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早朝。それも朝の六時という、学生にとってはあまり好ましくない時間帯に、部屋の目覚ましが鳴った。音量はいじっていないはずなのに、どういうわけか、普段よりうるさく聞こえたことが印象的だった。
朝食は今日で三日連続となる目玉焼きトーストと牛乳。著しい献立バリエーションの欠如は、もちろん自覚しているが、それ以上に料理が苦手だと確信している。変わり映えしない食卓に飽き飽きしながらも、妥協してパンをかじり、テレビで流れる星座占いに耳を傾けていた。
『―牡牛座のあなたは残念ながら十二位! とてつもない災いがあなたを襲うでしょう』
「……雑いな。しかも嘘くせぇ」
などと言いつつ、内心では少し落胆して、朝のぼやついた頭で大学へ向かう準備を整えていく。……とてつもない災いって、何?
―朝の通勤ラッシュをよそに、不謹慎にも俺は、車内で携帯を取り出し毎朝のツイッター、ラインのチェックでもするつもりでいた。そして鞄の中に手をやったところ、残念な事実を確認するに至る。
「携帯が……無い」
おそらく部屋に置き忘れたものと思うが、この時俺の脳裏には、さっそく朝の星座占いがよぎった。運命などというロマンチックなものを心の底では信じてやまない人間、つまり俺は、これがいわゆる「とんでもない災い」の序章ではないかと疑ったわけだ。ここで「とんでもない」という形容詞は少々大げさに聞こえるかもしれないが、携帯依存症の現代っ子にとってはその限りではない。加えて傘もない。
「今日は雨降りって聞いたんだけどな……」
今日だけは雨が降らないようにと神に祈りだした無神論者は、携帯と傘を忘れた苛立ちからか、人目もはばからず十字を切って周りから避けられていた。しかし、若干一名、するすると混雑を抜けて、近づいてくる。
「よぅ、藤代。早速だけど十字の切り方間違ってるぞ」
……神社の息子に捕まってしまった。
こいつは中島。大学に入学して早々、とある理由で俺に目をつけてきた輩なんだが……
「……やっぱ何も憑いてないのな」
中島はつり革にぶら下がり、俺の顔をのぞき込む。
「俺はその話、信じてないからな」
「いやいや、本当なんだって! 初めて会った時びっくりしたんだから!」
中島はいわゆる、「見える奴」らしい。自称に過ぎないが、入学式の式場で俺を見るなり、「お前のような人間は初めて見た! すごく珍しい奴だ」などと大真面目な顔して話しかけてきた過去がある。
本人曰く、一般に、人には霊的な存在が一匹やら二匹やら必ず取り憑いているものだそうだ。しかし俺には何も憑いておらず、中島にとって珍しい存在だったようだ。
「何か機嫌悪そうだな」
「携帯と傘を家に置き忘れてな。今日はホントに運が悪い」
「そりゃそーだ。お前には守護霊はおろか背後霊すら憑いてないんだからよ」
「違う、今日は星座占いがだな……」
言いかけたが馬鹿らしくなってやめた。この後はしばらく他愛もない世間話をしていたが、不意に中島が妙なことを言い始めた。
「あのな、藤代、人には『スペース』ってもんがあってな」
「何だそれ」
「幽霊やら得体の知れん化け物やら、人ならざるモノが取り憑くスペースだよ」
「あぁ、それが俺には無いってんだろ」
「いや、一つだけある」
「おいおい、あるのかよ」
気持ち半分で聞いていた俺をちらと横目で見た中島は、それを察してのことか、少し真面目な口ぶりで本音を漏らした。
「そのスペースは居心地が良くて、すぐにナニカが入り込むようになってる。でも、お前みたいに、そこが空白のまま保たれてるのは不自然だから、俺はこう思うんだ。まるで誰かが予約してるみたいだなって」
「……面白い考えだな」
「俺が気になってるのはそこなんだよ」
そんなこと気にしてどうなるのかと思ったが、俺がその旨を伝えるのを遮るように中島は言った。
「一体誰が予約してるんだ……」
車内に目的地を告げるアナウンスが響いた。
朝食は今日で三日連続となる目玉焼きトーストと牛乳。著しい献立バリエーションの欠如は、もちろん自覚しているが、それ以上に料理が苦手だと確信している。変わり映えしない食卓に飽き飽きしながらも、妥協してパンをかじり、テレビで流れる星座占いに耳を傾けていた。
『―牡牛座のあなたは残念ながら十二位! とてつもない災いがあなたを襲うでしょう』
「……雑いな。しかも嘘くせぇ」
などと言いつつ、内心では少し落胆して、朝のぼやついた頭で大学へ向かう準備を整えていく。……とてつもない災いって、何?
