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第16話:「温泉リゾート計画、始動!」
しおりを挟む早朝の柔らかな光がぽんずタウンを包み込む中、小さな柴犬は丘の上から広がる景色を見渡していた。両世界を行き来できるようになって一週間。日本の温泉旅館「湯乃花」と異世界テラマリアを往復するたび、ぽんずの心には新しいアイデアが芽生えていた。
「わん!」
ぽんずの横では、エリックとミナが地図を広げて何やら話し合っていた。彼らはぽんずの忠実な仲間であり、この異世界での冒険をともにしてきた。
「ぽんず、何を考えているの?」ミナが柴犬の毛並みを優しく撫でながら尋ねた。
ぽんずはゆっくりと振り返り、二人の前に座った。その瞳には今までにない決意の光が宿っていた。
「僕ね、テラマリアにも『湯乃花』のような素晴らしい温泉リゾートを作りたいんだ」
エリックは眉を上げた。「温泉リゾート?ただの温泉場ではなく?」
「うん!七つの温泉郷をすべて活かした、巨大な温泉リゾート。『テラマリア大温泉郷』って名前はどうかな」
ぽんずは興奮気味に話し始めた。翠泉は心を落ち着かせる緑の湯として瞑想施設を、紅泉は活力を与える赤の湯として運動施設を併設する。蒼泉の浄化作用を活かした美容サロン、黄金泉に巨大な露天風呂、翠緑泉には癒しの森林浴場、虹泉には七色の湯めぐり施設、星泉には夜空を眺める天体観測露天風呂…。
ミナは目を輝かせた。「素敵ね!異世界でも温泉リゾートは人気が出るわ!」
「でも、そんな大規模な計画を実現するのは簡単じゃない」エリックは現実的な懸念を口にした。「資金、技術、人材…多くの課題があるぞ」
ぽんずは首を振った。「だからこそ、みんなの力が必要なんだ。湯乃花で佐伯さんから学んだことがある。『温泉は人と人とを繋ぐもの』。テラマリアの人々を温泉の力で繋げられれば、きっと素晴らしい未来が待っているはず!」
その日の午後、ぽんずは王都の学術会議でカラムと会った。元宮廷魔導師のカラムは、以前からぽんずの温泉の力に深い関心を示していた。
「温泉リゾート計画?興味深いな」カラムは眼鏡を上げながら言った。「それなら、『温泉科学研究所』の設立も検討すべきだ。温泉の効能を科学的に分析し、より効果的な活用法を研究する専門機関だ」
「素晴らしいアイデアだね!」ぽんずは尻尾を振った。「温泉科学研究所…カッコいい名前だ!」
「単なる名前ではない。温泉の力がこの世界にもたらす可能性は計り知れない。医療、エネルギー、農業…様々な分野に応用できるかもしれん」
カラムの言葉に、ぽんずの計画はさらに具体性を帯びていった。
翌日、ぽんずたちはテラマリア王宮へ招かれた。リリア王女は、七温泉郷の復活に貢献したぽんずに深い感謝の念を抱いていた。広間でぽんずの温泉リゾート計画を聞いた王女は、優雅に微笑んだ。
「素晴らしい構想ですわ、ぽんず様。テラマリア王国としても、この計画を全面的に支援いたします」
リリア王女は立ち上がり、窓の外に広がる王都を見渡した。
「わが国は長い間、冷王の支配による厳しい冬の時代を経験しました。しかし今、あなたがもたらした温泉の力で、人々の心に春が訪れようとしています。この計画を国家事業として推進し、テラマリアを『温泉大陸』として繁栄させましょう」
正式な支援を得たぽんずの計画は、瞬く間にテラマリア中に広まった。特に「もふもふ教団」は熱狂的だった。ぽんずを神の使いとして崇める彼らは、各地で資金集めのイベントを開始した。
「もふもふの神の御心に従い、温泉の力で世界に平和を!」
教団員たちは町の広場でそう叫びながら、「もふもふグッズ」を販売し、「なでなで体験」を提供して寄付を募った。その熱意は時に奇妙ではあったが、確かな成果を上げていた。
計画から一週間後、アクア王国とヴェルデニア公国から視察団が訪れた。アクア王国は水の魔法に長け、ヴェルデニア公国は豊かな森林資源で知られる隣国だ。
「我がアクア王国こそ、温泉リゾートに最適の地である!」青い衣装を身にまとったアクア使節は主張した。
