『転生商帝 〜金で戦争も王国も支配する最強商人〜』

ソコニ

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第8話「二人の弟子、商会の基礎固め」

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春の陽光が王都ラティアスを明るく照らす午後、ライアンは新しく購入した商会の建物の前に立っていた。北部商業区画の好立地にある三階建ての石造りの建物は、彼の成功の象徴だった。一階は店舗と応接室、二階は事務所と倉庫、三階は居住スペース。かつてのミラー商会の小さな店舗とは比較にならない規模だ。

「最後の荷物です」

ガルドが大きな木箱を運び込んできた。彼の服装は以前の粗末な盗賊の衣服から、質の良い商会の制服に変わっていた。肩には「ライアン商会」の紋章が刺繍されている。

「ご苦労」

ライアンは頷いた。ガルドは正式に「警備責任者」として雇用されていたが、実際には彼の右腕として様々な業務を担当していた。

「ところで、今日は新しい徒弟が来るそうですね」

「ああ、昨日市場で見つけた少女だ」

ライアンは思い返した。中央市場で野菜を売る屋台の少女。彼女の計算の速さと顧客への対応に目を引かれたのだ。

「彼女の名はソフィア。13歳だが、驚くべき頭の良さだ」

「どうやって見つけたのですか?」

「彼女が顧客と値段の交渉をしているところを見ていてね」

ライアンは微笑んだ。

「彼女は瞬時に計算し、それぞれの顧客に最適な提案をしていた。豊かそうな貴族には高級品をセットで勧め、貧しい母親には子供の数に合わせて量を調整する。そして、すべての取引で最大限の利益を確保していた」

「天性の商才ですね」

「そう。才能の無駄遣いだと思ってね」

ライアンが言い終わる前に、商会の扉が開いた。小柄な少女が、やや緊張した面持ちで入ってきた。茶色の髪を二つに結び、質素ながらも清潔な服を着ている。

「ソフィアですか?」と少女は尋ねた。その声は幼さの中にも芯の強さがあった。

「ああ、来てくれたか。私がライアン、そしてこちらがガルドだ」

ライアンは穏やかに微笑んだ。

「昨日は両親と話をつけた。君を正式に徒弟として迎えることになったよ」

少女の目が輝いた。

「本当ですか?ありがとうございます!」

彼女の顔には希望と興奮が溢れていた。商人の徒弟になれば、平民の子供、特に女子としては稀な出世の道が開ける。それは貧しい家庭の娘にとって、宝くじに当たるようなものだった。

