俺とお前、信者たち【本編完結済み/番外編更新中】

知世

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本編

よく分からない男※加筆あり

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小さな子供が、泣いている。

物言わぬ亡骸に縋って、

置いていかないで。一人にしないで。

と、泣きながら言っている。


これは、記憶だ。

終わりであり、始まりである、あの日の…記憶。


―小さな子供が、泣いている。

母親の遺体に縋りついて、七歳の俺が泣いていた。



かあさん。
声には出さず、唇を動かす。
今日は、母さん、だったな…。
記憶で構成された、色んな夢を見る。何度も、何度も。
まるで、忘れるな、と自分自身に言い聞かせるように。
…忘れるわけがない。
大切だった人も、大切な人も、大事な思い出も、俺の体に流れる血が引き起こした、忌まわしい過去も、奴らの罪も…。絶対に忘れない。
悲しみと憎しみ、苦痛を抱いたまま、俺は生きていく。―命尽きる、その時まで。





「雪見くん、宜しくお願いします」
「はい。こちらこそ、宜しくお願いします」
当たり障りのない返事をすると、副会長―望月 碧(もちづき あおい)に微笑みかけられた。敵意は感じない。
…よく分からない男だな。
小言を言ってくる時もあれば、普通に接してくる時もある。
こういう人間が一番厄介だ。
敵か、味方か、中立か…。立ち位置が不明だと対処に困る。―真意の分からない相手は、警戒しながら様子見するしかない。
…でも、今回はこちらから接触する必要がある。悠長に構えている時間はないんだ。


生徒会のリコールを防ぐ為に、風紀委員会から提示された条件は二つ。
一つは、生徒会書記と生徒会書記臨時補佐の両名で書記・会計の執務をこなすこと。
もう一つは、生徒会長か副会長、どちらか一人を、新入生歓迎会終了後、一週間以内に必ず連れ戻すこと。但し、連れ戻すだけでは無効とする。

最低限の務めすら果たせない、恥知らずな無能は要りません。
吐き捨てるように言った、咲哉さんの目は据わっていた。

[傷を確認します。服を脱いでください]
[気分を害しますよ。見ない方が良いです]
[脱がされたいですか?私はそれでも構いませんよ]
[…自分で脱ぎます]

[これ、は……]
[咲哉さん?]
[…奏くん、知っていますか。全身打撲で死に至る場合があることを]
[ショック死ですね]
[そうです。―知っていて、集団リンチを受け入れたのですか?]
[…集団リンチといっても、風紀の見回りに見つからない時間だけで―せいぜい十分前後なので、ショック死するほど暴行されませんから]
[そういう問題ではありません。…痣の色と数からして、一度だけではないですね]
[証拠固めの為に、数回。…すみません。誰も知らないうちに解決する予定だったので、風紀の面目を潰すつもりはなかったんです]
[奏くん…私は怒っています]
[分かってます。配慮が足りませんでした]
[全く分かってませんね…]
[?]
[風紀の面目なんて、気にしていません。…あなたは自分を軽んじている。私はそれを怒ってるんです]
[……]
[自分を大事にしない―いや、したくない理由があるのですか?]
[……咲哉さん]
[奏くん…。…すみません、出過ぎた真似をしてしまいました。私が口を出していいことではありませんね]
[お気持ちは嬉しいです。ありがとうございます。…でも、大丈夫ですよ]
[……]

…咲哉さんが俺のことを心配してくれてるのは、ちゃんと分かってる。上辺でも打算でもなく、心からだということも。
その気持ちは有難いと思う。…心配かけて申し訳ないとも思ってる。
だけど…俺の内面に、過去に、踏み込んでほしくない。
―触らぬ神に祟りなしですよ、咲哉さん。
闇に葬られた事柄は、知るべきではないんだ。関わっても、ろくなことにならない。


…駄目だ。
今朝の夢に引き摺られている。
一日たりとも忘れたことはないのに、過去を思い出すと、心が乱れる…。
落ち着け。
冷静じゃないと、適切な判断はできない。
「……」
目を閉じて、ゆっくりと呼吸する。
…もう大丈夫だ。

気持ちが落ち着いた途端、現状に思い至り、うんざりした。
唯でさえ、新歓―新入生歓迎会―は怠いのに、小言が煩い副会長とペアを組むとか…面倒にも程がある。
「考え事ですか」
うわ、早速来たぞ。
―おくびにも出してないのに、面倒臭いと思った瞬間、声掛けられた。読心術できるのか?…副会長なら、できそうだな。
「すみません。副会長の足を引っ張らないようにしたいと考えてました」
捕まったら文句言われそうだし。
役職持ちだけ連帯責任とか、面倒臭い…。
「そんな事は気にしなくて大丈夫ですよ。―頑張りましょうね」
「はい」
…なんか、今日は優しいな。不気味だ。


