転生投資家、異世界で億万長者になる ~魔導株と経済知識で成り上がる俺の戦略~

ソコニ

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第18話:「貴族の妹」

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民衆投資連合(MPU)の成功から一週間が過ぎ、フェニックス・インベストメントの名声は王都全体に広がっていた。誠はMPUの運営に加え、新たな取り組みとして投資知識の普及活動を始めていた。王立図書館の一室を借り、週に二度、無料の投資講座を開催していたのだ。

「投資とは単なる賭けではありません」

誠は三十名ほどの聴講者を前に語りかけていた。彼らは商人や職人、書記官など様々な職業の人々だった。

「本質的な価値と市場価格の差を見極め、情報の非対称性を利用するのが投資の基本です」

聴講者たちはメモを取りながら熱心に聞き入っていた。誠は自分の言葉が人々の人生を変える可能性があることに、やりがいを感じていた。

「質問はありますか?」

誠が講義を終えると、いくつかの手が上がった。質問に丁寧に答えていく中、彼は後方の席に座る一人の人物に気づいた。薄いフードをかぶり、顔を隠している。体格は小柄で、恐らく女性だろう。彼女だけは質問をせず、静かに聴いていた。

「今日はここまでです。次回は『リスク分散の方法』について学びましょう」

人々が解散し始める中、フードの人物は動かなかった。誠が資料を片付けていると、その人物がゆっくりと近づいてきた。

「素晴らしい講義でした、田中誠さん」

柔らかく澄んだ声だった。フードを少し下げると、そこには若い女性の顔があった。金色の髪と翡翠色の瞳。上品な顔立ちに教養が滲み出ている。年齢は二十歳前後だろうか。

「ありがとうございます」誠は丁寧に応じた。「初めてお見えになりましたね」

「はい」彼女は微笑んだ。「あなたの噂を聞いて、どうしても話を聞きたくて」

「噂ですか?」

「異世界から来た投資の賢者がいるという噂です」彼女の声は小さくなった。「その方が『市場予知』という特殊な能力を持ち、小さな投資家たちを救っているという…」

誠は警戒心を抱きながらも、彼女に何か特別なものを感じた。単なる好奇心ではない、真摯な知識欲が彼女の瞳に宿っていた。

「あなたは?」

彼女は周囲を確認してから、小声で答えた。

「ソフィア・ノーブルガードです」

「ノーブルガード?」誠は驚いた。「アルフレッド卿の…」

「はい、彼の妹です」彼女は肯定した。「兄には内緒でここに来ています」

ソフィアは誠に近づき、さらに声を潜めた。

「あなたと話をしたいのです。ただし、ここではなく…」

---

日が落ちた頃、誠はソフィアの指定した場所—王立植物園の奥にある小さな東屋—を訪れていた。彼は用心のため、MPUの契約書や重要書類は持たず、ミラにも万が一のための伝言を残していた。

東屋に近づくと、待っていたソフィアが声をかけた。今度はフードを取り、貴族の娘らしい上品な装いだった。

「来てくださって、ありがとうございます」

「どういたしまして」誠は適度な距離を保ちながら応じた。「ノーブルガード家の令嬢が、なぜこのような秘密の会合を?」

ソフィアは東屋のベンチに腰掛けた。

「兄からあなたの話を聞き、ずっと興味を持っていました」彼女は率直に語った。「私は王立魔法学院で魔法経済学を研究しています。魔法と経済の交点に、世界を変える可能性があると信じているんです」

誠は興味を覚えた。「魔法経済学?初めて聞きました」

「まだ新しい分野です」ソフィアの瞳が輝いた。「魔法がもたらす経済的価値や、魔導株の本質的評価法などを研究しています。でも、王立魔法学院は伝統的な魔法研究を重視し、経済学との融合には懐疑的なんです」

「それで私に会いたかった」誠は察した。

「はい。あなたの『実用価値評価法』という考え方に共感しました」彼女は熱心に続けた。「魔法の派手さではなく実用性を重視するという発想は、まさに私が求めていたものです」

彼女の言葉には偽りがないように思えた。誠は警戒を少し緩めた。

「私にとって投資とは、単なる金儲けの手段ではありません」誠は静かに語った。「この世界をより良くするための手段です。魔法の力を多くの人々に届けるための」

「私も同じ考えです!」ソフィアの声が弾んだ。「特権階級だけが魔法の恩恵を受ける世界は間違っています」

二人は魔法と経済の可能性について語り合った。ソフィアの知識は深く、誠の前世の経済知識と現世の魔法理解を結びつける議論は、両者にとって刺激的だった。

話が一段落したところで、ソフィアは表情を引き締めた。

「実は…他にもお話したいことがあります」

「何でしょう?」

「『王国富裕令』について」彼女は声を潜めた。「貴族社会の内部で、この法案に関して意見が大きく分かれています」

誠は身を乗り出した。「どういうことですか?」

「ヴァンダーウッド家が主導するこの法案に、表向きは多くの貴族が同調しています。しかし、水面下では反対派も少なくありません」ソフィアは説明した。「特に新興貴族や商業に関わる貴族たちは、市場の活力が失われることを懸念しています」

