金の瞳のリゼ ミドルトン男爵邸の亡霊

満天星さくら

文字の大きさ
7 / 8

ACT 6 最後の悪霊

しおりを挟む
「この屋敷もミドルトンの爵位も、いずれはぼくのものになる。あなたに勝手に処分させるわけにはいきません」
 玄関ホールの高い天井に、涼やかで硬質な、クリスタルグラスをはじくような声がこだました。
 ぼくたちは一斉に螺旋階段の上を振り仰いだ。
「――ジュリアン!」
 三階部分を巡るテラスのような回廊に、ジュリアンはいた。
「たしかにこの彫刻だの絵だのは、悪趣味きわまりない。すぐにでも処分してしまいましょう。それから、ぼくの趣味で選んだ美術品を飾るんだ。そうだな、中国趣味がいい」
 ジュリアンだけじゃない。エドガーと、ミドルトン男爵夫人までもがいる。
 ジュリアンの後ろに控えるように立つエドガーは、口元に皮肉な、けれど心底楽しそうな笑みを浮かべていた。男爵夫人はべったりと床に座り込み、うつろな目をしてなにか小声でぶつぶつつぶやきながら、ひっきりなしに身体を揺すっている。まるで阿片中毒患者だ。
「ひどい恰好だ、ミセス・メイザー。それがあなたの本当の姿なのですか? なんて醜い……!」
 天使のような美貌に嫌悪の表情を浮かべ、ジュリアンは言った。
「そう言うな、ジュリアン。あれは単に、黒の染料が落ちきっていないだけさ」
 後ろからエドガーが声をかけた。ジュリアンの肩に手を置いて、まるで恋人同士のように親しげに頬を寄せる。
「彼女の髪は本当は、花が咲いたような金髪だ」
「え……っ!?」
「それは見事なハニーブロンドだ。きみのこのプラチナブロンドに勝るとも劣らないよ、ジュリアン」
 まさかこいつ、知っていたのか!? 
 エドガーは姉さんの正体に最初から気づいていて、今までずっと黙っていたのか!? いったい何のために!
「おや。意外そうだな、ぺてん師」
 嘲笑を浮かべて、エドガーは言った。
「言ったはずだぞ。これほど見事な“魔女の瞳”はめったにあるものじゃない、と。気づかれないと思うほうが莫迦だ」
「だったら、どうして……」
「どうして黙っていた、か? 決まっているだろう、面白かったからだよ。おまえらの猿芝居が!」
 く、くく……と、喉の奥に絡みつくような声で、エドガーは笑った。
 ぼくたちを見おろす目が、まるで冷たく蒼い金属のようだ。
「まったく、生まれの卑しい者というのは、実にくだらないことに必死になるものだ。死者の恨みを晴らす? ばかばかしい。死者が恨みなど感じるものか。あれはただの腐れゆく肉の塊だ」
「エドガー、きさま……っ!」
「だが、久々に楽しませてくれた礼に、最後の仕上げは俺たちがしてやろう。――ジュリアン」
 エドガーは軽くジュリアンの肩を叩いた。
 ジュリアンはそれにうなずいて応え、それから、床にへたり込んだままの母親に向かって手をさしのべた。
「お母さん」
「あ、ああ、ジュリアン……ジュリアン――」
 男爵夫人は今初めて息子の存在に気づいたように、のろのろと手を伸ばした。
「ジュリアン、ジュリアン、ああ、あたしの……」
「しっかりしてください、お母さん」
 呂律もはっきりしない男爵夫人に、ジュリアンはぞっとするほど優しい声で話しかけた。
「立ってください。ほら、見えますか? あそこ」
 そしてぼくたちを指し示す。ぼくと、中途半端に幽霊の扮装を着けたままの姉さんを。
「あ……あ、ひいいいッ!!」
 夫人は調子はずれの悲鳴をあげた。
「あ、あいつ、まだいるっ!? お化け、お化け、いやああああッ!!」
「大丈夫ですよ。あれはサラ・ホワイトの亡霊ではありません。生きた人間です」
「え……?」
「サラ・ホワイトがお母さんを恨んで、化けて出るですって? そんな莫迦な。あり得ませんよ」
 ジュリアンは優しくいたわるように、精神の壊れかけている男爵夫人をなだめ続けた。それは、母を気遣う聡明な息子そのものだ。
「え……。そうなの? そうなのかい……?」
「ええ、そうです」
 次第に夫人の声にも力が戻ってくる。
「そうだ……。そうだよぅ。あいつらに騙されたんだ。あいつらが母さんに、ひどいことしたんだ。あいつらがあたしをいじめたんだよう……」
 男爵夫人は両腕を伸ばし、ジュリアンの腰にしがみついた。
「お願いだよ、ジュリアン。あいつらを殺しておくれよ。母さんがこんな酷い目に遭ったんだ、おまえが仕返しするのが当然だろ!? ね、あいつらを痛めつけて、殺すんだよう!!」
「よしなさい、マリオン!」
 声をあげたのはローレンス卿だった。
 ぼくの肩につかまりながら、しっかりと顔を上げて男爵夫人を見据えている。
「マリオン。ジュリアンに罪を負わせるのはやめなさい。今回のことはすべて、おまえ自身が招いたことなのだ」
「てめえ……ッ」
「罪を恥じ、贖罪に努めるのだ。私も罰を受ける。だから――」
「うるせえっ! うるせえうるせえうるせえ、黙れこのくそじじいッ!! てめえにゃ関係ねえだろう!」
 髪をふり乱し、男爵夫人はわめいた。
「関係ない? ないんですか? あの人はあなたの夫、ぼくのお父さんではないのですか?」
 冷ややかにジュリアンが言う。何の感情も読みとれない、氷のような声だ。
「では、ぼくの父は誰ですか?」
「え――」
 なんだ……? ジュリアン、何を言い出すつもりなんだ?
 ぼくたちは息を飲み、三階回廊を見守った。
「誰ですか、ぼくの父は。ぼくは誰の子なんですか?」
「そ、それは……」
「わからないんですか? あなたは父親もわからない子を産んだのですか? 誰の子かわからない赤ん坊を孕むまで、男と見れば誰彼かまわず足を開いて、汚らわしい肉欲をむさぼったのですか!?」
「それは……ち、違うよ、ジュリアン。おまえの父親は……そ、そう! フランス人さ!フランスの将校さんだったんだよ。だからあたしは、おまえにジュリアン・フランシスと名前をつけたのさ。父親の出身にちなんで――」
「いい加減にしてくれ! おまえの汚らわしい作り話など、聞くだけで虫酸が走る!」
 しゃにむにしがみつこうとする母親を、ジュリアンは容赦なく振り払い、蹴り倒した。
「おまえはママじゃない! おまえのような売女が、ぼくの母親であるものか!」
「ぎゃあっ! い、痛いっ! 痛てえ、やめ、やめてえっ!!」
 ジュリアンは何度も何度も、硬いブーツで男爵夫人を蹴りあげ、顔でも頭でも踏みにじる。
「淫売! この、雌豚! ロンドンでも田舎の領地でも、おまえは一時たりとも男なしでは過ごせなかった! 従僕や馬丁や、目に付いた若い男を片っ端からベッドに引きずり込んで――! 時には庭の隅や厩でも、男と絡み合ってヒイヒイわめいていたじゃないか!メイドたちがうわさして、あざ笑っていたのを知らないのか! 彼女らのいやらしい笑い声を聞くたびに、ぼくが、ぼくがどんな思いをしていたか――!!」
「……母子、だな」
 姉さんが小さくつぶやいた。
「うん、そうだね」
 ぼくもうなずく。
 ああやって弱者に暴力をふるい、倒れた相手をさらに殴りつけるジュリアンの表情は、男爵夫人のそれにうり双つだ。
 それが遺伝的な性格なのか、それとも息子が母親を真似るようになっただけなのかはわからない。けれど間違いなく、あのふたりは親子だ。
「ジュリアン!」
 ローレンス卿が思わず声をあげた。
「やめなさい! 母親に対し、なんということをするのだ!」
「うるさい、黙れ! おまえこそ、ぼくの父でもなんでもないくせに!」
 ジュリアンは階下のぼくたちを睨み据えた。
「そうだ……。あなたが――せめてあなたが、ぼくの父であってくれたら良かったのに……!」
「ああ、そうだな。この二十年間、私はおまえに無関心でありすぎた。その罰は甘んじて受けよう。だからおまえも、もうやめなさい。マリオンを責めても、おまえがつらいだけだぞ」
 静かに、辛抱強く、ローレンス卿はジュリアンを諭した。
 けれど。
「もう遅い。サー・ローレンス」
 低く、ジュリアンは言った。
 その時、ぼくには彼が、ひどく小さな子どものように見えた。親に見捨てられ、ひとりで街をさまよう悲しい浮浪児のように。
「この女は醜い。姿かたちも心根も、あまりにも醜悪だ。こんな女、生きているだけで罪なんだ」
「ジュリアン?」
 ジュリアンの声が震えだした。
「そうだ。生かしておいてはいけないんだ。こんな女、こんな女――!」
 次第にその声が上擦り、調子はずれなまでに甲高くなる。
「おい、なんだ……? あいつ、おかしいぞ!?」
 姉さんがぎゅっとぼくの腕をつかんだ。その指がかすかにふるえている。
 ぼくは姉さんの肩を抱き寄せた。
「ジュリアン、なにを言っているのだ!? こっちを見なさい、私の話を聞くのだ!」
 ローレンス卿が精一杯の声でジュリアンを呼ぶ。
 だが、
「そうだ、ジュリアン。早く殺そう」
 金髪の青年の背後から、もうひとりの男が声をかけた。
