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第11話「村の進化」
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朝露がみかげ村を包む中、御影要は新たな感覚を噛みしめていた。ダンジョンとの完全同調から一週間が経ち、村全体に目に見える変化が表れ始めていた。
最も顕著だったのは、村の周囲に形成され始めた低い壁だった。「基本防御構造」と「自己拡張」のスキルが組み合わさり、村の境界に自然に石壁が形成されつつあった。それはまだ膝丈ほどの高さだったが、日に日に成長している。
「御影さん、壁が広がってる!」
リオが朝の見回りから戻ってきて報告した。彼は子供のように目を輝かせていた。
「昨日より三メートルは伸びてる。このままいくと、村全体を囲むみたいだね」
要はリオの観察に満足した。村の防御力を高めることは、長年の課題だったからだ。
「さらに高く」と要は地面に描いた。
村の発展に合わせ、より強固な防御も必要になる。特に、過去にグリムの一味による襲撃があったことを考えると、安全対策は怠れない。
オーウェンが広場に現れた。彼は新しい壁の形成を満足げに見ていた。
「御影様、素晴らしい進歩です。壁の構造も非常に堅牢ですね」
元騎士団隊長の彼は、防衛の専門家として壁の質を高く評価していた。
「さらに、ダンジョンから採取した魔力結晶を埋め込めば、魔法攻撃にも耐性を持たせられるでしょう」
彼の提案は実務的で有益だった。要は同意し、エリシアとミラに相談することにした。
村の東側、ダンジョン入口付近ではエリシアとミラが研究を進めていた。二人はダンジョンの変化を詳細に記録し、その力を村の発展に活かす方法を探っていた。
「おはよう、御影さん」
エリシアが挨拶した。彼女の前には複雑な魔法陣の設計図が広げられていた。
「新しい発見があったわ。ダンジョンから採取した魔力結晶が、村の土壌と共鳴するの。植えてみたら、驚くべき速度で植物が成長したのよ」
ミラが補足した。
「これはダンジョンと村の魔力が完全に調和した証拠です。相互に増幅し合っているようです」
要はこの発見に興味を持った。「基本資源生産」のスキルと組み合わせれば、村の食料生産能力を大きく高められるかもしれない。
「実験したい」と要は伝えた。
三人は村の北側にある畑に向かった。そこでは既に様々な作物が育っていたが、まだ成長途中のものも多かった。
エリシアは袋から青く輝く小さな結晶を取り出した。それはダンジョン内のスライムから採取した魔力結晶の砕片だ。
「ここに埋めてみましょう」
彼女は結晶を畑の土に埋め込んだ。要は「基本資源生産」のスキルを発動させ、結晶に力を注いだ。
効果は即座に現れた。結晶を埋めた周囲の土が柔らかく輝き、そこから植物が急速に成長し始めた。トマトの苗が一気に成熟し、赤い実をつけ、小麦の穂が膨らみ、ジャガイモの葉が茂っていく。
「すごい…これならわずか数日で収穫できるわ」
エリシアは驚きの表情で言った。
「村の食料自給率が飛躍的に向上しますね」
ミラも感心した様子だった。
要はこの成功に満足しながらも、適切なバランスを保つ必要性も感じていた。魔力による急成長は便利だが、自然の循環も重要だ。一部の畑だけを魔力栽培にし、残りは通常の方法で育てるのが良いだろう。
「バランス良く」と要は地面に描いた。
二人は頷いた。彼女たちも同じことを考えていたようだ。
その日の午後、フィンが商業区域の拡張計画を持って広場に現れた。彼は市場の成功を受けて、より大規模な商業施設を構想していた。
「御影様、村の経済発展のために新たな提案があります」
彼は図面を広げた。そこには整然とした店舗群と、中央に噴水のある広場が描かれていた。
「現在の市場を恒久的な商業区域に発展させ、冒険者ギルドの支部設置も視野に入れています。ダンジョンを目的とした訪問者が増える今、彼らの需要に応える施設が必要です」
要はフィンの先見性に感心した。商人としての彼の経験と知識は、村の発展に欠かせない。
「承認する」と要は答えた。「場所は?」
「村の西側、入口付近が最適かと」
フィンは地図を指さした。
「訪問者が最初に目にする場所であり、村の中心部との距離も適切です」
計画が承認され、フィンは早速準備に取り掛かった。商業区域の基礎工事が始まり、村はさらに活気づいた。
村の南側では、トーマスが騎士団と冒険者たちのための訓練場を設置していた。彼はアルフレッド騎士と連絡を取りながら、村の防衛力強化に努めていた。
