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世界のこれから
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魔力鉱脈の恩恵にあずからない山々は綺麗さっぱりなくなっていて、買収した隣の領地と地続きになっていた。かりそめの女領主はそうやって次々と山を破壊し、土地をつなげて、そこにビルや都市高速を建設し、アクセスを強化していった。
「マウントクラッシュ・クイーン」
「なんですって?」
「なんでもない」
街の景気の良さをそのまま体現したかのような大型豪華客船にのってクルージングしていた。俺は海辺に広がる自分の領土を海上から眺め、潮風を感じながらぼーっとしていた。こんなもん、ぼーっとするしかないだろう。
どうしちゃったんだマイタウン。ホロンって可愛らしい名前がもはや似合わないぞ、クリスタルガイザーとかの方が似合いそうだ。
隣を見やると、同乗していた金髪のカップルがいた。男がグラサンを取ると、めちゃくちゃ切れ長のかっちょいい緑色の瞳が現れ、少し鼻で笑いながら、「こんな街があったんだね」と言った。隣のロングヘアーの彼女はそれに答えて、「ここ数年で急成長したらしいわ」と返事をした。
(ハリウッドスターみたいなワイルドなイケメンだなぁ。あ、隣の彼女、ちょっとミラ○ダ・カーに似てないか。その向こうにはテ○ラー・スウィフトっぽいねーちゃんと、ジョージ・ハ○スン的おじさんがいるな。ミュージシャンまでいるのか、すげぇな異世界、世界観がめちゃくちゃだ)
「あーなーた。どこを見ておられるのですか?」
彼女が左隣から右隣へとわざわざ回り込んで視界に入ってきた。ちょっと不機嫌そうにしているから、適当にイケメンスマイルでごまかしてみると、彼女もつられて笑った。ふっっふっふ。イケメンというのはこれだからお得なのだ。
「知らない人ばかりだけど、どこから来たんだろうと思って」
「海外からの客がほとんどですから、知らなくて当然です」
「エリザは知っているのかい?」
「世界的な著名人だったら分かりますけれど、存じ上げない方々も多いですわね」
「そう」
――船の中のパーティでは様々な国の要人と会話をした。彼らの話を聞いていると、どうもこの異世界は広々としていて。かつ、危険な国も多く、世界旅行がやりづらそうな印象を受けた。
その中の一人に、かなり遠方からの客があった。彼の名前はモリキャスというそうで、魔力液が湯水のように溢れ出る地域の貴族だった。かなり太っていて、立派なひげを蓄え、あからさまに金持ちという風情である。民族衣装を着ていて、セクシーな従者の女を三人連れてきていた。エリザは彼のことが生理的に無理らしく、ひたすらに無言で目も合わさない始末だったから、俺が応対していた。
「――ではモリキャス様は、リティアに初めて来られたということですか」
「えぇ、ホロンは海外ツーリストのあいだではかなり話題になっていて、ユバイスト国のほうでも広告宣伝が盛んに行われていました。リティアの海沿いに素敵な街がある、というもっぱらの噂でしたから」
「ははぁ、そうでしたか」
「数日後にはリティアをたって、ヤングライズ王国の首都フンリーに、ホロンの生産する「飛行機」というマシーンで行ってみようかと思っておるのです」
「おお、それはそれは。ぜひ我が領土自慢の飛行機をご堪能ください」
「しかし、道中にもたくさん訪れてみたい場所があるというのに、お国の事情で入国できないというのは難儀ですなぁ、そうは思いませんか」
「もっともです、世界平和が叫ばれている昨今ですが、どうにも光明が見えてこない」
「自由に国家間を行き来できる時代が早く来ないかと、みなが思っているでしょう」
俺はわずか二年にして大富豪になったような気でいたが、こうして他国の資産家やら貴族やらと会話をしていると、所詮はいっぱしの成金にすぎないという感じがした。我がボナパルト家もまだまだたいしたことがないらしい。
他の者とも同じような会話があり、そのときはより具体的に、どこそこで戦争があるから今行くと危ないとか、先日自国でテロがあって不安だったとか、世界経済の先行きが治安にどの程度障るのか、あの国の政治は今、なんてややこしい話をさせられた気がする。
船はホロンの北西に位置する海岸で止まり、船の中で寝泊まりが出来るが、エリザが海辺のホテルに泊まりたいと言うからその通りにした。
――ホテルのスイートルームでネオンライトの輝く夜景を楽しみながらワインをたしなんでいると、エリザがふいにこんなことを話し始めた。
「セラ」
「ん、なんだい」
「新婚旅行の話をしましょう」