「この女さえいなくなれば、きみは解放される。自由になれるんだ。売女の私生児という恥ずべき運命から解き放たれ、きみ自身の運命、この美しいジュリアン・ウェイクスリーにふさわしい人生を生きることができるんだ」
 ジュリアンの流れる銀糸のような髪をかきあげ、背後からまるで恋人の睦言のようにささやく男。漆黒の髪と、深海のような群青の瞳のエドガー・パーシヴァル・シンクレア・オヴ・ダレストン。
「人は誰も美に憧れ、美に平伏す。誰よりも美しいジュリアン。きみは神に選ばれたのだ」
「エドガー、きさま、なにを……」
「おっと」
 銃声がとどろいた。
 ぼくの足元で銃弾が炸裂する。
「うぁッ!?」
 絨毯に黒く焦げた穴が空き、埃と絨毯の繊維、火薬の臭いが舞い上がった。
「そこでじっとしていろ、ぺてん師。今度は頭をぶち抜くぞ」
 エドガーの手には大振りの五連発拳銃が握られていた。おそらくアメリカから輸入された最新モデルだろう。――ぼくがずっと欲しかったやつだ。
 おまけに、悔しいがいい腕だ。これだけ距離があり、しかも薄暗い屋内でぴたりとぼくの足元に着弾させた。頭をぶち抜く、というのはけして言葉だけの脅しじゃない。
 エドガーは銃口をぼくたちに向けたまま、ジュリアンのほうへ振り返った。
「さあ、やるんだ、ジュリアン。この女が死ねば、きみに母親はいなくなる。きみは売女の私生児ではなくなるんだ。蝶が毛虫の醜い姿を棄てて羽化するように、きみのもっとも醜い運命を自らの手で切り離すんだ。自由を勝ち取るんだ!」
「莫迦なことを言うな! たとえ男爵夫人が死んだって、親子である事実は――」
「愚民の声に耳を貸すな! さあやれ、ジュリアン! 汚らわしい売春婦を殺せ!」
 エドガーに急かされるまま、ジュリアンがぎくしゃくとした動きで母親の首に両手をかける。
「ジュリアン! ジュリアン、なにを――や、やめなぁッ! おまえは母さんを……」
「うるさい! うるさいうるさいうるさい、黙れええッ!! おまえなんか、ぼくの母親じゃない! おまえはただの淫売だ、腐れ果てた雌豚だああッ!!」
 ジュリアンは絶叫した。その長く形良い指が男爵夫人の喉に食い込む。
「うぐぇえええ……ッ!!」
 首を絞められる夫人は、押しつぶされた、形容しがたい悲鳴を上げた。
「なにをしてる、ジュリアン。ためらうな。もっと強く、強くだ! ちゃんと練習しただろう、サラ・ホワイトで!」
 ――なんだって!?
 エドガー。きさま、今、なんと言った!?
「ああ、エディ、エディ。だってこの女、首が太すぎるんだよ。おまけに肉がたるんでぶよぶよで、気持ち悪いんだ。サリーの首はほっそりして可愛くて、ちょっと絞めればすぐにぽきんて骨が折れたのに!」
「な……んだ、と――。ジュリアン、おまえが……、おまえがサリーを殺したのか!?」
「うん、そうだよ、お父さん」
 ジュリアンは諦めたように夫人から手を離した。そして悪びれもせず、ローレンス卿を見おろす。
 かろうじて死なずにすんだ男爵夫人は、げほげほと派手に咳き込み、床に這いつくばった。
「だって、可哀想だったんだもの。この女がね、使用人たちに見つからないよう地下室に隠していたのを、ぼくが見つけたんだ」
 どこか虚ろな、壊れた人形のような口調で、ジュリアンは語り出した。
「サリーはひどく怖がっていたよ。この女が集めたごろつきどもに犯されて、最後は海の向こうの変態に売り飛ばされるって。そうなる前に死にたい、殺してって、ぼくに泣いて頼むんだ。自分で死ぬのは神さまに対する罪だから、誰かに殺してもらいたいって。だから望みどおりに殺してあげたんだよ。エドガーもそれでいいって言ってくれたし」
 それは罪の告白なんてものではなかった。幼い子どもがくだらないいたずらの言い訳をするよりもまだ軽い。むしろ、自分のおこないを誉めてもらいたがっているようにさえ感じられた。
「そうだ、ジュリアン。サリーはきみに感謝しながら死んでいった。きみのような美しい死の天使の手にかかって死ねたサリーは、本当に幸せだよ」
「莫迦なことを言うな!」
 せせら笑うようなエドガーの言葉を、ローレンス卿の渾身の叫びがさえぎった。
「ジュリアン、おまえは、おまえはなんということを――!!」
 ローレンス卿の目に涙があふれた。それは愛する人の無惨な最期を知ったためか、それともかりそめにも息子と呼んだ青年の壊れた精神を憐れんでのものだったのか。
 そのあいだに男爵夫人はよろよろと立ち上がり、手すりにつかまってどうにか逃げだそうとしていた。
「あ、豚が逃げる」
 まるで庭で見つけたカエルが逃げる、とでも言うように、ジュリアンが夫人を指さした。
 もはや男爵夫人のことは、母親とも人間とも見えていないのかもしれない。
「仕方ないな。道具を使えよ。教えてやったろう?」
「うん、エディ」
 ジュリアンが床からなにかを拾い上げた。
 ロープだ!
「よせ! やめろ、ジュリアン!」
 姉さんが走り出した。目の前の殺人を食い止めようと、階段へ向かう。
 が。
「危ない、姉さん!」
 エドガーの銃が火を噴いた。
 ぼくは咄嗟に姉さんを突き飛ばした。
「うあぁっ!」
 右腕に火のような痛みが走る。
「動くなと言ったはずだぞ、ぺてん師」
「くそ……っ」
 左手で押さえた傷から、じわじわとなまあたたかい血がにじみ出した。さいわい弾丸は腕をかすっただけで、ひどい怪我ではないようだ。だが右手は痛みと衝撃で指先まで痺れ、ほとんど動かせない。
「セディ!」
 姉さんが慌ててぼくのもとへ駆け戻る。
「セディ、血が……!」
「大丈夫か、きみ、グレンフィールド君!」
 ローレンス卿も駆け寄ってくる。
「ぼくは、平気です。それより――!」
 ぼくは吹き抜けの回廊を見上げた。
 が、遅かった。
「ぐぅええええ――ッ!」
 夫人の断末魔の叫びがこだました。
 太いロープが後ろから夫人の首に巻き付き、ぎりぎりと締めあげる。ロープを握り、左右に力いっぱい引いているのは、ジュリアンだった。
 夫人がもがき、ロープを外そうと喉をかきむしる。救いを求め、右手が中空へ突き出される。上半身が手すりを越え、吹き抜けの空間へ乗り出していく。
「やめろ、ジュリアン、やめろーっ!!」
 ジュリアンがぱっと手を離した。
 限界まで乗り出していた男爵夫人の身体が、ぐらりと前にのめった。
 そのまま頭から、真っ逆様に墜落する。
「きゃああっ!」
 姉さんが悲鳴をあげた。
 ぼくは反射的に姉さんを抱きしめ、視野をふさぐように顔を伏せさせた。
 夫人の身体は床に激突する前に、空中で一度がくんっと大きく跳ねた。
 そしてそのまま、宙づりになる。
 吹き抜けの玄関ホールで、レディ・ミドルトンの身体は奇妙な振り子のようにぶらん、ぶらん、と揺れた。赤黒くふくれあがった顔。その口からでろりと紫色の長い舌がはみ出す。ぼたぼたと水滴が垂れる音がして、手足が何度か痙攣し、やがて動かなくなった。
 ミドルトン男爵夫人マリオン・フレッチャー・ウェイクスリーは、息子の手で絞首刑にされた。
 ほかならぬ、息子ジュリアンを産んだ罪によって。
「あは……。あははは、やった。とうとうやった。これで、ぼくは自由だ――!」
 甲高い、どこか調子の狂った笑い声が響いた。
 ぼくたちはもう、声もなかった。
 ぎ、ぎ、とロープを軋ませながら揺れ続ける男爵夫人の死体と、高笑いするジュリアンとを、ただ唇を噛みしめて見つめるばかりだ。
 サリーの無念を晴らしたいと思っていた。ジムの嘆き哀しみを思い知らせてやりたい、人を人とも思わない男爵夫人にふさわしい罰を与えてやりたい、と。
 けれど、こんな結末を望んでいたわけではない。けっして。
「セディ」
 掠れた声で、姉さんがぼくを呼んだ。
「おまえは……悪くない」
 ふるえる白い手が、ぼくの上着の胸元をきゅっと握りしめている。
「おまえは何にも悪くない。これは……全部オレが言い出したことなんだから。オレが……オレが、考えたことで――!」
「なに莫迦なこと言ってるんだよ!」
 ぼくは思わず、声を荒げてしまった。
 ぼくと同じことを考えていた、あるいは無言のうちにぼくの想いを察してくれたのは、嬉しいけど。
 姉さんひとりに罪を背負わせて、ぼくがのうのうと善人づらしていられると思っていたら、それこそ、見損なうな、だ。
 あの夜、テムズの河辺で出会ったあの時から、ぼくとリゼはすべての罪、すべての喜び哀しみ、想いのすべてを分かち合ってきた。それだけがぼくの誇りであり、真実なのに。
 ぼくは姉さんを抱きしめる腕に、ぎゅっと力を込めた。ぼくたちはいつも一緒だ、これから先なにが起きようともけして離れない、離さないと、リゼに判らせるために。
「セディ……」
 これ以上まだなにか言うつもりなら、その唇をキスでふさいでやるぞ。ローレンス卿や殺人鬼どもの目の前だってかまうものか。
