Sunrise Devil in the rain

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one day 4

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 ―午後六時を知らせる鐘が響き渡り、傾いた太陽が橙赤色に街を染め上げている。その色彩が心身の疲れにそっと寄り添い、遠い鐘の音が耳元で優しく残響する。
 夕暮れ時。俺と朝日の行くサブロードは、本通りから一本それた隣道で、こちらはすでに人がまばらになっていた。派手に着飾る本通りより、うるさくなくて良かった。
「なぁ、朝日」
『何』
「今から三つ質問して良いか?」
『いいよ』
「ん、じゃあ一つ目。お前、タコ焼き好きなの?」
『うん、今日食べた中では一番口に合ったかな』
「そうか……」
 朝日は俺が店主から貰った分まで平らげていた。こいつが食い意地を張ったところを、俺は今日初めて見た。
「二つ目、お前、ロス出身ってマジか?」
『Yes』
「帰国子女じゃねぇか」
『Yes,of course』
「……英語で答えたところで、ロス感は出ないからな」
 朝日はニッと笑って、恥ずかしそうに頭の後ろを撫でた。
『実は住んでた頃の記憶、ほとんど残ってないんだ』
「……でも、お前のことだから、英語は話せるんだろ?」
『日常会話くらいなら』
「よし、帰ったら、英語のリスニング課題を手伝ってくれ。俺の耳が英語を受け付けないんだ」
『やだ。優理のためにならない』
「そこを何とか」
『言語学習なんだから、自分でやらないと』
「はー……、それじゃ、三つ目な」
 前の二つはブラフだ。本当に聞きたいのは、この三つ目。
「朝日には、俺がいくつに見える?」
 口パクで何それ、と聞かれたが、いいから答えてくれと促す。少し不満そうな表情で文面を考えて、ゆっくり返事を書いた。
『年相応に見える。十九歳』
 あまりにも普通の返答にがっかりして、声色から力が抜けた。
「―あっそ」
 そちらから尋ねておいてその素っ気ない返事は何だ! と言わんばかりに、朝日は俺の肩を揺さぶって、抗議の意志を表明する。歩き疲れ、棒になった両脚に振動が伝わる。
必死の抗議を上手くいなしながら進む内、サブロードを抜けた。そこを左へ行くと、道路沿いに、行きつけのスーパーがある。今日の最終目的地だ。

 ―このスーパーにはいつもお世話になっている。というのも、この店は価格設定が下手くそなのか、消費者に甘すぎる値段で商品が売られている。近辺の主婦で知らない者はいない。最近は朝日に買い出しを頼むようになっているから、俺が来るのは久々だった。
『晩ご飯はカレーにしよう』
 アイコンタクトで同意を求める。慣れた仕草だ。
「そうだな、カレーがいいな」
 朝日は専業主婦さながらの手早さで次々とカゴに食材を入れていく。ぬかりない使用人は、食材の鮮度を瞬時に見抜き、最適な選択をする。
 一人の若い女性店員が、パンの試食コーナで声を張って、商品を宣伝している。バンダナを巻いた彼女は、通り過ぎる客にさえ笑顔を振りまく。すらっと背筋を伸ばし、懸命に声を上げる健気な姿に見とれていると、遠目に彼女と目が合った。警戒心の無い爽やかな笑顔で、こちらに手を振る。あぁ、そんな誰彼かまわず愛想を振りまいちゃ駄目ですよ、素敵なお姉さん。
 カゴを持ったまま見知らぬ女性とはにかみ合戦をしていると、左腕が手首を掴まれ、強引にたぐり寄せられた。
「うぉっ、なんだ?」
 朝日は腕時計に用事があって、時刻を確認した。
「どうした?」
『レジ』
 掴んだ手首をそのままに、朝日は妙に急いでレジに向かった。横揺れするカゴが重たい。

 会計を済ませ、慌ただしく食材を袋に詰め終えて、朝日は何も言わずに小走りで店を抜けた。……重たい荷物だけ俺に押しつけて、置いてけぼりにするな! 待ちやがれ!
 指を締め付けるビニールを恨めしく思いながら、両手に重たい買い物袋を下げて、先に外に出た朝日の後を追った。
外に出ると、日が落ちかけていた。辺りは少々暗い。目をこらせば、スーパーに併設された宝くじ売り場の列の中に朝日の後ろ姿があった。歩き疲れた足で、売り場に向かった。
「シラッと並んでんなよ、金持ってねぇくせに」
 朝日は基本的に俺の愚痴をスルーしていく方針なので、案の定、話の脈絡を無視して、自分の用件だけ伝えてくる。朝日は前方を顎でくいっとやってジェスチャーした。
 背は百九十近くあるだろうか。黒の背広を着た大男が、俺達と同じく売り場に並んでいた。だだっ広い男の背中は、薄暗い外気に溶け込んで、上手に気配を消していた。つややかな黒髪はきっちりとオールバックにまとめてあり、耳には穴が開いていたが、ピアスは付けていない。足下で磨かれた革靴が鈍く光っている。手にはビジネスバッグを一つ。袖口から微かに見える、手首に巻かれた銀の腕時計だけが浮いて見える。俺は気付かれないよう、小声で言った。
「知り合いか?」
『違うよ』
「だったら何」
 朝日は書いては消してを繰り返して、あからさまに言葉を選んでいた。そして、
『彼を初めて見たのは、二年前。私が家族と一緒にこの街に移った頃ね』
『バイト帰りにこの道を通りがかって、売り場に並んでる彼を見たの。それでビックリしちゃって』
「まぁ、確かに、宝くじ売り場にそぐわない方だとは思うが……」
『違う』
「え?」
『この人、宝くじを買いに来てなかったの』
 ついに朝日の頭がおかしくなったと思った。じゃあ、何を買いに来たんだこの人は。
『宝くじを買いに来る人は、たとえどんな事情があっても、多少の期待をしている。どれほどポーカーフェイスを気取っていても、丹念に観察すれば、期待が顔に出ている』
『だけど、この人はそれが全く見られなかった』
『発売初日のこの時間に、三年連続で来た。多分、慣れた仕事なんだ』
『今年は見逃してあげない』
「……あーはん?」
全く話が見えてこないのは、俺の頭が足りないせいだろうか
 しばらく考え込んで、顎をつまんだりしていると、
『分からないなら、忘れていい』
 と、思考中断の許可が下りたので、煮え切った疑問は流しに捨てた。こいつの言うことは、理解できん。
『優理にお願いがある』
「何だ、言ってみろ」
『連番で、三千円分買って下さい』
 露骨にいやな顔で、俺は切って捨てるように言った。
「夢を買う趣味は無い」
 しかし、朝日は食い下がる。
『私の普段の勤務態度を評価していただきたい』
 ジトッとした目で見られ、女に駄々をこねられる歯がゆさを知った。致し方ない。

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