日常、そして恋

知世

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出会い

優しい温もり『宗士』

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…誰かが、俺の頭を撫でて、大丈夫と伝えてくる。
その手が、その声が、温かく、優しすぎたから…無性に、泣きたくなった。

―だって、俺は。
俺は…こんなに優しい温もりを、知らない…。





夢を見る。
それは、過去の記憶。
辛いことしかなかった、あの日々を、ずっと見ている。
いつになれば、終わるのだろう…。


毎週、酷い時には毎日見てしまう、悪夢。
そのせいで、あまり眠れない。常に寝不足だ。
睡眠は大事だと思う。食事と同じくらい。片方でも足りなかったら体に障る。不足し過ぎると、精神的にも肉体的にも追い詰められる。
睡眠不足に慣れているといっても、限界はある。
頭痛と吐き気なら、まだ我慢できる。目眩がすると、それ以上酷くなる前に、保健室に行く。―我慢し過ぎて倒れた時、堺先生に叱られた。善意で叱られることは初めてで、戸惑ったのを覚えている。
放課後は生徒会の仕事があるから、寮には帰らない。一時間…長くても二時間眠れたら、マシになる。それで問題ない。
保健室は、居心地がいい。先生は何も言わず、何も聞いてこない。
たぶん、放っておいてほしい、という俺の気持ちを察してくれているんだろう。

…まずい。思ったより、無理してたみたいだ。
頭が痛んで、視界は回る。ふらつきながら歩いて、何とか保健室に辿り着く。
堺先生は不在だったが、鍵は開いているので、中に入った。
授業中・小休憩・昼休みは、数人の警備員が二人一組で見回りを行う為、校医がいなくても、保健室は自由に出入りできる。
ちなみに、風紀委員が見回りをするのは、放課後・休日・学校行事で、全てシフト制だ。病欠や公欠―公的な理由のある欠席―が重なり、あまりにも人数が少ない場合、警備員で補われることもある。
上履きを脱ぎ捨て、仰向けの状態でベッドに倒れ込む。
掛け布団は踏んでるし、カーテンすら閉めてないけど、それらを直す、気力も体力もない。
…起きたら、掛け布団のこと、注意されるだろうな。
今だけ、は…夢を…見たく、ない。でも…無理…かな…。
悪夢を見たくないと望みながらも、いつものように、無理だと諦めて、意識を手放した。

…やっぱり、無理だった。
夢だと認識しているのに…内容も分かっているのに…自分の意思で起きられない。
過去に体験した、嫌な記憶を、悪夢として再生して、得られるのは、無意味で不必要なものだけ。…だから、とても辛い。
悲しくて…苦しくて…痛い…。
それでも、助けは求めない。
誰も助けてくれないから、求めるだけ無駄だと知っている。
歯を食い縛って、耐えるしかない。

…何?
不意に、額に何かの感触がした。柔らかくて、温かい。手…だろうか。
少しして、手が離れたと思ったら、今度は頭を触られる。
これは…何をしているんだろう…まるで、撫でてるみたいだ…。もしかして、本当に撫でている…?
頭を撫でられるなんて、初めてだ。
恐らく知らない人に、頭だけとはいえ、体を触られているというのに、不思議と嫌悪は感じない。
それに…声が、聞こえた。
―怖いことも、苦しいことも、嫌なことも…何もないですよ。
少なくとも、今は。
辛いことなんて、何にもないです。
だから…大丈夫です。
透き通った声が、語りかけてくる…。

頭をそっと撫でる手も…大丈夫だと伝える声も…温かくて、優しくて、柔らかい。
俺は…。俺は、こんなに優しい温もりを、知らない。
…どうして。
どうして、誰が、こんなことを。
確認したいと思っても、あまりの心地よさに、意識が薄れていく…。
抗いがたい、深い眠りに誘われ、俺は再び意識を手放した。

―その日は、もう、悪夢を見なかった。

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