 黄金色の瞳を真っ直ぐに見つめると、ようやくリゼも唇をつぐんだ。もがくのをやめ、ぼくの腕の中で余計な力を抜いて大人しくなる。
 ほっそりした身体がふるえながらぼくに寄り添ってくる。そのあたたかさ、これ以上力を込めたらつぶれてしまうのじゃないかと思えるはかなさが、たまらなくいとおしい。
 このひとのためなら、ぼくは何だってできる。
 そしてぼくたちは、あらためて階上の美しい殺人者を見た。
「それで、この死体はどうするつもりだ、ジュリアン」
 割ってしまった皿はどこに捨てるんだ、とでもいうような、まるっきり普通の口調でエドガーが言った。
「まさかこのままぶら下げとくわけにはいかないだろう?」
「ちゃんと考えてあるよ」
 ジュリアンはひどく楽しそうに言った。
「地下室の壁を壊して、塗り込めるんだ。使用人たちには、母は今夜のうちに乗合馬車で田舎の領地へ向かったと言う。これだけの騒ぎがあったんだ、母が途中で行方をくらましても、誰も不思議に思わないさ。あの厚かましい女にも少しは人間らしい、罪を恥じる心があったのかと、見直してもらえるよ」
 たしかにそのとおりだ。すぐにそういう計画を思いつけるあたりは、正常のようだ。
「そうだ。ひとりで壁の中に入れられたんじゃあ、母さんも淋しいだろうから、お供もつけてやろう。母さん好みの、金髪の若い男を!」
 ジュリアンはぼくたちを見おろし、わすれなぐさ色の瞳をきらきらと輝かせた。
「なるほど。いいアイディアだ」
「その銃を貸してくれ、エドガー。ロープはもうないし、あいつを手で絞め殺すのは、骨が硬くて大変そうだもの」
 ――人を、年食った雄鶏みたいに言わないでくれ。
「あがってこい、ぺてん師。――貴女も一緒に、ミセス・メイザー。それともアーノルドと呼んだほうがいいか?」
 エドガーが命じた。その銃口はぴたりとぼくたちを狙ったままだ。
「どっちも“否”だ」
 ぼくの腕の中から、姉さんが返事をした。
「じゃあ、きみの本当の名前を教えてくれ」
「断る」
 くく……、と低く、けれど心底愉快そうに、エドガーは笑った。
「手厳しいな。まあいい。そのうち聞き出してやるさ。そんなお伽噺もあったな。悪魔の名前を言い当てたら、その悪魔を好きに使役できるとかって……」
「さあね。知らない」
 姉さんはばっさり切り捨てた。
「こちとらイーストエンドの貧民街育ちなもんでね。お上品なお貴族サマのたとえ話なんざ、ひとっかけらもわかんねえよ」
「そうやって育ちの悪さをアピールすれば、俺がきみへの関心を無くすとでも思っているのか?」
 エドガーは引き鉄を引いた。
 轟音とともに、ぼくの髪が一房ふっ飛ばされる。
 ……これで、三発。弾倉に残るのは、あと二発。
 逃げようとすれば、ぼくと姉さんとローレンス卿のうち、ふたりが間違いなく死ぬだろう。おそらく、ぼくとローレンス卿が。
「命令に従え。俺は気が長いほうじゃない」
「セディ……」
「行こう、姉さん」
 ぼくと姉さんは互いの手をしっかりと握ったまま、螺旋階段に向かって歩き出した。
「グレンフィールド君、きみたち……」
「心配いりません。どうかそこにいてください、サー・ローレンス」
 ローレンス卿はぼくが手を離すと、そのまま力無く床にしゃがみ込んでしまった。やはりひとりでは立っていることもつらいらしい。
 男爵夫人の死体がまだぶらぶらと不気味に揺れている横を、殺人者どものもとへ、ぼくたちは一歩一歩階段を登っていく。
 途中、ぎしぎしとロープが大きく軋む音に気を取られ、ぼくはうっかり死体を見てしまった。
 ……しっかり、目が合ってしまった。鬱血し、カエルのようにぎょろりと飛び出した眼球と。
「見るな、莫迦」
「うん、姉さん……。失敗した」
 万が一、自ら死を選ばなくてはならない時も、首吊りだけは絶対にやめよう。ぼくは心からそう思った。
 三階回廊までの階段は、ロンドン塔のてっぺんまで登りつめるかと思えるほど、果てしなく長く感じられた。
 そしてぼくたちは、ふたりの殺人者と同じ高さに立った。
「ああ、良いな。あらためて近くで見ると、とても可愛らしい首もとだ。アン。アン、て呼ぶよ。いいだろ? アンの首なら、ぼくのこの手だけで簡単に絞め殺せる……!」
 ジュリアンは姉さんを見つめ、なかば恍惚として微笑んだ。
 天使のようなジュリアンは、どこかたがが外れておかしくなってしまっていても、充分に美しかった。ルネサンス後期の宗教画に描かれる天使のようだ。
「ジュリアン。彼女は駄目だ」
 後ろからエドガーが言った。
「弟のほうをくれてやるから、それで我慢しろ」
「いやだ。男なんか殺しても愉しくない。可愛い娘の首の骨をぽきんとへし折るから、愉しいんだ」
「なら、あとでまた若い娘を連れてきてやる。ロンドンには、道ばたで体を売る娘なぞ掃いて捨てるほどいるからな」
「可愛い子がいいな。サリーに似て、つぐみみたいに愛らしい声の娘が。サリーはね、怖い、怖い、と泣いている声が、それはそれは可愛らしかったんだ……!」
 ――こいつら。こいつら……っ!!
 腹の底から、煮えたぎる怒りがこみあげた。
 人の命をなんだと思ってる。おまえらに殺されたサリーの命を、いったい何だと思ってるんだ!
「サリーは今頃天国だね。だって、ぼくが殺してあげたんだもの」
「ああ、そうだな。おまえは美しい死の大天使だ、ジュリアン。この汚辱に満ちた世界で苦しむ魂を救ってやるために、天から遣わされたのさ」
「そうだ。ぼくは救ってあげるんだ! ひとりでも多くの、可哀想な娘を!」
 ジュリアンは完全に狂っている。両手を広げ、暗く高い玄関ホールの天井に向かって、大声で笑い続けた。そのわすれなぐさ色の瞳は異様な光を帯びてぎらぎらと輝き、ほとんど色のない、熱せられた鉱物のように見えた。
 だが、エドガーは。
「なんのつもりだ、エドガー・シンクレア」
「呼び捨てにするな、平民。サー・エドガー。エドガー・パーシヴァル卿だ」
「うるさい、人殺し」
 エドガーはにやりと笑った。
「俺は誰も殺していない。手を下したのはすべてジュリアンだ」
「おまえが示唆したんだろうが!」
 ジュリアンの後ろに立つエドガーは、金髪の操り人形を抱きかかえる人形遣いのようだ。
 エドガーは笑っていた。男にしてはやや薄く、形の良い唇に、ひどく楽しそうな、他人を見下したような笑みを浮かべ、一歩下がったところからすべてを眺めている。ぼくたちのことも、ジュリアンのことも。
 この男には、目の前で起きていること全部が、暇つぶしの娯楽にすぎないのか。他人の苦しみ痛み、その死さえも、単なる見世物としか思っていないのか。
 自分では手を汚さず、他人を煽って犯罪に走らせ、そのさまを後ろから笑って見物する。そんなの、実際に殺人を犯すよりも罪が重い。
「なぜこんなことをする! ジュリアンを殺人鬼に仕立て上げて、それでおまえは何を得るつもりなんだ!」
「……別に、なにも」
 冷ややかにエドガーは言った。
「なぜだって? 見て判らないのか。ジュリアンは美しい。こんな美しい殺人鬼がいたら面白いだろう。そう考えただけさ」
「おもしろい、だって!?」
「そうさ。面白い。俺はこの有様を愉しんでいる。悪いか? 今日、この屋敷に集まった連中だって、心底愉しんでいたさ。今頃は得意満面で喋り散らしているだろう、ミドルトン男爵邸で起こった怪異な事件について。ああ、そうだとも! この街は退屈だ。朝から晩まで飲んだくれて、他人のうわさ話に興じるしか、やることがない。そんな連中に、俺は面白いうわさ話のタネを提供してやっているだけさ!」
「きさま……ッ!! 人殺しがただの遊びだとでも言うのか!!」
 ぼくは怒鳴った。
 エドガーは高く笑った。
「見ろ、この街はすべてが背中合わせだ。繁栄と貧困、美徳と悪徳、秩序と犯罪が紙一重挟んだだけで共存している。こんな矛盾に満ちた美しい街には、天使のような悪魔がふさわしいと思わないか? さもなければ――魔女のごとき、天使が」
 エドガーの眼は、まっすぐに姉さんを見据えていた。
「人はみな、誰かの不幸が大好きなものさ。他人の不幸を見て初めて、人間はおのれの幸福を理解する。誰かが不幸になってくれなければ、誰も幸せになれないのさ! おまえたちも愉しんでいなかったとは言わせないぞ。大勢の見物人の前で、男爵夫人の罪が暴露される様子を。あの無様な姿を!」
 ぼくは言葉に詰まった。
 たしかにあの時、ぼくは勝ち誇った気持ちになっていた。男爵夫人の罪を白日の下に晒し、ふさわしい罰を与えてやったんだ、と。
 その結果、彼女がどんな運命を辿ろうとも、それは自業自得だと思っていた。
 それはぼくの思い上がりだったんだろうか。サリーの復讐とかジムの願いとかいろいろ理由をつけてはいても、結局はぼくも、ただ弱い者虐めがしたかっただけなのか!?
