「捨て犬だと思ったら神狼の王子!? 最強もふもふに溺愛されながら異世界スローライフ」

ソコニ

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第5章:神獣の王の目覚め 第18話「神狼の目覚め」

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炎の祠からの脱出から三日が経った。レイン、ルーン、クレイグ、ユリア、そしてエリンの五人は、次の試練の場所である水晶の湖を目指して旅を続けていた。

「水晶の湖まであと二日の道のりです」

エリンは地図を確認しながら言った。彼女の知識と導きは、彼らの旅に欠かせないものとなっていた。

ルーンは以前よりも元気になり、三つの試練を経て明らかに成長していた。体は少し大きくなり、毛並みは一層銀色に輝いていた。何より、人の言葉を話す能力が安定し、短い会話ならほぼ支障なくできるようになっていた。

「水晶の湖では何が待っているんだろう?」

レインが尋ねると、エリンは少し表情を曇らせた。

「第四の試練は『選択の力』です。伝説によれば、そこでは王子自身が重大な決断を迫られるとされています」

「どんな決断なのでしょうか?」

ユリアが興味深そうに尋ねた。

「それは…試練を受けてみなければ分かりません」

エリンの曖昧な返答に、レインは少し不安を感じた。彼はルーンを見つめた。ルーンもまた真剣な表情でエリンの言葉を聞いていた。

「どんな選択でも、一緒に乗り越えよう」

レインがルーンに語りかけると、彼は小さく頷いた。

「ルーンの力は目覚めつつあるが、同時に敵の追跡も激しくなっている」

クレイグが周囲を警戒しながら言った。

「調査団と魔獣ハンターが手を組んだ今、我々は常に危険の中にいる」

五人は森の中を進み、夕方になると小さな清流のほとりでキャンプを設営した。クレイグとレインが食料を集め、ユリアが料理を担当した。エリンは周囲に魔法の結界を張り、敵の接近を感知できるようにした。

夕食を囲みながら、彼らは穏やかな時間を過ごしていた。しかし、その平和は長くは続かなかった。

「誰か来る」

ルーンが突然立ち上がり、耳を立てた。彼の目は鋭く、森の中を見つめていた。

エリンも同時に立ち上がった。

「結界が反応しています。複数の人間が近づいています」

「調査団か?魔獣ハンターか?」

クレイグは剣に手をやった。

「両方…そして…」

ルーンの声が震えた。

「他の何か…強い存在」

その言葉が終わらないうちに、森の中から人影が現れ始めた。調査団の団長と数人の団員、そして魔獣ハンターのリーダーと彼の配下たち。しかし、彼らの間には見知らぬ人物もいた。

