・インベスルメント、でしょうか?」

14、5歳ほどの少年は、少し緊張した様子で尋ねた。やや色褪せた服を着ているが、目は好奇心に満ちて輝いていた。

「インベストメントね」ミラが優しく訂正した。「そうよ、何かご用事?」

「僕、トビアスといいます。投資について、教えてもらえないかと思って…」

誠とミラは少し驚いた様子で顔を見合わせた。

「投資を学びたいの?」誠が尋ねた。

少年は熱心に頷いた。「はい!市場で皆さんの噂を聞いて。僕は魔法学校に通っているんですが、研究資金を集める方法を知りたくて」

「魔法学校に?」

「ええ、王立魔法学院の予備校です。でも、僕の家は貧しくて、このままでは正式な学院に進学できそうにないんです」

トビアスは少し恥ずかしそうに頭を掻いた。「だから、投資で資金を増やせないかと…」

誠は少年の真摯な眼差しに、何か心を動かされるものを感じた。彼自身も前世では若い頃から金融に興味を持ち、独学で勉強した経験がある。

「わかった。基本から教えよう」

誠はトビアスを応接スペースに招き入れ、魔導株市場の仕組みについて説明し始めた。リスクとリターンの関係、分散投資の重要性、市場の読み方。誠は自分の知識を整理しながら、できるだけ分かりやすく伝えようとした。

驚いたことに、説明を聞いているのはトビアスだけではなかった。ミラも仕事の手を止めて熱心に耳を傾け、さらに二人の顧客もタイミングよく来店して、興味深そうに話に加わった。

「なるほど、だから多くの魔導株に少しずつ投資するのが良いのか」
「魔法観測値と価格の関係、そういう見方もあるのね」

顧客たちも質問を交え、議論は活気づいた。

「誠さん、これを定期的にやったらどうかしら?」ミラが提案した。「『投資教室』みたいな感じで」

「それは良いアイデアだね!」

投資の基本を広めることで、市場全体の健全化にも貢献できるはずだ。また、教室を通じて顧客の獲得にもつながるかもしれない。

「トビアス君、ありがとう。君のおかげで良いアイデアが生まれたよ」

少年は照れくさそうに笑った。「いえ、僕こそ勉強になりました。でも…」

彼は少し躊躇った後、勇気を出して言った。「実は、お金はほとんどないのですが、ここでお手伝いしながら学べないでしょうか?魔法の勉強の合間に、できる限りのことをします!」

誠とミラは顔を見合わせた。事業は軌道に乗り始めたばかりで、助手を雇う余裕があるかは微妙だった。しかし、熱心な少年の姿に、二人とも何か特別なものを感じていた。

「いいよ、試しに来てみるか」誠が言った。「まずは週に三日、放課後だけでいい。報酬は少ないけど、その代わり投資の知識をしっかり教えよう」

「本当ですか!?」トビアスは飛び上がるほど喜んだ。「ありがとうございます!明日から来ます!」

少年が帰った後、ミラは微笑んだ。「いい子ね。魔法の才能があるの?」

「魔法学校に通っているなら、何かしらあるんだろう」誠は答えた。「彼が言っていた『研究資金』というのも気になるね。何か特別な研究をしたいのかもしれない」

「明日、詳しく聞いてみましょう」

---

翌日から、トビアスは熱心に働き始めた。彼の仕事は主に店の掃除や雑用、伝票の整理などだったが、何をするにもテキパキと効率的にこなした。魔法学校で身につけた几帳面さが役立っているようだった。

「トビアス君、君が研究したい魔法とは何なの?」

ある日、ミラが何気なく尋ねると、少年の目が輝いた。

「変換魔法です!物質の性質を変える魔法なんです。例えば、普通の石を魔導石に変えたり…」

「それは面白そうね」

「はい!でも、実験には高価な素材が必要で…だから投資で資金を作りたいんです」

少年の目標を知った誠とミラは、彼の成長をより一層支援したいと感じた。誠は毎日の業務の合間に投資の基礎を教え、ミラは計算のコツや市場情報の集め方を伝授した。トビアスは吸収が早く、すぐに基本的な投資分析ができるようになっていった。

「トビアス君は『見習い投資魔法使い』だね」ある日、誠が冗談めかして言うと、店にいた顧客たちが笑った。

「投資魔法使い?そんな職業があるのか?」
「面白い言い方だな。魔法で金を増やす魔法使いか!」

この冗談は意外な反響を呼び、市場では「フェニックス・インベストメントには投資魔法使いがいる」という噂が広まった。その結果、好奇心から訪れる客も増え始めた。

「誠さん、『投資魔法使い』って呼ばれてるわよ」ミラがある日、市場から戻って来て笑いながら報告した。

「まさか」誠は苦笑した。「冗談のつもりだったのに」

「でも、悪くない呼び名じゃない?」ミラは真面目な顔で言った。「あなたの能力は、確かに魔法のようなものだもの」

市場予知能力—それは魔法と言っても過言ではなかった。誠はポケットの魔導石を握り締めた。「誠運を司る者」と刻まれたこの石は、彼の能力と関係があるのだろうか。

「さて、今日のポートフォリオを見直そうか」

誠は話題を戻し、仕事に集中した。店内には陽の光が差し込み、テーブルに広げられた魔導株の分析資料やミラの完璧な会計帳簿が輝いていた。壁には「フェニックス・インベストメント」の看板の小さな複製が掛けられ、その下で新たに「見習い投資魔法使い」となったトビアスが熱心に勉強している。

短期間で彼らが築き上げたこの小さな世界に、誠は深い満足感を覚えた。前世での挫折を乗り越え、新たな一歩を踏み出した実感があった。

「灰から蘇る」—店の名前に込めた思いは、確かに現実になりつつあった。

しかし誠は、この穏やかな成功が続くとは思っていなかった。市場にはより大きな力が存在し、彼らのような新興勢力を快く思わない者たちもいるはずだ。

その予感は、すぐに的中することになる。
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