「聞くな、セディッ!!」
 耳元で鋭い声がした。
「ね、姉さん……」
「あんなヤツの言うことに、耳を貸すな。おまえが話を聞いてやる義理なんざ、これっぽっちもねえ!!」
 姉さんの白い両手がぼくの頬を押さえ、ぐいっと強引に向きを変えさせた。
 黄金色の瞳が燃えるようにまばゆく輝き、真正面からぼくを見つめている。
「オレたちはぺてん師だ。オレたちは、自分に罪がないなんて思ったことは一度もない。違うか!?」
 そうだ……。たしかに、そうだ。
 ぼくたちはぺてん師だ。他人を騙して、金を巻き上げて、生きている。
 だけど、ぼくたちは知っている。他人に殴られ、踏みにじられる痛みを。そうやって痛めつけられ、声を押し殺して泣くしかない人々の思いを。その涙を、声なき声を、けして嘲笑ったりはしない。社会の底辺にうずくまる、もっとも力無き人々は、つい昨日までのぼくたち自身でもあるのだから。
 リゼは振り返った。まっすぐにエドガーを見据える。
「人は、殴られれば誰だって痛い。それすらわからねえ莫迦どもに、オレたちはその痛みを教えてやりたかっただけだ」
 ああ、そうだ。
 まっとうに生きていたら飢え死にしていた。だから犯罪に手を染めた。
 ただ、それだけだ。
 ぼくたちは自分のしてきたことを、これまでの生き様を、誤魔化さない。飾らない。
 それは、自分自身を信じることだ。
 ぼくと、リゼと、ふたりで生きてきた、この命を。
 ぼくは姉さんの手に自分の手を重ねた。
 どんな言葉で答えればいいのかわからない。ただ強く、リゼの手を握りしめる。
 もう迷わない。
 ぼくたちはただ、やらなくてはならないことをやっただけだ。
 復讐が正義だとは思わない。けれど、弱者を踏みにじることが正義だと思う者、他者の不幸が自分の幸せだと高笑いする者を、そのままにしておくことには我慢できなかった。
 金があって地位があれば何をしても許されると思っている連中に、たとえどんなに貧しく、力無い者であっても、人としての尊厳と、そしておのれのこぶしを血まみれにしてでも殴り返す覚悟があることを見せつけてやりたかったのだ。
 ぼくたちだって同じ人間だ。たとえどれだけ泥まみれで、社会の底辺を這いずっていても。この体を切れば赤い血が出る。涙は出る。
 だから、おまえたちも覚悟するがいい。ぼくたちを踵でふみにじり、唾を吐けば、いつかおまえら自身も同じ仕返しをされるかもしれない、と。
 ぼくを見つめる黄金色の瞳が、きらめいた。リゼが小さくうなずいてくれる。
 ――わかってる。セディ。オレも同じ気持ちだよ。
 声にはしないリゼの想いが、はっきりとつたわってきた。
 そうだ。ふたりなら、リゼと一緒なら、怖れることはない。
 たとえなにが起きようとも、ふたりなら必ず乗り越えられる。いつだってぼくたちは、そうやってきたんだ。
「ずいぶん達者な弁舌だな、エドガー。まるでぺてん師だ。本職のオレたちも顔負けだよ」
 ぼくの首に片手をかけ、しどけなく胸元に寄り添いながら、姉さんはエドガーたちを振り返った。
「お褒めの言葉を、ありがとう」
「でも、どうせ口だけなんだろ?」
「――なんだと?」
「おまえは実際に人を殺したことはない。違うか? 殺すどころか、他人をその手で殴るのすらおっかなくて、みんなそのぺらぺら回る口でだまくらかして、他の誰かにやらせてきたんだろ?」
 姉さん、なにを――という言葉を、ぼくはすんでのところで飲み込んだ。
 こんなふうに姉さんが相手を挑発する時は、なにか罠を仕掛ける時なんだ。
 案の定、エドガーの顔色が変わった。感情の揺れを極力おもてに出さないようにしているが、わずかに眇められた眼を、ぼくたちは見逃さなかった。
 姉さんが一歩前へ出た。
 赤い染料で汚したシュミーズはうすっぺらで、姉さんのほっそりとした肢体にまとわりつき、胸のふくらみも細いウェストもまろやかな腰のラインも、なにひとつ隠していない。
 姉さんはそのまま、ぼくの胸元にやわらかくもたれかかってきた。
 ぼくは反射的に姉さんのウェストに手を廻し、細い身体を抱き留めた。
 姉さんの身体は普段よりも熱い。ぼくの胸に押し当てられた背中から、早鐘のような鼓動がつたわってくる。リゼは今、命を張った大博打に集中しているんだ。
 ぼくも、ぎりぎりと神経を張りつめる。リゼがどんな行動をとろうとも、すぐにそのフォローができるように。
「エドガー。おきれいな貴族のお坊ちゃま。自分ひとりじゃ、怖くて野良犬に石をぶつけることもできないんだろ? でも、セディは違う。オレのセディは、オレのためなら何だってしてくれる。決闘だって……人殺しだって」
「――姉さん」
 ああ、たしかに。
 ぼくはリゼのためなら何も怖れない。リゼを護るためなら、今この場で人を殺めることだってためらうものか。
「おまえに同じことができるか? エドガー・シンクレア。オレのためじゃなくていい、誰か大切な人のために、いや、自分自身のためにでも、おまえは自分でなにかを成し遂げたことがあるのか!?」
 エドガーの表情がさらに不愉快そうに歪んだ。
 おそらく、姉さんの言ったことはすべて図星だったのだろう。
 そうだ、やつ自身も言っていた。男爵夫人がベッドに飛び込んできたって、俺は指一本動かさない、と。
 財産と地位にめぐまれ、美貌も備えたエドガーには、黙っていたって女たちが群がってきたに違いない。やつは自分からはなにもする必要はなかった。ただ木偶の坊のように突っ立っていれば、勝手に女たちがエドガーにまとわりついてきたのだ。――あいつの、身体に。
 そして今も。
 エドガーは何もしていない。サリーを殺したのも、男爵夫人を手に掛けたのも、すべてジュリアンだ。
 男爵夫人を本当に殺したかったのは、誰だ? 
 ジュリアンも、恥知らずの母親を憎んでいただろう。私生児という汚名は一生消えない。生まれた時から、母親のせいで一生をめちゃくちゃにされたようなものだ。
 けれど、エドガーは? 
 エドガーは男爵夫人を憎んではいなかったのか? 自分を種馬扱いし、玩具のように弄ぶ女を。しかもその生まれは貴族ではない、卑しい女。れっきとした貴族の嫡男である自分を、汚す女。
 そんな女にふさわしい罰はなんだ。他人に殺されるよりも、自分で産んだ息子に恨まれ、殺されるほうがふさわしい。そう思ったのではないのか!?