黒いローブを着た男性で、顔は深い頭巾に隠されていた。彼からは不吉なオーラが放たれていた。

「遂に追いついたな」

団長が冷たい笑みを浮かべた。

「もう逃げ場はない」

「貴様ら…」

クレイグは剣を抜き、レインとルーンの前に立ちはだかった。エリンも弓を構え、ユリアもナイフを手に取った。

「今度は本気で獲物を確保する」

魔獣ハンターのリーダーが言った。

「そして我々には新たな力がある」

彼は黒いローブの男を指し示した。

「こちらは『闇の使徒』グレイヴン様だ。闇の神獣の力を受け継ぐ方だ」

「闇の使徒…!」

エリンが驚きの声を上げた。

「闇の神獣の力を…」

「ほう、月の巫女が同行しているとは」

グレイヴンと呼ばれた男が初めて口を開いた。その声は低く、冷たかった。

「これは予想外だが、構わん。お前たちもろとも連れて行くだけだ」

彼はゆっくりと頭巾を取った。現れたのは青白い肌と赤い瞳を持つ男性の顔。彼の額には黒い紋様があり、それはルーンの紋様とは対照的な形をしていた。

「神狼の王子よ、ご対面できて光栄だ」

グレイヴンはルーンを見つめ、不気味な笑みを浮かべた。

「お前の力は我が主に必要なのだ」

ルーンは身を低くし、唸り声を上げた。彼の体から微かに光が放たれ始めた。

「闇の神獣の使いなど、ここには用はない!」

エリンが叫び、弓を引いた。矢がグレイヴンに向かって飛んだが、彼は手をかざすだけでそれを空中で止めた。

「無駄だ」

グレイヴンが手を振ると、突然強い風が吹き、五人は吹き飛ばされそうになった。

「この力…」

クレイグが驚いた顔をした。

「神獣の力だ…」

「そう、我が主からほんの一部だけ分け与えられた力だ」

グレイヴンは両手を広げた。黒い霧のようなものが彼の体から放たれ、周囲の空気を汚染していくようだった。

「調査団もハンターも、今は私の駒に過ぎん。彼らを使って、お前たちを追い詰めた」

彼の背後にいる調査団員や魔獣ハンターたちの目は虚ろで、まるで操られているかのようだった。

「逃げるしかない」

クレイグが小声で言った。

「あの男の力は尋常ではない」

しかし、黒い霧は彼らの周りを取り囲み、逃げ道を塞いでいた。

「もう逃げられんよ」

グレイヴンが言った。

「さあ、王子よ。おとなしく我が主の元へ来るがいい。そうすれば、お前の仲間たちは生かしておいてやる」

ルーンはレインを見上げた。彼の金色の瞳には迷いと決意が混じっていた。

「レイン…みんなを…守らなければ」

「ルーン…」

レインはルーンを強く抱きしめた。

「自分を犠牲にする必要はない。一緒に戦おう」

しかし、状況は厳しかった。グレイヴンの力は彼らが今まで直面したどの敵よりも強大だった。彼が手を上げると、黒い霧が実体化し、鋭い刃となって五人に向かって飛んできた。

クレイグが剣で何本かを弾き返したが、すべてを防ぐことはできなかった。一本の黒い刃がクレイグの肩を貫き、彼は膝をついた。

「クレイグさん!」

ユリアが叫び、彼の元へ駆け寄った。

「くっ…」

クレイグは傷口を押さえたが、黒い霧がそこから体内に侵入していくようだった。

「毒か…?」

エリンも弓を放ち続けていたが、矢はすべてグレイヴンの前で止められた。

「無駄だと言っただろう」

彼はさらに黒い霧を増し、五人を追い詰めていった。

レインは絶望を感じ始めていた。このままでは全員が捕らえられるか、最悪の場合…。

突然、ルーンがレインの腕から飛び出した。

「ルーン!」

レインが呼びかけても、ルーンはグレイヴンの方へと歩み出た。

「よろしい。賢明な選択だ」

グレイヴンが満足げに言った。

「レイン…みんな…ごめん」

ルーンの声がレインの心に響いた。

「でも…これが…僕の選択」

ルーンの体が急に光を放ち始めた。それは今までの変身の時よりもはるかに強い光だった。額の紋様が鮮やかに輝き、全身が銀色の光に包まれる。

「何…!?」

グレイヴンが驚いた声を上げた。

ルーンの体が変化し始めた。小さな犬の姿から、若い狼へ、そしてさらに大きく成長していく。最終的には成獣の大狼ほどの大きさになり、その姿は威厳と力に満ちていた。

「これが…神狼の王子の真の姿…」

エリンが畏敬の念を込めて言った。

ルーンの全身は銀色に輝き、額の紋様だけでなく、背中全体に月の模様が浮かび上がっていた。目は燃えるような金色で、その視線はグレイヴンを貫くようだった。

「神狼の力…」

グレイヴンが呟いた。

「だが、まだ未熟だ!」

彼は両手から黒い霧を放った。それは渦巻きながらルーンに襲いかかった。

しかし、ルーンは動じなかった。彼は大きく息を吸い、そして吠えた。その声は雷のように響き渡り、黒い霧を吹き飛ばした。同時に、彼の体から銀色の光が放たれ、闇を押し返していった。