「御影様、訓練場が完成に近づいています」
トーマスが報告した。
「これでより多くの冒険者が村に留まり、防衛にも協力してくれるでしょう」
要はトーマスの取り組みにも感謝していた。彼の存在により、王国との連携がスムーズになり、村の認知度も高まっていた。
夕方になり、ロバートが王国からの使者を伴って村に戻ってきた。彼は数日前に報告書を提出するため王都へ向かっていたのだ。
「御影様、王国からのご挨拶です」
ロバートは丁寧に頭を下げた。
「王国魔法省は、みかげ村とダンジョンの発展に非常に興味を持っています。研究支援と引き換えに、魔法技術の提供を申し出ています」
要は王国からの提案に慎重に対応することにした。協力は歓迎だが、村の自治は守りたい。
「詳細を」と要は求めた。
ロバートは使者から受け取った文書を広げた。
「魔法の防御結界技術、高度な魔力結晶精製法、そして魔物研究の知識。これらを村に提供する代わりに、ダンジョンの進化過程を記録させていただきたいとのことです」
提案は魅力的だった。特に防御結界技術は、村の安全性を高める上で貴重だ。
「条件を協議する」と要は答えた。王国との協力関係は重要だが、一方的な関係にならないよう注意する必要がある。
夜になり、村の住民たちが広場に集まった。食事を共にしながら、村の発展について話し合うのが習慣になっていた。
「御影さん、今日は特別な発表があるわ」
エリシアが立ち上がって言った。
「私とミラで研究した結果、新たな可能性が見えてきたの。ダンジョンのコアと精霊石を使えば、村全体を『領域』として確立できるかもしれないわ」
住民たちは興味津々で耳を傾けた。
「『領域』とは、通常の土地よりも魔力が濃密で、独自の法則を持つ空間よ。御影さんの意志がより強く反映される場所になるわ」
ミラが続けた。
「実現すれば、村全体が一つの生命体のように機能し、外部からの侵入をより効果的に防げます。さらに、住民全員が村と一定の共鳴を持ち、意思疎通もしやすくなるでしょう」
これは大きな進化の可能性だった。要は強い興味を示した。
「どうすれば?」と要は尋ねた。
エリシアは詳細を説明し始めた。
「まず、精霊石をダンジョンコアに一時的に近づけ、両者の魔力を同調させます。次に、村の周囲に魔法陣を描き、領域の境界を設定。最後に、御影さんの意識で全体を包み込むのです」
ミラが補足した。
「ただし、これには膨大な魔力と、精密な調整が必要です。準備には少なくとも一ヶ月はかかるでしょう」
一ヶ月は長い時間だが、村の根本的な強化につながるなら価値ある投資だ。要は承認した。
「進めよう」と地面に大きく描いた。
住民たちは歓声を上げた。村がさらなる進化を遂げる可能性に、皆が期待を寄せていた。
翌日、村では様々な準備が始まった。エリシアとミラは「領域」確立のための研究を本格化させ、オーウェンとトーマスは防衛体制を強化し、フィンは必要な資材の調達を担当した。リオは住民たちの調整役として、皆の意見を取りまとめた。
要は新たなスキルの習熟にも力を入れていた。特に「空間制御」は可能性が広く、応用を模索していた。
まず、村とダンジョンを直接つなぐポータルの設置を試みた。村の中央広場とダンジョンの入口を結ぶ空間の橋を作れれば、より効率的な行き来が可能になる。
要は集中し、両地点に意識を向けた。「空間制御」のスキルを発動させると、広場の一角に青い光の輪が形成され始めた。同時に、ダンジョン入口にも同じ光の輪が現れる。
「これは…ポータル?」
通りかかったリオが驚きの声を上げた。
二つの光の輪は徐々に安定し、その内側に向こう側の景色が見え始めた。広場のポータルからはダンジョン入口が、ダンジョン側のポータルからは広場が見えている。
「すごい!通り抜けられるのかな?」
リオは興味津々で光の輪に近づいた。要は慎重に観察していた。ポータルはまだ安定していないようで、光が揺らめいている。
「危険かもしれない。待って」と要は地面に描いた。
リオは従い、数歩下がった。要はさらに集中し、ポータルの安定化を試みた。徐々に光の揺らぎは収まり、輪の中の景色もより鮮明になっていった。
【空間制御:ポータル形成中】
【安定度:60%...70%...85%】
要の意識に情報が流れ込んできた。ポータルは徐々に安定しているようだ。
【安定度:95%...完了】
「できたよ!」
リオが喜びの声を上げた。
「本当に通れるのかな?」
