「捨て犬だと思ったら神狼の王子!? 最強もふもふに溺愛されながら異世界スローライフ」

ソコニ

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第5章:神獣の王の目覚め 第16話「魔獣ハンター」

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疾風の祠での試練から一週間が経った。レイン、ルーン、クレイグ、そして新たに仲間となったユリアの四人は、第三の試練の場所を目指して旅を続けていた。

「次の試練の地は『炎の祠』」

ユリアは古い地図を広げながら説明した。彼女の持つ知識は、彼らの旅に大いに役立っていた。

「伝説によれば、そこでは神狼の『不屈の力』が試されるとされています」

レインはルーンを見た。彼はレインの足元で休んでいたが、耳をぴくりと動かし、ユリアの話に聞き入っているようだった。

疾風の祠での試練以来、ルーンには明らかな変化があった。言葉を話せる時間が長くなり、時折人の言葉で会話することもあった。また、彼の体も少し大きくなり、毛並みはより銀色に近い輝きを増していた。

「不屈の力とは何だろう?」

レインが尋ねると、ユリアは考え込んだ。

「古文書には、神狼は炎に耐え、火の中でも進む力を持っていたと記されています。試練の内容もそれに関連するものかもしれません」

クレイグは不安そうに眉をひそめた。

「火の中を進むとなると危険だな。ルーンにとっても負担が大きいだろう」

「心配しないで」

レインの膝に寄りかかっていたルーンが突然口を開いた。彼の声はまだ若く、少し不安定だったが、確かに人の言葉だった。

「試練は…乗り越えられる」

四人は森の中に小さなキャンプを作り、夕食の準備をしていた。クレイグが罠で捕まえた小動物を調理している間、レインとユリアは次の行程について話し合っていた。

「炎の祠までは、このまま南へ三日ほど進めば到着するはずです」

ユリアが地図を指さした。

「しかし、そこへ行く途中には小さな村があり、補給をする必要があります。ただ…」

彼女は顔を曇らせた。

「調査団もおそらく同じことを考えているでしょう。あちらも次の祠の場所を知っているはずですから」

レインは頷いた。疾風の祠で調査団から逃げられたものの、彼らがあきらめたとは思えなかった。特に、ルーンが言葉を話せるようになったことを知った今、彼らの執念はさらに強まっているだろう。

「村での滞在は短時間にして、目立たないようにしなければ」

クレイグが言った。

「ルーンは目立つからな。何か隠す方法を考えるべきだ」

ユリアは小さなリュックから布を取り出した。

「これでルーンを包み、赤ちゃんを抱いているように見せかければどうでしょう?」

「いい考えだね」

レインは同意した。

夕食を終え、焚き火を囲んで休んでいると、ルーンが突然耳を立て、森の方向を見つめた。

「何か…来る」

彼の低い声に、全員が緊張した。クレイグは即座に剣を手に取り、立ち上がった。

「何人だ?」

「多い…五人以上」

レインとユリアも立ち上がり、荷物をまとめ始めた。すぐに逃げられるよう準備しなければならない。

「逃げるべきか?」

クレイグがレインに尋ねた。レインはルーンを見た。

「ルーン、彼らは調査団?」

ルーンは首を横に振った。

「違う…もっと…危険」

その言葉が終わらないうちに、茂みが揺れ、黒い装束の人々が現れた。彼らは五人で、全員が黒い服と黒いマントを身につけていた。腰には剣が下がり、背には弓と矢筒を背負っていた。