「光の障壁…」

エリンがつぶやいた。

「神狼の守護の力です」

ルーンの力はグレイヴンの闇と拮抗し、両者の間で光と闇が渦巻いていた。

「なかなかやるな、王子」

グレイヴンは笑ったが、その表情には焦りも見えた。

「だが、お前はまだ力の使い方を知らん。私はすでに長年この力を扱ってきた」

彼は両手を上げ、さらに強い闇の波動を放った。ルーンの光の障壁は少しずつ押し戻されていった。

「ルーン!」

レインは叫び、ルーンの側に駆け寄ろうとした。しかし、光と闇のぶつかり合う場所に近づくことさえ難しかった。

「彼を信じて」

エリンがレインの腕を掴んだ。

「王子はこの瞬間のために力を蓄えてきたのです」

ルーンは次第に劣勢になっていった。グレイヴンの闇の力は強大で、彼の光の障壁はひび割れ始めていた。

「ふはは…所詮はまだ目覚めたばかりの力。我が主の前には塵に等しい」

グレイヴンが高笑いした。

その時、ルーンの目に決意の色が宿った。

「レイン…」

彼の声がレインの心に響いた。

「力を…貸して」

レインは一瞬迷った後、理解した。彼はルーンに向かって叫んだ。

「ルーン!僕はここにいる!一緒に戦おう!」

クレイグ、ユリア、エリンも声を揃えた。

「我々も共にいる!」
「諦めないで!」
「王子の力を信じて!」

四人の声が響く中、ルーンの体の光がさらに強まった。彼の目は燃え盛る炎のように輝き、全身の紋様がより鮮明になっていった。

「絆の力…」

エリンがつぶやいた。

「それが神狼の真の力の源」

ルーンは再び大きく吠えた。今度はその声とともに、強烈な光の波動が放たれた。それはグレイヴンの闇を押し返し、彼を包み込んでいった。

「なっ…!?」

グレイヴンは初めて恐怖の表情を見せた。

「こんな力があったのか…!」

光の波動は彼を中心に、調査団員たちと魔獣ハンターたちも包み込んだ。彼らの体から黒い霧が抜け出し、光の中で消えていった。

光が収まると、グレイヴンは膝をつき、苦しそうに息をしていた。彼の体からは闇の力が消え、ただの人間のように見えた。

「まさか…浄化されるとは…」

彼は震える声で言った。

「だが、この程度では我が主は倒せん。お前はまだ本当の力に目覚めていないのだ」

グレイヴンはそう言うと、突然黒い煙に変わり、風に溶けるように消えていった。残された調査団員と魔獣ハンターたちも、操りから解放されたのか、混乱した様子で立ち尽くしていた。

「逃げよう」

クレイグが小声で言った。

「彼らが我に返る前に」

五人は急いで荷物をまとめ、森の中へと消えていった。十分に距離を取ったところで、彼らは立ち止まった。

ルーンはまだ大きな狼の姿を保っていたが、体力を消耗しているようだった。彼は座り込み、荒い息をしていた。

「ルーン、大丈夫?」

レインは心配そうに彼の側に寄った。ルーンは疲れた目でレインを見つめた。

「大丈夫…でも…力を使い過ぎた」

「あれは素晴らしかったぞ」

クレイグが言った。彼の肩の傷も、ルーンの光で浄化されたのか、黒い霧は消えていた。

「闇の使徒を退けるとは…」

「王子の力は確かに目覚めつつあります」

エリンが頷いた。

「しかし、グレイヴンの言うとおり、まだ完全ではない。残りの試練を乗り越え、真の力を取り戻さなければなりません」

ルーンは力尽き、光に包まれた。光が消えると、再び小さな姿に戻っていた。レインは彼を抱き上げ、優しく撫でた。

「よく頑張ったね、ルーン」

ルーンは小さく鳴き、レインの腕の中で安心したように目を閉じた。

その夜、彼らは安全な場所に新たなキャンプを設営した。クレイグが見張りを担当し、他の四人は休息を取った。

夜空には満月が輝き、その光がルーンの銀灰色の毛を照らしていた。

「彼の力は本当に素晴らしいです」

ユリアがルーンの寝顔を見つめながら言った。

「古文書には神狼の力について記されていましたが、実際に目にすると言葉に尽くせません」

「しかし、闇の使徒の登場は予想外でした」

エリンは心配そうに言った。

「彼が言うとおり、闇の神獣の力を受け継ぐ者たちは強大な脅威です。そして、『主』と呼ばれる存在…」

「闇の神獣自身ということですか?」

「可能性があります。封印は弱まりつつあるのかもしれません」

レインはルーンを見つめた。彼は安らかに眠っていたが、その小さな体に込められた運命の大きさを考えると、胸が締め付けられる思いだった。

「僕たちにできることは、ルーンを守り、彼の力が完全に目覚めるよう助けることだけだ」

「そして次は水晶の湖ですね」

ユリアが言った。

「第四の試練…『選択の力』」

エリンは遠くを見つめながら言った。

「そこでは王子にとって、そしてあなたにとっても、重大な選択の時が来るでしょう」

「僕にとっても?」

「はい。神狼と守護者の絆は互いに影響し合います。あなたの選択もまた、王子の運命を左右するのです」

レインは思案顔になった。どんな選択が待っているのか、想像もつかなかった。しかし、一つだけ確かなことがあった。

「どんな選択が来ても、ルーンのために最善を尽くす」

彼はそう宣言し、眠るルーンをそっと抱きしめた。

夜が更けていく中、五人の旅人たちは次の試練に向けて英気を養っていた。彼らの前には、まだ多くの試練が待ち受けている。闇の使徒との戦いは始まったばかりだ。しかし、今日ルーンが見せた力は、希望の光を灯していた。

神狼の王子は確かに目覚め始めていた。
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