「捨て犬だと思ったら神狼の王子!? 最強もふもふに溺愛されながら異世界スローライフ」

ソコニ

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第5章:神獣の王の目覚め 第13話「旅の賢者」

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盗賊襲撃の事件から数週間が経った。レイン、ルーン、そしてクレイグの三人は、ローズマリー村を離れ、月光の祠を目指して東へと進んでいた。

道中、クレイグの豊富な経験と知識が大いに役立った。彼は元・魔獣ハンターとして様々な土地を旅し、多くの危険を乗り越えてきた人物だった。野営の仕方から危険な生物の見分け方まで、レインはクレイグから多くのことを学んでいた。

「月光の祠は、この山脈を越えたところにある」

クレイグは地図を広げ、指で示した。彼らは小さな丘の上で休息をとっていた。眼下には広大な草原が広がり、遠くには青い山脈が連なっていた。

「あと二日ほどで到着するだろう。その前に、補給のために『月見の里』という小さな村に立ち寄ることになる」

レインは頷き、ルーンの毛を優しく撫でた。旅の間、ルーンは日に日に成長しているようだった。体は少しずつ大きくなり、毛並みも一層美しく輝いていた。特に月明かりの下では、彼の姿は神秘的な輝きを帯びていた。

「月見の里…月に関係する地名ですね」

「ああ、その村は古くから『月の神』を崇拝している。神狼の伝説も残っているらしい」

クレイグの言葉に、レインは興味を示した。

「それなら、何か手がかりがあるかもしれませんね」

休息を終え、三人は再び歩き始めた。草原を抜け、小さな森を通り抜けると、夕暮れ時に月見の里の輪郭が見えてきた。

村は小高い丘の上に位置し、周囲を石の壁で囲まれていた。中央には大きな塔のような建物があり、その頂上には月の形をした装飾が輝いていた。

「あれは月の神殿だ」

クレイグが説明した。

「毎月の満月の夜に、特別な儀式が行われるという」

村の入り口に近づくと、番人が彼らを止めた。

「誰だ?何の用だ?」

「旅人です。一晩の宿と補給を求めています」

レインが答えると、番人は三人を、特にルーンを注意深く観察した。

「その獣は…」

番人は言葉を切り、ルーンの額の紋様を見つめた。彼の表情が一変し、急に敬意を示すような態度になった。

「ご案内します。長と会ってもらうことになるでしょう」

番人の態度の変化に、レインとクレイグは顔を見合わせた。

村の中に入ると、そこは思ったよりも活気に満ちていた。木々と花で飾られた美しい通りには、様々な店が並び、人々が行き交っていた。特に目を引いたのは、至る所に月のシンボルが飾られていることだった。