「やあ、見つけたぞ」

先頭の男が笑みを浮かべて言った。

「これは驚きだな。ここで見つけられるとは思わなかったろう?」

「あなたたちは誰ですか?」

レインがルーンを守るように抱き上げながら尋ねた。

「我々は『魔獣ハンター』だ」

男は誇らしげに胸を張った。

「世界中の危険な魔獣を狩る者たちさ。そして今回の獲物は…」

彼はルーンを指差した。

「その獣だ。『銀の紋様』を持つ特別な狼。王国からの依頼で捜索していたんだ」

クレイグは剣を構え、男たちの前に立ちはだかった。

「魔獣ハンター…お前たちの本当の目的は何だ?」

「言った通りだ。その獣を連れて行くためにここにいる」

男はマントを翻し、腰の剣に手をやった。

「おとなしく渡せば、お前たちには危害を加えない」

「断る」

レインは毅然とした態度で言った。

「ルーンは僕の大切な仲間だ。誰にも渡すつもりはない」

男の表情が冷たくなった。

「そうか、ならば力づくだ」

彼が手を上げると、他の四人が一斉に武器を抜いた。

「捕らえろ!」

魔獣ハンターたちが襲いかかってきた。クレイグは剣を振るい、二人の攻撃を防いだ。ユリアは小さなナイフを手に、自分を守ろうとしていた。

レインはルーンを抱きかかえ、後ずさった。

「逃げろ、レイン!ルーンを守れ!」

クレイグが叫んだ。

「でも、あなたたちは!」

「心配するな!道を切り開くから、そのすきに!」

クレイグとユリアは魔獣ハンターたちの注意を引きつけようとしていた。レインは迷ったが、ルーンを守ることが最優先だと判断した。

「ユリア、クレイグさん、気をつけて!」

レインは叫び、森の中へと走り出した。一人の魔獣ハンターが彼を追おうとしたが、クレイグがそれを阻止した。

暗い森の中を走るレイン。背後からは戦いの音が聞こえていたが、次第に遠ざかっていった。

「クレイグさんたち、大丈夫かな…」

「戻る…助ける」

ルーンがレインの腕の中で言った。

「でも、君を守らないと」

「力がある…使える」

ルーンの目が決意に満ちていた。

「わかった」

レインは立ち止まり、ルーンを地面に下ろした。

「でも無理はしないで」

ルーンは一度深く息を吸い、体から光を放ち始めた。額の紋様が輝き、全身に模様が浮かび上がる。そして彼の姿が変わり始めた。

小さな犬の姿から、若い狼の姿へ。体は大きくなり、毛並みは銀色に輝いた。疾風の祠での変身よりも、さらに大きく強そうになっていた。

「乗って」

レインはルーンの背に飛び乗った。ルーンは風のように駆け出し、彼らが来た道を戻り始めた。

キャンプ地に戻ると、クレイグとユリアは魔獣ハンターに囲まれ、苦戦していた。クレイグは腕に傷を負い、ユリアも倒れかけていた。

「クレイグさん!ユリア!」

レインの叫びに、全員が振り返った。魔獣ハンターたちは、ルーンの姿を見て驚いた表情を浮かべた。

「神狼だと…!?」

先頭の男が驚きの声を上げた。

ルーンは低く唸り、前に出た。

「仲間を…離せ」

力強い声が森に響いた。その声には、単なる動物のものではない威厳があった。

「話す獣…」

男は一瞬怯んだが、すぐに笑みを浮かべた。

「これは想像以上の獲物だ。神狼の力を持つ獣…王国はさらに高い報酬を払うだろう」

「言葉が通じないようだな」

レインはルーンの背から降り、彼の側に立った。

「最後にもう一度言う。僕たちを解放して立ち去れ」

「ふん、大きく出たな、小僧」

男は剣を構えた。

「お前たちを始末して、獣を連れて行く。それが我々の仕事だ」

彼が剣を振り上げたその時、ルーンが大きく吠えた。その吠え声は普通の狼のものではなく、まるで雷のような音を立てて森中に響き渡った。

強烈な風が発生し、魔獣ハンターたちは吹き飛ばされた。倒れている間に、レインはクレイグとユリアのもとへ駆け寄った。

「大丈夫?」

「ああ、かすり傷だ」

クレイグは立ち上がり、剣を構えた。

「ルーンの力…驚くばかりだ」

風は収まったが、魔獣ハンターたちは既に立ち上がり、再び攻撃態勢に入っていた。

「あの程度では我々は倒せん」

先頭の男が言った。