要は「試してみよう」と地面に描いた。ただし、最初は物体から始めるべきだ。
リオは理解して、手近にあった小石を拾い、ポータルに投げ入れた。石はポータルの光を通り抜け、ダンジョン側から出てきた。
次に、リオは長い棒を持ってきて、ポータルに差し込んだ。棒の先端がダンジョン側に現れ、問題なく出し入れできることが確認できた。
「よし、僕が通ってみる!」
リオは勇気を出して言った。要は少し躊躇したが、ポータルは十分安定しているようだった。
「気をつけて」と要は返事した。
リオは深呼吸して、一歩一歩ポータルに近づいた。そして意を決して、光の輪に足を踏み入れた。瞬間、彼の姿は広場から消え、ダンジョン側のポータルから出現した。
「成功したよ、御影さん!」
ダンジョン側から、リオの声が聞こえた。彼は無事にポータルを通過したようだ。
「感覚は変わらなかった。ただ一瞬で場所が変わっただけ。すごい能力だね!」
リオは興奮した様子で、再びポータルを通って広場に戻ってきた。
「これがあれば、村とダンジョンの行き来がずっと楽になる。冒険者たちも喜ぶよ!」
要も成功に満足していた。「空間制御」のスキルには、さらに多くの可能性がありそうだ。
ポータルの成功を受けて、エリシアとミラが急いでやってきた。二人は魔法的観点からポータルを調査し始めた。
「素晴らしいわ」
エリシアは目を輝かせた。
「魔法の門を作るには通常、複雑な儀式と大量の魔力が必要なのに。御影さんなら直感的に作れるなんて」
ミラも感心した様子だった。
「ダンジョンマスターの血を引く者として言わせてもらえば、これは高レベルのダンジョンでさえ難しい技術です。御影さんの成長は驚異的です」
要はこれからも新たなスキルの可能性を探っていこうと決意した。
ポータルのニュースはすぐに村中に広まり、住民たちや冒険者たちが見物に集まってきた。フィンはビジネスチャンスを見出し、ポータル周辺に休憩所や案内所の設置を提案した。
「これにより、商業区域とダンジョンの連携がさらに強まります」
彼は嬉しそうに言った。
「冒険者たちはダンジョン探索後、すぐに市場で収穫物を売り、装備を整えられます」
オーウェンは防衛面から意見を述べた。
「ポータルは便利ですが、敵が利用する可能性も考慮すべきです。何らかの制限機能が必要かもしれません」
要も同感だった。便利さと安全性のバランスが重要だ。
「制限をつける」と要は決めた。「認証システムを」
エリシアが提案した。
「ダンジョンの魔力と同調した特別な標識を村民と認定冒険者に配布してはどうでしょう。それを持つ者だけがポータルを使用できる仕組みに」
これは良いアイデアだった。要は早速実装することにした。
日が過ぎ、村の変化は加速していった。村の周囲の壁は胸の高さまで成長し、新たな商業区域の基礎工事は半ばまで進み、訓練場では冒険者たちが日々技を磨いていた。
ダンジョンも進化を続けていた。通路はより整然とし、部屋はより機能的になり、魔物たちもより高度な行動を示すようになった。スライムキングを筆頭に、新種の魔物も誕生し始めていた。
【高度魔物創造:進行中】
【新種魔物:クリスタルゴーレム、ウィスプファミリア、シャドウハウンド】
要は新たな魔物たちに特定の役割を与えていた。クリスタルゴーレムはダンジョン内の秩序維持と鉱物資源の採集、ウィスプファミリアは情報収集と照明、シャドウハウンドは警戒と偵察を担当する。
これらの魔物は、単なる障害物や敵ではなく、ダンジョンの機能を補助する存在となっていた。冒険者たちも次第にその特性を理解し、適切に対応するようになっていった。
「御影さん、魔物たちがより知性的になっている」
ミラがダンジョンからの報告で言った。
「スライムたちが協力して作業をしたり、ゴーレムが鉱石を分類したり。まるで小さな社会が形成されているようです」
これは興味深い発展だった。ダンジョンが単なる迷宮から、一つの生態系へと進化しつつあるのだ。
夜、要は村とダンジョンの全体を意識で包み込みながら、これまでの成長を振り返っていた。廃村だった場所が、今や活気ある共同体へと変わった。そして今後も、「領域」の確立を目指してさらなる進化を遂げる。
【御影要】
【村レベル:4】
【住民数:15】(新たに定住した冒険者や商人を含む)
【スキル:基本生活機能、ダンジョン化スキル(制限なし)、基本資源生産、基本防御構造、空間制御、高度魔物創造、自己拡張】
【ダンジョン:レベル3(村と完全同調)】
【次の目標:「領域」の確立、村の完全要塞化】