 エドガーが反論するより先に、姉さんはさらに畳みかけた。今度はジュリアンに黄金色の瞳を向ける。
「可哀想なジュリアン。見ろよ。エドガーはおまえのために、指一本動かしちゃくれないぜ?」
「な……っ!?」
 ジュリアンの白磁のような目元に、わずかに血の気がさした。
「おまえはエドガーに言われるまま、次々に人を殺めて、実の母親までその手にかけたのにな。エドガーはただ笑ってそれを見物してるだけさ。おまえのためになんか、なぁんにもしちゃあくれない。なぁんて可哀想! 誰にも、なんにもしてもらえない、ひとりぽっちのジュリアン!」
 まるで小さな子どもに言い聞かせるみたいに、姉さんは大きな抑揚をつけ、ジュリアンの名を呼んだ。
「気をつけろよ。エドガーはおまえなんか、飽きたらぽい、だぜ? そうなったら、おまえに待ってるのは絞首台だけだ!」
「う、嘘だ! エドガーが、ぼくを……!」
「嘘なもんか。エドガーはもうおまえに飽き始めてる。だからオレを欲しがってるのさ!だってオレならおまえと違って、ベッドで抱いて可愛がることができるんだもの!」
 姉さんは強引に、矢継ぎ早に論を展開し、ジュリアンにほとんど口を挟ませない。これも、ぺてん師の常套手段だ。こうやって相手を無理やり自分のペースに巻き込んでしまうのだ。
「それともジュリアン、エドガーにキスできるか? こんなふうに抱き合って、ベッドで愛し合えるか?」
 姉さんの手がぼくの頬を、耳元を這い、髪をかきあげる。細い指がからかうようにぼくの肌を愛撫する。
 ぼくはその手に自分の手を重ね、キスをした。愛撫に応えるさまを、ジュリアンに見せつけてやる。
「なっ、なにを――! なんてことを言うんだ!」
 ジュリアンは両手で耳を覆った。これ以上汚らわしい言葉を聞いていられない、というように。
「エドガーはぼくの親友だ! エディが……エディがそんなこと、するものか!」
「かぁわいそうなジュリアン! 女の子とキスしたこともないんだろう!」
 高く、リゼが天使のジュリアンを嘲る。
 ジュリアンはもう耳朶まで真っ赤に染めて、苦しげに身をよじるばかりだ。
 そんなジュリアンを見据えたまま、姉さんは背後のぼくへ腕を絡ませた。背伸びをするように腕を後ろに伸ばし、手探りでぼくの首をかき抱く。
「ねえ、セディ。キスして」
 顎をそらし、ぼくの肩に頭を載せて、リゼが言う。
「いいよ、どこに?」
 ぼくも姉さんの芝居に応えた。
「唇に? それとも胸? あなたの一番感じるところにキスしてあげる」
「いい加減にしろ」
 じゃき、と撃鉄の起きる音がした。
 エドガーの拳銃がまっすぐにぼくの眉間を狙っている。
 この距離なら、エドガーは絶対に外さないだろう。
 その銃口とぼくとのあいだに割り込むように、姉さんが立ちはだかった。
「いいぜ、撃てよ」
 姉さんは向きを変え、しっかりとぼくに抱きついた。もはやエドガーのことなど見ようともしない。
 これはいちかばちかの賭けだ。エドガーがどれだけ姉さんを欲しいと、殺したくないと思っているか。姉さんはその欲望に賭けたのだ。
 ジュリアンと姉さんとを左右に従え、ロンドンの闇に君臨する自分。エドガーがそんな妄想に酔っているなら、姉さんを殺すのをためらうはずだ。
 ためらいは隙を生み、逆転のきっかけになる。そのために姉さんは自分の命を張って、エドガーを挑発しているのだ。
「キスして。早く。セディにキスされながら死ねたら、きっと天国へ行ける」
 切なそうに伏せられた黄金色の瞳が、一瞬だけちろりとジュリアンを見た。
「セディのキスは、最高に気持ちいいんだ。抱きしめられて、キスされたら……それだけでもう、身体の芯までとろけて……あそこが、濡れちゃう」
 キスを、さらにそれ以上のことをねだるようにぼくの耳元に唇を寄せて、姉さんはささやいた。
 ひぃッ、とかすれた悲鳴がジュリアンの口からもれる。
 リゼはさらに扇情的に、ジュリアンへ微笑む。
「可哀想なジュリアン。そんなキスは知らないだろ?」
「よせ。聞くな、ジュリアン!」
 エドガーが声をあげた。
 それは、さっき姉さんがぼくに言ったこととまったく同じだ。
 だがおまえたちに、ぼくとリゼのような絶対の信頼があるか? 自分の命より相手の幸せを思いやり、ふたりでひとつの運命を生きてきた、死よりも強い絆があるか!?
「それとも――ママとなら、そんなキスをしてたかい?」
「な……っ。な、んだって……!?」
「あのママと、キスしてたかって訊いてるのさ! もしもしてないのなら、エドガーに訊くといい。ママのキスはどんなふうだったかってな!」
「だ、黙れ! 黙れ、魔女め! よけいなことを言うな!!」
「黙るもんか! 全部ほんとのことだろう!? おまえはサリーを絞め殺せても、サリーにキスすることはできなかった! おまえは女の子にキスもできない、男の風上にも置けない意気地なしだ!」
「違うっ! 違う違う違う! あんな汚い売春婦に、誰がキスなんかするもんか!」
「じゃあほかの女にならできるのか!? 嘘だね、おまえにそんなことできるもんか! おまえにできるのは、ただ、女の首を絞めることだけさ!! 女も抱けない、玉ナシ野郎!」
「う、うるさい! うるさい! おまえもおんなじだ! おまえもあの豚とおんなじ、ただのうるさい、汚い雌豚だああっ!」
 ジュリアンがエドガーの拳銃をひったくった。
「殺してやる! 魔女め、魔女めえッ!!」
「伏せろ、セディ!」
 ぼくは姉さんを抱え、身を伏せた。
 ジュリアンが引き鉄を引く。
 激昂のまま、ろくに狙いも定めずぶっ放した弾丸は、ぼくたちの頭をかすめもせず、轟音とともに壁を飾るバロック絵画に大穴を空けた。
「くそっ! くそ、くそおッ!!」
 もう一発。今度は絨毯にめり込む。
「よせっ! やめろ、ジュリアン!」
 エドガーが拳銃を奪い返そうとした。が、ジュリアンは必死に抵抗する。
「いやだ! いやだ、殺してやるんだ、あの魔女を!」
 その隙に、ぼくたちは脱兎のごとく逃げ出した。
 三階を巡る回廊から、あとも見ずに螺旋階段へ。
「逃げるな、魔女めえッ!!」
 ジュリアンは拳銃を振り回し、何度も何度も引き鉄を引く。が、回転式弾倉はもう空っぽだ。
「弾丸! 弾丸をよこせよ、エドガー!」
 プラチナブロンドを振り乱し、エドガーにつかみかかる。
「わ、わかった! 俺がやる。だから銃をよこせ、ジュリアン! 撃ったこともないくせに!」
「いやだ! ぼくがやるんだ、ぼくが!!」
 完全に錯乱したジュリアンには、もうエドガーの制止も届かない。エドガーの着ているジャケットをむしり取ろうとするかのように、衿を無理やり広げようとする。予備の弾倉を探し、奪おうというつもりなんだろうか。
「振り向くな、莫迦!」
 姉さんがぼくを叱咤した。
 ぼくたちは転げ落ちるように螺旋階段を駆け下りた。
「くそぉっ! 逃げるなあッ!!」
 ふたたび銃声がとどろいた。続けざまに二発、三発。
 ジュリアンが三階の手すりから身を乗り出し、めちゃくちゃに発砲している。
「あ、あぶないっ!」
 早く止めろよ、エドガー! なにしてんだよ、こんなんじゃおまえだって、流れ弾食らうぞ!
 途中、弾丸を避けて何度も手すりの陰にしゃがみ、身を伏せ、ぼくたちはようやく一階へたどり着いた。
 だがここからは、正面の扉までなんの遮蔽物もない。だだっ広いホールを走り抜けなければならないのだ。
 ローレンス卿も助けなくては。彼は今、ひとりでは立つこともできない。
「一気に行くぞ!」
 姉さんの合図で走り出そうとした、その時。
 この広大な屋敷全体を揺るがす、凄まじい銃声がとどろいた。
 散弾銃だ!