「ああ、構わないよ。どこか行きたい国はあるかい? あ、出来るだけ安全な国にしておくれよ。安全で快適なハネムーンをだね――」
「――その前にまず、私の持論を聞いてください」
「持論? 何の持論?」
「世界のこれから、について」
「マウントクラッシュ・クイーン」
「なんですって?」
「なんでもない」
街の景気の良さをそのまま体現したかのような大型豪華客船にのってクルージングしていた。俺は海辺に広がる自分の領土を海上から眺め、潮風を感じながらぼーっとしていた。こんなもん、ぼーっとするしかないだろう。
どうしちゃったんだマイタウン。ホロンって可愛らしい名前がもはや似合わないぞ、クリスタルガイザーとかの方が似合いそうだ。
隣を見やると、同乗していた金髪のカップルがいた。男がグラサンを取ると、めちゃくちゃ切れ長のかっちょいい緑色の瞳が現れ、少し鼻で笑いながら、「こんな街があったんだね」と言った。隣のロングヘアーの彼女はそれに答えて、「ここ数年で急成長したらしいわ」と返事をした。
(ハリウッドスターみたいなワイルドなイケメンだなぁ。あ、隣の彼女、ちょっとミラ○ダ・カーに似てないか。その向こうにはテ○ラー・スウィフトっぽいねーちゃんと、ジョージ・ハ○スン的おじさんがいるな。ミュージシャンまでいるのか、すげぇな異世界、世界観がめちゃくちゃだ)
「あーなーた。どこを見ておられるのですか?」
彼女が左隣から右隣へとわざわざ回り込んで視界に入ってきた。ちょっと不機嫌そうにしているから、適当にイケメンスマイルでごまかしてみると、彼女もつられて笑った。ふっっふっふ。イケメンというのはこれだからお得なのだ。
「知らない人ばかりだけど、どこから来たんだろうと思って」
「海外からの客がほとんどですから、知らなくて当然です」
「エリザは知っているのかい?」
「世界的な著名人だったら分かりますけれど、存じ上げない方々も多いですわね」
「そう」
――船の中のパーティでは様々な国の要人と会話をした。彼らの話を聞いていると、どうもこの異世界は広々としていて。かつ、危険な国も多く、世界旅行がやりづらそうな印象を受けた。
その中の一人に、かなり遠方からの客があった。彼の名前はモリキャスというそうで、魔力液が湯水のように溢れ出る地域の貴族だった。かなり太っていて、立派なひげを蓄え、あからさまに金持ちという風情である。民族衣装を着ていて、セクシーな従者の女を三人連れてきていた。エリザは彼のことが生理的に無理らしく、ひたすらに無言で目も合わさない始末だったから、俺が応対していた。
「――ではモリキャス様は、リティアに初めて来られたということですか」
「えぇ、ホロンは海外ツーリストのあいだではかなり話題になっていて、ユバイスト国のほうでも広告宣伝が盛んに行われていました。リティアの海沿いに素敵な街がある、というもっぱらの噂でしたから」
「ははぁ、そうでしたか」
「数日後にはリティアをたって、ヤングライズ王国の首都フンリーに、ホロンの生産する「飛行機」というマシーンで行ってみようかと思っておるのです」
「おお、それはそれは。ぜひ我が領土自慢の飛行機をご堪能ください」
「しかし、道中にもたくさん訪れてみたい場所があるというのに、お国の事情で入国できないというのは難儀ですなぁ、そうは思いませんか」
「もっともです、世界平和が叫ばれている昨今ですが、どうにも光明が見えてこない」
「自由に国家間を行き来できる時代が早く来ないかと、みなが思っているでしょう」
俺はわずか二年にして大富豪になったような気でいたが、こうして他国の資産家やら貴族やらと会話をしていると、所詮はいっぱしの成金にすぎないという感じがした。我がボナパルト家もまだまだたいしたことがないらしい。
他の者とも同じような会話があり、そのときはより具体的に、どこそこで戦争があるから今行くと危ないとか、先日自国でテロがあって不安だったとか、世界経済の先行きが治安にどの程度障るのか、あの国の政治は今、なんてややこしい話をさせられた気がする。
船はホロンの北西に位置する海岸で止まり、船の中で寝泊まりが出来るが、エリザが海辺のホテルに泊まりたいと言うからその通りにした。
――ホテルのスイートルームでネオンライトの輝く夜景を楽しみながらワインをたしなんでいると、エリザがふいにこんなことを話し始めた。
「セラ」
「ん、なんだい」
「新婚旅行の話をしましょう」
「ああ、構わないよ。どこか行きたい国はあるかい? あ、出来るだけ安全な国にしておくれよ。安全で快適なハネムーンをだね――」
「――その前にまず、私の持論を聞いてください」
「持論? 何の持論?」
「世界のこれから、について」
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