新入生歓迎会は、峰巒学園高等部では毎年行われる、全学年強制参加のイベントだ。
学年の垣根を越えて、親睦を図る、という目的がある。
イベント自体は、立食パーティーと生徒会が選んだ遊びをするだけの恒例行事だ。
これまでにあったものは、宝探し、ビンゴ、ダンス、肝試し、謎解き、ジェスチャーゲーム、クイズ、ボーリング、カラオケ、料理、王様ゲーム、女装、仮装、コスプレ…らしい。
いや、後半おかしいだろ。よく実行できたな。
ノリかネタ切れか…どっちにしろ、当時の生徒会遊んでるな。
といっても、基本は無難なもの―宝探し、ビンゴ、ダンス、肝試し、謎解き―が選ばれやすい。
…俺だったら、動物と触れ合うイベントにする。あー、けど、アレルギーがある人や苦手な人とかいるし、無理か…残念。
で、今年は―鬼ごっこ。
湊と俺は関係ない。進藤の案で、生徒会が採用したから、そうなった。
…奴ら、通常の執務はしないくせに、新歓に関することだけはしていったんだよ。
生徒同士や教師との親睦を深める為であって、生徒会の恋を成就させる為にあるわけじゃないんだが…。まあ、イベントとして機能してるから、内容には文句ない。内容には、な。
それはともかく。

ルールは変わらない―範囲指定と制限時間はある―が、少し違う。
追う側も逃げる側も、学年混同で二人一組のペアを組み、行動を共にすることが条件なんだ。
あとはそのまま。制限時間内に捕まえる、もしくは逃げ切ると勝ちだ。
ペアは、必ず先輩と後輩になるよう、分けてある。生徒会・風紀委員会の人間も含めた、三年と二年の名前が書かれたくじを、一年がそれぞれ交互に引いて、呼ばれなかった三年と二年を組ませる。くじ引きするのは二年だ。
ペアを決めるくじ引きで、一日目の午前が終了した。
午後は、三年と一年が、二日目の午前は、二年と一年が逃げる。三年と二年は半々に分かれる。鬼は逆だ。
ただ、役職持ちとペアの一年には適用しない。
生徒会・風紀委員会の役職持ちは、一年とペアを組むことが決まっている。…これは今年だけだが。進藤と組みたい信者共が、職権乱用した結果だな。
―咲哉さんはそれを利用して、副会長と俺を組ませた。

[副会長と接触するなら、新歓にしましょう。ペアになれば普通に会話できますし、自然と二人きりにもなれます]
[えっ。風紀が不正していいんですか?]
[早乙女くん…不正とは人聞きが悪いですね。理不尽な制裁を未然に防ぐ為に、確実で安全な方法を選んだだけですよ。―何か問題がありますか?]
[ないです。―副委員長が黒い…萌える]
[はい?]
[いえ、何でも]
[…では、雪見くん。前日に副会長の名前が記された紙を渡しますから、当日は袖口に隠して、箱の中で取り出した後、くじを引いた振りをしてください]
[副会長の名前書かれた紙、いつ取り除きます?俺がやりましょうか?]
[…早乙女くん、無意味な細工は許しませんよ]
[な、なんのことですか?ちょっと分からな…ごめんなさい。趣味に走ろうとしました。本当にごめんなさい]
[―雪見くん、くれぐれも気を付けてくださいね。新歓は、羽目を外す輩と制裁する親衛隊が多いので]
[ありがとうございます、副委員長。気を付けます]

羽目を外すバカ―場合によってはクズ野郎―は関係ないが、親衛隊には気を付けないといけない。
…過激派親衛隊は、最終手段の制裁を俺に仕掛ける可能性がある。
強姦なんかされたくない。絶対嫌だ。
まだ正式には決まっていないが、警戒しておこう。

荒れそうな新歓と、隣で微笑する副会長に対して、俺は小さく溜め息を吐いた。





七歳の奏にとって、母親が世界でした。

何故なら、シングルマザーで、親戚付き合いが一切ない家庭だったので。

父親どころか、祖父母も、従兄弟にも、会ったことはありません。

その上、奏は学校でも、学校以外でも、一人でいることを好む子供でした(友達と遊ぶより、もっと勉強がしたい。もしくは、母親と過ごしたい)

勉強(新しいことを知ったり、学ぶこと)が好きで、シングルマザーの母親を楽させたい、という思いから、将来良い会社に就職できるよう、日々努力していました。


母親が亡くなることは、孤独を意味していました。

泣いている奏を、抱き締めてくれる人も、慰めてくれる人も、涙を拭ってくれる人も、いなかったのです。

母親の死と同時に、奏は全てを―愛を、目標を、夢を、希望を―失いました。


彼方と出会うのは、この二年後、九歳の時です。

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