 三階からジュリアンが、狩猟用の長大な銃でぼくたちを狙っている。
「外してもいいぞ、ジュリアン。予備の銃にももう弾丸はこめてある」
 少し荒い息をつきながら、エドガーが言った。その手にも、同じような猟銃がある。
「あ、あれは私の――!」
 弾丸を避けてホールの壁際にうずくまっていたローレンス卿が、うめくように言った。
「あなたの書斎からお借りした、ミドルトン男爵」
 エドガーは軽く顎をあげ、三階にあるのだろうローレンス卿の書斎を指し示した。
 狩猟が趣味の貴族の館では、狩りの獲物の剥製などとともに家紋を象眼した猟銃を壁に掛けて飾ることはよくある。そしてその近くには、たいがい弾薬も保管されているものだ。――まったくお貴族さまってのは。ロンドンでどんな猛獣を狩るつもりだよ。
「だが、私見を言えば銃は飾るものではない。撃って愉しむものだ。こんなふうにな!」
 ふたたび鼓膜を突き破るような轟音とともに、鉛の散弾が炸裂した。ホールの床の寄せ木細工が吹っ飛ばされ、大穴が空く。木材の細かい破片がこれまた散弾のように飛び散り、ぼくたちを容赦なく襲った。
「きゃっ!?」
「姉さん!」
 ぼくは必死で姉さんをかばった。
 続いてもう一発。今度はエドガーだ。狙い違わず、ぼくたちの足元で散弾が炸裂する。
「これでも俺がなにもできないと言うか、黄金の魔女!」
 ぼくたちはホールの壁際に追いつめられた。
「俺が連中を足止めしておく。今度こそよく狙え、ジュリアン!」
 エドガーは手慣れた様子で空薬莢を排出し、次の弾丸を装填した。無駄のない動きだ。
 ジュリアンが三階の手すりから身を乗り出した。ぼくたちに狙いを定めて、散弾銃の引き鉄を引く。
 が、不安定な姿勢で放った一発は、反動で大きく銃身が跳ね上がり、とんでもない方向へ逸れていった。
 きん、きん、ぎぃんッ!と、耳障りな音が響く。外れた弾丸がシャンデリアに当たったのだ。クリスタルガラスが砕け散り、想像を絶する重量を支える鉄の輪が火花を散らす。
「ああ、もう、ちくしょう。上手くあたらない。もっと近くへ行かないと」
 反動で痺れた手を振りながら、ジュリアンは螺旋階段に向かって歩き出した。
「やつらを逃がさないでくれ、エドガー」
「ああ、判っているさ」
 ジュリアンは楽しげな足取りで階段を降り始めた。
 さすがに同じ一階の床に立ち、間近で狙いを定めたら、ジュリアンも外さないだろう。
 散弾は鹿や熊などの大型の動物を狩るための弾丸だ。人間が食らったら、ひとたまりもない。
 頭上からはエドガーがしっかりとぼくたちを狙っている。
 逃げ場が、ない。
 ぼくは姉さんを抱きしめた。
 最期は、ぼくが盾になるんだ。
 この身体で姉さんを護る。鉛の散弾をどこまで食い止められるかわからないけれど。
 せめて……せめて、一分でも、一秒でも、ぼくよりも長く、リゼの命が続きますように。
 だが。
「来るな、ジュリアン!」
 姉さんが声をはりあげた。
「なんだ、今さら命乞いかい? もう遅いよ。すぐにそこへ行くからね――」
「違う! 上だ、天井を見ろ! シャンデリアだ!!」
 姉さんが天井を指さした。
 暗く、高い吹き抜けのホールの天井で。
 シャンデリアが、傾いている!
 中心を支える鎖が切れかけているんだ!
 さっきの、外れた弾丸のせいだ。ジュリアンが撃った弾丸が当たって鎖の一部が破損し、重みに耐えきれなくなった鎖が他の部分でも次々に切れ、はずれていっている。ぎん、がんっ!と、金属の割れるすさまじい音が連鎖した。
 エドガーも気がついた。
「ジュリアン、戻ってこい! あいつらは、俺がここから仕留めるから!」
「え、なに? 何を言ってるんだよ。シャンデリアがどうしたって?」
 ジュリアンが螺旋階段の途中から身を乗り出した。暗い天井を確かめるために。
 だがそこには。
 母親の死体がぶらさがっていた。
「ぎゃああああッ!!」
 ジュリアンは絶叫した。
 首を吊られ、どす黒く膨張した母親の顔。それが、目の前にある。両眼は破裂せんばかりに飛び出し、舌は紫色に染まって異様に長く、口の外へはみ出す。異臭を放ち、汚れたドレス。今もかすかに、ぎい、ぎい、とロープを軋ませ、揺れる、ミドルトン男爵夫人。
 ジュリアンが殺した――ママ。
「いやああああッ!! マ、ママ、ママ、見るなあっ! こっち見るなあああッ!」
 ジュリアンは散弾銃をぶっ放した。
 が、当たらない。
 衝撃で男爵夫人の死体がさらに大きく揺れ始める。
「うああああーッ!!」
 けもののような咆吼をあげ、ジュリアンは銃を放り出した。
 そのまま、螺旋階段を駆け下りる。
「来るなっ! 来るなーっ!!」
 姉さんが叫んだ。ぼくも、叫んでいたかもしれない。
 けれどその声は、ジュリアンの耳には届かなかった。
「いやだ、こないで、こないで、ママ、ママぁっ!!」
 子どものように泣き叫びながら、ジュリアンが走る。その目には、死体となった男爵夫人が追いかけてくる幻影が見えていたのだろうか。
 自分に殺された母親が、今度は自分を殺しにくる。
 その幻影から逃れようと、ジュリアンはホールの真ん中へ飛び出した。
 その瞬間。
 巨大なシャンデリアを支えていた鎖が、ついに切れた。
 轟音。砕け散るクリスタルガラス。嵐のような風圧。大地も揺れる衝撃。
 まるで真横から巨人の見えない手に思いきり張り飛ばされたようだった。
 ぼくは姉さんの身体を壁際に押しつけ、その上から自分の身を伏せた。
 背中に無数の破片が飛んでくる。礼装の厚手の絹地がかろうじて突き刺さるのだけは防いでくれたが、それでも数え切れない石をぶつけられているみたいだ。ものすごく痛い。
「セディ!」
「頭あげないで!!」
 いつまで続くんだ、と思われた痛みと衝撃が、やがて治まった。おそらく、本当はほんのわずかなあいだだけだったのだろう。
 ぼくはそろそろと顔をあげた。
 もうもうと埃が舞い上がっている。息苦しいくらいだ。
 まだ、きん、きぃん、と、クリスタガラスが砕け散る音が、まだかすかに聞こえる。
 ジュリアンの姿は見えなかった。
 ただ、落下の衝撃で無惨にひしゃげたシャンデリアの下から、赤い血が細い川となって流れ出していた。
「セディ。血が……」
 かすれる声で姉さんが言った。ぼくの髪をそっと撫でる。
 言われて初めて、ぼくも自分が怪我をしていたことに気がついた。こめかみのあたりが熱く、痛い。おそらくシャンデリアの破片で切ったんだろう。
「大丈夫。ちょっとかすって切れただけだから。それより、姉さんは?」
「平気。おまえが……護ってくれたから」
「そう……。良かった――」
 ため息をつくように、ぼくは言った。ぼくも姉さんも、それ以上のことはなにひとつ言葉にできなかった。
 互いの顔を見て、命に別状がないことを確認したあとは、ぼくたちはふたりとも声も出せなかった。
 姉さんがふるえている。ぼくも、こわばった指が動かせない。ふたりとも無事で、生きていることが、まだ信じられないくらいだ。
 後ろを振り返り、様子を確かめることもできなかった。
「生きていたか」
 頭上から冷ややかな声がした。
 三階の回廊から、エドガーがぼくたちを見おろしていた。
「動けるなら、早くここから出ていくんだな。これだけ大きな音がしていたら、近所の連中だってさすがに不審に思うだろう。誰かが様子を見に来る前に、俺は逃げる」
 そう言ってエドガーは、持っていた散弾銃を階下へ投げ捨てた。
 シャンデリアのなくなったホールに、がらんがらんと耳障りな音がこだました。
「せっかく……理想の玩具を見つけたと、思っていたんだがな」
 ひどく空虚な、どこか淋しそうな声で、エドガーは言った。
「所詮はジュリアンも甘やかされた貴族のお坊ちゃんでしかなかったわけだ。俺が思い描く、殺戮の天使とはほど遠かった」
「きさま――ッ!!」
 ジュリアンの死に、まるで自分は無関係だと言うような言いぐさだ。
 そんなことが許されてたまるものか。
「たしかにきみの言うとおりだ、黄金色のアーノルド。俺は、自分の手では何もしてこなかった。すべて、他人に命じればいいと思っていた。自らあくせく動き回るのは自分の役目ではない、泰然と構え、すべての事象を俯瞰的に眺めてこそ、この街の支配者だと……。だが、それではやはり足りなかったということだな」
 エドガーの蒼い、嵐の海のような眼は、まっすぐに姉さんを見つめていた。
「撃てなかったよ。きみを」
 ――たしかに。彼ほどの射撃の腕があれば、たとえあの騒ぎの中でも、ぼくたちを撃ち殺すのは不可能ではなかったはずだ。
 それをさせなかったのは、姉さんの指摘どおり、エドガーの心の弱さだったのか。