「彼らは本当に月を大切にしているんですね」

レインがつぶやくと、クレイグは頷いた。

「月の神殿」と呼ばれる中央の塔に案内されると、そこでは「月の祭り」の準備が進められているところだった。

「今日は満月の前夜です。明日の儀式の準備をしています」

案内人が説明した。

神殿の内部は広く、天井が高かった。壁一面には月の様々な姿が描かれ、中央には大きな月の石が置かれていた。その周りでは、白い衣装を着た人々が何かの準備をしていた。

「長をお呼びします」

案内人は一度退出し、しばらくして年配の女性を連れて戻ってきた。

「私がこの村の長、セラです。あなたたちが旅人なのは分かりました。しかし…」

セラの目がルーンに向けられた。

「その子は…」

ルーンはセラを見つめ返し、静かに一歩前に出た。その瞳には普段よりも強い光が宿っていた。

「まさか…紋様を持つ獣…」

セラは驚きの表情を浮かべ、思わず膝をついた。

「これは予言にあった…」

彼女の行動に、レインとクレイグは驚いた。

「何の予言ですか?」

レインが尋ねると、セラは立ち上がり、三人を別室に案内した。

「数日前、『月の巫女』が予言を授かったのです。『銀の紋様を持つ獣と旅人が訪れる』と」

「月の巫女?」

「我々の村で最も重要な存在です。月の神と交信し、神の言葉を伝える巫女です」

部屋の中には美しい壁画が描かれていた。そこには月の光に照らされた狼の姿と、彼に寄り添う人間の姿が描かれていた。

「これは…」

「古くからの予言です。『神狼の王と選ばれし守護者が再び現れ、世界の均衡を取り戻す』と」

セラの言葉に、レインとクレイグは顔を見合わせた。これまで彼らが聞いてきた予言と同じ内容だった。

「あなたたちが『月光の祠』を目指していることは分かっています。これも予言の一部でした」

「どうして私たちのことを…」

「明日、月の巫女にお会いください。彼女がより詳しく説明してくれるでしょう」

セラは三人に村で一番良い宿を用意すると言って、退出した。

宿は快適で、長い旅の疲れを癒すには十分だった。窓からは村の美しい夜景が見え、月が昇り始めている様子も見られた。

「まだ満月ではないが、明日は満月の夜…」

クレイグが呟いた。

「この村で何かが起きるのかもしれない」

レインもそう感じていた。彼はルーンを見た。ルーンも窓の外の月を見つめ、その瞳には深い思いが宿っているようだった。

翌朝、レインたちは早くに起き出し、村を散策した。昨日よりもさらに活気に満ちた村の様子を見て回った。

昼過ぎ、彼らは再び神殿に呼ばれた。今度は「月の巫女」に会うためだった。

神殿の奥にある小さな部屋に案内されると、そこには白い衣装に身を包んだ若い女性が座っていた。彼女の銀色の髪は長く、背中まで伸びていた。顔を上げると、透き通るような青い瞳が三人を迎えた。

「お待ちしていました、レイン・カザマさん、そしてルーン」

彼女の声は静かながらも、不思議な力を感じさせた。

「私はエリン、この村の月の巫女です」

「どうして私の名前を…」

「予言で見ました。あなたが異世界から来た人であることも」

レインは驚いた。自分が異世界から来たことを知っている人は限られていたはずだった。

「あなたとルーンの出会い、そして月光の祠への旅も、全て予言されていたことです」

エリンはルーンに近づき、彼の前で丁寧に膝をついた。

「久しく御目にかかれずにおりました」

その言葉に、ルーンは頭を傾げた。エリンは微笑み、立ち上がった。

「ご紹介する必要があります。二人だけで話せる場所へ」

エリンは三人を神殿の裏手にある小さな祠へと案内した。そこには月の模様が刻まれた古い祭壇があった。

「クレイグさん、少しの間、外でお待ちいただけますか?」

クレイグは一瞬躊躇したが、レインの頷きを見て了承した。

祠の中には三人だけが残された。エリンはルーンの前にかがみ、古い言語で何かを話しかけた。その言葉はレインには理解できなかったが、ルーンは明らかに反応を示した。彼の体が光り始め、額の紋様がはっきりと浮かび上がった。