「契約書だ。君の両親にはすでに説明した」

ライアンは羊皮紙の契約書を渡した。そこには「5年間の徒弟期間、衣食住の提供、週1シルバーの給金、商業教育の提供」など詳細な条件が記されていた。

「読めるか?」

「はい。父が読み書きを教えてくれました」

ソフィアは真剣な表情で契約書に目を通した。彼女の素早い目の動きに、ライアンは満足の表情を浮かべた。理解力の高さが窺える。

「明確で公正な条件ですね」

彼女は感心したように言った。

「他の商家の徒弟契約より好条件です」

「気づいたか」

ライアンは微笑んだ。

「商才のある者を大切にする。それが私の方針だ」

ソフィアは深く頭を下げた。

「必ず期待に応えます」

「さて、まずは商会内を案内しよう」

***

「商品の価値は何によって決まると思う?」

翌朝、ライアンは二人の弟子、ガルドとソフィアを前に最初の「商業講義」を始めた。商会の二階にある小さな会議室が教室代わりだ。

「需要と供給の関係ですか?」

ソフィアが答えた。

「その通り。基本的には需要が供給を上回れば価格は上がり、供給が需要を上回れば価格は下がる」

ライアンは黒板に簡単な図を描いた。二本の交差する線だ。

「しかし、実際の市場はもっと複雑だ。価値を決めるのは、少なくとも三つの要素がある」

彼は黒板に書き出した。

「第一に『必要性』。人々がどれだけその商品を必要としているか」

「冬の毛皮や食料のように」とガルドが言った。

「その通り。第二に『希少性』。その商品がどれだけ珍しいか、入手困難か」

「王家の宝石や、遠方からの香辛料のようなものですね」とソフィアが補足した。

「そして第三に『タイミング』。同じ商品でも、いつ市場に出すかで価値が大きく変わる」

ライアンは二人に鋭い視線を向けた。

「この三つの要素を理解し、操作できれば、あらゆる商品から最大の利益を引き出せる」

彼は実例を挙げ始めた。穀物価格の季節変動、祭り前の奢侈品の価格上昇、戦争前後の武器や食料の価値変化。二人は熱心にメモを取りながら聞き入った。

「しかし、商人の最大の資産は商品ではない」

ライアンは講義の終わりに言った。

「情報と信用だ。良質な情報を持つ者が先に機会を捉え、強固な信用を持つ者が大きな取引を成立させる」

「情報はどうやって集めるのですか?」

ソフィアが尋ねた。

「あらゆる方法でだ。市場の噂、船乗りの話、役人の言葉の端々…そして何より、自分の目で観察することだ」

ライアンはソフィアに微笑みかけた。

「君が市場で見せた観察力は、まさに商人に必要な資質だ」

少女は喜びと誇りの表情を浮かべた。

「ガルドは?」

「ガルドには別の才能がある。人の本質を見抜く目だ」

ガルドは意外そうな表情を浮かべた。

「私が?」

「そうだ。君は盗賊時代に培った人を見る目が鋭い。誰が信頼でき、誰が裏切るか。その直感は貴重な才能だ」

ライアンは二人を見渡した。

「これから毎朝、一時間の講義を行う。午後は実務だ。ガルドは引き続き警備と情報収集、ソフィアは当面、帳簿と在庫管理を担当してもらう」

「はい!」

二人は揃って答えた。その目には決意と期待が輝いていた。

***

「商標登録の手続きが完了しました」

エドモンドの姪エレナが報告した。彼女は洗練された美しさを持つ18歳の女性で、エドモンドの意向でライアン商会で勤務していた。彼女の役割は名目上「経理補佐」だったが、実際にはエドモンドの目としての側面もあった。

「ありがとう。これで『ライアン商会』の名前と紋章が法的に守られる」

ライアンは書類に目を通した。

「エドモンド伯父様から連絡がありました」

エレナは静かに言った。

「来月の王都商業連合の会合は、王立銀行での晩餐会になるそうです」

「なるほど」

ライアンは思案げに頷いた。王立銀行での会合は、単なる社交の場ではなく、大きな商取引や経済政策の話し合いの場になることが多かった。

「王立銀行のロイド会長とは面識があるんですね?」

エレナの問いにライアンは微笑んだ。

「少しね。彼は面白い人物だ」

「王都で最も影響力のある金融家と知り合いとは、さすがですね」

エレナの褒め言葉には、わずかな試すような調子が混じっていた。彼女はライアンの実力を測りかねているようだった。

「人脈は重要だ。だが、最終的に取引を決めるのは互いの利益だよ」

ライアンは穏やかに答えた。

「さて、今週の売上報告をお願いできるかな?」

エレナは整理された帳簿を差し出した。彼女の仕事ぶりは完璧だった。

「前週比15%増。特に北部からの毛皮取引が好調です」

「素晴らしい」

ライアンは満足げに頷いた。

「あの雪崩の後、毛皮商人の多くが被害を受けたため、価格が高騰しています。私たちの在庫価値は当初の予想を上回っています」

エレナの分析は鋭かった。

「よく気づいたね」

「ありがとうございます」

彼女は少し頬を赤らめた。エレナもまた、商才の片鱗を見せ始めていた。

***

一ヶ月後、ライアン商会は順調な成長を続けていた。ガルドは優れた情報網を構築し、ソフィアは驚くべき速さで商業知識を吸収していた。エレナもまた、高貴な生まれながらも商才を発揮し始めていた。