しかし、平和な日々の中にも、要は警戒を怠らなかった。あの儀式を妨害した者の正体はまだ明らかになっておらず、グリムの一味も完全に姿を消したわけではない。そして何より、村の力が大きくなるにつれ、それを狙う者も現れるかもしれない。
月明かりの下、要は村を守る決意を新たにした。住民たちが安心して暮らせる場所を守るため、そして自分自身の新たな可能性を追求するために。
深夜、村の外れで一つの影が動いた。覆面をした少女の姿だ。以前、遠くから村を眺めていた謎の少女と同じ人物だろうか。彼女は村の変化を見つめ、何かを記録しているようだった。
要が彼女に気づいたとき、少女はすっと身を翻し、森の中へと消えていった。その正体は依然として謎のままだった。
新たな力と、未知の脅威。村の物語は次なる段階へと進もうとしていた。
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最も顕著だったのは、村の周囲に形成され始めた低い壁だった。「基本防御構造」と「自己拡張」のスキルが組み合わさり、村の境界に自然に石壁が形成されつつあった。それはまだ膝丈ほどの高さだったが、日に日に成長している。
「御影さん、壁が広がってる!」
リオが朝の見回りから戻ってきて報告した。彼は子供のように目を輝かせていた。
「昨日より三メートルは伸びてる。このままいくと、村全体を囲むみたいだね」
要はリオの観察に満足した。村の防御力を高めることは、長年の課題だったからだ。
「さらに高く」と要は地面に描いた。
村の発展に合わせ、より強固な防御も必要になる。特に、過去にグリムの一味による襲撃があったことを考えると、安全対策は怠れない。
オーウェンが広場に現れた。彼は新しい壁の形成を満足げに見ていた。
「御影様、素晴らしい進歩です。壁の構造も非常に堅牢ですね」
元騎士団隊長の彼は、防衛の専門家として壁の質を高く評価していた。
「さらに、ダンジョンから採取した魔力結晶を埋め込めば、魔法攻撃にも耐性を持たせられるでしょう」
彼の提案は実務的で有益だった。要は同意し、エリシアとミラに相談することにした。
村の東側、ダンジョン入口付近ではエリシアとミラが研究を進めていた。二人はダンジョンの変化を詳細に記録し、その力を村の発展に活かす方法を探っていた。
「おはよう、御影さん」
エリシアが挨拶した。彼女の前には複雑な魔法陣の設計図が広げられていた。
「新しい発見があったわ。ダンジョンから採取した魔力結晶が、村の土壌と共鳴するの。植えてみたら、驚くべき速度で植物が成長したのよ」
ミラが補足した。
「これはダンジョンと村の魔力が完全に調和した証拠です。相互に増幅し合っているようです」
要はこの発見に興味を持った。「基本資源生産」のスキルと組み合わせれば、村の食料生産能力を大きく高められるかもしれない。
「実験したい」と要は伝えた。
三人は村の北側にある畑に向かった。そこでは既に様々な作物が育っていたが、まだ成長途中のものも多かった。
エリシアは袋から青く輝く小さな結晶を取り出した。それはダンジョン内のスライムから採取した魔力結晶の砕片だ。
「ここに埋めてみましょう」
彼女は結晶を畑の土に埋め込んだ。要は「基本資源生産」のスキルを発動させ、結晶に力を注いだ。
効果は即座に現れた。結晶を埋めた周囲の土が柔らかく輝き、そこから植物が急速に成長し始めた。トマトの苗が一気に成熟し、赤い実をつけ、小麦の穂が膨らみ、ジャガイモの葉が茂っていく。
「すごい…これならわずか数日で収穫できるわ」
エリシアは驚きの表情で言った。
「村の食料自給率が飛躍的に向上しますね」
ミラも感心した様子だった。
要はこの成功に満足しながらも、適切なバランスを保つ必要性も感じていた。魔力による急成長は便利だが、自然の循環も重要だ。一部の畑だけを魔力栽培にし、残りは通常の方法で育てるのが良いだろう。
「バランス良く」と要は地面に描いた。
二人は頷いた。彼女たちも同じことを考えていたようだ。
その日の午後、フィンが商業区域の拡張計画を持って広場に現れた。彼は市場の成功を受けて、より大規模な商業施設を構想していた。
「御影様、村の経済発展のために新たな提案があります」
彼は図面を広げた。そこには整然とした店舗群と、中央に噴水のある広場が描かれていた。
「現在の市場を恒久的な商業区域に発展させ、冒険者ギルドの支部設置も視野に入れています。ダンジョンを目的とした訪問者が増える今、彼らの需要に応える施設が必要です」