「今回のことは貸しにしておいてやる。忘れるなよ、ぺてん師。俺は、欲しいと思ったものはけして諦めない」
 エドガーはそれだけ言い捨てると、ぱっと身をひるがえし、三階の廊下へ向かって走り出した。主翼棟の端にある使用人階段を使って、裏口から逃げるつもりなんだろう。
「待て、エドガー! 自分だけ逃げるつもりか!」
 ぼくは立ち上がり、エドガーを追おうとした。
 だがその手をつかみ、姉さんがぼくを引き留めた。
「待て。やつの言うとおりだ。それに――」
 姉さんはちらっと視線で横を示した。
 そこには、ぐったりと壁にもたれかかり、紙のように血の気を無くした顔に冷たい汗をにじませ、苦しげな浅い呼吸を繰り返すローレンス卿がいた。
 これは、まずい。一目でわかる。一刻も早く安全な場所で休ませなくては。
 エドガーは逃がしたくないが、今は無理だ。
 エドガーの足音が遠ざかり、消えていった。
 だけど――ああ、そうだ。そっちこそ、忘れるなよ。おまえとの決着をぼくが諦めると思ったら、大間違いだぞ。
「サー・ローレンス、しっかりしてください!」
 彼のそばに膝をつき、姉さんが懸命に声をかける。
 が、返事はない。ローレンス卿はわずかに目を開け、応えようとするのだが、もはや声も出ないようだ。
「ぼくの屋敷へ運ぼう」
 ぼくは上着を脱いだ。厚手の絹が食い止めてくれたガラスの破片が、ばらばらと落ちる。
「セディ。腕は大丈夫か?」
「うん。ちょっと血が出てるけど、骨がいっちゃったわけじゃないから」
 このくらいの怪我は、ぼくたちにとっちゃ日常茶飯事だよ。
 ぼくはローレンス卿を赤ん坊のように背におぶった。彼も嫌がらず、素直にされるがままになってくれた。
「行こう、セディ」
 姉さんが玄関の扉を開ける。
 暗く、埃がもうもうと立ちこめる室内に、外の新鮮な空気がさあっと流れ込んできた。
 ああ――命の風だ。
 外はすでに日が暮れ、ロンドン名物の深い霧に包まれていた。
 建物はすべてぼんやりした影にしか見えず、人間など、たとえいてもまったく見えない。なにもかもが霧に溶け、隠されてしまっている。ぼくたちには好都合だ。
 最後にもう一度、ぼくはミドルトン男爵邸を振り返った。
 今はもう、ひとりとして生命ある者のいない、呪われた屋敷を。
 ――さようなら、ミドルトン男爵夫人。そして、ジュリアン。
 ぼくたちはこの屋敷で見聞きしたことについて、生涯口をつぐむと約束する。過去の醜聞を言いふらして、死者を鞭打つような真似はしない。
 約束するよ。心霊研究家グレアム・スペンス・メリウェザーも、家政婦アン・コレット・メイザーも、もう二度とここへ来ない。
 だから。
「地獄で母子仲良くな」
 それが、ぼくたちの手向けの言葉だった。


 濃霧にまぎれ、ぼくたちはメリウェザー家の屋敷に駆け込んだ。
 それからがちょっとした騒動だった。
「お帰りなさいませ、旦那さま。――ど、どうなさったのですか!?」
 血と埃にまみれ、さらに息も絶え絶えの病人を背負ったぼくに、当然ながら執事のロールズは、頭からかつらをぶっ飛ばしそうなくらい驚いた。
「大声を出さないでくれ、ロールズ。メイドたちに聞かれたくない」
「は、はあ、かしこまりました。ですが、この方はもしや、ミドルトン男爵閣下では……。それに、こちらの女性は――」
 姉さんはいまだに幽霊の扮装のままだ。気の弱い女性なら、一目見ただけで卒倒しかねない。
「えーと、そのぅ……と、とにかく、男爵閣下を頼む。ご病気なんだ。家政婦のミセス・ハワードに寝室を用意させてくれ」
「かしこまりました」
「それから!」
 ぼくはロールズの目の前に、びしっと指を突きつけた。
「この屋敷に女性なんか来なかった。きみは、若い女性などひとりも見ていない。そうだな!?」
「は……」
 執事は一瞬返事につまり、そしてすぐに重々しくうなずいた。
「さようでございます。ただ今お戻りになられましたのは、旦那さまと、旦那さまのお客人であるミドルトン男爵閣下だけでございます」
 うん、これぞ英国執事の鑑だね。
 何も知らない家政婦が駆けつけてくる前に、姉さんは大慌てで階段をあがり、二階のぼくの寝室へ飛び込んだ。
「どうなさったのですか、旦那さま!? なにがあったのでしょう、先ほどから大きな音が響いてばかりで、メイドたちもひどく怯えております。ま、まあっ!? こちらのご病人は……!?」
「ミドルトン男爵閣下だ。知っているだろう、今日、ぼくが男爵邸で降霊実験をおこなったのを。……失敗だった! 降霊会の最中、怖ろしい悪霊があらわれて、男爵夫人に取り憑いたんだ! ぼくの力ではどうすることもできなかった。ご病気の閣下をお助けするのが精一杯で……! ああ、今ごろ男爵夫人は、いったいどうなっているのか――」
「まあ……。まあ、それでこんなお怪我を……! わかりました、お任せください。ご病人には、すぐあたたかいベッドをご用意いたします」
「お医者さまの往診をお願いいたしましょうか、旦那さま」
「ああ、頼むよ、ロールズ。こんな姿じゃ医師には会えないな。寝室にお湯を運んでくれ」
 ウィルたち従僕がバスタブにお湯を満たしているあいだ、姉さんは寝室のクロゼットに隠れていた。
 お湯は、予備も含めてたっぷりふたり分用意された。ロールズが気を利かせてくれたんだろう。
「先にいい? とにかく髪を洗いたいんだ!」
 姉さんは石けんを泡立て、髪に残った黒い染料をきれいに洗い流した。流れ落ちる泡の向こうから、あの美しいハニーブロンドが現れる。
「あ、この石けん……」
「うん。姉さんの好きなやつだよ。ラベンダーの香りのカスティリア石けん」
 そのせいでぼくは、“男のくせに少女趣味”って、メイドたちに陰で笑われたんだけどさ。
「ありがと、セディ」
 姉さんの少しくすぐったそうな、本当に嬉しそうなこの笑顔を見るためなら、百万人のメイドに笑われたってかまわないさ。
 姉さんが髪を乾かしているあいだに、ぼくもバスタブにお湯を足して、身体を洗った。
 熱いお湯をかけると、体中があちこち痛む。意識していなかったけど、やはり傷だらけになっていたんだな。
 それらをひとつひとつ確かめ、血と汚れを洗い落とすと、あの屋敷でこびりついた死の穢れもきれいに流れ落ちていく気がした。
 全身に重たい疲労がまとわりつく。
 けれど、ぼくはまだ寝るわけにはいかない。屋敷の主人としての仕事が待っている。
 往診に来てくれた医師におおよそのことを説明し、病人の看護に必要な指示を受ける。ローレンス卿はひどく衰弱しているが、さいわい命に別条はなく、今はとにかく安静にして体力の回復に努めるように、とのことだった。
 また、近所の異様な騒ぎを聞いて怯える使用人たちを落ち着かせ、日々の仕事に戻らせる。仕事のない者は早めに就寝するようにと言い渡した。
「今夜は、食事はいいよ、ミセス・ハワード。代わりに、男爵閣下に付き添っていてほしい」
「かしこまりました。閣下のご容体も安定しているようですし、旦那さまはおやすみくださいませ」
「ああ、頼むよ」
 さすがのぼくも、階段をのぼる足が重かった。
 ようやく寝室に戻ってみると、ぼくのベッドはリゼに占領されていた。
 なんだよ。ぼくが必死で後かたづけしてたってのに。自分はひとりでさっさとおねんね、なんて。
 それとも、ベッドでぼくを待っていてくれたったこと? それなら、すごく嬉しいけど。
 規則正しく小さな寝息をたてる姉さん。閉じた瞼はうっすらと青みがかって、貝殻のようだ。髪をかき上げて首筋に触れると、たしかな鼓動が感じられる。
 リゼを抱きたい。可愛い鼻にキスして、抱きしめて、やわらかな胸元に顔をうずめたい。リゼとひとつに溶け合って、その命を体中で感じたい。
「姉さん」
 ぼくはリゼの隣にすべりこみ、耳元にキスをした。
 ああ、姉さんの匂いだ。
「ん……」
 姉さんがゆっくりと寝返りをうつ。まだはっきりと目が醒めていないようだ。
「リゼ」
 まぶた、ほほ、唇に、ついばむようなキスをすると、ようやくリゼはうっすらと眼を開けた。
「セディ……」
 今はあわくけぶり、夢見る琥珀のような瞳が、ぼんやりとぼくを映す。
 白いシーツの上に波のように拡がるはちみつ色の髪。
 ぼくのいとしい黄金の魔女。
「おかえり、セディ」
「うん。――リゼもね。おかえり」
 やっとぼくの腕の中に帰ってきたね、リゼ。
 ぼくはそっと、リゼを抱きしめた。
 リゼもぼくの背に腕をまわし、ぼくを抱きしめる。
 あたたかく、ほっそりとして華奢な体。少し力を込めれば簡単に壊してしまえそうな、けれどどこまでも優しくやわらかく、ぼくを受けとめてくれる、リゼの命。
「抱いて、いい?」
「ん……」
 リゼは少し恥ずかしそうに眼を伏せ、それでも小さくうなずいてくれた。