「魔獣を狩る者として、もっと多くの脅威に立ち向かってきたのだからな」

男は懐から何かを取り出した。それは小さな黒い球体だった。

「これは特別な魔道具だ。神獣の力を一時的に封じる」

彼が球体を投げようとした時、突然、彼の背後から矢が飛んできた。矢は男の腕を貫き、彼は悲鳴を上げて球体を落とした。

「誰だ!?」

森の中から一人の人影が現れた。銀色の髪を持つ女性—それはエリンだった。

「月の巫女…」

レインは驚きの声を上げた。

エリンは弓を構え、魔獣ハンターたちを睨みつけた。

「神狼の王子に手を出すとは、許しがたい行為だ」

「王子…?」

先頭の男が驚いた顔をした。

「そうか、単なる神獣ではなく、『王家の血』を引く者か…」

男は傷ついた腕を押さえながら、仲間たちに命じた。

「退くぞ!今は力が足りない」

彼らは素早く森の中へと姿を消した。

「追うべきだろうか?」

クレイグが尋ねたが、エリンは首を振った。

「無駄だ。彼らは森の中での移動に長けている」

彼女はルーンに向き直り、深く頭を下げた。

「無事で何よりです、王子」

ルーンはエリンを見つめ、静かに頷いた。その後、彼は光に包まれ、元の小さな姿に戻った。レインは急いでルーンを抱き上げた。

「疲れたでしょう?よく頑張ったね」

ルーンはレインの胸に顔を埋め、安心したように小さく鳴いた。

「エリンさん、ここに来てくれてありがとう」

レインが言うと、エリンは微笑んだ。

「あなたたちを見守っているのは私だけではありません。神狼の王子の旅には、多くの者が注目しているのです」

「魔獣ハンターとは何者なのでしょうか?」

ユリアが尋ねた。

「あなたは…調査団の」

エリンはユリアを見て眉をひそめたが、ルーンがユリアの方に歩み寄り、彼女の足元で座ったのを見て表情を和らげた。

「彼女は友達です」

レインが説明した。

「魔獣ハンターとは、名前の通り魔獣を狩ることを生業とする者たち」

エリンが説明を始めた。

「通常は、人々を脅かす危険な獣を排除する役目を担っている。しかし、一部には力や利益のために希少な獣を狙う者もいる」

「彼らも調査団と同様、ルーンを狙っているのですね」

「そうだ。しかし、彼らの背後にはより強大な存在がいる」

エリンは真剣な表情で続けた。

「『魔獣ハンターの王』と呼ばれる男だ。彼は多くのハンターを従え、特に神獣の力を求めている」

「神獣の力…何のために?」

「それは闇の神獣の封印を解くためだと考えられる」

エリンの言葉に、全員が緊張した。

「王子の力は、封印された神獣たちを目覚めさせる鍵となりうる。善にも悪にも使えるのだ」

彼女はルーンを見つめた。

「だからこそ、七つの試練を通じて王子自身が力をコントロールできるようになることが重要なのです」

夜が更けていく中、彼らは壊されたキャンプを修復し、新たな火を起こした。エリンも彼らと共に過ごすことになった。

「次の試練は『炎の祠』」

エリンは言った。

「そこでは王子の『不屈の力』が試される。それは彼の内なる強さを目覚めさせる試練だ」

「魔獣ハンターたちも次の祠を知っているのでしょうか?」

「おそらくな」

クレイグが答えた。

「彼らの言葉からすると、我々の行動を把握していたようだ」

「旅はさらに危険になるでしょう」

エリンが言った。

「しかし、王子の力は試練を重ねるごとに強まっている。今日もその証拠を見た」

レインはルーンを見つめた。彼は疲れて眠っていたが、その寝顔は安らかだった。

「彼を守る。それが僕の役目だから」

「そして私たちもあなたを助ける」

ユリアが言った。クレイグも頷いた。

「共に進もう、次の試練へ」

夜空には満天の星が輝き、森は静寂に包まれていた。しかし、その平穏の中にも、彼らを取り巻く危険は確実に迫っていた。魔獣ハンター、調査団、そして闇の神獣の脅威。

レインはルーンを腕に抱き、明日への決意を新たにした。どんな脅威が立ちはだかろうとも、仲間たちと共に乗り越えていくと。
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