「捨て犬だと思ったら神狼の王子!? 最強もふもふに溺愛されながら異世界スローライフ」

ソコニ

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第5章:神獣の王の目覚め 第17話「最大の危機」

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魔獣ハンターとの遭遇から二日が経った。レイン、ルーン、クレイグ、ユリア、そして旅に同行することになったエリンの五人は、第三の試練の場所である炎の祠を目指していた。

「あと半日ほどで炎の山に到着するはずです」

エリンは先頭を歩きながら言った。彼女は森の中の道に詳しく、効率的なルートを選んでくれていた。

レインはルーンを抱き、後方を警戒しながら歩いていた。ルーンも常に耳を立て、周囲の音に敏感に反応していた。魔獣ハンターたちの再来を恐れてのことだった。

「魔獣ハンターたちは諦めたのだろうか?」

クレイグがつぶやいた。

「諦めてはいないでしょう」

エリンは振り返らずに答えた。

「彼らは獲物を追跡することに長けています。今は態勢を立て直しているだけです」

一行は小さな丘を越え、開けた場所に出た。そこからは遠くに赤茶けた山が見えた。山の頂上付近からは煙が立ち上っていた。

「あれが炎の山…」

ユリアが息を呑んだ。

「伝説によれば、山の中心には常に燃える炎があるとされています。炎の祠はその近くにあるのでしょう」

丘を下り、平地を進んでいると、ルーンが突然身を硬くした。

「何か…近づいてくる」

彼の声は緊張に満ちていた。

「魔獣ハンター?」

レインが尋ねると、ルーンは首を横に振った。

「違う…調査団」

全員が警戒を強めた。調査団は風の谷での出来事以来、執拗に彼らを追ってきていた。特に、ルーンが神狼として姿を現し、人間の言葉を話せることを知った今、彼らの執念はさらに強くなっているはずだった。