「でも、表立って反対を表明する者はいない」

「はい。ヴァンダーウッド家の政治力と経済力は強大ですから」彼女は続けた。「さらに、レオンハルト・ヴァンダーウッドには裏の顔があります。彼に逆らった貴族が破産に追い込まれた事例が何件もあるのです」

誠は眉を寄せた。「脅しですか」

「そう言えます」ソフィアは頷いた。「ですが、もしMPUが成功を収め、小規模投資家たちが団結して力を示せば、反対派の貴族たちも声を上げやすくなる。私の父も、密かに反対派なのです」

これは貴重な情報だった。誠は心の中で戦略を練り始めていた。

「なぜそこまで協力してくれるのですか?」誠は率直に尋ねた。

ソフィアはしばらく沈黙した後、決意を固めたように答えた。

「私は魔法の民主化を信じています。魔法の力は多くの人々のためにあるべきだと」彼女の瞳に決意の光が宿った。「そして…父や兄には言えないのですが、私も小さな投資をしてみたいんです。自分の力で」

夜風が二人の間を吹き抜けた。誠はソフィアに本物の熱意を感じた。

「わかりました」誠は微笑んだ。「情報に感謝します。そして、投資に興味があるなら、いつでも相談に乗りますよ」

「本当ですか?」ソフィアの顔が明るくなった。

「ただし、秘密にしておくことをお勧めします」誠は真剣な表情で言った。「あなたの立場が危うくなる可能性もありますから」

「わかっています」彼女は頷いた。「これからも時々、情報を持ってきます。お互いに助け合えればと思います」

別れ際、ソフィアは小さな袋を誠に手渡した。

「これは王立魔法学院の文書庫から見つけた、古い魔法経済学の書物のコピーです。参考になるかもしれません」

誠は感謝の意を表し、ソフィアと別れた。彼女はフードを被り、再び忍び足で植物園を後にした。

---

フェニックス・インベストメントに戻った誠を、心配そうに待っていたミラが迎えた。

「遅かったわね。どこに行ってたの?」

誠はソフィアとの会話について話した。アルフレッドの妹であること、彼女が魔法経済学を研究していること、そして貴族社会の内部事情について教えてくれたことを。

ミラは黙って聞いていたが、その表情には複雑な感情が浮かんでいた。

「その…ソフィアさんは、美人なの?」突然、彼女が尋ねた。

「え?」誠は予想外の質問に戸惑った。「まあ、貴族の娘らしい上品な容姿だったよ。金髪で緑の瞳で…」

「そう」ミラの声は妙に冷たかった。彼女は算盤を強く弾いた。

「どうしたんだい?」誠は彼女の様子に気づき、尋ねた。

「何でもないわ」ミラは視線を逸らした。「ただ、突然現れた貴族の娘を簡単に信用して大丈夫なの?って思っただけ」

「もちろん、完全に信用したわけではないよ」誠は慎重に言った。「でも、彼女の情報は私たちの戦略に役立つかもしれない」

「そうね」ミラの尻尾が落ち着きなく動いていた。「でも、これからもその…ソフィアさんと会うつもり?」

誠はミラの様子を見て、ふと気づいた。これは単なる警戒心ではなく、別の感情が混じっているようだった。

「彼女の情報は有益だから、ときどき会うことになるだろうね」誠は静かに答えた。「でも心配しないで。MPUと私たちの活動が最優先だ」

ミラは小さく「うん」と返事をしただけで、黙々と帳簿の整理を続けた。彼女の猫耳はわずかに下向きになっていた。

誠はソフィアから受け取った文書を広げ始めたが、時折ミラの方を見やった。彼女の中に芽生えた感情に、誠自身も複雑な思いを抱いていた。

---

翌朝、トビアスが興奮した様子で事務所に駆け込んできた。

「大変です、誠さん!MPUの影響が早くも出始めています!」

彼が持ってきた市場情報によると、MPUの結成と、誠の投資講座の噂が広がり、小規模投資家たちの間で「知識武装」の動きが活発化していた。ギルド・エクスチェンジでは、小口投資家たちが情報を交換する「投資サークル」が次々と結成されていたのだ。

「このままでは、王国富裕令が成立しても効果が薄れるかもしれません」トビアスは興奮した様子で報告した。「小規模投資家たちが団結し、知識を共有し始めているんです!」

「これは想定より早い展開だ」誠は感心した。「人々は変化を求めていたんだ」

その時、ミラが書類から顔を上げた。

「あら」彼女の表情が明るくなった。「MPUの第一回運用会議のための招待状ができたわ。明日、主要メンバーを招いて投資方針を決定するのよね」

「ああ」誠は頷いた。「小さな一歩だが、大きな変革の始まりだ」

トビアスは目を輝かせた。「誠さん、あなたは歴史を変えているんです!」

窓から差し込む朝日が、新しい時代の夜明けを告げているようだった。誠は静かに微笑み、ミラの方を見た。彼女も微笑み返したが、その瞳には昨夜の複雑な感情の名残りがまだ残っていた。

「さあ、準備しよう」誠は二人に声をかけた。「私たちの挑戦はまだ始まったばかりだ」

彼らの前には、貴族の権力と民衆の希望が交錯する、長い戦いの道が広がっていた。
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