「ライアン様、市場で気になることがありました」

ある日、ソフィアが報告した。

「何だい?」

「季節の変わり目です。春から夏へと移る時期に、特定の商品の価格パターンが見られるのです」

ライアンは興味を示した。

「具体的には?」

「夏用の薄手の生地と染料です。毎年この時期に需要が高まるのですが、多くの商人はまだ冬物の在庫処分に追われています」

ソフィアは自分の調査結果を説明した。彼女は過去三年分の市場価格を調べ、季節の変わり目における特産品の価値変動パターンを発見したのだ。

「すでに南方の染料商人から情報を得ました。今年は例年より気温が高くなる予測で、貴族たちは早めに夏服の注文を始めているそうです」

ライアンは感心の声を上げた。

「素晴らしい観察眼だ、ソフィア」

彼は思案を巡らせた。

「これは商機だな。他の商人が気づく前に、染料と夏用生地を大量に仕入れよう」

「すでに主要な染料商人のリストを作成しました」

ソフィアは準備万端だった。

「彼らは在庫を抱え、まだ季節の変化を感じていません。今なら安く買い付けられるはずです」

ライアンは満足げに頷いた。

「すぐに行動しよう。ガルド、準備を」

***

一週間後、ライアンの予測は的中した。気温の急上昇により、貴族や裕福な商人たちは一斉に夏服の注文を始めた。仕立て屋たちは材料を求めて市場に殺到したが、ライアン商会はすでに主要な染料と生地の大半を押さえていた。

「本日だけで、仕入れ価格の3倍で売れました」

ソフィアは興奮した表情で報告した。

「計算通りだ」

ライアンは微笑んだ。

「しかし、まだ全量は売らない。価格はさらに上がるだろう」

彼の読み通り、翌日には価格はさらに上昇し、最終的に投資額の5倍の利益を上げることに成功した。

「この成功は君の功績だよ、ソフィア」

ライアンは少女の頭をやさしく撫でた。

「あなたの教えのおかげです」

彼女は照れながらも、誇らしげに答えた。

「いや、市場を観察する目は生まれ持った才能だ。私はそれを磨くための知識を与えただけさ」

ライアンは真剣な表情で彼女を見つめた。

「才能を見出し、育てること。それもまた商人の重要な資質だと実感したよ」

***

その夜、ライアンは事務所で一人、帳簿と向き合っていた。商会の成長は目覚ましかった。わずか数ヶ月で、小さな個人商店から王都で名の知られる商会へと発展していた。

「ライアン様、遅くまでご苦労様です」

エレナが紅茶を持って入ってきた。夜遅くまで働くのはお互い様だった。

「ありがとう」

ライアンは紅茶を受け取りながら、ふと彼女を見つめた。高貴な生まれの女性が、なぜ商会で働くのか。そこには単なるエドモンドの思惑以上のものがあるようだった。

「質問してもいいかな?」

「何でしょう?」

「なぜ君はここで働くことを選んだ?エドモンドの命令だけではないだろう」

エレナは少し驚いたが、すぐに落ち着いた表情になった。

「鋭いですね」

彼女は窓の外を見た。

「私は貴族の娘として育ちましたが、常に不自由さを感じていました。貴族社会では、女性の価値は結婚相手によって決まる」

彼女の声には苦々しさがあった。

「しかし商人の世界は違います。能力があれば、女性でも成功できる」

「なるほど」

ライアンは理解を示した。

「そしてあなたの噂を聞いて、興味を持ったのです。奴隷から成り上がり、短期間で成功した商人。その下で学べば、私も何かを掴めるのではないかと」

彼女の目には強い決意が宿っていた。

「正直に話してくれてありがとう」

ライアンは微笑んだ。

「君の才能は本物だ。ここで学べることは多いだろう」

エレナは安堵の表情を浮かべた。

「ありがとうございます」

「さて、来週の王都商業連合の会合だが、君も同行してくれるかな?」

「私が?」

彼女は驚いた様子だった。

「ああ。君はエドモンドの姪だし、貴族社会のマナーにも詳しい。私にはない視点を提供してくれるだろう」

エレナの目が輝いた。

「喜んでご同行します」

ライアンは満足げに頷いた。商会は着実に成長していた。ガルド、ソフィア、そしてエレナ。それぞれ異なる才能を持つ三人の存在は、彼の未来への大きな武器となるだろう。

「人を見る目もまた、商人の重要な資質だ」

彼は窓から見える夜の王都を眺めながら、静かに呟いた。星空の下に広がる王都の灯りは、彼の野望の象徴のようだった。小さく始まったライアン商会は、今や確かな基盤を築き、さらなる拡大への準備を整えていたのだ。
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