冴えないおっさんが没落貴族に異世界転生~売れ残りの悪役令嬢を妻にめとって世界征服目指します~

masa

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カラスの国

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 街中で聖剣を振るうと目立つから、と言う理由で聖拳銃を携帯することになった。攻撃力は聖剣に劣るが、速射力と小回りの良さがあり、士官学校でも愛用している輩がいたほどだ。聖武器の新しい発注をするのはいいが、国外に持ち出すとなると法律的に問題があった。

 しかしそこはうわさの英雄サマ、あっさり許可をいただきました。公的な書類をごにょごにょやるのは役人の得意分野で、それがまた悪の温床にもなりかねないとは思うものの、まあ今のところポジティブな政治情勢なので、ご都合主義的に英雄的功績にもとづく威光のようなものを利用させてもらった。たぶん今後も利用するんじゃないだろうか。

 また、物騒な聖武器を某国国内に持ち込むとなると、テロリストかと思われるかもしれないから、特別な空間魔法が仕組まれた鞄を用意してもらった。

 国外所持は自国の法治、しかし他国への持ち込みは他国の法治。いかに英雄サマといえども、局地的英雄サマに過ぎないので、工夫が必要だったわけだ。うまいことやる予定です。

「――ねぇ、まだかしら」
「もうそろそろだから、勘弁しておくれ、我が妻よ」

 政府要人のような格好をしていては怪しまれるので、善良ないち旅人としての平凡な服装をしていた。

 もと一般人の低収入おじさんだった俺にはなじみやすい(といっても、セラフィムの容姿だとやや不自然な)普遍的な、全部ユニクロですか的な服だったが、それと似たようなもので、女性用の若向きな格好をしていたエリザは違和感満載だった。

 高貴な雰囲気が服からはみ出していて、どうにも育ちのようさが浮き出ている。他国からウチの領土に店を出してきていた庶民ご用達の服屋でファストファッションのラインナップを見たときにエリザが困惑していたのはとても面白かった。「どれを選んだら良いかわかりませんわ!」とかなんとか言うから、俺が適当に選んでやると、ぶつぶつ文句を言っていた。が、ちゃっかり今日はそれを着ているではあーりませんか、ねえ?

 砂漠の真ん中を、オフロード専用のワイルドな車で突っ走る。なぜか運転技術のあった俺のことをエリザは怪しんだが、「いやぁ、士官学校で学んだのさ」という、わけのわからない言い訳でかわしたのはつい先日のこと。

 ことあるごとに現代人というのがばれそうになれば、「それは士官学校で学んだのだよ、あっはっは」でごまかし倒している。なぜそれを知っているの? 士官学校! なぜそんなことができるの? 士官学校! 

 彼女が士官学校でどのような教育が行われたのかなどは知るよしもなく、彼女にとっては「空白の一年」みたいな扱いになっているので、良い言い訳の種になっている。士官学校万歳! ちなみに士官学校では霊気の翼で飛んでました、はい。たしかカイが車型の聖武器を作って戦場で試していたっけ? 霊力を燃料にして爆走し、敵兵を轢いて、人身事故のオンパレードだったなあ、今となっては懐かしい。

 そろそろ国境だと思うが、どうだろう。あっちこっちで戦争やって、ところどころ人が住まわなくなってしまった地域は、たいがい荒廃しきって、コンクリートに草木が生えてきた無人街になるか、広々とした砂漠になっておられるかの二択だ。

 主要な国がにらみ合い、そんなだったら仲良くして経済発展させた方が効率よくね? という発想になる前の段階の世界なのだから仕方がないかもしれないが、現代でもいまだに中東地域とかこんなんだからたいして変わらない気もする。

「お、見えてきたぞ」

 国境の警戒に当たっている兵士の小集団を遠目に捉えた。呼び止められることを見越して、敵意のないことを示すために減速してみせる。とまれぃ! だってさ、分かってるって。

「――入国許可書と身分証はあるか?」
「……はい、どうぞ」
「――はあ、リティアから。旅行目的ね……にしても、ずいぶん若いな」
「あ、はい、まだ俺たち学生なんで」
「そうかい。いまだと期間限定でジャッカルの輩と分かれば即射殺なんだがな、ハッハ! まあ、リティアとアンガスは昔から友好関係だ、これからもよろしく。――いってよし」

 一般ピーポー然とするために、余、とか我が輩とか朕とか、調子乗った一人称は封印である。俺は士官学校で俺俺俺俺、まるでオレオレ詐欺のごとく現世的な口調で話していたから慣れているが、エリザのほうが心配である。

 つい、ワタクシがー! とか、公爵の正妻たるなんたらかんたらー!とか言ってしまいそうなので、プライドの高さが裏目に出るとやっかいなことになりそうだ。いいかいエリザ、ちゃんとわたしって言って、今風の一般女子らしい口調で頼むぞ。

「現地に到着次第、とお約束しましたじゃないの」

 今のうちから練習してもらいたいものだが。――して、そうこうするうち、横幅の広い凱旋門みたいなものが見えてきた。アンガス公国最東端にある、当国内経済規模第三位のスペルピオーネという街である。規模やら都会感やらは、まあ名古屋かなぁ。

 もう一度関所の兵士(かぶっている丸っこい白帽子はこの国の平和のシンボルを表している)に検問されてから、ようやく中へ入った。

「あら、前に来たときと、ずいぶん変わりましたわね」
「前って、五歳のときとかだろう、そりゃあ変わるさ」

 かつては宗教国家エイリーンに占領され、なかば植民地化されていたアンガスだが、そこを奪い返してやったのはかつて茜色の聖剣使いとして世界に名をはせた初代団長ラインハルトの偉大な功績の一つだった。いったん管理下に置いたが、そのときにインフラを整備してやり、そのあと主権を回復させた。

 もちろん経済的な協力関係は約束させていたが、しかしそのときの恩義は義理堅いアンガスの市民によって語り継がれ、現在にいたる。

 いまはリティアが内部で体制を整えるのに必死なこともあり、疎遠になっているが、それでもリティア出身だと言えばあらゆることで通りがよくなる国ではある。最初の新婚旅行先には、とりあえず、安全な感じのする国を選んだ。本当に安全かどうかはこれから分かる。

「うーん、やはり植民地だったときの文化が根強く残っているなぁ」
「ええ、とても宗教色が強いですわ。まだどこかに秘密結社でも隠れているのではなくて?」
「やめてくれよ、せっかくの新婚旅行なんだから、幸先くらい明るく考えよう」

 カラスがこのアンガスでは神聖な生き物としてあがめられている。ゆえに、洋風な建築物のあちらこちらにカラスの彫刻が設置されている。

 ちょうど噴水の真ん中で口から水を噴射し続けている巨大なカラスの彫刻の周りには人だかりがあって、たぶん観光客だろうが、カメラで盛んに撮影している。その足下に本物のカラスがえさをついばんでうろうろしているというのに外国人の目には入らない。

 俺はともかく最初の宿の地下駐車場に車を止めるべく、少し強めにアクセルを踏んだ。

「……アンガス公国。別名、カラスの国、か。どうなることやら」
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