「追放された神官見習い、迷宮で運命を書き換える~選択次第で未来が変わる因果律能力で神々に挑む~」

ソコニ

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第3章:「追放者の夜」 第2話

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洞窟の通路は徐々に上へと続き、最終的に峡谷の別の場所へと通じていた。リュークが外に出たとき、すでに日は傾き始めていた。彼は周囲を見回した。落ちる前の場所からはかなり離れているようだった。

「どこに出たんだ…」

地図を取り出し、位置を確認しようとしたが、周囲の地形が地図と一致せず、自分がどこにいるのか判断できなかった。しかし、懐の小さな砂時計が微かに光を放ち、ある方向を指し示しているように感じた。

「あの方向に進めばいいのか」

リュークは光の示す方向—峡谷の奥地へと歩き始めた。周囲の霧は以前よりも濃く、青白い色を帯びている。「運命の霧」と呼ばれるものだろう。

霧の中を進むにつれ、彼は奇妙な感覚に包まれた。霧の中で形が揺らぎ、時に人や動物の姿に見えることがある。幻影なのか、それとも本物なのか、判断できなかった。

「気のせいだ…」

しかし、歩みを進めるごとに不思議な感覚は強まった。まるで別の時間が流れる場所に迷い込んだような感覚。リュークは懐の砂時計を握りしめ、前進を続けた。

数時間歩き続けたところで、日が完全に沈み、峡谷は暗闇に包まれ始めた。リュークは夜を過ごす場所を探さねばならなかった。幸い、岩陰に小さな窪みを見つけ、そこで一夜を過ごすことにした。

バルトからもらった乾パンを少し齧り、水筒の水を飲む。わずかな食料は数日しか持たないだろう。早く集落を見つけるか、食料を調達する方法を考えなければならない。

「今日は大きな進展があった…」

リュークは小さな砂時計を取り出し、青白い光を放つ姿を見つめた。祭壇での出来事は現実だったのか、それとも幻だったのか。しかし、手の中の砂時計が変化した事実は否定できない。

「七つの選択、七つの結果…」

幻影の言葉が脳裏に浮かぶ。因果律の迷宮とは何なのか。そこで彼は何を選択すべきなのか。多くの疑問が頭の中で渦巻いていた。

リュークは砂時計を胸に抱き、岩の窪みに体を丸めた。疲労で意識が遠のいていく。

「エルガス…必ず戻って…真実を…」

そんな言葉を呟きながら、彼は深い眠りに落ちていった。

***

「リューク…」

誰かが彼の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「リューク…目を覚ませ…」

その声は懐かしく、温かみがあった。リュークはゆっくりと目を開けた。

しかし、彼を取り巻く光景は岩の窪みではなかった。無限に広がる星空の下、彼は何もない虚空に立っていた。足元には薄い青い霧が漂っている。

「夢…?」

「夢ではない」声が再び響いた。「これは『間』の空間だ」

リュークの前に、かすかな光の粒子が集まり始め、人の形を形作っていった。それはガレスの姿に似ていたが、完全に一致するわけではなかった。より若く、より威厳に満ちていた。

「あなたは…昨日の幻影?」

「私は運命の案内人」光の人影は答えた。「汝の運命の目が活性化し始めた。我々は直接対話できるようになった」

「運命の案内人…」リュークは困惑した表情で繰り返した。「私の目は本当に神々からの贈り物なのですか?」

「その通り」案内人は穏やかに頷いた。「運命の目は千年に一人に与えられる力。運命の流れを見る力を持つ者だけが、因果律の迷宮の扉を開くことができる」

「なぜ私が?」

「それは汝自身が選択した運命」案内人は星空を指し示した。「見よ」

リュークが見上げると、星々が動き始め、様々な光景を映し出した。

—幼いリュークが神殿に預けられる瞬間。
—初めて「運命の目」が発動した時の恐怖と混乱。
—そして、彼が知らない光景—赤ん坊のリュークの額に、老神官が何かの印を描く姿。

「これは…」

「汝の始まり」案内人は説明した。「汝は生まれながらにして運命の目の素質を持っていた。そして、古の知識を持つ老神官がその力を解放した」

「ガレス先生が?」

「彼は知っていた。神殿での運命の砂時計の儀式が歪められること、そして汝がそれを正す鍵になることを」

リュークは混乱した。ガレス先生は最初から全てを計画していたのか?