「何を…?」

「古代語で話しかけたのです。神獣たちの言葉です」

エリンは立ち上がり、レインを見つめた。

「レインさん、あなたは特別な運命を背負っています。異世界から来た『選ばれし守護者』として」

「選ばれし守護者…それは何度か聞いた言葉ですが、具体的には何なのでしょうか?」

「神獣、特に神狼の王家の守護者となる人間のことです。古来より、特別な魂を持った人間だけが、神狼と真の絆を結ぶことができるとされています」

エリンは壁に描かれた絵を指差した。そこには人と狼が並んで立つ姿が描かれていた。

「この世界では、長い間神獣たちが人間と共存してきました。特に神狼は月の力を司り、世界の均衡を守る存在でした」

「ガリウス長老からも聞きました。大きな戦いの後、神獣たちは姿を消したと」

「そう。『闇の神獣』との戦いで、多くの神獣が命を落としました。生き残った者たちも力を失い、姿を隠すことになったのです」

エリンはルーンを見つめた。

「しかし、神狼の王家の血は途絶えませんでした。その最後の希望が…」

「ルーンということですか?」

「はい。彼は並の神獣ではありません。特別な存在なのです」

エリンの言葉に、レインはルーンを見つめた。ルーンもまた、真剣な表情でエリンの話を聞いていた。

「ルーンとの出会いは偶然ではありません。あなたたちの魂は古くから繋がっています」

「どういうことでしょう?」

「それは月光の祠で明らかになるでしょう。そこで最初の試練を受け、真実の一端が示されるはずです」

エリンは小さな袋を取り出し、レインに渡した。

「これは『月の砂』です。祠での試練に必要になります」

レインは感謝して袋を受け取った。

「今夜の満月の儀式に参加してください。そこでルーンの力を高める儀式を行います」

祠を出ると、クレイグが心配そうに待っていた。

「何があった?」

レインはエリンとの会話の内容を簡潔に伝えた。クレイグは深く考え込んだ後、頷いた。

「月の巫女…彼女の言葉には確かに力がある」

夕方になり、村では満月の儀式の準備が整った。中央広場に大きな祭壇が設けられ、村人たちが集まり始めていた。

儀式が始まると、エリンは白い衣装に身を包み、祭壇の上に立った。彼女の銀色の髪が風に揺れ、まるで月の光そのもののように輝いていた。

「今宵、予言に記された客人を歓迎します」

エリンの声が広場に響き渡った。

「『銀の紋様を持つ獣』と『異世界からの守護者』、そして彼らを助ける『元・猟師』」

村人たちから驚きのつぶやきが聞こえた。彼らは三人を見て、敬意と好奇心の混じった視線を向けていた。

「彼らは『月光の祠』への旅の途中、私たちの村に立ち寄りました。彼らの旅が実りあるものとなるよう、月の神に祈りを捧げましょう」

儀式が進むにつれ、満月が空高く昇ってきた。その光が広場全体を銀色に染め上げる。

エリンはルーンを祭壇の中央に招いた。ルーンはレインに一瞬の迷いを見せたが、レインの頷きを見て、祭壇へと上がった。

「月の光よ、この獣に宿る古き力を目覚めさせたまえ」

エリンの祈りの言葉とともに、何か不思議なことが起こり始めた。

月からの光がルーンに集中し、彼の体が明るく輝き始めた。額の紋様だけでなく、全身に銀色の模様が浮かび上がる。

「神狼の印…」

村人たちから驚きの声が上がった。

ルーンの体からの光はさらに強まり、一瞬、彼の姿が変わるように見えた。小さな犬の姿ではなく、威厳ある狼の姿へと。しかし、その変化は一瞬で、すぐにいつもの姿に戻った。

儀式が終わると、エリンはルーンをレインのもとへと戻した。

「彼の中の力が目覚め始めています。月光の祠での試練が、さらにその力を引き出すでしょう」

レインはルーンを抱き上げた。ルーンは少し疲れた様子だったが、その目は力強く輝いていた。

「あなたたちの前には長い旅が待っています。多くの困難もあるでしょう。しかし、二人の絆があれば、必ず乗り越えられます」

エリンの言葉に、レインは感謝の意を示した。

「あなたの助言と協力に心から感謝します」

儀式の後、村では大きな宴が開かれた。村人たちは三人を特別な客として歓迎し、美味しい食事と音楽で楽しませてくれた。

宴の最中、エリンはレインの側に座り、静かに話しかけた。

「あなたの魂は不思議な光を持っています。それは異世界から来たためだけではありません」

「どういうことですか?」

「あなたの中にも、目覚めていない力があります。ルーンの力と共鳴する力が」

レインは驚いた。自分にも特別な力があるとは思ってもみなかった。

「月光の祠では、ルーンだけでなく、あなた自身も試されることになるでしょう」

エリンの言葉は謎めいていたが、レインはその重要性を感じた。

「私にできることがあるなら…」

「ルーンを信じ、自分自身も信じることです。二人の絆こそが、最大の力になります」

宴が終わり、三人は宿に戻った。翌日、月光の祠への最後の旅程が待っていた。

翌朝、村を出発する三人を、村人たちが見送った。エリンも神殿の前で手を振っていた。

「また会える日が来るでしょう」

彼女の言葉に、レインとルーンは深く頭を下げた。

道を進みながら、レインはこれまでの旅を振り返っていた。ルーンと出会ってからのあらゆる出来事、そして彼が背負っている大きな運命。

「神狼の王…か」

レインはルーンを見た。ルーンも彼を見上げ、その目には強い信頼の色が宿っていた。

「どんな試練が待っていても、一緒に乗り越えよう、ルーン」

ルーンは力強く鳴き、レインの言葉に応えた。クレイグもまた、二人の絆を見て微笑んだ。

山々が近づいてくる中、三人の前には試練と真実が待ち受けていた。月光の祠での挑戦が、彼らの運命をどう変えるのか—それはまだ誰にも分からなかった。
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