要はフィンの先見性に感心した。商人としての彼の経験と知識は、村の発展に欠かせない。
「承認する」と要は答えた。「場所は?」
「村の西側、入口付近が最適かと」
フィンは地図を指さした。
「訪問者が最初に目にする場所であり、村の中心部との距離も適切です」
計画が承認され、フィンは早速準備に取り掛かった。商業区域の基礎工事が始まり、村はさらに活気づいた。
村の南側では、トーマスが騎士団と冒険者たちのための訓練場を設置していた。彼はアルフレッド騎士と連絡を取りながら、村の防衛力強化に努めていた。
「御影様、訓練場が完成に近づいています」
トーマスが報告した。
「これでより多くの冒険者が村に留まり、防衛にも協力してくれるでしょう」
要はトーマスの取り組みにも感謝していた。彼の存在により、王国との連携がスムーズになり、村の認知度も高まっていた。
夕方になり、ロバートが王国からの使者を伴って村に戻ってきた。彼は数日前に報告書を提出するため王都へ向かっていたのだ。
「御影様、王国からのご挨拶です」
ロバートは丁寧に頭を下げた。
「王国魔法省は、みかげ村とダンジョンの発展に非常に興味を持っています。研究支援と引き換えに、魔法技術の提供を申し出ています」
要は王国からの提案に慎重に対応することにした。協力は歓迎だが、村の自治は守りたい。
「詳細を」と要は求めた。
ロバートは使者から受け取った文書を広げた。
「魔法の防御結界技術、高度な魔力結晶精製法、そして魔物研究の知識。これらを村に提供する代わりに、ダンジョンの進化過程を記録させていただきたいとのことです」
提案は魅力的だった。特に防御結界技術は、村の安全性を高める上で貴重だ。
「条件を協議する」と要は答えた。王国との協力関係は重要だが、一方的な関係にならないよう注意する必要がある。
夜になり、村の住民たちが広場に集まった。食事を共にしながら、村の発展について話し合うのが習慣になっていた。
「御影さん、今日は特別な発表があるわ」
エリシアが立ち上がって言った。
「私とミラで研究した結果、新たな可能性が見えてきたの。ダンジョンのコアと精霊石を使えば、村全体を『領域』として確立できるかもしれないわ」
住民たちは興味津々で耳を傾けた。
「『領域』とは、通常の土地よりも魔力が濃密で、独自の法則を持つ空間よ。御影さんの意志がより強く反映される場所になるわ」
ミラが続けた。
「実現すれば、村全体が一つの生命体のように機能し、外部からの侵入をより効果的に防げます。さらに、住民全員が村と一定の共鳴を持ち、意思疎通もしやすくなるでしょう」
これは大きな進化の可能性だった。要は強い興味を示した。
「どうすれば?」と要は尋ねた。
エリシアは詳細を説明し始めた。
「まず、精霊石をダンジョンコアに一時的に近づけ、両者の魔力を同調させます。次に、村の周囲に魔法陣を描き、領域の境界を設定。最後に、御影さんの意識で全体を包み込むのです」
ミラが補足した。
「ただし、これには膨大な魔力と、精密な調整が必要です。準備には少なくとも一ヶ月はかかるでしょう」
一ヶ月は長い時間だが、村の根本的な強化につながるなら価値ある投資だ。要は承認した。
「進めよう」と地面に大きく描いた。
住民たちは歓声を上げた。村がさらなる進化を遂げる可能性に、皆が期待を寄せていた。
翌日、村では様々な準備が始まった。エリシアとミラは「領域」確立のための研究を本格化させ、オーウェンとトーマスは防衛体制を強化し、フィンは必要な資材の調達を担当した。リオは住民たちの調整役として、皆の意見を取りまとめた。
要は新たなスキルの習熟にも力を入れていた。特に「空間制御」は可能性が広く、応用を模索していた。
まず、村とダンジョンを直接つなぐポータルの設置を試みた。村の中央広場とダンジョンの入口を結ぶ空間の橋を作れれば、より効率的な行き来が可能になる。
要は集中し、両地点に意識を向けた。「空間制御」のスキルを発動させると、広場の一角に青い光の輪が形成され始めた。同時に、ダンジョン入口にも同じ光の輪が現れる。
「これは…ポータル?」
通りかかったリオが驚きの声を上げた。
二つの光の輪は徐々に安定し、その内側に向こう側の景色が見え始めた。広場のポータルからはダンジョン入口が、ダンジョン側のポータルからは広場が見えている。
「すごい!通り抜けられるのかな?」
リオは興味津々で光の輪に近づいた。要は慎重に観察していた。ポータルはまだ安定していないようで、光が揺らめいている。
「危険かもしれない。待って」と要は地面に描いた。