―朝の通勤ラッシュをよそに、不謹慎にも俺は、車内で携帯を取り出し毎朝のツイッター、ラインのチェックでもするつもりでいた。そして鞄の中に手をやったところ、残念な事実を確認するに至る。
「携帯が……無い」
おそらく部屋に置き忘れたものと思うが、この時俺の脳裏には、さっそく朝の星座占いがよぎった。運命などというロマンチックなものを心の底では信じてやまない人間、つまり俺は、これがいわゆる「とんでもない災い」の序章ではないかと疑ったわけだ。ここで「とんでもない」という形容詞は少々大げさに聞こえるかもしれないが、携帯依存症の現代っ子にとってはその限りではない。加えて傘もない。
「今日は雨降りって聞いたんだけどな……」
今日だけは雨が降らないようにと神に祈りだした無神論者は、携帯と傘を忘れた苛立ちからか、人目もはばからず十字を切って周りから避けられていた。しかし、若干一名、するすると混雑を抜けて、近づいてくる。
「よぅ、藤代。早速だけど十字の切り方間違ってるぞ」
……神社の息子に捕まってしまった。
こいつは中島。大学に入学して早々、とある理由で俺に目をつけてきた輩なんだが……
「……やっぱ何も憑いてないのな」
中島はつり革にぶら下がり、俺の顔をのぞき込む。
「俺はその話、信じてないからな」
「いやいや、本当なんだって! 初めて会った時びっくりしたんだから!」
中島はいわゆる、「見える奴」らしい。自称に過ぎないが、入学式の式場で俺を見るなり、「お前のような人間は初めて見た! すごく珍しい奴だ」などと大真面目な顔して話しかけてきた過去がある。
本人曰く、一般に、人には霊的な存在が一匹やら二匹やら必ず取り憑いているものだそうだ。しかし俺には何も憑いておらず、中島にとって珍しい存在だったようだ。
「何か機嫌悪そうだな」
「携帯と傘を家に置き忘れてな。今日はホントに運が悪い」
「そりゃそーだ。お前には守護霊はおろか背後霊すら憑いてないんだからよ」
「違う、今日は星座占いがだな……」
言いかけたが馬鹿らしくなってやめた。この後はしばらく他愛もない世間話をしていたが、不意に中島が妙なことを言い始めた。
「あのな、藤代、人には『スペース』ってもんがあってな」
「何だそれ」
「幽霊やら得体の知れん化け物やら、人ならざるモノが取り憑くスペースだよ」
「あぁ、それが俺には無いってんだろ」
「いや、一つだけある」
「おいおい、あるのかよ」
気持ち半分で聞いていた俺をちらと横目で見た中島は、それを察してのことか、少し真面目な口ぶりで本音を漏らした。
「そのスペースは居心地が良くて、すぐにナニカが入り込むようになってる。でも、お前みたいに、そこが空白のまま保たれてるのは不自然だから、俺はこう思うんだ。まるで誰かが予約してるみたいだなって」
「……面白い考えだな」
「俺が気になってるのはそこなんだよ」
そんなこと気にしてどうなるのかと思ったが、俺がその旨を伝えるのを遮るように中島は言った。
「一体誰が予約してるんだ……」
車内に目的地を告げるアナウンスが響いた。
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