「隠れましょう」

エリンは近くの岩陰を指差した。五人は急いでそこに身を潜め、物音を立てないよう息を殺した。

しばらくすると、調査団の一行が現れた。団長を先頭に、十人ほどの団員が装備を背負って歩いていた。彼らも明らかに炎の山を目指していた。

「彼らも炎の祠を知っているのか…」

クレイグが小声で言った。

「古い文献から情報を得たのでしょう」

ユリアが答えた。

「団長は古代の神獣に関する研究を長年続けていました。七つの試練の場所も把握している可能性が高いです」

調査団が通り過ぎるのを待ち、五人は再び歩き始めた。しかし、彼らを追い越すよりも、後方からそっと付いていく方が安全だと判断した。

「こうして後を付ければ、少なくとも彼らに背後を取られる心配はない」

クレイグが言った。

こうして彼らは慎重に進み、日が傾き始めた頃、炎の山の麓に到着した。そこでは調査団がすでにキャンプを設営していた。

「正面からは行けないな」

レインは周囲を見回した。

「山を迂回して別のルートを探しましょう」

エリンが提案した。

「祠へは複数の道があるはずです」

五人は調査団のキャンプから離れた場所で簡易的な休息を取り、夜になるのを待った。暗くなれば、調査団の目を逃れやすくなる。

「ルーン、大丈夫?」

レインが尋ねると、ルーンは静かに頷いた。彼は普段より落ち着きがなく、常に山の方向を見ていた。

「何か感じているの?」

「祠の…呼びかけ」

ルーンの言葉に、皆が驚いた。

「呼びかけ?」

「ここで…力が…目覚める」

エリンは頷いた。

「王子の血が試練を感じ取っているのでしょう。『不屈の力』はルーンの中に眠っていますが、それを完全に目覚めさせるには祠での試練が必要です」

夜になり、調査団のキャンプの明かりだけが闇の中で見えるようになった。

「行きましょう」

エリンが立ち上がった。

「私が先導します。山の東側から登れば、調査団に気づかれずに祠に近づけるはずです」

五人は静かに闇の中を進んだ。満月の光が彼らの道を照らしてくれた。ルーンの毛皮は月明かりを受けて銀色に輝いていた。

山を登るにつれ、空気は熱く、乾燥したものに変わった。時折、地面から熱が伝わってくるのを感じた。

「この山は活火山なのか?」

クレイグが尋ねた。

「活火山というより、魔力の集まる場所です」

エリンが答えた。

「神獣の力が残る場所には、自然の法則を超えた現象が起きることがあります。炎の山もその一つです」

さらに登っていくと、山の中腹に古い石造りの建物が見えてきた。それは月光の祠や疾風の祠と同様の作りだが、全体が赤茶けた石で造られていた。

「炎の祠だ…」

レインは息を呑んだ。建物の周りには熱気が立ち込め、地面からは所々で蒸気が噴き出していた。

「近づきましょう」

五人は祠に向かって歩き始めた。しかし、その時、思いがけない声が背後から聞こえた。

「そこまでだ」

振り返ると、調査団の団長と五人の団員が立っていた。彼らは武器を構え、明らかに敵意を示していた。

「よくもこれまで逃げ回ってくれたな」

団長が冷たい声で言った。

「今度は逃がさん。その獣を渡せ」

クレイグは即座に剣を抜き、レインたちの前に立ちはだかった。エリンも弓を構えた。

「獣ではない。彼は神狼の王子だ」

エリンの強い声に、団長は嘲笑した。

「王子だろうが何だろうが、我々の研究に必要なのだ」

団長の背後からさらに人影が現れた。それは先日彼らと対峙した魔獣ハンターたちだった。

「なっ…!」

レインは驚いた。魔獣ハンターたちが調査団と共にいるとは。

「貴様ら、手を組んだのか!」

クレイグが怒りの声を上げた。

「利害が一致したからな」

魔獣ハンターのリーダーが笑った。

「我々は神獣の力を求め、彼らは研究対象を求めている。協力して獲物を捕らえれば、互いに利益がある」

レインはルーンを強く抱きしめた。敵の数はあまりにも多く、彼らが戦って勝てる見込みはなかった。

「逃げるしかありません」

ユリアが小声で言った。

「でも、どうやって…?」

「祠へ!」

エリンが叫んだ。

「王子を連れて祠の中へ!そこなら彼らも簡単には入れない!」

レインは頷き、ルーンを抱いて祠へと走り出した。クレイグ、エリン、ユリアが敵の注意を引きつけ、レインの逃走を援護した。

「追うな!」

団長が叫び、団員たちがレインを追いかけた。

祠の入口に到達したレインは、振り返って仲間たちを見た。クレイグとエリンは懸命に戦っていたが、数の不利は明らかだった。ユリアも小さなナイフで自分を守るのがやっとだった。

「仲間を見捨てるわけにはいかない…」

レインが迷っていると、ルーンが彼の腕から飛び出した。

「ルーン!」

ルーンの体が光を放ち始めた。額の紋様が輝き、全身に神秘的な模様が浮かび上がる。そして彼の姿が変わり始めた。

小さな犬の姿から、若い狼の姿へ。体は以前よりもさらに大きくなり、毛並みは銀色に輝いていた。

「力を…使う」

ルーンは仲間たちの方へと走り出した。彼の背後にはまるで風の尾を引くように光の筋が残った。

「ルーン、危険だ!」

しかし、ルーンは躊躇わなかった。彼は魔獣ハンターと調査団員たちの間に飛び込み、大きく吠えた。その声は雷のように響き渡り、敵たちを怯ませた。

クレイグとエリンはそのすきに後退し、ユリアと共にレインの元へと戻ってきた。

「ルーン、こっちだ!」

レインが叫ぶと、ルーンも引き返してきた。五人は急いで祠の中へと駆け込んだ。

祠の内部は想像以上に広く、中央には大きな炎が燃え盛っていた。その周りを取り囲むように、石の柱が立ち並んでいた。

「ここはいったい…」

レインが見回していると、外から怒号の声が聞こえてきた。調査団と魔獣ハンターたちが入口に殺到していた。

「出てこい!逃げられないぞ!」

団長の声が響いた。

「彼らはすぐに入ってくるでしょう」

エリンが警戒しながら言った。

ルーンは中央の炎に近づいていった。彼の目は炎を見つめ、何かに導かれているようだった。

「ルーン?」

レインが声をかけると、ルーンは振り返った。

「試練を…受ける」

祠の入口では、調査団員たちが扉を破ろうとしていた。彼らが入ってくるのは時間の問題だった。

「急がなければ」

クレイグが言った。

ルーンは中央の炎に向かって歩き始めた。炎は通常の火とは異なり、青白い光を放っていた。彼が近づくにつれ、炎は強く燃え上がった。

「危ない!」

レインは叫んだが、ルーンは構わず炎の中へと歩み入った。

「ルーン!」

しかし予想に反して、ルーンは炎の中で燃え上がることはなかった。むしろ、炎は彼を包み込むように渦を巻き、彼の体に吸収されていくようだった。

「これが『不屈の力』の試練…」

エリンがつぶやいた。

炎に包まれたルーンの姿が次第に大きくなっていく。彼の体は成長し、子狼から若い成獣の狼へと変わっていった。毛皮は銀色に輝き、全身に神秘的な紋様が浮かび上がっていた。

