日常、そして恋

知世

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出会い

初めてのことばかり『麗』

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生徒会室内は、カリカリと書類に書き記す音、カタカタとキーボードを打つ音、そして沈黙に包まれていた。
梅宮くんは、書類を手早く処理している。
高嶋くんは、手元の書類を確認しながら、パソコンに打ち込んでいる。
東条会長は、書類にサインして判子を押している。
処理済みの書類が机の上に積み重ねてあること以外、何も変わっていない。
「あ、副会長~」
僕に気付いた高嶋くんがへらりと笑う。
「……」
梅宮くんは一瞥することなく、書面を見ている。
「戻りました」
高嶋くんに笑い返した後、東条会長に一声かけた。
「…ああ。おかえり」
会長はこちらを向くと、何故か少し驚いていた。
それから、何か言いたげな顔で微笑む。
「七瀬、少し話そうか」
…やはり、僕と話したいことがあるみたいだ。
春人くんにもらったクッキーを自分の机に置いて、立ち上がった彼を追う。

生徒会室には、お手洗いの他にも、仮眠室、シャワールーム、簡易キッチンがある。
執務室に繋がる扉を閉めると、壁に寄り掛かり、軽く腕を組む東条会長。
そうしているだけで、絵になる人だ。
「何かあっただろう」
彼は微笑を浮かべ、そう切り出した。
「え?」
どうして、分かったのだろう。
春人くんのおかげで、今は気分も落ち着いてるし、顔色も良くなっているはずだ。
「気付いていないのか?良い顔をしている」
会長は笑みを深めた。
「良い顔…ですか」
そう言われても、あまりぴんと来ない。
その考えは、続けられた言葉によって、すぐ消えた。
「今まで見てきた中で、一番穏やかだ」
今までで、一番穏やか…。
「そうですか」
―僕は、そんなに穏やかな顔をしているのだろうか。
どうやら言いたいことは終わったようで、会長はすっきりとした表情になっている。
「…ああ、そうだ」
不意に、何か思い付いた顔で彼は呟いて、僕を見た。
「七瀬、紅茶を淹れてくれないか?―高嶋は注意力が散漫しているし、梅宮は能率が低下している。休憩の頃合いだろう」
相変わらず凄い観察力だ。
恐らく、一緒に同じ時間を過ごしたとしても、僕は彼らの変化に気付かなかっただろう。仮に気付いたとしても、もっと時間がかかると思う。
東条会長には敬服する。
「分かりました」
頷くと、満足そうに微笑まれた。
「頼む。俺は少し外に出る」
会長の言葉に、思わず反応してしまう。
「…会いに行くのですか?」
彼は気付いている。
先ほど案内してきた二人のうち、どちらかにより、僕が何かしら変化をもたらされたことに。
…少なからず興味があるのは、表情を見たら分かる。
けれど、僕の問いに会長は首を振った。
「縁があれば、いつか会える。会えなければ、それまでだ」
そう答えて、楽しそうに笑う会長。
「そんなに会わせたくないのか?」
「いえ、そういうわけでは…」
図星を指されて、ドキリとする。
咄嗟に、嘘を吐いてしまった。
…嘘を吐くなんて。
僕は、どうしてしまったのだろう。
目の前に立っている彼を見た。
東条会長は、人の心を引きつける強い魅力がある。
…もしかしたら、春人くんも惹かれてしまうかもしれない。
思っただけで、嫌だった。
こんな嫌な気持ち、知らない。
「気分転換に散歩してくる。今、外の空気を吸いたい気分なんだ」
初めての感情に戸惑う僕を残して、会長は部屋を出て行った。

「高嶋、梅宮、休憩にしよう。七瀬が紅茶を淹れてくれる」
「えっ、マジで!?やったぁー!!会長、さっすがぁ~」
扉が開いたままで、執務室から高嶋くんのはしゃぐ声が聞こえてくる。
紅茶を淹れている間、僕は今日のことと、春人くんのことを考えていた。



無意識のうちに、思ったことを言ってしまったし、行動してしまった。

名前で呼びたいと思っていた。
名前で呼んでほしいとも思ったけど、それは我慢した。

また会えるといい、ではなく、また会おうと言っていた。
偶然会うのではなく、自分の意思で会おうと…会いたいと思った。

触れたいと思ってしまった。
気付いたら、手を伸ばして、触れていた。


一緒にいると、言葉が零れてしまう。

彼を見ているだけで、穏やかになれる。

…僕は、春人くんに惹かれている、のかもしれない。

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