「いやいや、森林浴と温泉の組み合わせは、我がヴェルデニア公国でこそ真価を発揮する」緑の服の使節が反論する。
両国の代表は熱く議論を交わし、それぞれ自国に温泉リゾートを作る計画を語った。部屋の空気は徐々に緊張感で満ちていく。
そこでぽんずは前に進み出た。小さな体ながらも、その存在感は圧倒的だった。
「温泉の力は分断ではなく、統合にあります」
ぽんずの言葉に、部屋が静まり返った。
「各国がバラバラに温泉施設を作るより、一つの大きなリゾートとして協力した方が、より多くの人々に喜びを届けられるはず。七温泉郷を中心に、テラマリア大温泉郷として共同で運営しませんか?アクア王国の水の技術、ヴェルデニア公国の森林資源、そしてテラマリア王国の魔法の知恵を結集させれば、世界一の温泉リゾートが生まれるでしょう」
ぽんずの提案に、両国の使節は次第に頷き始めた。
「確かに…単独よりも協力した方が、より大きな価値を生み出せる」
「各国の強みを活かす共同事業…それは革新的な試みだ」
こうして「テラマリア大温泉郷」は各国共同の大型プロジェクトとして動き出すことになった。
その日の夕方、ぽんずタウンの会議場で詳細計画を話し合っていた時だった。突然、会場の温泉から湯気が消え、水面から冷たい霧が立ち上った。
「なんだ!?温泉が冷たくなっている!」エリックが叫んだ。
会場は混乱に包まれた。ぽんずは急いで温泉に駆け寄り、水面に前足を触れた。確かに、通常なら心地よい温かさを持つ湯が、今は氷のように冷たくなっていた。
「お手!」
ぽんずの前足から金色の光が広がったが、温泉は温まらない。
「温まれ!」
新たに習得した力を使うと、ようやく湯面から微かな湯気が立ち始めた。しかし完全に回復するには至らなかった。
カラムが水面を分析し、眉をひそめた。「これは自然現象ではない。何者かの魔法による意図的な冷却だ」
調査のため、ぽんずとエリックは源泉まで遡った。そこで彼らは驚くべき光景を目にした。青白い服を着た集団が、特殊な結晶を源泉に投入していたのだ。
「止まれ!」エリックが叫ぶと、集団は驚いて振り返った。
「見つかったか…撤退する!」彼らのリーダーらしき人物が命じ、集団は煙の中に消えていった。
残された結晶を調べると、それは強力な冷却魔法が込められた「フロストクリスタル」と呼ばれるものだった。カラムによれば、これはかつて冷王の軍隊「魔王軍」が使用していた兵器だという。
「どうやら魔王軍の残党が、新たな組織『冷泉軍団』として活動を始めたようだ」カラムは深刻な表情で説明した。「彼らは温泉文化の広がりが冷たさの価値を損なうと考え、妨害活動を展開しているらしい」
「冷泉軍団…」ぽんずは考え込んだ。「温かさを恐れる彼らの気持ちも分かる。でも、温泉の本当の価値は温かさだけじゃない。心を開き、人々を繋ぐ力にあるんだ」
ぽんずは源泉に向かい、全身から金色の光を放った。
「温まれ!そして繋がれ!」
強力な「温まる」の力が源泉を包み込み、冷却効果が打ち消されていく。湯気が再び立ち上り、温泉は本来の温かさを取り戻した。
しかし、ぽんずの胸には不安が残った。冷泉軍団の本格的な妨害はこれからだという予感。温泉リゾート計画が大きくなるほど、抵抗も強くなるだろう。
その夜、ぽんずは満天の星空の下、七温泉郷の方向を見つめていた。
「温泉の力で世界に平和をもたらす…それが僕の使命だ。冷泉軍団との対立も、いつか理解と調和に変えられるはず」
エリックとミナが彼の傍らに座った。
「大きな計画だが、一緒にやり遂げよう」エリックが言った。
「テラマリア大温泉郷、絶対に成功させましょう!」ミナが笑顔で付け加えた。
ぽんずは二人を見上げ、力強く頷いた。リゾート計画という新たな挑戦、そして冷泉軍団という新たな敵。しかし、仲間とともにある限り、どんな困難も乗り越えられる。
「よーし、明日からは本格的に計画を始動させるぞ!」
三人は夜空に輝く星々を見上げ、これから始まる大冒険に思いを馳せた。テラマリア大温泉郷の物語は、まだ始まったばかりだった。
(この話は続く)
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