「素晴らしい…」

ユリアが畏敬の念を込めて見つめていた。

祠の入口が大きな音を立てて開いた。調査団と魔獣ハンターたちが押し入ってきた。

「動くな!」

団長が叫んだ。

しかし、彼らの視線も中央の光景に釘付けになった。炎の中に立つ銀色の狼の姿は、確かに畏怖すべきものだった。

炎が完全にルーンの体に吸収されると、彼の姿がはっきりと現れた。体長は普通の狼の二倍ほどあり、目は金色に輝いていた。

「神狼…」

魔獣ハンターのリーダーがつぶやいた。

「こんな姿を見るとは…」

ルーンはゆっくりと炎の中から歩み出た。彼の体からは熱が放たれ、周囲の空気が揺らめいた。

「捕らえろ!今すぐに!」

団長が命令を下したが、団員たちは恐れて後ずさった。

「おい、約束通り協力しろ!」

魔獣ハンターのリーダーが怒鳴った。

「それほど欲しいなら、自分で捕まえろ」

団長は自ら前に出て、ポケットから小さな装置を取り出した。それは前に魔獣ハンターが使おうとしていたものと似ていた。

「これで力を封じれば…」

しかし、ルーンは彼に先んじた。大きな吠え声とともに、彼の体から炎が放たれた。青白い炎が祠内を渦巻き、調査団と魔獣ハンターたちを包み込んだ。

彼らは悲鳴を上げて逃げ出した。炎は彼らを追いかけるように祠の外へと広がり、彼らを山の下へと追いやった。

不思議なことに、その炎はレインたちには害を与えなかった。むしろ、彼らの周りでは優しく揺らめいているだけだった。

「これが神狼の『不屈の力』…」

エリンが感嘆の声を上げた。

「炎をも制御し、内なる力として取り込む能力」

ルーンはレインの前に歩み寄った。彼の目は知性と力に満ちていた。

「レイン…仲間たち…守れた」

彼の声は以前よりも安定し、力強くなっていた。

「ありがとう、ルーン」

レインは感謝の言葉を述べ、ルーンの頭を撫でようとした。しかし、ルーンの体はまだ熱を帯びており、近づくことさえ難しかった。

「大丈夫…すぐに…冷める」

ルーンは言い、徐々に体から放たれる熱が弱まっていった。やがて、レインは彼に触れることができるようになった。

「三つの試練を乗り越えた」

エリンが言った。

「王子の力は着実に目覚めています。残る試練は四つ」

クレイグは祠の外を見て、警戒の目を緩めなかった。

「敵はすぐに再編成して戻ってくるだろう。ここに長居は禁物だ」

「でも、ルーンはまだ…」

レインが心配すると、ルーンは首を振った。

「大丈夫…行ける」

彼はそう言うと、四人を背に乗せられるほどの大きさを保ったまま、祠の外へと歩み出た。外では敵の姿はなく、山は静寂に包まれていた。

「この姿で…走れる」

「でも、維持できるの?」

レインが心配すると、ルーンは頷いた。

「今なら…できる。早く…離れよう」

四人はルーンの背に乗り、彼は山を下り始めた。その足取りは確かで、熱を帯びた地面も彼を傷つけることはなかった。

「不屈の力を得たことで、彼の耐久力も高まったようです」

エリンが説明した。

「炎の試練を乗り越えた神狼は、熱や炎に耐える力を持つとされています」

山を下りきった頃、夜明けが近づいていた。ルーンの体力も限界に近づいているようで、足取りが次第に遅くなった。

「ここで休もう」

レインが提案し、皆が同意した。安全そうな森の中に陣を敷き、ルーンは疲れ果てた様子で横たわった。彼はまだ大きな狼の姿を保っていたが、次第に体からの光が弱まっていった。

「よく頑張ったね、ルーン」

レインは彼の側に座り、優しく頭を撫でた。

「三つ目の試練…クリア…できた」

ルーンは小さく答え、目を閉じた。そして光に包まれ、再び元の小さな姿に戻った。レインは彼を抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。

「彼の成長は驚異的です」

ユリアがつぶやいた。

「古文書に記されていた通りの姿を、この目で見ることができるなんて…」

クレイグは周囲を警戒しながらも、ルーンに敬意の眼差しを向けた。

「次は何処へ向かう?」

「水晶の湖」

エリンが答えた。

「第四の試練の場所です。そこでは王子の『選択の力』が試されるでしょう」

「選択の力?」

「はい。詳しくはまだわかりませんが、王子にとって重大な決断を迫られる試練になるはずです」

レインはルーンの寝顔を見つめた。彼は安らかな表情で眠っていた。わずか数ヶ月前、雨の中で傷ついていた小さな犬が、今や神獣の王子として力を取り戻しつつある。その変化は驚くべきものだった。

「どんな選択が待っていても、一緒に乗り越えよう」

レインは静かに誓った。

夜明けとともに、五人の旅は新たな段階へと進んでいた。敵の脅威は増し、試練はより困難になるだろう。しかし、彼らの絆と決意もまた、強くなっていた。
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