 唇を重ねる。甘くやわらかなリゼの唇を、ぼくの唇で撫で、圧迫し、舌先で軽くくすぐる。
「ん、ふ、ぁ……」
 小さく開いた唇から、かすかな吐息が洩れた。その、声にならない声までがいとおしい。
 熱い口中からなめらかな舌を探り出し、舌を絡ませると、腕に抱いた体から力が抜け、やわらかく溶けていく。
 リゼが小さく身をよじった。切なそうに動く脚が、無意識なのか、ぼくの脚にすり寄ってくる。
 ――でも。
「あ、あれ……?」
 なんか、おかしいぞ。
「セディ?」
「うん、その……ちょっと、待って――」
 ぼくはもぞもぞと身を動かした。
 けど、その……やっぱり。
「ごめん、リゼ。……今夜はちょっと、無理みたいだ……」
 リゼを抱きたい気持ちはある。抱き合って、リゼがここにいること、ふたり、こうして寄り添っていられることの幸福を確かめたい。でも、どうしても体がついてきてくれない。
 アネリーゼは小さくくすっと笑った。
「うん。オレももう眠たい」
「リゼ――」
「ごめん。やっぱり勘弁して。もう寝る」
 ぼくのことはなんにも言わず、リゼはくるんと小さく丸まって、目を閉じた。
「一緒に寝よう、セディ」
「うん……」
 リゼがぼくの肩に頭をすり寄せてくる。まるで甘ったれの仔猫みたいだ。
「こんなふうにひとつのベッドで寝るの、ひさしぶりだな」
「そう言えば、そうだね」
 オルソン夫人の下宿では、男同士で同じベッドに寝てるのかと怪しまれないよう、愛し合ったあとでも必ずそれぞれの寝室で休むようにしていたし。
「思い出すな。テムズの廃船で暮らしてたころ。……寒かったよな。いっつもこうして、セディとぴったりくっついて眠ってた」
「うん。そうだね」
 ぼくも姉さんの背に手を回し、しなやかな体をそっと抱き寄せた。
 ああ、そうだ。あのころからぼくたちは、なにも変わっていない。
 ぼくたちの世界は、ぼくとリゼと、それ以外。
 どんなにつらくても苦しくても、悲しくても、互いのぬくもりがあれば、生きていられた。
 今はほかにも大切なもの、守りたい人たちが少しずつ増えてきたけれど。
 こうしてアネリーゼがぼくの腕の中でおだやかにまどろんでいてくれれば、ぼくはそれでいい。それだけで、ぼくはこんなにも幸福になれる。
「おやすみ、リゼ」
 ぼくはそっとつぶやいた。
 それに答える言葉はなかった。ただかすかに、規則正しい可愛い寝息だけが聞こえてくる。
 そしてぼくも目を閉じた。
 リゼが無意識のうちに、ぼくの背に手を回し、胸元に顔を寄せてくる。
 そのあたたかなぬくもりに包まれて、ぼくもすぐに、夢も見ない眠りに落ちていった。


 翌朝、メリウェザー家の使用人たちは、突然現れた主人の兄に、またもや目を丸くすることになった。
「すまないね。昨夜遅くこの屋敷に到着したんだが、呼び鈴を鳴らしても誰も迎えに出てこないし、鍵も開いていたもので、勝手に入らせてもらった。病人が出たんだろう? 玄関前で待っていた貸し馬車の御者が言っていたよ。そんな時に使用人たちの手をさらにわずらわせては悪いと思って、弟にも黙っているようにと言ったんだよ」
 長いブロンドをうなじで束ね、にこやかな笑顔で挨拶するグレアム・S・メリウェザーの兄――名前はまだ、ない――に、家政婦もメイドたちも、いっぺんでぽうっとのぼせあがってしまった。借りた弟の服が少々大きすぎて、袖をたくしあげていることも気にならないらしい。
「朝食をお願いできるかな? 弟が手紙で、いつも自慢していたんだ。うちの家政婦が作る食事はとても美味しいって。期待してもいいかな?」
「は、はい! はい、それはもう……! 腕に縒りをかけてご用意いたします!」
 お堅い家政婦も満面の笑みだ。ティーンエイジャーの女の子みたいに軽く楽しげな足取りで台所へ飛んでいった。
「もーっ! セディったら、教えてくれれば良かったのにー! 朝起きたら、いきなりアーノルドさんがいるんだもん。あたし、びっくりしてコケそうになったわよぉ!」
 ファニーも、まるで地に足がついていない。廊下の隅で、さっそくぼくに猛抗議してきた。
「アーニーさんが来るってわかってたら、もっとちゃんとお洒落するんだったのに! こんなおばはんくさいモブキャップじゃなくて、髪だって可愛く結うとかさー!」
「あー、ごめんごめん」
 ……なんだろう、この気持ちは。
 アーノルド・グレンフィールドは、実はぼくの兄じゃなくてれっきとした女性だから、彼女たちがいくら憧れたところで、それは本当にただの夢物語だ。いちいち気にする必要もないんだけど。
 ……もしかして、ぼく、負けてる? 男装した姉さんに、男として負けてるってのか!?
「それより、頼んだことはどうなった?」
「ええ、ちゃんと様子見てきたわよ。あ、ほら。ウィルも戻ってきたわ」
 一夜明けて、ミドルトン男爵邸では警察の捜査が始まっていた。ぼくはウィルとファニーにその様子を見に行かせ、必要なら警察に昨日の降霊会のことを説明してくるようにと頼んでおいたのだ。
「どうやら、先にシャンデリアの落下事故でジュリアンが死んで、息子の死に錯乱した夫人が発作的に首を吊って自殺したってことになりそうだぜ」
 ウィルの説明にファニーもうなずいた。
「ま、そのあたりが無難な決着だろうな」
 屋敷に残った弾痕は、警察はおそらく見て見ぬふりだろう。貴族の醜聞にはできるだけ首を突っ込みたくない、というのが警察の本心だろうし。
「ふたりともありがとう。今回の報酬はあらためて払うから、もう少し待っててくれ」
「あんまり慌てなくても大丈夫よ。とりあえずの食い扶持は自分で確保しといたから」
 ファニーはにかっと笑って、エプロンのポケットから数本の銀のナイフやフォークを取り出した。みんな、ミドルトン男爵家の紋章が入っている。
「おー、ファニー、やるなあ! 俺なんかこれ一個きりだぜ!」
 そう言ってウィルが見せたのは、男爵邸の客間にあった、半貴石をあしらった小さな置き時計だった。
「あたしらなんてまだ可愛いもんよ。残りの銀器は、ほかの使用人たちが洗いざらい持ち逃げしちゃったんだから。男爵夫人の宝石箱を丸ごと抱えて逃げたメイドもいたわよ。ほら、男爵夫人の買い物で荷物持ちやらされてた、若い子。いっつもおどおどして、顔色の悪い子!」
「ばっかだなあ。素人が宝石なんか盗んだって、質屋でぼろくそ買いたたかれて、おまけにすぐアシがついちまってオシマイだぜ。俺らみてぇなプロで、信頼できる故買屋のルートでも持ってねえ限りはな」
「そうそう。銀器なら溶かしてインゴットにしちゃえば、絶対バレないもんね」
 まったく、こいつらは……、本当に頼りになる連中だよ。
「なかなか面白かったわ。なんかあったら、また声かけてよね、セディ」
「ああ。頼むよ、ファニー、ウィル」
「俺ぁ従僕の役はもうこりごりだ。ロールズのじいさん、人使いが荒いのなんのって」
「ウィル! ウィル、どこだ! お医者さまの馬車がご到着だ、玄関を開けてお出迎えしなさい!」
 爺さんと呼ばれるにはまだあまりにも矍鑠としているロールズの声が、玄関ホールに響き渡る。
「はぁーい、ただ今ぁ!!」
 それぞれの仕事へ戻っていくふたりを見送り、ぼくは朝食用の小食堂へ向かった。
 朝の明るい陽射しがたっぷりと入る小食堂では、姉さんがお茶とジンジャーブレッドを楽しんでいた。
「このジンジャーブレッド、美味いな」
「うん。ミセス・ハワードの料理はなかなかだよ。でも、ミセス・モリスのアップルパイには敵わないかな」
「ミセス・モリスのアップルパイは天下無敵だよ」
 熱いお茶に濃いめのクリームをたっぷりと落として、はなやいだ香りを存分に楽しむ。こうしてのんびりとお茶を楽しむのは、英国人にとって最高の贅沢かもしれない。
「これからどうするんだ?」
「もうすぐ警察がここにも来るだろうから、できるだけのことを説明するよ。サー・ローレンスにも口裏を合わせてくれるように頼む。それから、降霊会に参加してくれた人の家を回って、謝罪する」
 降霊会の失敗を認めて謝罪し、神ならぬ人の子が興味半分で心霊実験などおこなってはいけなかったのだと、反省を述べる。
 それが終わったら、使用人たちにたっぷり給料を払って早々にこの屋敷を引き払い、心霊研究家グレアム・スペンス・メリウェザーはロンドンから姿を消すのだ。永遠に。
「終わったな」
 姉さんが微笑んだ。
「うん」
 ぼくも小さくうなずく。
 テーブルクロスの上で、姉さんの手に手を重ねて。
 今夜、ジムに手紙を書こう。すべて終わったよ、と。
 そして、ローレンスおじさんがきみと話がしたいと、待っている、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...