「では、砂時計を預けたのも、そして追放されることも…全て計画されていたのですか?」

案内人は首を横に振った。「未来は固定されていない。無数の可能性の中から、汝の選択と他者の選択が現実を形作る。老神官は可能性を見ただけだ」

「でも、私は失敗した…砂時計は奪われ、私は追放された」

「それも一つの道」案内人は静かに言った。「その道が汝を因果律の迷宮へと導いた」

リュークは考え込んだ。全ては偶然ではなく、しかし完全に予定されていたわけでもない。彼の選択と他者の選択が絡み合い、今の現実を作り出した。

「因果律の迷宮とは何ですか?」彼は尋ねた。

「神々が創りし試練の場」案内人は答えた。「そこでは選択が現実を変える。一つの選択が無数の可能性を生み出し、無数の世界線を創る」

「神殿で聞いた運命の砂時計の力と似ています」

「砂時計は迷宮の力を形にしたもの」案内人は頷いた。「だが、エクロート神殿の砂時計は、本来の力の一部を封じられている。完全な力を解放すれば、運命そのものを書き換えることも可能だ」

リュークは息を呑んだ。「そんな力が…」

「だからこそ、危険なのだ」案内人の表情が厳しくなった。「砂時計の力を悪用する者が現れた。彼は特定の運命を固定化しようとしている」

「エルガスですね…」

「そうだ。彼は神殿長の地位を永続的なものにしようとしている。そのために『選択の可能性』を封じようとしているのだ」

「選択の可能性を封じる?」

「全ての運命には分岐点がある」案内人は説明した。「人々が選択をする度に、運命は枝分かれし、無数の可能性が生まれる。だが、砂時計の力で特定の運命を固定化すれば、どんな選択をしても同じ結果に至るよう強制できる」

「それは…まるで自由意志の否定です」

「その通り」案内人は厳しい表情で言った。「それは神々の意図に反する行為だ。我々は人間に選択の自由を与えた。それを奪うことは許されない」

リュークは震える声で尋ねた。「私に何ができるのでしょう?」

「因果律の迷宮に入り、真の力を手に入れる」案内人は言った。「迷宮で七つの試練を乗り越え、七つの選択をすれば、砂時計の真の力を解放できる」

「そうすれば、エルガスの行いを止められる?」

「可能性はある」案内人は慎重に言った。「だが、覚えておくべきことがある。因果律の迷宮では、あらゆる選択が結果を生む。良きにつけ悪しきにつけ、その責任は全て選択者が負うことになる」

リュークは決意を固めた。「覚悟はできています」

「ならば、明日、汝を迷宮へと導こう」案内人の姿が徐々に薄れ始めた。「砂時計が道を示す…」

「待って!」リュークは叫んだ。「もう一つ質問があります。私の『運命の目』の力は、神殿では制御できませんでした。なぜ今は違うのですか?」

案内人は微笑んだ。「神殿は運命の力を抑制する場所。迷宮に近づくほど、汝の力は解放される。そして迷宮の中では、汝は完全な『因果律視認』の力を得るだろう」

その言葉と共に、案内人の姿は完全に消え去った。星空も霧も薄れ、リュークの意識は再び暗闇に沈んでいった。

***

「うっ…」

リュークは目を覚ました。朝日が峡谷に差し込み、岩の窪みを照らしていた。体はこわばり、冷たい地面で寝たせいで筋肉が痛む。

しかし、心は昨夜の「夢」で見たことで満たされていた。あれは単なる夢ではない。彼は確信していた。

彼は懐から小さな砂時計を取り出した。朝の光を受けて、青白い光が一層輝いている。

「選択の責任…」

リュークは立ち上がり、わずかに残った水で顔を洗った。今日は峡谷の奥へ、因果律の迷宮を探す旅を続けなければならない。

歩き始めると、小さな砂時計の光が強まるのを感じた。確かに道を示している。リュークは砂時計の導きに従って進んだ。

峡谷の奥へと進むにつれ、周囲の風景が少しずつ変わっていった。岩の色が濃い紫色を帯び、地面には青い結晶のような石が散らばるようになる。空気もより湿り気を帯び、霧は濃くなる一方だった。