リオは従い、数歩下がった。要はさらに集中し、ポータルの安定化を試みた。徐々に光の揺らぎは収まり、輪の中の景色もより鮮明になっていった。
【空間制御:ポータル形成中】
【安定度:60%...70%...85%】
要の意識に情報が流れ込んできた。ポータルは徐々に安定しているようだ。
【安定度:95%...完了】
「できたよ!」
リオが喜びの声を上げた。
「本当に通れるのかな?」
要は「試してみよう」と地面に描いた。ただし、最初は物体から始めるべきだ。
リオは理解して、手近にあった小石を拾い、ポータルに投げ入れた。石はポータルの光を通り抜け、ダンジョン側から出てきた。
次に、リオは長い棒を持ってきて、ポータルに差し込んだ。棒の先端がダンジョン側に現れ、問題なく出し入れできることが確認できた。
「よし、僕が通ってみる!」
リオは勇気を出して言った。要は少し躊躇したが、ポータルは十分安定しているようだった。
「気をつけて」と要は返事した。
リオは深呼吸して、一歩一歩ポータルに近づいた。そして意を決して、光の輪に足を踏み入れた。瞬間、彼の姿は広場から消え、ダンジョン側のポータルから出現した。
「成功したよ、御影さん!」
ダンジョン側から、リオの声が聞こえた。彼は無事にポータルを通過したようだ。
「感覚は変わらなかった。ただ一瞬で場所が変わっただけ。すごい能力だね!」
リオは興奮した様子で、再びポータルを通って広場に戻ってきた。
「これがあれば、村とダンジョンの行き来がずっと楽になる。冒険者たちも喜ぶよ!」
要も成功に満足していた。「空間制御」のスキルには、さらに多くの可能性がありそうだ。
ポータルの成功を受けて、エリシアとミラが急いでやってきた。二人は魔法的観点からポータルを調査し始めた。
「素晴らしいわ」
エリシアは目を輝かせた。
「魔法の門を作るには通常、複雑な儀式と大量の魔力が必要なのに。御影さんなら直感的に作れるなんて」
ミラも感心した様子だった。
「ダンジョンマスターの血を引く者として言わせてもらえば、これは高レベルのダンジョンでさえ難しい技術です。御影さんの成長は驚異的です」
要はこれからも新たなスキルの可能性を探っていこうと決意した。
ポータルのニュースはすぐに村中に広まり、住民たちや冒険者たちが見物に集まってきた。フィンはビジネスチャンスを見出し、ポータル周辺に休憩所や案内所の設置を提案した。
「これにより、商業区域とダンジョンの連携がさらに強まります」
彼は嬉しそうに言った。
「冒険者たちはダンジョン探索後、すぐに市場で収穫物を売り、装備を整えられます」
オーウェンは防衛面から意見を述べた。
「ポータルは便利ですが、敵が利用する可能性も考慮すべきです。何らかの制限機能が必要かもしれません」
要も同感だった。便利さと安全性のバランスが重要だ。
「制限をつける」と要は決めた。「認証システムを」
エリシアが提案した。
「ダンジョンの魔力と同調した特別な標識を村民と認定冒険者に配布してはどうでしょう。それを持つ者だけがポータルを使用できる仕組みに」
これは良いアイデアだった。要は早速実装することにした。
日が過ぎ、村の変化は加速していった。村の周囲の壁は胸の高さまで成長し、新たな商業区域の基礎工事は半ばまで進み、訓練場では冒険者たちが日々技を磨いていた。
ダンジョンも進化を続けていた。通路はより整然とし、部屋はより機能的になり、魔物たちもより高度な行動を示すようになった。スライムキングを筆頭に、新種の魔物も誕生し始めていた。
【高度魔物創造:進行中】
【新種魔物:クリスタルゴーレム、ウィスプファミリア、シャドウハウンド】
要は新たな魔物たちに特定の役割を与えていた。クリスタルゴーレムはダンジョン内の秩序維持と鉱物資源の採集、ウィスプファミリアは情報収集と照明、シャドウハウンドは警戒と偵察を担当する。
これらの魔物は、単なる障害物や敵ではなく、ダンジョンの機能を補助する存在となっていた。冒険者たちも次第にその特性を理解し、適切に対応するようになっていった。
「御影さん、魔物たちがより知性的になっている」
ミラがダンジョンからの報告で言った。
「スライムたちが協力して作業をしたり、ゴーレムが鉱石を分類したり。まるで小さな社会が形成されているようです」
これは興味深い発展だった。ダンジョンが単なる迷宮から、一つの生態系へと進化しつつあるのだ。
夜、要は村とダンジョンの全体を意識で包み込みながら、これまでの成長を振り返っていた。廃村だった場所が、今や活気ある共同体へと変わった。そして今後も、「領域」の確立を目指してさらなる進化を遂げる。
【御影要】
【村レベル:4】
【住民数:15】(新たに定住した冒険者や商人を含む)
【スキル:基本生活機能、ダンジョン化スキル(制限なし)、基本資源生産、基本防御構造、空間制御、高度魔物創造、自己拡張】
【ダンジョン:レベル3(村と完全同調)】
【次の目標:「領域」の確立、村の完全要塞化】
しかし、平和な日々の中にも、要は警戒を怠らなかった。あの儀式を妨害した者の正体はまだ明らかになっておらず、グリムの一味も完全に姿を消したわけではない。そして何より、村の力が大きくなるにつれ、それを狙う者も現れるかもしれない。
月明かりの下、要は村を守る決意を新たにした。住民たちが安心して暮らせる場所を守るため、そして自分自身の新たな可能性を追求するために。
深夜、村の外れで一つの影が動いた。覆面をした少女の姿だ。以前、遠くから村を眺めていた謎の少女と同じ人物だろうか。彼女は村の変化を見つめ、何かを記録しているようだった。
要が彼女に気づいたとき、少女はすっと身を翻し、森の中へと消えていった。その正体は依然として謎のままだった。
新たな力と、未知の脅威。村の物語は次なる段階へと進もうとしていた。
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突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
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魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
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ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
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俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
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「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
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女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
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ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
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『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
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> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
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最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
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神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
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無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
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