正午頃、リュークは小さな渓流に出くわした。清らかな水が岩の間を流れ、小さな滝を作っている。喉の渇きを覚えた彼は、渓流に近づき、水を掬って飲もうとした。

しかし、水に手を触れる直前、彼の運命の目が反応した。

—水を飲む自分。
—体が青く発光する。
—意識を失い、倒れる姿。

「危ない…」

彼は手を引っ込め、水をよく観察した。一見すると普通の水に見えたが、よく見ると微かに青く光っている。この水は普通の水ではない。飲めば危険だろう。

「運命の目が警告してくれた…」

リュークは水筒の残りの水で喉の渇きをしのぎ、渓流に沿って進むことにした。上流に何かあるかもしれない。

渓流を辿ること一時間ほど、突然視界が開けた。リュークは足を止め、目の前の光景に息を呑んだ。

「これは…」

峡谷の中に小さな盆地が広がっていた。盆地の中央には大小七つの石柱が円を描くように立ち並び、その周囲には青白い霧が渦を巻いている。石柱の一つ一つには異なる紋章が刻まれており、それは紛れもなく七神の紋章だった。

小さな砂時計が強く輝き、リュークの手の中で熱を持ち始めた。ここが目的地だと示しているようだった。

彼は慎重に盆地へと降り、石柱に近づいた。近づくにつれ、霧が彼の周りで奇妙な動きを見せる。まるで歓迎するかのように、彼の周りをくるくると回り、道を作っているようだった。

中央の円に足を踏み入れた瞬間、全ての石柱が一斉に青く輝き始めた。地面に刻まれた文様が浮かび上がり、複雑な幾何学模様が広がっていく。

リュークは立ち尽くし、その光景に圧倒された。小さな砂時計は彼の手の中で脈打つように光り、彼の体全体に温かい感覚が広がっていった。

突然、彼の運命の目が反応した。しかし、今回は痛みはなく、むしろ心地よい感覚だった。両目から青白い光が溢れ出し、視界が変容し始める。

リュークが見たのは、無数の光の筋が空間を埋め尽くす光景だった。それは人間の道筋、動物の軌跡、風の流れ、水の動き、あらゆるものの「因果」を示す線だった。過去から現在へ、現在から未来へと伸びる無数の可能性の糸。

「これが…因果律…」

彼は息を呑んだ。世界の真の姿を見ているような感覚に圧倒された。

その時、中央に立つ最も大きな石柱が割れ、中から青白い光が噴出した。光は渦を巻き、次第に巨大な門の形を形作っていった。

「因果律の迷宮の門…」

リュークは門に向かって一歩踏み出した。門の向こう側は霧に包まれ、何があるのか見えなかった。しかし、彼の運命の目は無数の可能性を示していた。門の向こうには、彼の運命を変える何かがある。

「行くしかない」

彼は決意を固め、小さな砂時計を強く握りしめた。未知の試練が待ち受けていることは分かっていた。七つの選択、七つの結果。彼の選択が、彼自身の運命だけでなく、神殿の、そして世界の運命さえも変える可能性がある。

「エルガス…必ず戻って真実を証明する」

リュークは深呼吸し、因果律の迷宮の門へと足を踏み入れた。

青白い光が彼を包み込み、彼の体は門の中へと吸い込まれていった。門が閉じる瞬間、彼の耳に案内人の声が届いた。

「選択せよ、運命の目を持つ者よ。汝の道を…」

そして、世界が光に溶け、リュークの意識は別の次元へと運ばれていった。
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